若者は童話を語る。
「ねぇ、もういっかいだけ!
ねぇ、リマロおにいさん、おねがい!」
少年は異形の膝の上に抱きかかえられたまま若い男性にせびる。
このリマロと呼ばれた若い男性、実は昨日、少年の部屋を監視していた若い執事なのである。
そして彼が一番初めに少年が居なくなった事をしった当事者であった。
「はい、良いですよ、ミタマ君。
昔々、悪い魔王が居ました。
魔王はーーー」
彼は外から見張るだけでは少年を逃してしまうと学習し、少年と異形が居る客室に入ったのだ。
しかし、客室に入ったは良い物の自己紹介をした後、何をすれば良いか分からずリマロは悩んでいた。
リマロは姉が三人も居るのだが弟や妹は居なかった。
幼い子供の相手をした事が無いリマロは少年に対して何をすれば良いのか分からなかったのだ。
また、異形に対しても自己紹介も無視されてしまい声が掛け辛かった。
すると少年がリマロに近付きお話をせがんできたのだ。
リマロはこれ幸いと自分が母や姉から聞いたこの世界の有名な童話を少年に聞かせた。
その童話は少年の心をしっかりと掴んだらしい。
これで何度目かの話をせがまれ、リマロは母や姉と同じように歌うように話す。
リマロも少年の反応があどけなく、可愛らしく、面白かったので喜んで話した。
因みに、この話の題名は『勇者と魔王』という。
勇者が攫われた姫を助ける為に魔王に戦いを挑む話である。
この世界の有名な童話でこの世界の者ならば一度は聞いた事があるだろう物である。
大人向けの芝居としても人気を誇る童話なのである。
だが、何よりもリマロの楽しみは少年に話し終わった後のお返しである。
「おかあさんは、みこなの!
わるいものを、たいじするひとなんだよ!
おとうさんは、おいしゃさん!
けがしたひとや、びょーきのひとを、なおすひとなの!」
それは少年の口から語られる少年の情報である。
リマロは自身の雇い主である領主から少年や異形の情報を出来るだけ取れと言われている。
しかも、その情報が領主の納得のいく物で有れば褒美を渡してくれるらしい。
子供の話を領主に伝えるだけで褒美を貰えるのだ。
領主から信頼を得られ褒美も得られる。
この美味しい話をリマロは逃す手は無かった。
しかし、リマロは疑問に思う。
今まで聞いた事の無い話が少年の口から次々に出てくる。
最初は子供の世迷言かと疑って思わず否定してしまったが少年の背後に居る異形から途轍も無い重圧を感じ口を閉じた。
聞いた事の無いニホンと言う島国。
金属で出来ているらしい乗り物。
思わず涎が出てしまう食べ物。
他にも多数の情報を聞く事が出来た。
つい、少年の頭を撫でるとその手首を異形に掴まれた。
その時に掴まれた後が赤黒く染まって悲鳴をあげてしまった。
しかし、少年にはその赤黒い痣が見えて居ないらしい。
痣も色が変わっただけで痛みや熱など異変は感じない。
領主に報告する内容が増えたと内心喜ぶ強かなリマロであった。
リマロは全て信じられ無い子供の世迷言だと思ってしまうがそれを領主に伝えるだけで褒美が貰えるのだ。
こんな簡単な仕事は滅多にない。
リマロは少年に話をして、お返しの情報を一言一句覚えていった。




