Lv.28 伝説のナントカって?
皆が青くなる中、誰か説明をと見回せば、まぁ・・・大抵元気なのはメルニア婆さんだな。
しかし、婆さんに説明を求めると絶対間違った情報がもたらされるからな。
どうしたものかと全員をぐるりと見回し、ふと冑で顔が見えないグウェンに声をかけてみることにした。
「グウェン、皆顔が青いし、こいつは気絶したし、今のに何かあるのか?」
白目をむいて気絶しているチンピラ勇者の額ををツンツンと指で小突きながら尋ねると、グウェンは慌てたように冑をがちゃっと鳴らして顔を上げた。
顔色は分からないが、少なからずグウェンもショックを受けている状態だったようだ。
「あ・・あぁ。吸引の魔法は伝説なんだ。それこそ伝説の勇者のみが扱えるもので、全ての勇者の力を吸い取ることができると言われている」
ふむふむ、伝説の勇者とはこっぱずかしすぎて呼ばれたくはないが、とにかく俺はそれが扱えて、皆は初めて見たそれに驚いたとそういういうことか。
ん?
「グウェン、今、なんて言った?」
俺は気になる言葉を聞いて聞き返した。
「吸引の魔法は伝説の勇者のみが使える」
「その後っ」
「後?…全ての勇者の力が吸い取れる?」
「それだー!」
俺が興奮気味に叫ぶと、呆然としていた皆がびくーっと反応して我に返ったようだった。
この際皆の反応はどうでもいい、これはどういうことかと俺は聞きたい。
「婆さん! 勇者って何人もいるんじゃねぇか!?」
つまり、俺がなる必要はない! 俺は一般人Aとして生きていいですよってことだ!
メルニア婆さんを見れば、ばつが悪くて逃げだしているかと思いきや、逆にふんぞり返って冷たい目で俺を見ていた。
「アキは馬鹿じゃのぅ。伝説の勇者じゃぞ。そこらの勇者と違って最強じゃ」
馬鹿呼ばわりされたよ…
ガクリと肩を落としたが、めげずに顔を上げる。
俺が望むのは平和な生活、安定した職と給金、可愛い嫁さんといずれ俺を囲むたくさんの孫たちだ。
昔の俺ヨロシク目指せ最強、目指せ特別、目指せ英雄思考じゃねぇ!
「伝説の勇者なんぞいなくても勇者がたくさんいれば魔王ぐらい倒せるだろ。俺は必要ないと」
「アキ、違うわ。伝説の勇者が倒すのは魔王だけじゃなくて」
ロマが小さくつぶやくように途中まで告げてピタリとやめた。その眼はいまだきょろきょろと泳いでいるので、まだ完全にショックから立ち直れているようではないようだ。
伝説の勇者の何がそうショックだというのか。
『伝説の勇者とは、全ての悪、全ての善、ありとあらゆるものに立ち向かう神の御使い。ゆえにその力は全ての力、精霊、魔族、勇者に果ては我等のような高位の獣の能力をも奪うとされておる。裁かれた者は神に背きし堕天の烙印を押されると言われておる。現にその男を見よ』
存在を忘れていたよ赤竜…ていうか呪い解けたんだな。
突然語りだした赤竜に驚いたものの、見よと言われて俺は頭の中を整理するより先にチンピラ勇者に視線を移した。
いまだ蒼白で白目をむいているが、木の根に支えられて立った状態の哀れな勇者は、よく見ればその額に『堕』の文字が…
「うわっ!ハズ! これは恥ずかしいぞ!」
俺なら見られたくない、額に落書き状態だ。
この場合『肉』と書かれようが『堕』と書かれようが似たようなものだ。間抜けなことこの上ない。
「なぁ、赤竜。俺がその伝説のなんとかだとして、その伝説のナントカさんは存在すると何をするんだ?」
とりあえず勇者という単語は避けて婆さんが話したがらない勇者の使命というやつを赤竜に尋ねてみた。
ただ魔王退治するだけなら単純だよな。だが、婆さんを見る限りそんなもんですまないような気がする…。
『伝説の勇者の真の使命は、勇者狩りにあると言えよう』
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・
「勇者が勇者を狩るってどんなムリゲーだよ!」
思わず突っ込んだよ…。
つまり、俺はこれからこういったチンピラ勇者を狩りながら生きて行かなきゃいけないってことになるぞ!? もちろんそんな生活はごめんだがっ。
だが、事はそんな簡単なものでは無いと俺が知るのは、レピド村での赤竜説得依頼を終え、村長にスタンプを押してもらって(依頼完了って子供のスタンプラリーみたいだ)王都に帰るその途中のことになる。
「伝説の勇者の一行だな! 世の平和のため、覚悟せよ!」
王都への帰り道、俺達は白で統一された鎧軍団に包囲されたのだった。




