Chapter 6 ― Gaia
Chapter 6 ― Gaia
ミレア湖を離れてから、三日が過ぎた。
街道は次第に山道へ変わっていた。
左右には岩肌の露出した山々。
切り立った崖。
その間を縫うように、古い道が続いている。
遠くには雲に覆われた山頂が見える。
鳥の姿はほとんどなく、時折吹き抜ける風が、乾いた砂を舞い上げていた。
「……山ばっかりですね」
ミナが空を見上げた。
「第三の宝玉が、この先にある」
ルティスは胸元のペンダントを取り出した。
中央の針は、北東を指している。
緑色の宝玉の宝石が、淡く明滅していた。
「Gaia……」
ルティスが呟く。
カイルが地図を広げた。
「この先には、昔の鉱山都市がある」
「鉱山都市?」
「グランディアだ」
カイルは地図の一点を指で叩いた。
「昔はかなり大きな街だったらしい。山から大量の鉱石が採れたからな」
「今は?」
「廃墟だ」
カイルは短く答えた。
山の奥には、かつて巨大な鉱山都市があった。
【グランディア】
地上には石造りの建物が並び、地下には何層にもわたる坑道が広がっていた。
採掘した鉱石を運ぶための地下鉄道。
鉱石を加工する工房。
地下水を利用した貯水施設。
そして、山そのものを支えるために造られた巨大な石柱。
かつては、多くの鉱夫や職人たちが暮らしていたという。
しかし、ある時から鉱山の奥で奇妙な地鳴りが聞こえるようになった。
最初は小さな揺れだった。
だが、日を追うごとに大きくなっていった。
坑道へ入った鉱夫が戻らなくなり、調査に向かった兵士たちまでも姿を消した。
やがて鉱山は閉鎖された。
人々はグランディアを離れ、街には誰もいなくなった。
「……なんだか嫌な場所ですね」
ミナが苦笑する。
「宝玉がある場所って、だいたいそんなところよ」
ルティスが答えた。
「それもそうですね」
ミナは小さく笑った。
昼を過ぎた頃。
三人は山道の先で、巨大な石造りの門を見つけた。
門の上部には、ほとんど消えかけた文字が刻まれている。
カイルが目を細めた。
「……グランディア」
門の向こうには、崩れた建物がいくつも並んでいた。
道端には錆びた鉱山用の荷車。
石造りの家々。
崩れた工房。
そして、山肌に沿って造られた巨大な採掘施設。
「……ここが?」
ミナが呟く。
「ああ」
カイルが周囲を見回す。
「グランディアだ」
三人は門をくぐった。
街の中は静まり返っていた。
人の気配はない。
風が吹くたび、古い建物の隙間から砂埃が舞う。
道の脇には、何百年も前に捨てられたと思われる道具が転がっていた。
壊れたつるはし。
錆びたランタン。
鉱石を運ぶための小さな台車。
ミナが一つの建物を覗き込む。
壁際には古い机が残っていた。
その上には、割れた食器と朽ちかけた木箱。
「……ここで、本当に人が暮らしてたんですね」
「そうみたいだな」
カイルが答える。
ルティスは街の奥を見た。
その先には、巨大な塔がそびえている。
地上から山の内部へ突き刺さるように造られた塔だった。
「……あれは?」
「知らない」
カイルが首を振る。
「俺の地図にも載ってない」
その時だった。
――ドン
地面が揺れた。
三人が足を止める。
――ドン……
もう一度。
今度は、はっきりと分かるほど大きな揺れだった。
建物の屋根から砂埃が落ちる。
「……地鳴り」
ミナが周囲を見る。
「昔、この街で聞こえていたっていう……」
ルティスは地面へ目を向けた。
微かな振動。
その奥から、何かが動いているような感覚がある。
「地下ね」
「行くのか?」
カイルが聞く。
ルティスはペンダントを見る。
針は、街の奥を指したままだ。
「Gaiaは、この先にある」
三人は巨大な塔へ向かった。
塔の下まで来ると、半ば崩れた入口が見つかった。
その奥には、地下へ続く階段がある。
三人は慎重に階段を下りていった。
一段。
また一段。
地上の光が遠ざかっていく。
空気が変わった。
冷たい。
湿っている。
そして、どこか土の匂いがする。
しばらく進むと、視界が開けた。
「……すごい」
ミナが息を呑んだ。
そこには、巨大な地下都市が広がっていた。
天井はあまりに高く、暗闇の中へ消えている。
巨大な石柱が何本も立ち並び、山の内部を支えていた。
その間には何層にも重なった石造りの建物。
建物と建物を繋ぐ無数の橋。
崩れた塔。
巨大な採掘機械。
地下深くへ伸びる坑道。
壁面には鉱石を運ぶための線路が張り巡らされ、いくつもの階層へ分岐している。
さらに遠くには、地底湖らしき水面まで見えた。
天井から落ちる水滴が、その水面に小さな波紋を作っている。
誰もいない。
それなのに――
今にも鉱夫たちが建物から出てきそうなほど、街の形だけが残っていた。
「これが……グランディアの地下都市」
ルティスが呟く。
かつてここでは、地上よりも多くの人々が暮らしていたのかもしれない。
高い建物の窓。
閉ざされた店。
鉱石を加工していた工房。
壁に掛けられたままの古い看板。
そのすべてが、今は時間を止めている。
「こんな場所が、山の中に……」
ミナが辺りを見回す。
カイルは線路の上に残された古い鉱車へ近づいた。
「これ、まだ動くかもしれないな」
「まさか、乗るつもり?」
ルティスが眉をひそめる。
「動くなら楽だろ。歩かなくて済む」
「どこへ繋がってるかも分からないのに?」
「……それもそうだな」
カイルはあっさり鉱車から手を離した。
ミナが小さく笑う。
「カイルさん、意外と適当ですよね」
「慎重すぎるより長生きするぞ」
「こういうところ慎重じゃないと早死にします」
「……そうか?」
カイルが首を傾げる。
ルティスは呆れながらも、わずかに口元を緩めた。
そして再び地下都市の奥を見る。
ペンダントの中央の針は、依然として同じ方向を指していた。
だがここへ来ても、まだ針は止まらない。
「Gaiaは、もっと奥ね」
三人は地下都市を進んだ。
崩れた橋を渡り、細い通路を抜ける。
途中、壁に古い文字が刻まれている場所を見つけた。
ルティスが指でなぞる。
「……鉱山の封鎖について書かれてる」
「なんて?」
カイルが隣から覗き込む。
「『深部への立ち入りを禁ずる』」
ルティスはさらに読み進める。
「『地下深部にて、大地の鼓動を確認』……」
ミナが眉をひそめた。
「大地の鼓動?」
「たぶん、地鳴りのことね」
――ドン……
まるで言葉に応えるように、足元が小さく揺れた。
三人は顔を見合わせる。
「この街の人たちは、地下で何かを見つけたんだと思う」
ルティスは壁から手を離した。
「それがGaiaか?」
「分からない」
ルティスは答える。
「でも、何か関係はありそうね」
三人はさらに奥へ進んだ。
やがて地下都市の中心部に、巨大な広場が現れた。
その中央には、周囲の建築物とは明らかに年代の違う石造りの建物があった。
グランディアの建物よりも古い。
壁面には風化した紋様。
太い石柱。
そして入口には――
七つの円が刻まれていた。
「……これ」
ミナが息を呑む。
ルティスは胸元のペンダントを取り出した。
中央の針が大きく震えている。
そして、ゆっくりと、その建物を指した。
緑色の宝石が強く輝く。
「……ここね」
ルティスが呟く。
「Gaiaは、この中にある」
三人は建物へ近づいた。
入口には巨大な石の扉がある。
取っ手はない。
鍵穴もない。
ただ中央に、一つの緑色の円が刻まれていた。
ルティスが一歩近づく。
その瞬間――
胸元のペンダントが熱を帯びた。
「……?」
緑色の宝石から光が溢れる。
同時に、石の扉に刻まれた円が淡く輝いた。
光は円から伸び、古い紋様の間を走っていく。
そして――
――ゴゴゴゴゴ……
石の扉が、ゆっくりと動き始めた。
「……やっぱり、そのペンダントが反応してるんですね」
ミナが、ルティスの胸元を見た。
「そうみたい」
ルティスはペンダントを持ち上げる。
緑色の宝石は、まだ淡く光っていた。
「宝玉の場所を示すだけじゃなくて、こういう封宝石にも反応する……」
「不思議ですよね」
ミナが首を傾げた。
「何が?」
「だって、それって七つの宝玉を探すために作られたものなんですよね?」
「たぶんね」
「だったら――」
ミナは少し考えてから言った。
「なんで、そんなものがルティスさんのところに来たんでしょう?」
ルティスの手が止まった。
「……」
考えたことがなかったわけではない。
あの古い箱。
その中に入っていた、このペンダント。
なぜ自分があの箱を見つけたのか。
なぜ自分には、箱を開けることができたのか。
そして――
なぜこのペンダントは、七つの宝玉へ自分を導いているのか。
「……分からない」
ルティスは正直に答えた。
「偶然……じゃないですよね」
「さあ」
ルティスはペンダントを握る。
「今は、考えても答えは出ないわ」
カイルが開いていく石の扉を見ながら言った。
「だったら、先へ進むしかないな」
「そういうこと」
ルティスはペンダントを胸元へ戻した。
だがミナの言葉は心に残ったままだ。
なぜ、このペンダントは自分の手元にあるのか。
その答えを、ルティスはまだ知らなかった。
石の扉が完全に開く。
その先には、長い石造りの回廊が続いていた。
三人は慎重に中へ入る。
先ほどまでの地下都市とは、明らかに造りが違う。
壁には古い紋様。
足元には幾何学模様。
一定の間隔で立つ石柱には、大地や山を思わせる彫刻が施されている。
「グランディアより古い……?」
ミナが壁を見ながら言う。
「たぶんね」
ルティスが答える。
「街ができるより前から、ここにあったのかもしれない」
回廊を進むにつれ、地面から微かな振動が伝わってくる。
――ドン
一度。
――ドン
もう一度。
一定の間隔。
まるで――
巨大な心臓が、地下で脈打っているようだった。
やがて――
三人は巨大な広間へ出た。
中央には祭壇。
その上に――
一つの緑色の宝玉が浮かんでいた。
拳ほどの大きさ。
深い緑色の球体内部には、鉱石の結晶のような光が幾重にも重なっていた。
中心では淡い黄緑色の光が、ゆっくりと脈打っている。
表面には細かな亀裂のような紋様。
その奥を、緑色の光が静かに流れていた。
まるで大地そのものが、宝玉の中で呼吸しているようだった。
「……綺麗」
ミナが息を呑む。
ルティスも宝玉を見つめた。
「Gaia……」
その瞬間。
――ドン
地面が揺れた。
「……!」
祭壇の周囲に亀裂が走る。
石床が盛り上がった。
そして――
巨大な腕が地面を突き破って現れた。
――ズズズズズ……
もう一本。
さらに、四本の脚。
巨大な胴体。
岩そのものを削り出したような身体。
頭部には、角のように突き出した巨大な岩。
そして胸の中央には――
緑色の光。
「守護者……!」
ミナが叫ぶ。
巨大な岩の獣が、ゆっくりと立ち上がった。
その身体には、グランディアで見た石柱と似た紋様が刻まれている。
まるで大地そのものが獣の姿を取ったかのようだった。
獣が咆哮する。
――ゴォォォォン!!
空気が震えた。
広間の天井から砂や小石が降り注ぐ。
ルティスは短剣を構えた。
「……Gaiaを守っているのね」
獣の胸にある緑色の光が強くなる。
次の瞬間。
周囲の床から、無数の岩が浮かび上がった。
「……何?」
岩が獣の身体へ吸い寄せられていく。
砕けた石。
壁の破片。
床から剥がれた岩盤。
それらが次々と獣の身体へ取り込まれていった。
「来るぞ!」
カイルが前へ出る。
巨大な腕が、頭上から振り下ろされた。
カイルは剣を両手で構える。
――ガァン!
剣と岩の腕が激突した。
「ぐっ……!」
衝撃が腕から肩へ突き抜ける。
カイルの身体が一気に押し戻された。
靴底が石床を削り、そのまま数歩後ろへ滑る。
足元に亀裂が走った。
「カイル!」
「大丈夫だ!」
カイルは痺れた腕を振り、剣を握り直した。
「……まともに受けるもんじゃないな」
ミナがすぐに弓を引く。
――ヒュッ!
放たれた矢が獣の肩へ向かう。
だが――
カキン!
矢は岩の表面に弾かれた。
「硬すぎる……!」
ルティスは攻撃せず、守護者の動きを目で追っていた。
胸の緑色の光。
それが――
身体の中を移動している。
胸から肩へ。
肩から腕へ。
そして、再び胸へ。
「……あの光」
ルティスが呟く。
カイルが剣を構えたまま聞く。
「何か分かったか?」
「まだ」
獣が再び腕を振り上げた。
「散って!」
三人が左右へ飛ぶ。
巨大な拳が石床を叩く。
――ズガァン!!
床が大きく陥没した。
砕けた岩が宙へ飛び散る。
カイルがその隙を突いた。
「はぁっ!」
剣が獣の腕へ叩き込まれる。
――ガキィン!
岩の表面に亀裂が走った。
「効いてる!」
ミナが叫ぶ。
カイルがもう一撃を叩き込む。
――ドゴォン!
巨大な腕の一部が砕け落ちた。
だが――
獣の胸が緑色に輝いた。
地面から細い光が伸びる。
砕けた岩が、ゆっくりと宙へ浮いた。
「……え?」
岩が獣の腕へ吸い寄せられる。
一つ。
また一つ。
砕けた部分を埋めるように岩が組み合わさり、数秒後には元の腕へ戻っていた。
「再生してる……!」
ミナが叫ぶ。
「違う」
ルティスは獣の足元を見る。
「自分の魔力だけで直してるんじゃない」
「どういうことです?」
「あいつ、大地から魔力を吸ってる」
獣の足元。
石床の下から、細い緑色の光が何本も伸びている。
それらは獣の身体へ流れ込み、胸の光へ集まっていた。
「この地下そのものが、あいつの魔力源になってる」
カイルが顔をしかめる。
「じゃあ、いくら壊しても直るってことか」
「このままならね」
ルティスは胸の光を見つめる。
緑色の光が再び動いた。
胸。
腹。
肩。
脚。
「それに、あの光……」
「何です?」
「たぶん核よ」
ルティスが答える。
「でも固定されてない。身体の中を動いてる」
「攻撃される場所から逃げてるってことか?」
「たぶん」
獣が咆哮した。
今度は両腕を大きく広げる。
周囲の岩が、一斉に浮かび上がった。
「まずい!」
無数の岩が三人へ向かって放たれる。
――ズドドドドッ!!
カイルが剣で岩を弾く。
ミナは風を巻き起こし、飛んでくる岩の軌道を逸らす。
ルティスは足元の影へ意識を集中した。
「幻影移動!」
影へ沈む。
次の瞬間、守護者の背後へ現れた。
短剣を振り抜く。
――ガキィン!
「……硬い!」
刃が弾かれる。
獣が振り返った。
巨大な拳が迫る。
ルティスは再び影へ沈む。
拳が床へ激突した。
――ドォォン!!
衝撃波が広間を走る。
「……っ!」
影へ入りきる直前、ルティスの身体が吹き飛ばされた。
地面を転がる。
「ルティス!」
「平気!」
すぐに立ち上がる。
守護者の胸を見る。
緑の核が動いている。
「ミナ!」
「はい!」
「大地から流れ込んでる魔力、乱せる?」
ミナは一瞬、守護者の足元を見る。
それから広間を囲む石柱へ視線を移した。
「……やってみます!」
ミナが走り出す。
矢をつがえる。
一発。
二発。
三発。
狙っているのは獣ではない。
広間を囲む石柱だった。
矢が石柱の隙間へ突き刺さる。
ミナが弓を下ろし、片手を前へ出した。
風が動く。
――ゴォッ!
広間を強い風が駆け抜けた。
石柱の間を抜け、床に積もった砂を巻き上げる。
守護者の足元へ集まっていた魔力が揺らいだ。
緑色の光が、一瞬だけ途切れる。
「今!」
カイルが走った。
「おおおおっ!」
剣を両手で握り、獣の腕へ叩き込む。
――ガァァン!!
巨大な岩の腕に亀裂が走る。
もう一撃。
――ドゴォン!
腕が砕け落ちた。
「やった!」
ミナが叫ぶ。
だが――
地面から再び緑色の光が伸びた。
砕けた腕の残骸が宙へ浮かぶ。
「……そんな」
岩が獣へ吸い寄せられていく。
――ゴゴゴゴゴ……
砕けた腕が再び形を作り始める。
完全には止められていない。
「流れを乱しただけじゃ駄目か」
カイルが息を吐く。
ルティスは獣を見つめた。
緑色の核が今度は腹部へ移動している。
「やっぱり……」
短剣を握り直す。
「核を壊さない限り、何度でも再生する」
「でも動いてるんですよね?」
ミナが聞く。
「ええ」
ルティスは守護者の動きを追う。
「だから――次にどこへ移動するのかを読む」
獣が低く唸った。
その瞬間。
足元の石床に無数の亀裂が走る。
「……何?」
緑色の光が床を走った。
次の瞬間――
岩の槍が地面から突き出した。
「避けて!」
三人が飛ぶ。
次々と岩の槍が地面を突き破る。
カイルが走る。
ミナが矢を放つ。
ルティスは影から影へ移動する。
だが守護者は攻撃を止めない。
地面。
壁。
天井。
この場所にある岩すべてが、守護者の武器になっていた。
「これじゃ近づけない!」
ミナが叫ぶ。
「だったら――」
ルティスは守護者の胸を見る。
核が強く輝いた。
その光が、胸から頭部へ移動する。
「次は頭!」
「分かった!」
カイルが正面から走った。
守護者が腕を振り上げる。
カイルは直前で横へ飛ぶ。
拳が床を砕いた。
「ミナ!」
「はい!」
矢が放たれる。
風をまとった矢が守護者の顔面へ突き刺さった。
岩の表面に亀裂が走る。
「ルティスさん!」
「分かってる!」
ルティスは影へ沈んだ。
次の瞬間――
守護者の頭上にある影から飛び出す。
短剣を逆手に構える。
「そこ!」
刃を振り下ろした。
だが――
緑色の光が消えた。
「……!」
核が移動した。
頭部から胸へ。
「逃げた……!」
その瞬間、守護者の全身が強く輝いた。
「ルティス、離れろ!」
カイルが叫ぶ。
地下都市の奥から、膨大な魔力が流れ込んでくる。
床。
壁。
石柱。
天井。
広間全体が緑色の光に包まれた。
「何……これ……」
ルティスが呟く。
守護者が両腕を高く上げる。
そして――
地面へ叩きつけた。
――ズシャァァァァ!!
巨大な衝撃が広間を駆け抜ける。
「……っ!」
逃げる間もなかった。
衝撃がルティスの身体をまともに捉える。
「がっ……!」
身体が宙を舞った。
その先には――
崩れた石柱。
――ドンッ!!
背中から激しく叩きつけられる。
「……っ!」
息ができない。
視界が白くなる。
その直後。
腹部に鋭い痛みが走った。
「……え……」
ルティスは震える手で腹部へ触れた。
赤い。
服が、みるみるうちに血で染まっていく。
「……ぐっ……」
指先が震える。
立ち上がろうとする。
だが――
力が入らない。
「ルティス!」
カイルが駆けてくる。
「ルティスさん!」
ミナも走ってくる。
「……まだ、やれる……!」
ルティスが短剣を握ろうとする。
「まだ……終わってない……!」
守護者がゆっくりとこちらを向いた。
地下遺跡全体が、低く唸るように震えている。
「馬鹿! そんな身体で――」
「大丈夫……」
「大丈夫なわけないだろ!」
ルティスは笑おうとした。
けれど――
口から血がこぼれた。
「……まだ、動ける」
一歩。
足を踏み出す。
膝が崩れた。
「ルティス!」
その瞬間――
ミシッ。
三人が同時に上を見る。
天井に巨大な亀裂が走っていた。
「――危ない!」
ミナが叫ぶ。
巨大な石塊が崩れ落ちる。
カイルがルティスに手を伸ばすが、ローブの端をかすめただけだった。
――ドォォン!!
大量の土煙が広がった。
「……カイル! ミナ!」
ルティスが叫ぶ。
だが、二人の姿が見えない。
「ルティス! どこだ!」
土煙の向こうから、カイルの声が聞こえる。
「ルティスさん!」
ミナの声もする。
「ここ……!」
答えようとする。
だが、声がうまく出ない。
崩れた石塊が三人の間を完全に塞いでいた。
「カイル……」
ルティスは立ち上がろうとした。
腕に力を入れ身体を起こす。
だが、再び地面へ倒れた。
「……ミナ……」
遠くで二人が自分の名前を呼んでいる。
守護者の低い咆哮も聞こえる。
それなのに音が、少しずつ遠ざかっていった。
視界が暗くなる。
最後に見えたのは遠くで淡く輝く、Gaiaの緑色の光だった。
「……まだ……」
ルティスの指先が、わずかに動く。
そして意識は、静かに途切れた。
――Chapter 6 END




