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第6話:今日から、お前を「帝国最高の宝」と呼ぼう

アイゼンシュタット帝国の謁見の間。

 高くそびえる天井には軍神のフレスコ画が描かれ、百を超える銀の燭台が、重厚な空気の中に鋭い光を投げかけている。


 そこには、帝国の権威を象徴する高位貴族たちが、一様に不機嫌そうな顔で居並んでいた。

 理由は、玉座に座る漆黒皇帝レオンハルトが下した、あまりに不可解な招集命令だ。


「陛下は一体、何を考えておられるのか」

「国境で拾った、あのソラリア王国の『色のない欠陥品』を、あろうことか正式に披露するなど……」


 ひそひそと交わされる毒を含んだ囁き。

 この国では、魔力の強さは「色の深さ」で決まる。色のない無色の娘など、帝国にとっては価値のない石ころ、あるいは不吉な呪いと同義だった。


 その時、重厚な扉が開かれた。


「――皇帝陛下、ならびにエルセ・フォン・アラバスター公爵令嬢、入城!」


 先導の声が響き渡る。

 現れたのは、漆黒の軍服を纏い、マントを翻して歩くレオンハルト。

 そして、その腕に守られるように寄り添う、一人の少女だった。


 謁見の間が、一瞬で水を打ったように静まり返る。


 エルセは、レオンハルトが自ら選ばせたという、月の光を織り込んだような銀糸のドレスを纏っていた。

 泥にまみれていた姿はどこにもない。

 丁寧に磨き上げられた肌は陶器のように滑らかで、透き通るような白銀の髪は、歩くたびに繊細な光を放つ。


(……怖い。でも、陛下の隣なら……)


 エルセの手を、レオンハルトが力強く握りしめる。

 彼はゆっくりと玉座へと上り、エルセをその傍らに立たせた。


「……陛下、一言よろしいでしょうか」


 列の中から、保守派の重鎮であるヴァルダー伯爵が前に出た。

 彼はエルセを汚らわしいものを見るような目で見据えると、恭しく、だが刺のある声で告げた。


「我ら臣下は、陛下の御身を案じております。そのような『色のない不吉な娘』を側に置けば、陛下の尊き魔力が濁り、帝国の威信に傷がつくかと。今すぐその娘を追い出し、相応の処遇を――」


 言いかけた伯爵の言葉が、物理的な衝撃となって止まった。


 レオンハルトから放たれた、凄まじい「漆黒」の殺気。

 空気が数倍にも重くなり、謁見の間の石床がミシミシと悲鳴を上げる。


「……私の隣に立つ者を、誰が測ってよいと言った?」


 レオンハルトの声は低く、凍てつくように冷たい。

 彼はエルセの肩を抱き寄せ、広間に集まった貴族たちを、獲物を屠る獣の瞳で一掃した。


「貴公らの濁った眼には、この光が見えぬのか。エルセは、暴走し続けていた私の魔力を鎮め、帝国に安らぎをもたらす唯一の存在だ。彼女こそが、我がアイゼンシュタット帝国の『原初のプリズム』なのだぞ」


 レオンハルトがエルセの手に、自らの魔力を流し込んだ。

 次の瞬間。


 エルセの「無色」が、陛下の「漆黒」を吸い込み、眩いばかりの純白の輝きとなって溢れ出した。

 それは単なる光ではない。

 その場にいた者たちの魂に、得も言われぬ安らぎと、神聖な畏怖を感じさせる「至高の浄化」の輝き。


「あ、ああ……なんという光だ……」

「これが、無色の……? 嘘だ、まるで伝説の聖女のような……」


 さきほどまで嘲笑っていた貴族たちが、次々とその場に膝をつき、平伏していく。

 圧倒的な格の違い。

 エルセがただそこにいるだけで、帝国の重苦しい魔力は澄み渡り、銀の燭台がより一層輝きを増した。


「よく聞きなさい。今日この時より、エルセを蔑むことは、この私を、そして帝国そのものを否定することと見なす。彼女の髪一筋にでも触れようとする不届き者がいれば、一族郎党、私の黒炎で焼き尽くしてくれる」


 レオンハルトは、呆然とするエルセに向き直ると、臣下たちの前で深く、恭しく跪いた。

 皇帝が、一人の少女に膝を折る。

 それは帝国の歴史上、一度もなかった「屈服」であり「求愛」だった。


「エルセ。お前を『泥人形』と呼び捨てた愚か者たちの声を、私がすべて、この地から消し去ろう。今日からお前は、帝国最高の宝だ。……お前を、私の皇妃として迎える準備を始めさせよう」


「陛下……っ」


 エルセの瞳から、一筋の美しい涙がこぼれ落ちる。

 それをレオンハルトは、指先で慈しむように掬い取った。


 その頃、ソラリア王国。

 第一王子ジュリアンの髪からは、もはや「金色の輝き」は失われていた。

 ドブ川のような茶色に濁った魔力を必死に隠しながら、彼は叫んでいた。


「なぜだ! なぜ王宮の花がすべて枯れる! ミエル、お前の『虹色の魔力』はどうした! 早く浄化しろ!」

「……できませぇん! エルセ様がいないと、私の力が……、私の色が、消えちゃう……っ!!」


 王国を支えていた「真実の光」を失った代償は、今、確実に彼らの首を絞め始めていた――。

いかがでしたか? 第6話。

「無色」という個性そのものが、実は皇帝の闇を救う最強の力だった。

それを証明し、跪かせる。これぞ王道の逆転劇ですわね!


特に、レオンハルト様が「一族郎党焼き尽くす」と宣言するシーン……。

彼の「重すぎる愛」が、公の場で炸裂する瞬間は、書いていても背筋がゾクゾクいたしました。


「陛下、もっと言ってやって!」「王国側の自業自得っぷりが心地いい!」

そんな風にスカッとしていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。


次は第7話。

皇帝の独走に待ったをかける(?)、最強の義姉・シルヴィア様の登場です!

エルセ、さらに磨き上げられること間違いなしですわ。お楽しみに!

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