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レイモンド・テーゼ  作者: 厨二坊
第一章
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第2話「現実を知らず」

 朝起きて少しの時間待つと、ベビーベッドから出される。


 座らされると目の前には素朴な食器があって、大抵は単色のドロドロとしたものが中に入っている。


「Ŝifose(時間?)──Ĉlamtela’ŝ─食べ-ot̂-a.」

「Alu(父?)─食べ-āt̂-u…」


 それを、母親か父親かが、木製のスプーンみたいなもので食べさせてもらう。


「Hai, Aaa──」


 自分には何もできないから、何もしなくていい。

 自分には言葉も喋れないから、何も言わなくていいんだ、って…と言い聞かせて。


「──n」


 口を開いて閉じると、

 ひどく気持ち悪い食感のものが口に入るから、舌と歯茎で潰し、飲み込んでは水で流す。


 あまり美味しくはないし、高一が赤子のフリをして世話をしてもらう…と言うのは本当に気分が良くない。

 でも、乳を飲まされたりするあの時間を避けるためには仕方ない。

 アレだけは無理。


「レイ─es-u──良い-ī──ceild-a.」


 母親が、俺の口元を布で拭いながら優しく微笑む。

 その言葉の端々に、なんとなく「良い子」だとか「お利口」だとか、そう言う意味が含まれていることは分かった。


 未だに、思っているように体は動かせない。

 それに関してはどうすることもできないから、両親の会話を、ぼーっと聞いて、少しずつ言葉を覚えていっている。



---


 自分の置かれている状況について、いくつか分かったことがある。



①自分の体


 やっぱり自分は赤子だった。


 何度思い返しても納得がいかない。

 それでも、生活の節々から、嫌というほど自分が赤子だと思い知らされる。


 生えそろっていない歯に、離乳食。

 無駄に重い頭や、この小さいベッド。

 パンみたいな腕。

 この体の情けなさ。


 いつから歯が生えるとかは詳しくは知らない。

 多分、生まれてから一年もいかないくらいだと思う。

 トイレで発見された時…というか、頭を打った時がどれくらいだったんだろうか。


 実際、自分がいつからこの体での意識を持っていたのかもわからない。

 生まれた時からあったけど覚えていないだけなのか。

 体に物心がつくとともに自然と自覚していったのか。

 はたまた──…

 …。


 いいや全部予想なんだ。


 でも、暇だから考えるくらいしかすることないんだよなぁ…。



②両親っぽい男女


 一応、父の方はアル、母の方はミアというらしい。

 特別屈強だとか、うるさい人でも無く、現地の人って感じがする。


 どちらとも農家(窓から見える限りではそう)で、度々来客が来た。

 母親と同年代の人たちであったり、さらにはその子供まで……

 あっちゃこっちゃを見られたり、触られまくるのは嫌なので、とりあえず寝たふりでやり過ごしている。


 あと、まぁまぁな頻度で父親は数日出かける。

 何をしているのか考えたが、母親と父の会話を聞く限り、ただの買い物…っぽい。

 まぁ、それで数日間も掛かるのかは知らないけど…


 農作物を運ぶ…とかなんだろうか。

 ここは明らかに田舎の田舎、村だし。


③生活の色々


 やっぱり、文明があんまり発達してない。

 例えば、トイレや風呂といった習慣は自分の知るものからはかけ離れている。


 火を起こすのも石…? を擦り付けて着火していたり、時間も鐘の音の数でしかわからない。


 トイレなんかは汲み取り式(定期的に人が回収しにくる)だし、風呂だってでっかいバケツの水で、体を拭くだけ。

 どこを探しても蛇口なんかない。

 どう考えても、水路が通っているようには見えない。


 でもなぜか水はある。

 食べ物に困っている様子も無さそうだし、この水は一回どこから来たのか……


 考えても浮かばない。


 言葉とかも、よく分からない単語は未だ多いままだし、この疑問が消えるのは結構先になるかもしれない。


 (暇だなぁ………)


---


 あれから二ヶ月ほど経って、日常的な会話なら分かるようになった。


 知らない言語とは言え、何ヶ月も聞いていれば分かることも多い。


 一つの単語に語尾をガチャガチャと付けることで名詞や動詞などを区別していることがわかった。

 語順とかは英語に近い…けど、不規則変化動詞とかも(語尾ガチャガチャで決まるので)無いから、個人的には覚えやすかった。


 実際の会話となると、英語の教科書みたいな翻訳になるけど、語幹さえ覚えていけば何とかなる。



 と、思っていたが……


---


「村の/長/が言っていた/通りだと、そろそろ/Ŝiŝītolmāna/が/来る/時間だ/。」


「もっと/来てくれれば/楽に/なる/。」



 今日は、Ŝiŝītolmānaが村に来てる…とかで朝から母と父がその話をしている。


 〜の技術(ītolm)、〜の専門家(ān)…という事だけは分かるが、具体的に何を指しているのかは分からない。

 元の語根が何を指しているのか分からないから、どこぞのマジシャンかもしれないし、料理人の可能性だってある。

 日本語で思いつく単語をはめても、しっくり来る単語は出てこない。


 そんなことを考えている間にも、両親の会話は続いていた。

 話を聞く限り、土が良くなるとかそういうことばかりだ。

 一体何者なんだろう。



 トントン、と音が部屋に響いた。


「はーい。」


 入ってきたのは、見慣れない服装の男だった。


「こんにちは。ここはアルベルト…ミアの家ですか?」

「その通りです。今日も世話になります。」


 挨拶もそこそこに、男についていくように、父親が外へ出ていった。


 外の方から断片的な話し声が聞こえるだけで、具体的に何をしているのかまでは分からない。



 別に来客は珍しくない。

 でも、何だか今日はいつもと雰囲気が違くて落ち着かない。


 (やっぱり寝たふりでしようかな…)


---


 しばらくして、父親と共に男が入ってきて、

 かまどに火をつけようとしていたミアに声をかけた。


 男がふっと竈に手をかざすと…

 あっという間に火が灯った。


 パチパチと音を立てる


 魔法、という言葉が頭をよぎった。


 あり得ない。

 そんなフィクションの世界じゃあるまいし。


 ものすごいマジックかもしれない。

 いや、魔法(マジック)……



「そんな…laosa(?)は温存したほうがいいって──」


「いいんですよ。今日はここが最後なんで」


「それでも──」


 男は苦笑いしながら、今度は水が入っていない空の桶に向かって手をかざした。

 手のひらから、何の脈絡もなく、丸まった水の塊がどっと溢れ出して桶を満たしていく。


 そこには蛇口もない。

 仕掛けも、隠す袖も。


 でも、目の前で起きた現象を説明できる言葉は、俺の知る日本語の中にはそれしか無かった。


──魔法。


 ……ここは、俺の知っている世界じゃないかもしれない。

会話文が下手なのは、何とかしなければならないと思っています。

はい。

……はい。

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