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第9話:鏡の中の女神様は、私ですか?

シルヴィア皇女による「至宝プロデュース」は、とどまることを知らなかった。

 

 沈黙の庭園での奇跡を経て、エルセの魔力はさらに研ぎ澄まされ、その容姿にも劇的な変化をもたらしていた。浄化の力を使いすぎ、毒を溜め込んでいた頃の「顔色の悪さ」は消え失せ、今の彼女の肌は、最高級のシルクよりも滑らかで、内側から発光するような透明感を放っている。


「……さあ、エルセ。準備はいいかしら?」


 シルヴィアが満足げに頷き、エルセの前に置かれた巨大な姿見の覆いを取り払った。

 

 そこに映っていたのは。


「え……っ」


 エルセは、思わず自分の口元を両手で押さえた。

 

 鏡の中にいたのは、月光をそのまま形にしたような、神秘的なまでの美貌を備えた少女。

 白銀の髪は一房ごとに星の砂を散りばめたように煌めき、かつて「虚無」と蔑まれた透明な瞳は、今はレオンハルトの漆黒を映し、深いアメジストの色を帯びた「水鏡」のように美しく揺れている。

 纏っているのは、帝国の至宝である『極光の薄衣』。彼女が呼吸するたびに、ドレスの裾がオーロラのように揺らめき、周囲の空気を清浄な光で満たしていた。


「これが……私? 嘘よ、こんなに……綺麗だなんて……」


 ポロリ、と。

 大粒の涙が、エルセの頬を伝い落ちた。

 それは悲しい涙ではなかった。

 

 十数年もの間、「お前は醜い」「色のない欠陥品だ」と言われ続け、鏡を見るたびに自分の顔を隠したくなっていた彼女。

 その呪いが、今、音を立てて崩れ落ちていく。


「――嘘ではない。それが、私が見ている『真実のお前』だ」


 背後から、低く重厚な声が響いた。

 いつの間にか部屋に入っていたレオンハルトが、鏡越しにエルセを抱きしめる。

 

 漆黒の軍服を纏った皇帝と、純白の輝きを放つ令嬢。

 その対比は、あまりに完璧で、あまりに耽美だった。


「陛下……っ。私、今まで自分が、汚くて、何の価値もない泥人形だと思っていました……。でも、こんなに……こんなに大切にしていただけて……」


「泥人形などと、二度と口にするな。……お前が自分を醜いと言うたび、私の心は千々に裂ける。お前は私の魂の半分であり、世界で最も気高い私の妻なのだ」


 レオンハルトは、エルセの耳元で熱い吐息を漏らしながら、その華奢な肩に顔を埋めた。

 彼の大きな手が、エルセの腰を折れんばかりに引き寄せ、自らの存在を刻み込むように強く抱く。


「……誰にも、一瞬たりとも見せたくない。建国祭での披露など、中止にしてしまおうか。お前をこの腕の中に閉じ込め、私だけがお前の輝きを独占していたい」


「陛下……? お顔が、少し怖いです……っ」


「ああ、怖いだろう。お前を愛しすぎて、理性が焼き切れそうなのだ」


 レオンハルトは、エルセの手に絡ませていた自分の指をさらに強く握りしめ、鏡の中の彼女の瞳をじっと見つめた。


「エルセ、お前はもう『色のない娘』ではない。私の『黒』を塗りつぶし、新しい世界を描く『光』なのだ。……いいか、あの王国連中がどれほど泣き叫ぼうと、お前はもう二度とあちら側には戻れない。私の愛の檻の中で、永遠に飼われる覚悟を決めろ」


「……はい、陛下。私を、離さないでください……っ」


 エルセが自らレオンハルトの胸に顔を埋めると、彼は満足げに、獣のような独占の笑みを浮かべた。


   ◆


 一方その頃、ソラリア王国。

 

 王城の鏡の間では、悲鳴と罵声が飛び交っていた。

 

「ぎゃあああああ!! 私の顔が! 私の顔がぁっ!!」

 

 ミエルが絶叫し、鏡を叩き割った。

 鏡に映っていたのは、かつての愛らしい姿ではない。

 不摂生と悪意がそのまま表に出たような、どす黒く変色し、吹き出物だらけになった「魔女」のような顔だった。

 

 隣に立つジュリアン王子も、その足元はふらつき、瞳は濁りきっている。

 

「なぜだ……エルセがいなくなっただけで、なぜこれほどまでに国が腐る! 結界が崩れ、魔物が王都のすぐそばまで来ているという報告まで……!」

 

 彼らはまだ気づいていなかった。

 エルセという『浄化の盾』を失ったことで、自分たちが世界に撒き散らしてきた「毒」が、すべて自分たちへと逆流していることに。

 

 そして、その「毒」を浄化できる唯一の存在は今、隣国の皇帝に狂おしいほどの愛で守られ、かつてないほどの輝きを放っているということに。

 

「……ああ、そうだ。帝国の建国祭だ! そこに行けば、きっと何か解決策が……! エルセに似た女が皇妃になるという噂もある。それを捕まえて、また浄化をさせればいいのだ!」

 

 自分たちの死神を、自ら招き入れようとしているとも知らずに。

 地獄への招待状は、刻一刻と彼らの手元へ近づいていた。

「私は、愛されてもいいんだ……」

エルセが自分の美しさを認め、涙するシーン。執筆していて私も胸が熱くなりましたわ。

そして陛下のデレ(という名の重すぎる執着)も、もはや隠しきれませんね!


一方、王国側の凋落っぷりは、いよいよ取り返しのつかない段階へ。

「あのエルセを捕まえてまた使えばいい」という王子の傲慢な考え……。

それがレオンハルト陛下の逆鱗に触れた時、一体どんな「絶望」が彼らを襲うのか?


「エルセ、本当に綺麗になったね!」「王子の勘違いっぷりが最高にフラグ!」

そんな風に感じていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】をお願いいたします。


次回、第10話。

建国祭前夜。エルセに「ある特別な贈り物」が届けられます。

そして王国側は、ボロボロの姿で帝国へと足を踏み入れることに……。

どうぞ、お楽しみに!

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