勇者ごっこをする。
子供は純粋な心を持っている。
幼い者は疑う事を知らない者が多い。
中には早熟な者も居て大人と、それ以上の思考をする者も居るがそれは例外であろう。
「なぁ、オソレガミ。
おまえのしょってるやつは、だれだ?」
「そのくろいの、だれ?」
「おまえのねーちゃん?」
「きれーだね」
町を歩きながら子供達は純粋な好奇心から尋ねる。
当然だ。
何か分からないから聞くのだ。
魅惑の身体付きが分かるピチピチの黒い服を着た、手足が黒く異様に大きい、恐ろしい顔をした女の正体を一目見て分かる者はまず居ないだろう。
大人であれば厄介事であると分かりきった存在の事を居ない様に扱えるかもしれない。
しかし、少年の周囲には幼い子供しか居ない。
つまり、純粋な好奇心の塊である彼らは厄介事など毛の程も考えずに尋ねたのだろう。
「う〜ん、わからない」
「そうか。
じゃあ、いいや」
「ふーん」
「さわってもいい?」
「オソレガミって、ちからつよいな」
幼い子供に対しては下手な言い訳を言うよりも率直に答えた方が納得されやすいのである。
今、それが証明された。
歩いて行くと広場に着いた。
「ここであそぼうぜ!」
「ビガロ、なにしてあそぶの?」
少年が子供達の代表格である男の子、ビガロに尋ねた。
それ以外の子供の名前を知らないからビガロに聞いたのだろう。
「なら、ゆーしゃごっこしようぜ!
ダッタはオーク、クワンはゴブリンな!
オソレガミは、しんいりだからスライムだな!」
ビガロが遊びの役柄をキビキビと決めていく。
その言動に慣れを感じる物があるので彼はいつもやっているのだろう。
子供達を紹介しておこう。
ダッタという男の子は他の子よりも大きくふくよかだった。
彼はその身体付きの通り子供達の中で一番の力持ちだ。
クワンは痩せていて少し目付きが悪い男の子だった。
異形を見て綺麗とか触っても良いかと、女性に興味を持っているようだ。
「ねぇ、スライムってなに?」
そこで少年はビガロに尋ねた。
どうやら少年はスライムという物を知らないらしい。
「は?
オソレガミはスライムを知らねーのか?
あのブヨブヨしたやつだぞ?」
ビガロはやんちゃそうな顔を困ったように顰めさせて少年に聞き返した。
「うん、しらない」
少年は即答である。
「そうか
じゃー、とくべつにゆーしゃになっていーぞ!
おれはまおーだな!」
どうやらこのビガロという男の子は気前が良いらしい。
主人公であるはずの勇者役を少年に渡し悪役を買って出たのだ。
「サラはまじょがいー!」
背が小さく可愛らしい女の子が威勢良く声をあげる。
「わかった!
サラはいつものな!
あとは………せーれーだな!」
どうやら、女の子、サラはいつも魔女をしているらしい。
ビガロは異形も参加していると考えているのだろう。
精霊役を押し付けた。
その見た目の何処から精霊を思い浮かべたのか。
「ねぇ、サラちゃん。
ゆうしゃってなにをすればいーの?」
少年は近付いて来たサラに勇者について尋ねてみた。
「まおうをたおすひとだよ。
サラはまほうをつかうまじょ!
わからないのはせーれーさん!」
サラも異形が勇者ごっこと言う遊びに入っているという認識らしい。
「ゆーしゃごっこってなにをするの?」
「えーっとね。
ゆーしゃはまものと、まおーをたおすんだよ!
まおーとまものはゆーしゃたちにおそうんだよ!
かったほうがかち!」
「わかった!」
サラの説明とは言えない説明を聞き少年は納得した。
言うなれば勇者側と魔王側に別れて戦い合う遊びらしい。
「じゅんびはいーな!
いっけー!」
そして遊びは始まった。
「ぶー!」
ダッタはオークの真似をしながら少年の方に向かった。
この世界でもオークとは豚の魔物なのだろうか。
豚の鳴き声を出しながら走る。
少年よりも大きな彼ならば少年を容易く捕まえる事が出来るだろう。
異形が居なければ。
「ぶっ!?」
「おぉ!」
異形の異様に長い髪の毛がダッタの手足を縛り中に浮かせたのだ。
少年には突然変な格好でダッタが飛び上がったとしか見えない。
少年には素晴らしい程の海老反りジャンプと見たようだ。
確かにそれは凄い。
「フレア!
オーク、とーばつだー!」
サラはそんなダッタに手を向けて叫ぶ。
どうやらこれで彼は遊びからリタイアという事になるらしい。
「ぎゃー!」
「おぉー!」
その間からゴブリンの真似をしたクワンとビガロが叫びながらダッタの脇から飛び出して来た。
どうやら、勇者役の少年を挟み撃ちにしてリタイアさせようと計画したらしい。
しかしそれも異形に阻まれた。
ダッタと同じように手足を縛られ海老反りジャンプをさせられた。
「フレア!
フレア!
まおーとゴブリン、とーばつだ!」
「やった、かったー!」
あっけなくサラにリタイアさせられた。
サラは自慢気に胸を張りながらピョンピョンと跳ぶという行動で喜びを身体全体で表した。
異形も少年の言葉に反応したのだろうゆっくりと三人を降ろし手足の髪の毛を解いた。
「せーれー、すげーな!」
「そらをとんだ!」
「かみがいーにおい!」
ビガロは感嘆の声をあげた。
精霊役が思いの外強く、ズルいと言っても可笑しく無い状況であるが単純に異形が凄いと認めた。
ダッタは空を飛べたと喜んで海老反りジャンプに満足したようだ。
その姿、ボンレスハムにしか見えなかったのだが良いのだろうか。
クワンは手足に巻き付いた異形の髪の匂いに満足したようだ。
彼の将来が不安になりそうである。
どうやら、少年と異形は子供達に受け入れられたようだ。




