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第12話:色彩の審判、そして永遠の揺り籠へ

「……あ、あ……あぁ……っ!!」


 アイゼンシュタット帝国の豪奢な大広間に、ジュリアン王子の獣のような悲鳴が響き渡る。

 彼が縋り付こうとしたエルセの足元には、見えない「聖域ライン」が引かれていた。レオンハルトの放つ漆黒の魔力が、彼女に近づこうとする不浄な存在を物理的に叩き伏せているのだ。


 床に這いつくばるジュリアンの姿は、もはや王族の威厳など微塵もなかった。

 エルセという「浄化の柱」を失ったことで、彼自身の内側に溜まり続けていた欲望と傲慢の毒が、外見にまで溢れ出している。金髪は抜け落ち、肌には死斑のような黒ずみが浮き出ていた。


「どうした、ソラリアの王子。……そんな無様な顔で、我が皇妃の裾を汚すつもりか?」


 レオンハルトは、エルセの腰をさらに深く抱き寄せ、氷のような微笑を浮かべた。


「陛下、お願いです……その女を、エルセを返してください! 彼女がいなくなってから、我が国の魔力が、王宮の花が、すべて腐ってしまったのです! 彼女さえいれば、彼女に私の毒を吸わせれば、また私は……!」


 その言葉に、会場にいた帝国の貴族たちから激しい憤りの声が上がった。

「吸わせる」だと? この美しく尊い至宝を、ただの「毒消し」の道具として扱っていたというのか。


「……愚かだな、ジュリアン・ソラリア」


 レオンハルトの紫水晶アメジストの瞳に、冷酷な殺意が宿る。


「お前たちが『無色』と蔑み、捨て去ったその力こそが、万物の色を包み込み、再生させる『原初の光』だった。彼女はお前たちのために、自らの魂を削って毒を飲み込み続けていたのだ。……だが、もう遅い。彼女の輝きは今、私の漆黒を鎮め、この帝国全土を救うためにのみ注がれている」


「そんな……そんなはずが……っ!」


「貴公らの罪は、貴公ら自身で購え。……衛兵。この汚物共を外へ放り出せ。国境まで引きずっていき、二度と帝国の土を踏ませるな」


「ひぃっ、お、お助け……ジュリアン様、助けてぇっ!!」


 ベールの下で化け物のような姿に変貌したミエルも、泣き叫びながら衛兵に引きずられていく。

 ジュリアンは最後に、こちらを見つめるエルセの瞳に縋った。かつての、自分を真っ直ぐに、健気に見つめていたあの瞳。


 だが、そこに映っていたのは――。

 怒りでも、恨みでもなかった。


 道端に落ちている石ころを見るような、完全なる「無関心」。


「……さようなら、ジュリアン殿下。私の流した涙が、あなたの国の最後の一滴だったこと。どうぞ、滅びゆくその場所で、ゆっくりと思い出してくださいませ」


 エルセの冷徹な、そして慈悲深い決別の言葉。

 それが、ジュリアンの精神を粉々に砕く最後の一撃となった。


   ◆


 喧騒が去り、建国祭の夜は更けていく。

 

 月光が降り注ぐ皇城のテラス。

 エルセは、背後からレオンハルトに包み込まれるように抱きしめられていた。

 

「……疲れたか? エルセ」


 レオンハルトの甘い声が、耳元で響く。

 彼の大きな手が、エルセの首筋にある『原初のプリズム』を愛おしげに撫で、そのまま彼女の頬へと滑った。


「いいえ、陛下。……ただ、少しだけ不思議な気持ちなのです。あの方たちを見ても、もう何も感じない自分に」


「それでいい。……お前の瞳に、あのような汚らわしい存在を二度と映させると誓ったはずだ。……だが、エルセ」


 不意に、レオンハルトの力が強まった。

 独占欲に濁る彼の魔力が、エルセの全身を縛るように絡みついてくる。


「……あいつを見るお前の瞳が、あまりに冷たく、そして美しすぎた。……嫉妬したぞ。お前の心の中に、たとえ『無関心』という形であっても、一瞬でも奴が存在したことに」


「陛下……? それは、少し……いえ、かなり我儘ではありませんか?」


「ああ。私は我儘な男だ。特にお前に関してはな」


 レオンハルトはエルセの肩を抱き、強引に自分の方を向かせた。

 月の光を浴びて輝く、二人の色彩。

 漆黒と白銀。破壊と再生。


「一生、私の腕の中で飼われていろ。お前の光は私だけを照らし、私の闇はお前だけを守る。……この世界が、お前に相応しい美しい宝石箱に変わるまで、私はお前を離さない」


 レオンハルトの唇が、エルセの震える唇を塞いだ。

 深く、深く。

 それは契約であり、呪いであり、そして世界で最も純粋な救済。


 エルセは、陛下の首に腕を回し、その熱に溶かされていく。

 

 遠くソラリア王国では、今夜もまた一つ、美しい庭園が枯れ果てたという。

 だが、この帝国の揺り籠の中にいる限り、彼女がそれを知ることは二度とない。


 愛する男の腕の中で、エルセは真実の幸せという名の、永遠の眠りに落ちるのだった。

第1章『泥人形と呼ばれた令嬢、漆黒の皇帝に拾われ「光の神」へと至る』、完結。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


エルセが自らの意志で過去を断ち切り、レオンハルト陛下の「重すぎる愛」の中に完全に収まったラスト……。

執筆しながら、私も彼女のあまりの幸福感に当てられ、少しばかり目眩がいたしました。


もし、このラストに「最高にスカッとした!」「二人の結婚式まで見届けたい!」と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】で、彼女たちへの祝福をお願いいたします!

皆様の応援が、第2章への最大の活力となります。


次回、第2章の開幕は――。

舞台はさらに広がり、滅びゆくソラリア王国、そしてエルセの「神としての目覚め」を狙う新たな勢力が登場。

陛下の独占欲が、帝国の枠を超えて世界を震撼させることに……!?


どうぞ、今後ともお見逃しなく!

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