第一話 旧地獄の最奥――黒嶺の鬼
『東方Project外伝 鬼の大戦鬼』
負けるたび、強くなる。
だから私は、敗北を恐れない。
主人公は、旧地獄のさらに奥に存在する「黒嶺洞」に住む鬼――黒嶺轟羅。
身長198cm、圧倒的な怪力。
しかし、彼女には奇妙な能力がある。
「敗北するほど強くなる程度の能力」
勝利では強くならない。
修行だけでも強くならない。
本気で戦い、敗北する。
その瞬間、轟羅は自分の敗北を喰らい、次の戦いへと力を変える。
当然、そんな能力には代償がある。
強くなるほど、彼女は「戦うこと」から逃れられなくなっていく。
そしてある日、旧地獄の奥底で――
鬼ですら恐れる何かが目を覚ます。
――これは、幻想郷の誰も知らない場所で始まった、
一匹の鬼の「戦い」と「生き様」の物語。
# 東方Project外伝 鬼の大戦鬼
## 第一話 旧地獄の最奥――黒嶺の鬼
旧地獄。
かつて地上から追いやられた妖怪たちが暮らし、今では地底の妖怪たちによって独自の秩序が築かれている場所。
そのさらに奥。
地図にも記されず、妖怪たちの間ですら滅多に語られることのない領域があった。
――黒嶺洞。
そこは、山そのものをくり抜いたような巨大な洞窟だった。
天井は遥か高く、地底の大地を貫くように黒い岩壁がそびえている。
洞窟の奥からは、地鳴りのような音が絶え間なく響いていた。
ドン。
ドン。
ドン。
まるで巨大な何かが、岩盤を拳で叩いているような音だった。
「……ふむ」
その音を立てていた張本人は、洞窟の中央に立っていた。
巨大な女性。
身長は二メートル近く。
鍛え抜かれた肉体には、無駄なものが一切ない。
黒い髪。
額から伸びる二本の角。
鋭い眼差し。
そして、両手には武器らしいものを何も持っていない。
彼女の名は――
**黒嶺轟羅。**
鬼。
それも、ただの鬼ではない。
鬼族の中でも戦いだけを追い求め、幾百、幾千もの戦いを生き抜いてきた大戦鬼。
「……まだ足りぬな」
轟羅は拳を握った。
その瞬間。
周囲の岩壁が震えた。
「もっとだ」
拳を前へ突き出す。
ドォンッ!!
凄まじい衝撃が洞窟を走った。
数十メートル離れた岩壁に亀裂が走る。
しかし轟羅は満足していなかった。
「力はある」
拳を見つめる。
「速さもある」
一歩踏み出す。
「耐久も申し分ない」
さらに拳を握り込む。
「だが――」
轟羅は笑った。
それは楽しそうな笑みだった。
「私を倒せる者が、まだいない」
その言葉と同時に、洞窟の入口から声が響いた。
「それは随分と偉そうな話じゃないか」
轟羅が振り返る。
暗闇の向こう。
そこに、一人の鬼が立っていた。
「……誰だ?」
「おいおい。地底にいる鬼なら、私の名前くらい知ってるだろ?」
軽い口調。
酒を片手に持ち、豪快な笑みを浮かべる鬼。
その姿を見た轟羅は、わずかに目を細めた。
「……星熊勇儀」
「ご名答」
勇儀は酒を一口飲む。
そして、轟羅を見上げた。
「最近、地底で妙な噂が流れていてね」
「噂?」
「ああ」
勇儀は笑った。
「黒嶺洞に、とんでもない鬼が住み着いているってね」
轟羅は何も答えない。
「どんな鬼かと思って来てみれば……」
勇儀の笑みが深くなる。
「なるほど。これは確かに、とんでもない」
「……褒めているのか?」
「もちろん」
勇儀は酒瓶を置いた。
「だからさ」
拳を握る。
「一つ、試してみないか?」
轟羅の目が輝いた。
「……戦うということか」
「ああ」
勇儀は構えた。
「鬼同士なら、拳で十分だろ?」
轟羅はしばらく勇儀を見つめていた。
そして――
笑った。
「いい度胸だ」
轟羅も拳を構える。
「ならば遠慮するな」
一歩。
轟羅が前へ出る。
「拳一つで来い」
勇儀も笑う。
「こちらも拳一つで迎えよう」
次の瞬間。
二人の姿が消えた。
轟羅の拳と勇儀の拳が激突する。
――轟ッ!!
衝撃波が黒嶺洞を駆け抜けた。
岩壁が砕ける。
地面が陥没する。
それでも二人は退かない。
「ははは!」
勇儀が笑う。
「いい拳だ!」
「貴様もな!」
轟羅がさらに拳を繰り出す。
勇儀が受ける。
右。
左。
正拳。
肘。
蹴り。
すべてが真正面からぶつかる。
それは弾幕ごっこなどではなかった。
能力の撃ち合いでもない。
ただ純粋な――
**鬼と鬼の肉弾戦。**
そして戦いが続くほど、轟羅の身体から妙な力が溢れ始めた。
「……?」
勇儀が眉を上げる。
轟羅の拳が先ほどより重い。
速い。
鋭い。
「お前……」
勇儀が笑う。
「まさか、まだ強くなってるのか?」
轟羅は答えなかった。
ただ拳を握る。
そして言った。
「私の能力だ」
勇儀の目が細くなる。
「敗北するほど強くなる程度の能力――」
轟羅は静かに告げた。
「それが私の力だ」
勇儀は一瞬黙った。
そして――
「面白い!」
大笑いした。
「なら、どこまで強くなるのか試してみようじゃないか!」
二人の鬼が再び激突する。
黒嶺洞の奥。
誰も知らなかった鬼たちの戦いが始まった。
だが――
この戦いは、単なる鬼同士の喧嘩ではなかった。
轟羅が知らないところで。
地底のさらに深い場所でも、異変の兆候が生まれ始めていた。
黒い岩盤の下。
誰にも知られていない古い祭壇。
そこに刻まれた巨大な鬼の紋章が――
ゆっくりと赤く輝き始めていた。
そして。
遠く離れた場所では、一人の鬼がその気配を感じ取っていた。
「……この感じ」
伊吹萃香は酒を飲む手を止めた。
「また、面倒な鬼が出てきたのかな?」
萃香は楽しそうに笑う。
その視線は、地底の奥へ向けられていた。
「黒嶺轟羅……か」
彼女はまだ知らない。
この出会いが。
幻想郷全体を巻き込む、巨大な戦いの始まりになることを。
そして――
鬼族の大戦鬼たちが、次々と動き始めることを。
**――鬼の時代が、再び動き始めようとしていた。**
【第一話・了】
### 次回予告
黒嶺轟羅と星熊勇儀。
二人の鬼による戦いは、さらに激しさを増していく。
しかしその頃、地底の別の場所では、轟羅とは異なる「大戦鬼」の存在が動き始めていた。
雷を従える鬼――
**鳴神雷華。**
そして風を操る鬼――
**翠風院・風華。**
鬼族の大戦鬼たちが集うとき、幻想郷に何が起こるのか。
次回――
**第二話「鬼の拳、雷の鬼」**
ご期待ください。




