Lv.27 吸い取ろう!
「だ、大丈夫なの、アキ?」
ロマに癒しの魔法をかけられ、ようやく俺達パーティーと村長はこむら返りという痛恨の一撃による全滅から復活した。
まさか自分の魔法にやられるとは思ってもみなかった。恐ろしいな幼女スキル…
俺はまだ違和感がある足を軽く動かし、不安そうなロマの頭を撫でて安心させると、木の根に絡まれていまだ呻いている勇者の目の前に立った。
少し小柄な勇者は、金髪碧眼な王子様でも筋肉隆々な戦士でもなく、子供時代を抜け出したばかりのような幼さを残す青年である。
髪色は栗色。瞳の色も同じで、町の中に紛れてしまったら一般人とそう変わらないのではないかと思う。
勇者ってもっと特別な感じじゃないのか?
…考えてみれば勇者も人の子だと思えば普通に見えるのが当たり前なのかもしれない。
勇者がものすごく目立つ容姿をしていたら、それこそ魔王にでも悪の組織にでも狙われて、一瞬で命がなくなるだろうからな。うん、きっとこれが普通なんだ。
「なぁ、俺達はギルドに頼まれて赤竜の説得に来たんだが、どうやら全ての元凶はあんたのようなんだが、呪いを解く気はあるか?」
俺が声をかけると、勇者は痛みに顔をしかめながらふいっ顔を逸らす。
反抗期の子供みたいだ。
そこへ、いつの間にやってきたのか、メルニア婆さんが割り込んできた。
「にーちゃんにーちゃん、お前さんの魔法を解かねばわしらは報酬がもらえんのじゃ。さっさと魔法を解かぬか」
思いっきり自分の欲望を告げてるな…しかもにーちゃんって、チンピラのような絡み方だな婆さん…
「早めに解いた方がいい。そこにいる男はぼんやりしているように見えて伝説の勇者だからな」
何を思ったか、グウェンが俺を指して婆さんの後押しをした。
俺は驚いてグウェンを振り返ったが、冑で顔の表情はゼンッゼン読めなかった…。
「伝説の勇者だと? そんな眉唾な奴、この世にいるわけないだろっ。どうせ自称だよ、自称。ケッ」
勇者…口調がチンピラのようだ。
彼はこむら返りから回復したようで、今やふんぞり返ってふてくされる少年のような態度をとっている。
その傍では、赤竜がグルグル唸りながらも少し冷静さを取り戻したように起き上がり、こちらを睨んでいた。
「ちょっと待っててくれよ赤竜、こいつを説得するから」
とりあえず今は攻撃してくる様子がないので念のために言ってみれば、竜はコクリと肯く。
『できるならん』
よし、竜の方は待ってくれそうだ。
俺は頷いて再び勇者に向き直れば…広がっていた光景に俺はガクリと項垂れた。
「なかなかに強情な」
「そうねぇ、ちょんぎる?」
婆さんが無抵抗な男の靴を脱がし、足の裏を猫じゃらしのような草でくすぐり、ロマが男の腹をめくって脇腹辺りを草でくすぐっていた。
「やめっ、やめろっ! お前っ、ちょん切るって…あひゃひゃひゃひゃひゃっ」
ものすごいベタな攻撃だが、男には効果があるようだ。
この攻撃、くすぐったくない奴にやっても意味ないからなぁ。
「相変わらず気の抜ける…」
グウェンも付き合いはそう長くないはずなのにすっかりこのパーティーに慣れてしまって、いまはくすぐられる哀れな男を…たぶん遠い目で見ているだろう。
ゴルベーザはロマの回復魔法で腰も癒されたのか、すっかり立ち直って、いまはこの光景を唖然として眺めていた。
「ほ~れ、早く呪いを解かねば伝説の勇者に吸い取られるぞ~」
俺が何を吸い取るんだよ婆さん…。
「そうよ、早く解かないからとれちゃったわ」
「「何が!?」」
俺とグウェンの声が重なり、ロマは意味深にうふふと笑った。
何かしらんがぞっとした俺達は、そこから必死で男の説得に当たった。放っておくとおそらく恐ろしいことが起きると判断してだ。
「貴様、男ならば男として生きたいだろう! 早く呪いを解くんだっ!」
「なんかよくわからんがこのままだと危険な気がするぞ!」
「間違いなく全てのプライドをへし折られるから今のうちに降参しろっ」
グウェン、ゴルベーザ、俺の慌てた様子に勇者もくすぐられながら何か恐ろしいものを感じたのか、ようやくコクリと頷いた。
俺はほっとしてロマと婆さんを止め、ロマに木の根を解くように告げる。
「またぬか。その前にアキ、その男の額に触れよ」
メルニア婆さんの言葉に皆が首を傾げると、メルニア婆さんは焦れたようで俺の手を掴み、木の根にひょいっと飛び上がって男の額に俺の手を当てる。
人の顔ってあんまり触りたくないんだけど…と思っていると思い切り婆さんに睨まれた。
「アキ、吸い取れ」
・・・・・・・
「なにを?」
いきなり何を吸い取れと言うのか、首を傾げて婆さんを見やれば、「能力を」と言われる。
能力って能力? この男の? でも、創造魔法で吸い取れるとしても、俺はこの男の能力を知らないので、想像したら何を吸うかわからない気がするんだが…。
「もし、呪いが能力ならおれが吸い取ったら呪いが解けないんじゃ?」
「呪いは勇者の能力ではない。邪法という名の悪の力じゃ。とにかくっ、勇者には固有の能力がある。伝説の勇者ならばそれを奪うことができるのじゃっ」
と…言われても。よくわからん。
「とりあえず、この男の中の勇者の能力を吸い取るイメージでもすればいいのかねぇ」
ぼそっと呟いて掃除機で吸うようなイメージを作れば、確かに何かをすぽっと吸い取ったような感覚があった。それこそ掃除機で紙を吸い込んだような感覚だ。
なんだろうな?
「なんかよくわからんが吸い込んだぞ?」
婆さんがうむと腕を組んで頷き、俺は首を傾げた。
吸ったからと言って、俺自身が何か変わったわけではなかったからだ。
だが、これを見た他の者達の顔色が真っ青になり、吸い取られた勇者は、白目をむいて気絶した。
ええと…一体これがなんだというんだ?
ピロリ~ンッ
勇者は『吸引』を覚えた。




