[15]
2人は僧侶に本堂へと案内される。
板張りの床はひんやりとしていて、足裏に静けさが伝わってきた。
ぎし・・と木が小さく軋む音。
古い板の匂い。柔らかく落ちる光。
時間だけが、外に置き去りにされたような空間だった。
僧侶は知らぬ間に居なくなり、本堂には2人しかいない。
「ここで待てってことか・・・・」
真子はそのまま腰を下ろした。
真実は少し緊張した様子で座る。
視線が落ち着かない。
(・・・・まあ、初見はこうなるよね)
しばらく沈黙。
外の音は遠い。
時間の感覚が曖昧になる。
そして、しばらくーー
理由もなく、真子は視線を横へ向けた。
気配。
音はない。
ただ――空気が整う。
そこに、いた。
いつから立っていたのか分からない。
年齢も分からない美しい女性が、本堂の入口に立っている。
真実も真子の視線に気づき横を見る。
「・・・・・・」
真実が息を呑むのが分かった。
(ああ、やっぱり)
(そうなるよね)
包まれるような安心感。
だけど近づけない距離。
真子は肩をすくめた。
「・・・・相変わらず足音ないよね」
女性は答えない。
ただ、静かに歩いてくる。
音は、ない。
真子の目の前で止まった。
「真子・・・・、もう戻らないと言っていませんでしたか?」
柔らかだが、淡々とした声。
普通の声量。
なのに惹きつけられる感覚。
「うるさいなー、ちょっと寄っただけだし」
少し反抗気味に応えて、視線を逸らす。
女性ーーは、わずかに視線を動かし、真実を見た。
真実は口をポカーンと開けて、その女性に見惚れていた。
真子は真実の顔を見てイラっとする。
そして、無言で腕を抓った。
「いっ!?」
「なにぼーっとしてんのっ」
「いや・・その・・・・」
「まこと、この人が天音さん。ここの長。」
雑な紹介。
(まこと、この人、優しそうな雰囲気出してるけど、実際、超スパルタクソババアだからね)
「・・・・言葉を選びなさい、真子。」
「・・えへっ」
真子は小さく舌をだす。
「読まれないと思っている方が問題です。」
(この人・・相変わらずだ・・)
真子は修行していた時の事をふと思い返す。
天音の視線が再び真実へ戻る。
長く見ない。
ただ一瞬。
そしてーー沈黙。
真実の呼吸だけが、わずかに乱れる。
「・・あなたも、ですか・・・・。」
真実が固まる。
「・・・・え?」
真子は小さく息を吐いた。
(・・・・やっぱ分かったかー)
「当然ですが・・。」
天音は淡々と答える。
ほんの一瞬、胸の奥が軽くなる。
分かってもらえた安心、
(ああ、この人には隠せない・・)
そう思った瞬間。
ハッ・・とする。
「・・・・チッ」
真子はすぐに顔を逸らした。
天音は反応しない。
ただ静かに2人を見ている。
逃げ場のない静寂。
山の奥の空気が、本堂を満たしていた。




