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第11話:再会のプロムナード

アイゼンシュタット帝国の建国祭当日。

 皇都のメインストリートは、色とりどりの旗と魔法の光に彩られ、民衆の歓喜の声で揺れていた。

 だが、その熱狂の中心である大広間に足を踏み入れたソラリア王国の使節団一行は、まるで場違いな「汚物」のように浮き上がっていた。


「……ハァ、ハァ……。なぜだ、なぜこんなに息が苦しい……っ」


 ジュリアン王子は、ボロボロになった礼服の襟元を掻きむしった。

 帝国の空気は、あまりに清浄で、あまりに高貴な魔力に満ちている。浄化を忘れ、毒に蝕まれた彼の体にとって、その「正しさ」は猛毒にも等しい苦痛だった。

 隣のミエルも、厚いベールの下でガタガタと震え、周囲の貴族たちの冷ややかな視線に晒されている。


「見なさい、あのソラリアの王子を。魔力がドブのように濁っているわ」

「隣の女も酷い臭い……。あんな腐りかけた連中が、我が帝国の至宝に拝謁しようだなんて」


 貴族たちの嘲笑。かつてエルセに向けていた言葉が、そのまま自分たちに突き刺さる。

 だが、ジュリアンの傲慢な執着だけは消えていなかった。


(……黙れ。今に見ていろ。あの『皇妃になる女』さえ手に入れれば、我が国は救われる。エルセのような便利な道具を、この帝国から奪い返してやる……!)


 その時。

 広間に、腹の底まで響くようなファンファーレが鳴り渡った。


「――アイゼンシュタット帝国皇帝、レオンハルト・フォン・アイゼンシュタット陛下。ならびに、次期皇妃、エルセ・フォン・アラバスター閣下、お出ましです!」


 巨大な黄金の扉が、ゆっくりと開かれる。

 

 現れたのは、漆黒の軍装に身を包んだレオンハルト。

 そしてその腕に導かれ、ゆっくりと歩みを進める――。


 ――「女神」だった。


 エルセが歩むたび、床の絨毯からは純白の光の花が咲きこぼれ、大広間全体が春の陽だまりのような暖かさに包まれる。

 白銀の髪は星屑を集めたように煌めき、その首筋には、レオンハルトから贈られた『原初のプリズム』が、太陽よりも眩い七色の輝きを放っていた。


 あまりの神々しさに、帝国の貴族たちが一斉に膝をつき、祈りを捧げるように頭を垂れる。


「な……っ……」


 ジュリアンの喉が、ヒュッと鳴った。

 目を見開き、金縛りにあったように動けなくなる。


「あ……あ……嘘だ……。あんな、あんなに美しい女が……」


 そこにいたのは、自分が泥の中に突き飛ばした「色のない泥人形」ではなかった。

 自分たちを見下ろすこともなく、ただ愛する男の隣で、幸福に満ちた微笑みを浮かべている――世界で一番幸せな、帝国の象徴。


「……エルセ? ……おい、エルセなのか!? 貴様、なぜそこに……!」


 耐えきれず、ジュリアンが叫びながら駆け寄ろうとした。

 だが、その一歩を踏み出すより早く。


 ドォォォォンッ!!


 凄まじい衝撃波がジュリアンを襲い、彼は無様に床を転がった。

 レオンハルトが、冷酷極まりない眼差しでジュリアンを見下ろしていた。


「……誰の許可を得て、私の妻の名を呼んだ? 汚らわしい虫ケラが」


 レオンハルトの全身から、漆黒の魔力が溢れ出す。

 それは広間全体を支配する絶望の波動。彼はエルセの腰をグイと引き寄せ、見せつけるように彼女の額に接吻を落とした。


「お……お前、その女を離せ! そいつは我が王国の所有物だ! 私が捨てた、ただの役立たずなんだぞ!」


「所有物、だと?」


 レオンハルトの瞳に、この世のものとは思えない暗い悦楽が宿った。


「貴公らが泥に捨て、唾を吐きかけたその少女が、今の私にとっては命よりも重い唯一の宝だ。……エルセ、聞きなさい。この哀れな男が、お前を『返せ』と言っているぞ」


 エルセは、震えるジュリアンを、慈悲の欠片もない透明な瞳で見つめた。

 

「……ジュリアン殿下。お久しゅうございますわ」


 その声は、かつての怯えたものではなかった。

 凛として、それでいて遠い場所から響くような、絶対的な断絶。


「私はもう、あなたの国を浄化する道具ではありません。私は、私を愛してくださるこの方の隣で、この帝国の光として生きることを誓ったのです。……あなたのような『色の濁った方』に、私の名は相応しくありませんわ」


「な……、何を……っ!」


「消えろ。二度と、私の視界を汚すな」


 レオンハルトが指先を鳴らした瞬間。

 ジュリアンと、背後にいたミエルの魔力が、物理的に「砕ける」音が広間に響いた。

 

 彼らが縋っていた最後のか細い魔力の糸が、エルセの「至高の浄化」によって強制的に消滅させられたのだ。

 魔力を失い、ただの「老いた醜い人間」へと急速に変貌していく二人。


 会場にいた誰もが、その無様な姿に冷たい沈黙を贈った。

 王国の凋落、そして帝国の不滅の輝き。

 

 色彩の審判は、今、下されたのだ。

いかがでしたか? 第11話。

ついにエルセが自らの意志で、クズ王子に引導を渡しましたわ!

「私の名は相応しくありませんわ」……この冷徹な拒絶こそ、最高のカタルシスです。


そしてレオンハルト陛下の、殺気すら感じる独占欲。

「私の妻」という言葉に、読者の皆様もドキドキしていただけたのではないでしょうか。


「スカッとした! もっとボコボコにして!」「陛下の守護者っぷりが最高!」

そんな風に思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】をお願いいたします。


次は第12話。第1章、完結。

完全に没落した王国側と、永遠の愛を誓い合う二人の対比。

そして物語は、さらなる「世界の真実」へと動き出します……。

どうぞ、最後までお見逃しなく!

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