第48話:魔王妃の戴冠、あるいは絶望への招待状
白き虚無の底。
かつて「アラバスター公爵領」と呼ばれた地は、今や色の剥げ落ちた死の都と化していた。
その瓦礫の山に、震える影が二つ。
エルセの父、アラバスター公爵と、かつて彼女を婚約破棄した王国の第一王子、ジュリアンの「残滓」である。
彼らは、自分たちからすべてを奪った『白化現象』に怯え、泥を啜って生を繋いでいた。
「……ああ、神よ。……なぜ、私のような高貴な者が、このような目に……」
公爵が天を呪った、その時だった。
キィィィィィィィィン――!!
突如として、死んだ空気が「音楽」へと変わった。
天空から降り注いだのは、漆黒の羽と、虹色の薔薇の花弁。
そして、暗雲を切り裂いて降臨したのは、黄金の馬車でも、天使の軍勢でもない。
二人の「現人神」を乗せた、漆黒の龍が引く虚空の御座であった。
「……なんだ……、あの輝きは……! 目が、目が潰れる……っ!」
公爵が悲鳴を上げて地面に這いつくばる。
その目の前に、一足の、黒銀の糸で編まれた美しい靴が降り立った。
公爵がおそるおそる顔を上げると、そこには――この世のあらゆる贅を尽くしても描ききれないほど、神々しい女性が立っていた。
黒銀のシルクが夜の海のようにうねり、虹色の魔力がオーロラとなって彼女の背後でたなびいている。
そしてその胸元、あなたが名付けた『零の脈動』が、世界の鼓動を刻むように冷たく、激しく発光していた。
「……お父様。……いいえ、アラバスター公爵。……お久しぶりですわ」
鈴の音のような、だが冷徹なまでの静寂を纏った声。
「……え、る……せ……? お前、エルセなのか……!? あの、役立たずの泥人形が……なぜ、そのような姿に……っ!」
公爵の叫びに、横に控えていたレオンハルトの眉が、ピクリと動いた。
ドォォォォォォォォォンッ!!
レオンハルトが放った威圧だけで、公爵の周囲の地面が数メートル陥没した。
「――言葉を慎め、塵。……貴公が今、その薄汚い瞳で映しているお方は、アイゼンシュタット帝国の唯一無二の神妃であり、この新世界の理そのものであるぞ」
漆黒の正装に身を包んだレオンハルトが、エルセの腰を当然のように引き寄せ、公爵を冷酷に見下ろした。
「陛下……。もう、よろしいのです。……この方たちには、私の声さえ届かない方が、お似合いですわ」
エルセは、もはや怒りさえ抱いていなかった。
彼女の虹色の瞳に映っているのは、目の前の醜い老人ではなく、これから陛下と二人で描く「新世界の地図」だけ。
「……わ、私の……私の娘だ! そうだ、エルセ! 私はお前を愛していた! すべては、お前を強くするための試練だったのだ! さあ、私を……この公爵家を、元の繁栄に戻してくれ!」
公爵が汚い手でエルセの裾に触れようとする。
だが、その指が彼女の魔力障壁に触れた瞬間、パキリ、と。
公爵の右手が、美しい「虹色の結晶」へと変わり、感覚を失った。
「……あ、あ、あああああああッ!? 私の、私の手が……!」
「お前には、それがお似合いだ。……価値あるものを捨て、ゴミを拾い続けたその手は、これからはただの『石』として、自分の愚かさを噛みしめるがいい」
レオンハルトが冷たく言い放つ。
エルセは一度だけ、遠くで壊れた人形のように笑っているジュリアンの残骸に視線を送り、そして、静かに背を向けた。
「……さようなら。……私に、絶望という名の『自由』をくださった、過去の皆様」
エルセが指を鳴らすと、かつてのアラバスター公爵領は、二人の魔力によって「永遠の氷壁」へと封印された。
彼らは死ぬことも許されず、ただ「手が届かない場所」で輝き続けるエルセの光を、永遠に、極寒の中で見上げ続けることになる。
究極の「ざまぁ」――それは、復讐することではなく、相手を『存在しないもの』として切り捨て、自分たちだけが圧倒的な幸福の頂点へ登り詰めること。
「……行こう、エルセ。……お前に見せたい星空がある。……私と、お前のためだけに作り直した、最高の夜だ」
「はい、陛下。……どこまでも、貴方の色彩に染めてくださいませ」
二人は漆黒の龍に乗り、絶望の地を後にした。
背後で聞こえる、かつての家族たちの虚しい慟哭を、夜風が甘くかき消していった。
第48話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに実家との完全決着……!
「助けてくれ」と縋る父親を、言葉ではなく「結晶化」という圧倒的な格差で黙らせる陛下と、もはや興味さえ失ったエルセ様。
これぞ、西園寺ミオがお届けしたかった、究極の「格差逆転」ですわ。
捨てられた泥人形は、今や触れるだけで世界を石に変える、気高き魔王妃。
彼女が手に入れた『零の脈動』が、新世界の夜を美しく照らします。
「公爵の末路、ざまぁすぎてスカッとしました!」「陛下の『塵』呼ばわりが最高……w」
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皆様の評価が、新世界の夜空に輝く「愛の星」となりますわ。
次回、第49話。
『【大逆転】至高の宝石、天の玉座を蹴り砕く』。
いよいよ、疑似完結へのカウントダウン。
二人が向かうのは、世界で一番甘く、そして誰にも邪魔されない「神の初夜」。
どうぞ、お楽しみに。




