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第5話:氷の皇帝の、熱すぎる執着

アイゼンシュタット帝国の夜は、深く、そしてあまりに静かだった。


 豪奢な天蓋ベッドに横たわっていたエルセは、ふと、心臓を直接掴まれるような「冷気」を感じて目を覚ました。

 それは気温の低さではない。魂を凍えさせるような、圧倒的な「死の魔力」の波動。


(……この気配、まさか陛下!?)


 隣の執務室から漏れ出してくるのは、視界を遮るほどの漆黒の霧。

 エルセは不安に駆られ、まだおぼつかない足取りで隣室の扉を開けた。


「陛下……!?」


 そこにいたのは、苦悶に顔を歪め、机に突っ伏したレオンハルトだった。

 彼の周囲では、黒い稲妻のような魔力が荒れ狂い、最高級の木材で作られた机がミリミリと音を立てて砕け始めている。触れるものすべてを破壊する、彼の「漆黒」の魔力が暴走していた。


「くる……な……っ! 下がれ、エルセ!」


 レオンハルトが掠れた声で叫ぶ。

 その瞳は赤く血走り、近づくものすべてを消し飛ばそうとする獣のようだ。


「壊してしまう……。私の魔力は、お前のような柔らかな存在を、一瞬で塵に変えてしまうのだ……!」


 自分を捨てた王国の人々は、エルセを「気味が悪い」と遠ざけた。

 だが今、目の前にいるこの男は、自分が壊れることではなく、エルセを傷つけることを何よりも恐れて絶叫している。


 その優しさに、エルセの胸が熱く震えた。


「――いいえ。壊させません。私が、陛下の『凪』になります」


 エルセは躊躇うことなく、黒い稲妻が渦巻く中へと飛び込んだ。

 本来なら触れた瞬間に肉体が崩壊するはずの衝撃。

 だが、エルセがレオンハルトの背中にそっと手を添えた瞬間――。


 シュアッ、と。

 雪が水に溶けるような、清涼な音が響いた。


 エルセの体内から溢れ出した「無色」の魔力が、レオンハルトの「漆黒」を包み込んでいく。

 暴虐な黒は、透明な光に触れた途端、まるで牙を抜かれた子猫のように大人しくなり、やがて真珠のような穏やかな輝きへと姿を変えた。


「……ぁ……っ」


 レオンハルトの荒い呼吸が、徐々に整っていく。

 彼は信じられないものを見るかのように、自分の手を見つめ、それから自分を抱きしめているエルセを振り返った。


「お前は……なぜ。私の魔力に触れて、無事なはずが……」


「私は『浄化』の娘ですから。どんなに深い闇も、私の『色』がすべて引き受けます。……ですから陛下、もう怖がらないでください。私は、壊れたりしません」


 エルセが微笑むと、レオンハルトの瞳に溜まっていた緊張の糸が、ぷつりと切れた。

 彼は力任せにエルセを抱き寄せ、その細い腰を折れんばかりに抱きしめた。


「ああ……ああ、エルセ……! やはり、お前だったのだ。私の唯一の、つがいは」


 先ほどまでの破壊神のような面影はない。

 そこにあるのは、凍えた旅人が唯一の焚き火にしがみつくような、切実で狂おしい執着。

 レオンハルトはエルセの首筋に顔を埋め、深く、その香りを吸い込んだ。


「離さない。……例え神が許しても、私がお前を離さない。お前のこの浄化の光は、私の暗闇こころを満たすために存在しているのだ」


 彼の熱い吐息が肌を擽る。

 レオンハルトは、エルセの震える指先を一本ずつ、丁寧に、そして独占欲を誇示するように唇で封じていった。


「お前なしでは、私はもはや、己を保つことすらできぬ。……エルセ、私に誓え。一生、私の隣で、私の闇を飼い慣らすと」


 それはプロポーズよりも重く、救済よりも強固な束縛。

 

「……はい、陛下。私が……私こそが、あなたのおそばにいたいのです」


 エルセが答えると、レオンハルトは満足げに、だがどこか獣のような妖しい笑みを浮かべた。

 

 その夜、帝国の重臣たちは目撃した。

 いつもは冷徹そのもので、誰も近寄らせなかった皇帝が、一人の少女を膝の上に抱き、子供をあやすような慈しみと、獲物を食らうような欲望の入り混じった瞳で、一晩中彼女を見守っていたことを。


 一方で、ソラリア王国。

 エルセが浄化を止めた影響は、ついに隠しきれないレベルに達していた。

 

「殿下、大変です! 王宮の魔力貯蔵庫の『色』が、すべて泥水のように濁っております!」

「なんだと!? ミエルはどうした! あいつの『虹色の魔力』で浄化させればいいだろう!」


 ジュリアン王子の叫び。

 だが、隣にいるミエルの顔は、恐怖で青ざめていた。

 エルセという「毒素を吸い取ってくれるフィルター」を失った彼女の偽りの魔力は、自分自身の醜い欲望に反応し、どす黒く変色し始めていたのだ――。

レオンハルト陛下の「弱み」と、エルセの「強み」が完璧に噛み合った第5話!

自分の闇を鎮めてくれる唯一の存在に対して、皇帝の愛がさらに「重く」なっていくのを感じていただけましたか?


「陛下、もっと甘えてもいいんですよ!」「王国側の焦りっぷりが最高!」

そんな風にスカッとした、あるいはキュンとしていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。


次は第6話。

皇帝陛下が、ついに「帝国の至宝」としてのエルセを公表します。

そこでの「圧倒的な格差」を見せつけるシーン、どうぞお楽しみに!

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