その50 最終話
その50
そののち。
家具職人ジンゴロの名は奇跡の聖女像の作者として有名になり、その作品は聖女の祝福を宿すと言われ、王都の貴族たちが先を争って買い求めました。
シトリンの人々は驚いて、自分の家の楽し気な小鳥の彫られた食器棚を、娘の寝台の踊る子ウサギたちを、食卓のふかし芋を山盛りにした小花模様の木鉢を見つめます。
長く町で親しまれ、子供たちに人気のあったジンゴロさんです。
たいていの家には、彼が彫ったお匙の一本くらいは転がっていたのでした。
あるものは売って商売の元手にし。
あるものは家宝にするとしまい込み。
町長は下町のあちこちにあるジンゴロさんの作品を、観光名所に指定しました。
そこの馬屋の框の猫が時々消えたり、看板の仔馬が時々逆を向いていたりするので
奇跡が続いていると有難がって訪ねる人も増え、
ジンゴロ派という動植物を巧みに彫る職人の集団も出来て、町はたいそうに潤いました。
魔王が倒され、天候は回復し、豊かな実りの年が続きます。
王都に行って、仰々しく飾り立てられた奇跡の聖女像を見てきた商人は、苦笑いして言いました。
「ありゃあ、もう、べつもんじゃ」
綺麗に塗り直され、都風の派手な化粧を施された聖女像には、もうジンゴロの小さな娘の面影はまったくなかったのでした。
聖女像が持ち去られ、すこし大きくなった広場には、一本の樹が植えられて、春には白い花をいっぱいに咲かせます。
周りに青い花が敷き詰められたように咲き、子猫たちが遊ぶその風景は、白い衣の聖女がその青いマントを拡げているようにも見えるのでした。
「ねえねえ、それで抜け出した聖女さまはどこへ行かれたの?」
「しばらくは、子猫と遊ぶ子供たちが一人多かったり、ボス猫と屋根を散歩するお姿が見られたんだけれどね。いつのころからか、お姿を見ることはなくなったよ」
お空のジンゴロさんのところにいったのか、それとも、と
テオは、あどけなく訊ねる幼い娘を抱き上げて、笑うのでした。
「誰かの子供に生まれ変わって、今は幸せに暮らしているのかもしれないな」
「それなら、いいわね」
くまさんの彫られた揺り椅子に座って、次の子の靴下を編みながら、奥さんのミリィが二人に微笑みかけました。
ー街角聖女 おしまいー




