その49
その49
人々がわっ、と河に向かいました。
指図に戻った騎士団長が怪訝そうに振りむくと。
その眼に映ったのは、猫を抱いてぐっしょり濡れて河から上がってきた男の子と、歓声をあげてそれを取り囲む町の人々でした。
「なんだ、猫一匹に大騒ぎしおって」
おばあさんが、ぱんぱんと手を叩きました。
「さあ、皆の衆、ここにいては騎士様たちのお仕事のお邪魔じゃよ」
そうじゃ、そうじゃと、お年寄りたちがうなずき合います。
「聖女様の目出度い門出じゃ。
皆酒場に来い、一杯おごってやるぞ」
町の人々は、はっ、と気が付き、
「そうだ、そうだ、お邪魔をしちゃいかん」
「酒場でみんなに話してやらねば」
「行こうぜ、みんな」と。
皆が手の平をかえしたように上機嫌になって
わっはっはと笑い合いながら、散っていきました。
人々がいなくなり、狐につままれたような顔で仕事を終えた騎士たちは
シトリンの町から去っていきました。
中身のぬけだした、からっぽの小さな聖女の像と共に。
そう、無慈悲に猫を放り投げた騎士団長は、町の人々が目の当たりにした一番の奇跡を、見ることが出来なかったのでした。
半透明の小さな女の子が、青いマントをひるがえし、猫を助けようと聖女の像から飛び出す姿を。
そしてそれを追って河に飛び込んだ小さな冒険者、テオの姿を。
皆に囲まれたテオの耳元で、くすくすと笑う小さな声がしました。
『わーい、やっと出ることができたわー』
ふわっと暖かい風が渦巻き、手の中のびしょ濡れの猫が、あっという間にふわふわになりました。
―次回 最終話ー




