[16]
廊下を歩く足音が、いつもより少し強い。
真子は迷いなく奥の部屋へと向かっていた。
(もうっ、納得できない)
うんも言わさず、
ただ「部屋は別です」と言われただけ。
(意味わかんないんだけど)
別に、同じ部屋でも問題ないはず。
修行だとか何だとか言っていたけど、それならなおさら一緒の方がいいじゃない。
そんな思いを頭に巡らせながら歩を進める。
そして、足が止まる。
襖の前。
ためらいは一瞬だけだった。
そのまま開ける。
スパーンッ
襖を開ける音が、静かな部屋に響いた。
「ちょっとさ、なんで部屋分けるわけ?」
真子は怒りを部屋中に投げつける。
天音は動じず、ゆっくり顔を上げた。
「・・・・待っていました。」
「・・はっ?」
「座りなさい、・・・・真子。」
「いや、私は今、文句を——」
「真実の話をします。」
その一言で、真子は言葉を止め、小さく舌打ちして座った。
「・・・・で?」
「外界遮断結界です・・。」
「・・・・は?」
「彼の部屋には、外部の声が届かないよう結界を張っています。」
説明はそれだけ。
感情も補足もない。
「・・・・なんで?」
「現在の状態では、外界からの影響を受けすぎるためです。」
短い。
断定。
真子は眉を寄せた。
「それで、部屋を分けたってわけ?」
「はい。」
迷いのない肯定。
沈黙が落ちる。
「・・・・あのさ」
真子が視線を逸らす。
「別に、一緒でもよかったじゃんか・・・・」
少しだけ声が小さい。
理由をうまく言葉にできないまま黙る真子に、天音は淡々と言葉を返す。
「獣を結界の中に入れるわけにはいきません。」
「うっ・・・・」
(もーっ、また見透かされた・・、ホントやだっ)
真子は反論出来ず黙ることしかできなかった。
天音は更に続ける。
「あと、今から話す内容は彼に聞かれてはいけないからです。」
ーー沈黙
「彼は現在、善にも悪にもなり得る状態です。」
・・・・
言葉が続かなかった。
天音が言い淀むのは、珍しい。
「どちらに転ぶかは、まだ定まっていません。」
「真子?・・あなたはもう気づいているはずでは?」
「・・・・・・・・」
「これも部屋分けた理由の一つです。」
天音は静かに語る。
リー、リッリッリッリッリーーー
木々に巣食う虫たちの鳴き声が、部屋の中まで入り込んでいた。




