第二話 鬼の拳、雷の鬼
前書き
本作は『東方Project』の二次創作作品です。
本作独自の設定・キャラクターが多数登場します。
今回の物語では、旧地獄の最奥へ現れた鬼――鳴神雷華が登場します。
彼女はただ強さを求めている鬼ではありません。
地底深くで目覚めようとしている、古き鬼の力。
そして、その先に待つ「鬼王」の復活。
雷華には、それを阻止しなければならない理由があります。
黒嶺轟羅、星熊勇儀、そして鳴神雷華。
それぞれ異なる理由で戦う三人の鬼が、ここから一つの大きな運命へ巻き込まれていきます。
それでは、第二話をお楽しみください。
# 東方Project外伝 鬼の大戦鬼
## 第二話 鬼の拳、雷の鬼
旧地獄の最奥。
黒嶺洞。
轟音が、何度も何度も洞窟を揺らしていた。
「ぬおおおおっ!!」
星熊勇儀の拳が唸る。
黒嶺轟羅は、それを真正面から受け止めた。
――ドォンッ!!
大地が沈む。
岩盤に亀裂が走る。
砕けた岩石が周囲へ飛び散った。
だが。
「……まだだ」
轟羅は立っていた。
勇儀も立っている。
二人とも傷だらけだった。
それでも――笑っていた。
「はははは!」
勇儀が楽しそうに笑う。
「いいねぇ!」
「……私も同感だ」
轟羅が拳を握る。
その拳から、先ほどまでとは比較にならないほどの圧力が放たれる。
勇儀はそれを見て、目を細めた。
「やっぱりだ」
「何がだ?」
「戦えば戦うほど、お前は強くなってる」
轟羅は答えない。
ただ、自分の拳を見つめる。
「敗北するほど強くなる程度の能力……」
勇儀は腕を組んだ。
「厄介な能力だねぇ」
「厄介?」
轟羅が笑う。
「私にとっては、最高の能力だ」
「違いない」
二人が再び構える。
その時だった。
――バチッ。
空気が震えた。
「……?」
轟羅が顔を上げる。
勇儀も振り返った。
黒嶺洞の入口。
そこに――
青白い光が浮かんでいた。
いや。
光ではない。
雷だった。
無数の雷が洞窟の壁を這い、地面へ落ちていく。
轟羅は拳を下ろした。
「誰だ」
雷鳴が轟く。
ゴロゴロゴロ……。
そして。
一人の女性が、雷の中から姿を現した。
長い黒髪。
額から伸びた一本の角。
黒と青を基調とした衣装。
その周囲には、絶えず稲妻が走っている。
女性は二人を見つめた。
そして、静かに言った。
「随分と派手な戦いをしているな」
勇儀が笑う。
「おや?」
「……誰だ?」
轟羅が問う。
女性は胸を張った。
「私の名は――」
一瞬、雷が彼女の背後で弾けた。
「**鳴神雷華**」
その名が洞窟に響いた。
「鬼族の大戦鬼」
轟羅の目が細くなる。
「大戦鬼……」
「そうだ」
雷華は轟羅を見る。
「そして、お前が黒嶺轟羅だな?」
「なぜ私の名を知っている?」
「地底では、お前の噂で持ちきりだ」
雷華は淡々と答える。
「山を踏み砕く黒鬼」
「鬼の鬼」
「不退転の轟雷」
轟羅は少しだけ眉を動かした。
「大袈裟な名だ」
「そうか?」
雷華が笑う。
「私はそうは思わない」
そして。
雷華は拳を握った。
「実際に会ってみれば――」
雷が爆発した。
「噂以上だ」
勇儀が楽しそうに笑う。
「へぇ……」
「星熊勇儀」
雷華が勇儀を見る。
「お前もいるとはな」
「私を知ってるのかい?」
「当然だ」
雷華は腕を組む。
「地底の鬼の中でも、お前は有名だからな」
「そりゃ嬉しいねぇ」
勇儀は笑う。
「それで?」
「何だ?」
「雷華は何しに来たんだ?」
雷華の表情から笑みが消えた。
「……異変だ」
轟羅と勇儀が黙る。
「異変?」
「ああ」
雷華は洞窟の奥を見つめる。
「数日前から、旧地獄のさらに下層で妙な雷が発生している」
「雷?」
轟羅が聞き返す。
「普通の雷ではない」
雷華が指を一本立てる。
「妖力でもない」
「怨霊の力でもない」
「もっと古いものだ」
勇儀が酒瓶を持ち上げた。
「古いもの?」
「鬼の力だ」
轟羅の顔が変わった。
「……鬼?」
「ああ」
雷華は頷いた。
「私たちが知っている鬼よりも、さらに古い」
その瞬間。
――ドン。
洞窟の奥から地鳴りが響いた。
三人が同時に振り返る。
「……今のは?」
勇儀が呟く。
轟羅は何も言わず、洞窟の奥へ歩き始めた。
「おい、轟羅」
勇儀が呼び止める。
轟羅は振り返った。
「行くのか?」
「ああ」
「何があるか分からないよ?」
「だから行く」
轟羅は笑った。
「強い奴がいるなら、会いに行く」
勇儀は大笑いした。
「ははは! やっぱりお前はそういう奴か!」
雷華も小さく笑った。
「なら、私も行こう」
轟羅が雷華を見る。
「なぜだ?」
「私も確認する必要がある」
雷華の周囲で雷が弾ける。
「それに――」
雷華は轟羅を真っ直ぐ見た。
「お前の実力にも興味がある」
轟羅は笑った。
「ならば、いつでも相手をしてやる」
「望むところだ」
勇儀が二人の間に入る。
「ちょっと待ちなよ」
「何だ?」
「私を忘れてないかい?」
三人は顔を見合わせた。
勇儀が拳を握る。
「面白そうなことなら、私も混ぜてもらおうじゃないか」
こうして。
三人の鬼が、黒嶺洞のさらに奥へ進み始めた。
---
やがて。
彼女たちは巨大な空間へ出た。
そこには――
巨大な石碑が立っていた。
表面には、見たことのない文字。
轟羅が近づく。
「……何だ、これは」
雷華が石碑を調べる。
「読めない」
勇儀も首を傾げる。
「鬼の文字じゃないね」
その時。
石碑が赤く光った。
――ゴゴゴゴゴ……。
地面が震える。
轟羅は拳を構えた。
「何か来る」
雷華の身体から雷が迸る。
勇儀も笑みを浮かべる。
「お出ましかい?」
石碑の前。
空間が歪む。
そして――
巨大な影が現れた。
それは鬼だった。
しかし。
普通の鬼とは明らかに違っていた。
身体には黒い鎧。
巨大な角。
赤く光る目。
そして、その手には――
巨大な戦斧。
「……侵入者」
低い声が響く。
「ここは、鬼の眠りを妨げる者が来る場所ではない」
轟羅が一歩前へ出る。
「ならば問おう」
拳を握る。
「貴様は何者だ?」
鬼は戦斧を地面へ叩きつけた。
「我が名は――」
その瞬間。
石碑が激しく輝く。
「**紅蓮寺・焔羅**」
轟羅の目が見開かれた。
雷華も息を呑む。
勇儀だけが――
楽しそうに笑った。
「また、とんでもない奴が出てきたねぇ」
焔羅は三人を睨みつける。
「ここより先へ進みたくば――」
戦斧を構える。
「力を示せ」
轟羅の口元が上がった。
「……そういうことか」
拳を構える。
「ならば――」
雷華の周囲に雷が集まる。
勇儀も拳を鳴らす。
三人の鬼が、同時に戦闘態勢へ入った。
そして。
黒嶺洞の最奥で――
新たな戦いが始まった。
---
だが。
誰も気づいていなかった。
石碑の裏側。
そこに刻まれていた、もう一つの紋章。
それは雷でも。
炎でも。
風でもない。
**鬼王の紋章。**
その中心には、まだ誰も知らない名前が刻まれていた。
――**鬼王。**
そして。
幻想郷のどこか。
一人の少女が、ふと空を見上げた。
「……何だろう」
伊吹萃香。
彼女の持つ瓢箪の酒が――
微かに震えていた。
「なんだか……嫌な予感がするなぁ」
萃香は笑った。
「でも――」
瓢箪を口元へ運ぶ。
「面白くなりそうだ」
鬼たちの時代が。
静かに動き始めていた。
**――第二話・了――**
### 次回予告
黒嶺轟羅、鳴神雷華、星熊勇儀。
三人の大戦鬼の前に現れた、紅蓮寺・焔羅。
彼は何者なのか。
そして、鬼王の紋章に隠された秘密とは――。
次回、
第三話「炎鬼・紅蓮寺焔羅」
鬼たちの戦いは、さらに激しくなる。




