ギルドの喧騒と異形の一喝。
喧騒が絶えない建物の中に幼い少年と少年に抱き着いて引き摺られた恐ろしい顔付きの女、若い男が入って来た。
「うわぁ、ひとがいっぱい!」
「これはこれは………?
冒険者の方々で混む時間帯は避けたつまりだったのですが、どうやら外してしまったようですね。」
それは昨日、カードの作成を申請していた少年と異形がカードを取りにギルドに来たのだ。
リマロはその付き添いである。
目を離せばまた何処かに行ってしまうと領主が危惧した為である。
放置すればまず、間違いなく少年は子供達と遊びに行ってしまうだろう。
もしくはこの町を好奇心で彷徨い迷子になるだろうか?
「おい、魔物の軍勢はどうした!?」
「そうだ、そうだ!
黙ってねぇで俺達にも教えろ!!」
「げ、現在、調査中でして!
当ギルドも今回のスタンピードの行方を捜索中で!
まだ解明されておりませんので!!」
「森に行がぜろ!
調査ならオラ達がやるだ!」
「んだんだ!
森ならオラ達の庭だべ!」
「命の保証が出来ませんので!
まだ森への探索の許可は下りていませんので!!」
「うるせぇ!
テメェらはさっさとクエストを渡しやがれ!」
「この際、森に行けなくてもいい!
早くクエストを発行してくれ!」
「黙れ、バカ!」
詰め寄る粗暴な男達に慌てているのか説明とも言えぬ言葉を言うギルドの受付の人達。
1日経った今でもこの様子なのだから、スタンピードの影響力は底が知れない。
最早、ギルド内は大混乱に陥っていた。
「やはり、昨日のスタンピードが尾を引いているようです。
出直しましょうか?」
リマロは少年に問い掛ける。
この様子ではカードを受け取る事は難しいと判断したのだろう。
しかし、四歳児にその質問をするのは酷であろう。
現に最初は人の多さに浮かれていた少年は男達の罵声に怯え出したのだから。
そして事は起こった。
異形が少年の怯えに反応したのだろう。
少年の耳をその黒く異様に大きな手で塞いだ。
リマロもその異形の行動を変に思い一応、耳を塞いだ。
そして異形は音鳴らぬ叫び声をあげた。
その瞬間、今まで騒いでいた男達が突然崩れ落ちた。
どうやら気絶したらしい。
異形は声一つで男達を無力化したのだ。
「え、えぇ!?
みんな、たおれちゃったよ!」
少年は目の前の罵声をあげていた男達が突然、死屍累々となった奇妙な現象に目を見開いた。
「ぐぅくくっ、頭が割れそうです。
なんなんですか、あれは。」
少年の近くで耳を塞いでいたリマロは酷い頭痛を感じているようだ。
その表情から深刻な物だと伺える。
そして崩れ落ちたのは罵声をあげていた男達だけでは無い。
説明をしていたギルドの受付の人も同じく倒れてしまったのだ。
「な、なんですか、これは!?」
ギルドの奥から女の子が現れた。
ギルド内の状態に酷く驚いている様子である。
「あ、昨日のおねぇさん!」
「はっ!
あ、貴方達は黒染めの人達!
ギルド長が呼んでいます!
どうぞこちらへ!」
女の子は立ち直りが早いのか、目の前の状況から目を逸らしたいのか少年の声を聞くとそう言って少年の方に駆け寄る。
その際に何名かの男を踏んだのだそれを怒る者は居なかった。
女の子も気が付いていないようで謝りもせずに少年に近付き少年の腕を握ろうと手を伸ばした。
「あだっ!?」
すると異形がその黒く異様に大きな手で女の子を払い退けるように横に薙ぎ払い突き飛ばした。
突き飛ばされた女の子は近くの気絶した男の上に落ちた。
お尻を強く打ったのだろう。
お尻をさすりながら立ち上がった。
「なんで押すんですか!
もう、怪我しちゃいますよ!」
「え?
おねえさんが、じぶんで、よこにとんだんだよ?」
少年には異形の姿が見えない。
だから少年には女の子が自分に手を伸ばしたかと思えば横に飛んで気絶した男にヒップドロップをかましたようにしか見えていないのだ。
「言い訳は聞きません!
早く着いて来て下さい!」
女の子は異形を睨むように見てギルドの奥に走って行く。
「………では、ミタマ君、とりあえず行きましょう。」
リマロが静かに少年と異形に進むように促した。




