第3話「独りよがり」
自分が生まれ変わったからといって、何かをしたいとか、何かをやらなくちゃならないと思うことはなかった。
流れていく日々を罪悪感で募らせて、ただ毎日息をしているだけ。
そこに自分の意思は感じられないし、何より毎日が退屈だった。
転生のことを話すべきか、迷った。
迷うだけだった。
生きづらい。
どうしようもない異物感が、いつまで経っても体に重くまとわりついていたまま。
罪悪を、面倒事を、責任を、
全て他のものにせいにしている。
そうやって息をしている。
それでも、「魔法」を初めて見た時、自分もやってみたいって思った。
そう思ってしまったんだ。
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呆然としていた。
水がポタポタと落ちる音を、火がパチパチと弾ける音を、ただ聞いていた。
魔法、と一度は言葉を飲み込んだものの、体はそう簡単に納得してはくれない。
本当に魔法ではない可能性だってある。
でも、今までの両親の会話の穴、不便な生活に見合わない資源の豊富さ。
そこにピッタリと“魔法”というものが当てはまった。
「失礼しました。つい──で、火まで──した。」
“魔法使い”の男は桶の縁を軽く叩き、水面の揺れを確かめる。
「本当に助かります。朝から水を汲みに行くのは大変で……」
母親が苦笑すると、男は肩をすくめた。
「今日は──の最後の日ですからね。残った力は、使い切った方が──的なんです。」
「でも、──をそんなに使って大丈夫なんですか?」
父親が尋ねる。
「ええ。土──用に蓄えてきた分です。それに、飲み水を少し出すくらいなら問題ありません。」
男はそう言って、窓の外の畑へ視線を向けた。
「今年の土は悪くありません。去年の──に入れた──が、やっと馴染んできています。ただ、─側の─だけは少し疲れが見えました。」
「やっぱり、あそこですか。」
父親が腕を組む。
「春先から、あまり──が良くなかったんです。」
「──においては、水の流れが少し偏っています。今日はそこを整えておきました。しばらくは深く耕しすぎない方がいいでしょう。」
「分かりました。来月まで、表面を軽く───にしておきます。」
母親は安堵したように息をついた。
「毎年来ていただけると、本当に安心します。」
「いえいえ、村全体の土を見て回るのが私の仕事ですから。」
男はそう言って、こちら──ベビーベッドの方を見て、目を止めた。
「おや、起きていたんですね」
(やべっ)
慌てて目を逸らして、瞑った。
「えーっと……、この子は人見知りでして…」
「そうですか。では、驚かせてしまったかもしれませんね。」
「来年に来る頃には、きっと歩けるようになっていますよ。」
「そうだといいんですが……」
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目を開いたときには、もうすでに日が暮れていた。
周りを見渡しても、男の姿はない。
窓の外は橙色から群青色へと変わり始めていて、部屋の中には夕食の匂いが漂っていた。
「──レイ。」
母親に抱き上げられ、そのままいつもの椅子へ座らされる。
木の器の中には、いつものように温かい離乳食が入っていた。
今日一日で色々なことが起きたはずなのに、目の前にあるのは昨日と何も変わらない夕飯だった。
口を開けて、飲み込んで、水を飲んで。
ただ、それを繰り返す。
……。
心なしか、いつもより美味しい。
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一ヶ月後。
出来るようになったことが一つある。
手順はこう。
1,両手と両膝を床につき、四つん這いになります。
2,右手を前に出し、それと同時に左膝(脚)を前に出す。
3,前に出した右手と左膝で床を支え、一瞬だけ体重をそちらに預けます。
4,次に左手を前に出し、それと同時に右膝(脚)を前に出す。
この「2」と「4」を、左右交互にテンポよく繰り返すと………
そう。
つまり──ハイハイができる。
「移動ができる」ということに、これほど感謝したことはないと思うし、これからもないと思う。
だからと言って調子に乗りすぎるのも良くない。
両親が、見失った俺を大捜索することになってしまうし…
便所にいた時もこんな状況だったのかもしれない。
なんだか申し訳ないから、見える範囲で移動を堪能することにしている。
あれから、言語学習は今までよりはるかにスムーズに進んだと思う。
分からないような語根は、思い当たるようなフィクション(主にファンタジー)の単語を当てはめてみると、大抵うまくいった。
言葉を呟いたり、そこら中移動しても不気味がられないような年齢になったのも大きいと思う。
流石にまだ、流暢に喋ったり、質問することは出来ないけど…。
とにかく、色々分かった。
特に、魔法が存在すること。
これはもう確定だと思う。
魔法の原理は、見るだけじゃよく分からなかったけど…
この技術の発展具合で、これほど生活の基盤が整っているのは「魔法」がないと説明できない。
というかあってほしい。
両親が寝静まった後に、上に向かって手を掲げて、はー! とか念じてみたが、水がちょろっと出るわけでもなく、火花が出るわけでもなかった。
両親が使っていなかったり、
魔術師がわざわざ来る…
と言うことを考えると、魔法は簡単に使えるような技術でもないんだろうな。
それでも、使えるもんなら使ってみたいなぁ…
その晩、村のとある一軒家の寝室から「はぁ!」と言う声が鳴り続けたとか、しなかったとか………。




