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第10話:泥を啜る者、雲を掴む者

アイゼンシュタット帝国の国境へ向かう一本道。

 そこを、一台の馬車が力なく進んでいた。


 かつてソラリア王国の栄華を象徴した金色の装飾は剥げ落ち、車輪は泥を跳ね上げるたびに嫌な音を立てて軋んでいる。車内に漂うのは、芳醇な香水の香りではなく、腐った卵のような、どす黒く濁った魔力の死臭だった。


「……っ、ハァ、ハァ……。まだか……まだ帝国には着かないのか……!」


 馬車の中で、ジュリアン王子は荒い呼吸を繰り返していた。

 かつての輝かしい金髪は見る影もなく、煤けた灰色へと変色し、その肌は生気のない土色に沈んでいる。隣に座るミエルに至っては、顔を厚いベールで覆い隠し、ガタガタと震えていた。


「ジュリアン様……体が、体が熱いのですわ……。私の虹色が、私の光が、真っ黒に溶けて……ひぃっ、見ないで! 私を見ないでくださいませ!」


「黙れ! お前の魔力が役に立たないから、私がこうしてわざわざ帝国まで頭を下げに行く羽目になったのだぞ!」


 二人はまだ気づいていない。

 エルセという「浄化の柱」を失ったことで、王国全体に蓄積されていた数十年分の「魔力の毒」が、元凶である彼らへと逆流し始めている事実に。


 やがて、馬車が帝国の国境ゲートをくぐった瞬間。

 ジュリアンは、眩しさに目を細め、絶句した。


「な……なんだ、これは……!?」


 そこには、自分たちの朽ち果てていく国とは正反対の、眩いばかりの「極楽」が広がっていた。

 帝国の荒野だったはずの場所には、見たこともない純白の花々が咲き乱れ、空気は透き通るように清浄だ。道行く民衆の顔は希望に満ち、その魔力はかつてないほど鮮やかに輝いている。


 彼らは知らない。この「奇跡」のすべてが、自分たちが泥に捨てたあの少女――エルセが、皇帝の隣で微笑んでいるだけで溢れ出した恩恵だということを。


「……ふん、帝国め。不気味なほど活気付いていやがる。だが好都合だ。これほどの浄化の力があるなら、あの『エルセに似た皇妃』を力ずくで奪い返し、我が国を救わせればいいだけの話だ」


 泥を啜るような旅路の果てに、ジュリアンはまだ、雲を掴むような傲慢な妄想を抱いていた。


   ◆


 同じ頃。

 帝国の皇城、最上階にある『星天のテラス』では。


 エルセは、柔らかな初夏の風に吹かれながら、夢のような心地で遠くの街並みを眺めていた。

 隣には、執務の合間を縫って彼女の側を離れようとしない、レオンハルトの姿がある。


「陛下、見てください。あんなに遠くまで、白い花が……。私、あんな景色、生まれて初めて見ました」


「……そうか。ならば、あの地平線の果てまで、すべてお前の色で塗り潰してやろう」


 レオンハルトは当然のように言い放つと、懐から一つの小さな木箱を取り出した。

 漆黒のベルベットの上に鎮座していたのは、伝説にのみ語られる帝国の秘宝――魔石『原初のプリズム』を配した首飾りだった。


「陛下……? これは……」


「我がアイゼンシュタット帝国の初代皇帝が、神から授かったとされる石だ。あまりに強大で、誰にも扱えず眠っていたが……今の私にはわかる。これは、お前のために存在していたのだと」


 レオンハルトがエルセの背後に回り、その白く細い首筋に、冷たい魔石の感触が触れる。

 

 その瞬間。

 石はエルセの「無色」の魔力に反応し、爆発的な七色の光を放った。

 だがそれは、ミエルが使っていたような安っぽい虹色ではない。

 世界の夜明けを思わせる、神聖で、圧倒的な「真実の色彩」。


「あ……温かい……」


「エルセ。明日の建国祭で、これをお前に贈る。お前を捨てた者たちの目の前で、お前が世界の中心であることを証明するために」


 レオンハルトは、光り輝く首飾りの上から、エルセの首筋に深い、深い刻印のような接吻を落とした。

 

「お前を道具として扱った無能共には、死よりも深い後悔を与えよう。……お前はもう、誰にも奪わせない。私の命に代えてもな」


 エルセは、陛下の逞しい腕の中に身を委ね、目を閉じた。

 かつて自分を「泥」と呼んだ者たちが、すぐそこまで迫っている。

 だが、今の彼女には、何よりも強い光の盾と、自分を狂おしいほどに愛する「魔王」がついていた。


「……はい、陛下。私は、あなたの皇妃として……あの人たちの前に立ちます」


 運命の建国祭、前夜。

 光と闇、そして泥にまみれた虚偽が、ついに一箇所へと集まろうとしていた。

いかがでしたか? 第10話。

王国一行の「目に見える凋落」と、帝国の「神々しいほどの繁栄」。

この圧倒的な格差こそが、次回の対面シーンでのカタルシスを100倍にしてくれるのですわ!


ジュリアン王子の「奪い返せばいい」という傲慢なセリフ……。

これがレオンハルト陛下の耳に入ったら、一体どんな「粛清」が始まるのか?

想像するだけでワクワクしてしまいますわね。


「王子のボロボロっぷりが最高!」「陛下の贈り物が豪華すぎて目が眩む!」

そんな風に思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価】をお願いいたします。

皆様の熱い応援が、エルセの「ざまぁ」の威力をさらに高めます!


次回、第11話。

ついに再会の時。

眩い光の中に立つエルセを見て、王子たちがどんな「無様な顔」をするのか……。

どうぞ、絶対にお見逃しなく!

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