第1話「泣けない子」
世界には、人の数だけ人生があって、人生の数だけ悲劇があるんだろうなって思った。
だからと言って、自分の人生を思い返してみても、特にこれといった理由はなかった。
生きる権利を渡されたからと言って、
それをどうするのかは自由で、そこに責任が生まれるのも必然なんだろうなとは思う。
でも、その選択権が無いのに、連帯責任を押し付けられるのは、ただただ嫌だった。
生きよ生きよと言われて、逃げたくなった。
ただ、何もしたくないだけだった。
そこに端的な手段として死があった。
死は人生での一番の悲劇だと思う。
それも、とびっきりの。
だからと言って、それを羨ましく思ったことも、自分の死がそうだったとも言わない。
ただ、漠然としている自分に嫌気がさしていた。
誰も彼もが、俺を理解した気でいた。
それは、俺も同じだった。
たったそれだけで俺は死んだんだと思う。
深い海の底で。
思えば、生きる権利はずっと宙ぶらりんだった。
それも──もう落ちたんだ。
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───〜─…
─〜─…
「……──Reeeeei? Ŝowa la alefāt̂u?」
レイ、と何度も呼ばれていた気がする。
そうとしか思えないほど、聞き馴染みがあった。
「Alkē t̂esē lowa Ŝowe… Reeei?」
「Ŝe la leplē salf̂eŝāt̂u owe?」
ひどく記憶に残りやすい、耳に心地いい声。
何を言っているのかは見当もつかない。
バタバタと忙しない足音が近づいて、遠くなる。
それと同時に、外から別の足音と、重い摩擦音が聞こえた。
「Sa funk̂āt̂u fe Monen, Mia, Rei. Zīfe…」
「…un, Ŝowa esu Rei?」
「sipla, Alu. Ēim… t̂esfoltinī, Sa t̂esfeit̂ lūku Rei.
Esōlē Rei leplē wolanfank̂āt̂u sul tek̂miln…」
「…」
──うるさい。
なんなんだ。
死んだ後も、ぐちぐち、
意味のわからない音を…
…音?
目が開いた。
目が。
(え……?)
なんだここ。
狭い。それに、暗くて…臭い。
長いこと周りを見渡した。
あたりは石造の監獄のようで、壁の隙間からかすかな光が差し込んでいる。
その奥には、丸く切り抜かれた木の箱…? が備え付けられていた。
ここに座ってくれと言わんばかりで。
不自然なほど目が冴えていて、その荒い木の質感までもが不気味なほどよく見える。
そして何より、
この部屋が狭い割には、自分の足が、体が──それと比べられないくらいに小さかった。
…え? は?
動かそうとした手は、驚くほど短くて丸く、
目の前に放けた足は、泥を撥ね散らして自転車を漕いでいたあの時の足とは、到底比べものにならないほど小さく、細かった。
ここは死後の世界なんだろうか。
あるいは、夢とか死に際の走馬灯の一種…とか。
……いや、俺の人生にこんな監獄みたいな便所にこもった記憶は、うーん。無い。
いずれにせよ、どこなんだろう。ここ。
天国か地獄とか?
いや、どう見ても便所だな…
「Reei? Ŝowa la alefāt̂u…? Reeei!」
足音がだんだんと近づき、
寄りかかっている壁の方から、声がすると共に、背中が、落ちた。
「っ──!?」
驚いて声が出なかった。
首も、体も、十分に動かすことができない。
ドン、と派手な音を立て、無様に後ろにひっくり返った。
どうやら俺が背中を預けていたのは、この狭い便所の扉だったらしい。
背中から床へ不様にひっくり返り、ぶかぶかの服が頭までめくれ上がる。
痛っ、と思うより先に目を細めた。
(眩しっ…!)
見上げた先で、扉に手を掛けている男と目が合う。
「Rei!」
埃と、嗅いだことのない不思議な匂いが鼻をくすぐる。
「Mi, Mia! T̂a wesu elfenesī! R,Rei──」
レイ。
この男が呼んでいる「レイ」は、俺の名前…だよな?
……。
頭の衝撃が、今になって響いてきた。
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「Ŝalūte ma? Alu.」
「Rei tatelāt̂u felē, Ka t̂esolpisu!」
「Rei esu t̂esolpisāna p̂eide Ka k̂enat̂āt̂u.」
「p̂ūte, “p̂eide Ka k̂enat̂āt̂u” fel esu wemitāla!──」
やばい。
まじやっばい。
何を言ってるか見当もつかない。
視界の端々で、男と、滑り込んできた女の人が、交互に俺の体を触り、顔を覗き込んでは、不思議そうに声を漏らす。
脳の片隅に、この人たちの表情や仕草から「心配」といった断片的なニュアンスだけが浮かぶだけで、言葉そのものの意味は一単語として分からない。
とにかく、この人たちは俺をおかしいと思っていることだけはわかる。
「……。」
とりあえず状況を把握しよう、あー……えっと……
俺はまず、死んだ。
湖に飛び込んで、冷たい水の底に沈んで、気を失った。この状況から、今も五体満足で生き延びてる…なんてことはあり得ないだろうし。
「Ūn…, ceilte alefu Foltina’ŝ-delteman leuke.」
でも、なんか死んでなかった。
ついでに体は小さくなっていて、おそらく赤ん坊。
いや、便所の床で座れるくらいの、物心がつくかつかないかくらいの幼児のそれだ。
──輪廻転生、という言葉が頭をよぎった。
でも、輪廻転生って動物とかに生まれ変わるんじゃないのか…?
「Sa f̂alp̂. ma… t̂esolpisu……」
女の人が、「必至」とまでは言わないが、なんだか心配そうな目を向けてくる…。
あと、この人たちの喋る謎の言語。
「p̂elans ultan, Ka eimesu ceilī-Wolina.」
うん。
「xalten Sa sevaltu…」
分かんない。
……えー…で、頭を打った。
そしたら男女が寄ってきて…現在。
幼児が頭を打ったらすることは何だ?
自然なこと…
しなきゃいけないこと…仕事……
泣くこと…か?
というか俺、声を出してもいなかったな……
「あー、あー」
想像していた通り、この短い舌で出せる音は、呻き声でもないただの溢れ音だった。
「」
女の人は何か微笑みを含みながら喋り、俺はされるがままに抱き抱えられる。
……。
ま、まぁ何とかなったのか?
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二週間ほど経った。
俺は生まれ変わって、赤ん坊になった。
あの男女は俺の両親で、自分は生まれて少し経っただけの子供なんだと。
その事実をやっと認めることができた。
生まれ変わったとしても、何で自分に前世…? の記憶があるのかは全くわからない。
正直、思うところもある。
何で俺なんだ、とか。
親、とか。
またかよ、とか…。
ただ、「今の記憶を残したまま、過去に戻れるなら?」という質問が、実際に自分に起こったようで、どうしようもなくワクワクしてしまう。
けど、ここは前とはずいぶん環境が違うんだよなぁ…。
飛び交う言葉は、聞いたことも無い言語だし、
母親や父親の容姿も、日本人…とは言えない。
見える範囲に、スマホとかパソコンといったメカメカしいものはない。
この建物だって、そこまで頑丈そうにも見えない。
主に壁は石造で、屋根なんかも木製で、
漆喰とかモルタル…なんかが塗られてる訳でもなさそう。
夜になれば真っ暗になるし、その時に使う灯りもロウソクやランプ…みたいなやつ。
海外のひどい田舎なのか、それとも、もっと別の…
北センチネル島みたいな、世界の歴史からは孤立したところなのかもしれない。
にしては、文明がしっかりしてる方なのか…?
「──Alu, fopianlia kialu!」
「Falmaaat!」
……いずれにせよ、言葉が分からないと何とも言えないか…。
人工言語の制作が進み次第、会話等は書き直す予定です。描写等は、未だ下手なままなので、精進したいと思います。
それでは。




