第8話:失われたはずの「無色」が放つ、真実の輝き
シルヴィアによって磨き上げられたエルセが、レオンハルトに連れられてやってきたのは、皇城の奥深くに広がる『沈黙の庭園』だった。
かつては帝国の誇りだったその場所は、今やレオンハルトの強大すぎる漆黒の魔力に侵食され、漆黒のバラが毒々しく咲き、草木は炭のように黒く変色している。帝国の人間ですら、「呪われた庭」と呼んで忌避する場所だ。
「……陛下、ここは?」
「私の魔力が最も濃く、最も醜く噴き出す場所だ。誰にも見せたことはなかったが……今の私には、お前をここに連れてくる必要があった」
レオンハルトは、エルセの手を引いて枯れた噴水の縁へと歩む。
彼の「漆黒」は、周囲の生命を奪う。誰も近づけない孤独。だが、その隣でエルセが静かに息をついた瞬間――。
――奇跡は、彼女の足元から始まった。
エルセが踏み出した一歩。泥に汚れていたはずの地面が、彼女の「無色」の魔力に触れた途端、真珠のような淡い光を帯びて浄化されていく。
「あ……」
彼女が歩くたび、黒く枯れ果てていたバラが、内側から光を放つような純白へと染まり変わる。
死の庭園が、一瞬にして天上の楽園へと書き換えられていくのだ。
エルセ自身は、それに気づいていない。
ただ、陛下の隣で「空気が綺麗になった気がする」と、少しだけ安心したように微笑んでいるだけだ。その無自覚な慈愛こそが、何よりも尊く、恐ろしい。
「エルセ……お前は、自分が何をしているか分かっているのか?」
レオンハルトの声が、微かに震えていた。
彼はエルセを背後から抱きしめ、その白銀の髪に顔を埋めた。
「私の呪い(闇)を、お前は呼吸するように光へと変えてしまう。……やはりお前は、この世界を救うために遣わされた神そのものだ」
「いいえ、陛下。私はただ……あなたのそばが、心地いいだけなのです。あなたの闇は、とても温かくて……包み込まれるような安心感がするから」
その言葉が、レオンハルトの理性を粉々に砕いた。
彼はエルセの体を強引に自分の方へ向けさせると、燃え盛るような執着を宿した瞳で彼女を見つめた。
「……もう、絶対に離さない。例えお前が拒んでも、地の果てまで追い詰め、私の腕の中に閉じ込めてやる。お前のこの輝きも、その微笑みも、指先の一振りさえも……すべて私のものだ」
レオンハルトは、エルセの華奢な手首を握り、そこへ自身の「漆黒」を糸のように絡みつかせた。
それは魔力による絶対的な拘束――皇帝の「番」である証。
「お前が私を救うというなら、私はお前のために世界を焼き尽くそう。……エルセ、私を愛していると言え。お前のその清らかな唇で、私だけのものになると誓うのだ」
あまりに重く、深すぎる愛の告白。
エルセは赤らめた顔で、だが真っ直ぐに陛下を見上げ、その首にそっと腕を回した。
「……はい、陛下。私は、あなたの光になりたいのです」
二人の魔力が溶け合い、庭園に咲き誇る数万の白バラが一斉に光り輝いた。
◆
その頃、ソラリア王国。
かつて「虹の聖女」と持て囃されたミエルは、鏡の前で悲鳴を上げていた。
「嫌っ……嫌ああああ!! なぜ!? なぜ私の肌が、こんなにドブ臭いの!?」
彼女の自慢だった虹色の魔力は、今やどす黒いヘドロのような粘り気を帯び、ドレスの裾を汚している。
エルセが肩代わりしていた「王国の罪」が、浄化の担い手を失ったことで、元凶である彼らへと逆流し始めていたのだ。
「ミエル、お前の魔力さえあれば……っ! ゲホッ、ゲホッ!!」
駆け寄ろうとしたジュリアン王子も、激しく咳き込んだ。
吐き出した痰には、墨のような黒い混じり物がある。
彼らが「無価値」と捨てた少女が、実は彼らの命を繋いでいた細い糸だったことに、愚か者たちはまだ気づいていない。
ただ、急速に滅びゆく国の冷たさだけが、彼らの首元を締め付けていた。
エルセの力が「死の庭園」を救い、陛下の愛を「不可逆的な重さ」へと変えた第8話。
いかがでしたでしょうか?
自分を卑下していたヒロインが、無自覚に世界を救ってしまう……この「ギャップ」こそが、なろうの真髄ですわね。
そして王国側、いよいよ本格的に体が「腐り」始めてまいりました。
自業自得、因果応報。この絶望が深まれば深まるほど、後半の「ざまぁ」が輝きを増します。
「陛下、もっとエルセを束縛して!」「王子の末路が楽しみすぎる!」
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次回は第9話。
鏡の中の自分を見て、エルセがついに「自分は愛されていい存在なのだ」と自覚する、感涙必至のエピソードです。
どうぞ、お楽しみに……!




