第49話:【大逆転】至高の宝石、天の玉座を蹴り砕く
新帝国の夜空は、深淵の藍色と、燃えるような虹色の光に染まっていた。
かつて世界を縛っていた「神の座」があった場所。
レオンハルトは、空中に浮かぶ無機質な黄金の玉座を、一瞥するなり虚無の剣で粉々に砕いた。
「……陛下、よろしいのですか? あれは、世界を統べる者の象徴ですのに」
エルセが、レオンハルトの漆黒の正装に手を添え、不思議そうに首を傾げた。
彼女の瞳には、夜空の星々さえも嫉妬するような、極彩色の輝きが宿っている。
「象徴など不要だ。……冷たく、硬いだけの椅子に腰掛けて、お前との距離が数寸でも開くくらいなら、私は一生立ち続けていた方がマシだ」
レオンハルトは、砕けた黄金の破片を足蹴にすると、そのままエルセを抱き上げ、新しく創造された「星降るバルコニー」の縁へと腰を下ろした。
彼はエルセを自身の膝の上に座らせ、背後からその細い腰を、独占欲のままに強く抱きしめる。
エルセの背に、陛下の熱い胸板と、心臓の力強い鼓動が伝わってきた。
「見ていろ、エルセ。……お前に、新世界で最初の『名前』を贈る」
レオンハルトが夜空を指差すと、漆黒の空に無数の光の糸が走り出した。
それは、あなたが名付けた星座。
**『真珠を抱く胡蝶』**。
泥を脱ぎ捨て、美しく羽ばたいた胡蝶を、巨大な光の真珠が優しく、永遠に包み込むような形。
「……あ……なんて、美しい……。まるで、あの日、陛下に拾っていただいた時の私と、陛下のようですわ」
「そうだ。……お前は私の真珠の中に閉じ込められ、私はお前の羽の煌めきに目を焼かれる。……この星座が輝く限り、この世界の民は、誰が真の主であるかを思い知ることになるだろう」
レオンハルトの声は、蕩けるような甘さと、隠しきれない独占欲で震えていた。
彼は、エルセの胸元で輝く『零の脈動』を指先でなぞり、そのまま彼女の白い鎖骨に熱い舌を這わせる。
「……っ、陛下……。身体が、熱くなって……」
「熱くなればいい。……お前が結晶になっていた間の、失われた体温を、一晩かけてすべて取り戻してやる。……一分、一秒、お前の肌から私の熱が消えることを、私は自分に許さん」
レオンハルトは、エルセの耳朶を甘く噛み、彼女を自身のマントの闇の中へと誘い込んだ。
かつて「泥人形」として捨てられた少女。
今、彼女の瞳に映っているのは、崩壊した実家の慟哭でも、世界の不条理でもない。
自分を世界で一番価値のある宝石として扱い、そのために世界そのものを塗り替えてしまった、最愛の魔王の情熱だけ。
「……エルセ。お前は私のものだ。……魂の最後の一片まで、お前のすべてを私が食らい尽くしてやろう」
「はい、陛下。……私も、貴方の色彩なしでは、もう生きていけませんわ」
二人の唇が重なる。
その瞬間、世界中の虹色の薔薇が一斉に花開き、甘い香気が大気を満たした。
天の玉座を蹴り砕き、二人は「愛」という名の新しい理を打ち立てたのだ。
この夜、新帝国における最初の一歩は、歴史書に記されるような統治の宣言ではなく、ただ一組の神となった恋人たちの、甘く、どこまでも重い誓いの口付けであった。
第49話、お読みいただきありがとうございます。
ついに「天の玉座」さえも破壊し、エルセ様を自身の膝に抱き上げた陛下……!
これこそが、私の描きたかった「格差逆転」の完成形ですわ。
誰が定めたわけでもない、お二人だけの特別な星座『真珠を抱く胡蝶』の下で、世界で一番甘い夜が更けていきます。
泥人形だった少女が、今や神殺しの魔王を膝下に従える女神に。
このカタルシスを、皆様と共に味わえることが、作家として最大の喜びです。
「陛下、玉座を壊してエルセ様を座らせるなんて……天才の溺愛ですわ!」「星座の名前が素敵すぎて涙が……」
そんな風に、お二人の門出を祝っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いいたします!
皆様の評価が、新世界の夜空に輝く「愛の灯火」となりますわ。
次回、第50話。
『神婚の果てに、あるいは新世界の胎動』。
ついに第4章が完結!
幸せの絶頂の後、二人が築き上げた新帝国の「その後」と、次なる章へのプロローグをお届けします。
どうぞ、お楽しみに。




