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泥人形と呼ばれた令嬢、隣国の冷徹皇帝に「世界の至宝」として攫われる ~「無能」と捨てられた私が、実は世界を守る唯一の浄化術師だった件。~  作者: 西園寺ミオ


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第46話:箱舟の目覚め、あるいは魔王の拒絶

地鳴りは、帝都の地下深く、世界の「核」から響き渡った。


 月光に照らされた皇城の中央庭園。そこから突如として噴き出したのは、溶岩でも、魔力の奔流でもなかった。

 それは、見る者の視界を白濁させるほどに眩い、黄金の『樹』。


 一瞬にして天を突き、雲を突き抜け、その枝葉は帝都全域を優しく、そして不気味に覆い尽くしていく。木の皮は磨き上げられた象牙のように滑らかで、葉の一枚一枚が星屑を閉じ込めたエメラルドのように煌めいていた。


「……始まったのね。世界が、エルセという器を使い果たそうとしている」


 バルコニーに駆け出したシルヴィアが、蒼白な顔で空を見上げる。

 だが、その樹の真下――最も巨大な根がのたうつ中心地で、レオンハルトは、震えるエルセの肩を片腕で抱き寄せ、もう片方の手で虚無の剣を抜き放っていた。


「陛下……っ。感じますわ。……この樹は、私に『すべてを差し出せ』と言っています。……貴方の鼓動を、貴方の未来を、私の内側へ閉じ込めろと……!」


 エルセの虹色の瞳が、黄金の樹と共鳴するように発光する。

 樹の根元から、血管のように脈打つ光の触手が伸び、レオンハルトの足元へとしなやかに這い寄ってきた。それは、彼という「最高の供物」を迎え入れようとする、世界の執念。


「フン……。美しいが、趣味が悪い。私の命を糧にして、お前を孤独な箱舟に仕立て上げようというのか」


 レオンハルトは、這い寄る光の根を、剣の一振りで粉々に粉砕した。

 黒い火花が散り、黄金の樹が「悲鳴」のような耳鳴りを響かせる。


『――ルールを……遵守せよ。……王よ……その身を捧げ……色彩を……次なる宇宙へ……』


 樹のざわめきが、無数の人間の囁きとなって降り注ぐ。

 だが、レオンハルトは、鼻で笑ってその声を切り捨てた。


「遵守だと? 笑わせるな。……お前たちは勘違いしている。……私がこの女を愛したのは、世界を救うためでも、次の世代へ希望を繋ぐためでもない。……ただ、この女が私を必要とし、私がこの女のいない未来を認めないからだ」


 レオンハルトが剣を構え直し、黄金の樹の幹を真っ二つに断ち斬ろうとした瞬間。

 今度は、エルセがその前に立ちはだかった。


「……エルセ、どけ。こんな忌々しい『船』など、私が根こそぎ薪にしてやる」


「いいえ、陛下。……斬るだけでは足りませんわ」


 エルセが、自身の虹色に輝く手を、黄金の幹へと直接押し当てた。

 彼女の指先から、陛下から与えられた「漆黒」の魔力が染み出し、聖なる樹を禍々しく侵食していく。


「お母様。……もし、私がこの世界を救う『箱舟』なのだとしたら。……この船に乗せる記憶は、私が自分で決めますわ。……神様の命令も、運命の脚本も、私のリストには入っていません」


 エルセの脳裏に、あの日、冷たい雨の中で陛下に拾われた夜の情景が浮かぶ。

 

 泥にまみれ、価値のない人形として捨てられた自分。

 その自分を、この人は「美しい」と言い、その熱い掌で私の頬を包み込んでくれた。

 世界が私を否定しても、この人だけが私を『個』として見つめてくれた。


「……私の箱舟に乗せるのは、あの日、陛下が私にくれた『温もり』……たったそれだけで十分です。……世界すべての色彩よりも、私にとっては、陛下の指先の一つの熱の方が大切なのですもの!」


 エルセの叫びに呼応し、黄金の樹がドス黒い漆黒に染まり変わっていく。

 

 簒奪。

 世界がエルセを利用しようとしたその力を、エルセが逆に「陛下との思い出を永遠に保存する檻」として奪い取ったのだ。

 

 黄金だった樹は、いまや漆黒のダイヤモンドのような輝きを放ち、帝都の夜を「闇の光」で照らし始めた。

 

「……素晴らしい。……それでこそ、私の選んだ神妃だ」


 レオンハルトは、運命にツバを吐きかけ、自分を守るように翼を広げたエルセを、背後から狂おしく抱きしめた。

 

 だが。

 漆黒に染まった樹の枝先で、パチン、と音がした。

 

 そこには、これまで陛下が失ってきたはずの「記憶」――エルセとの初めてのティータイム、初めての贈り物、それらの情景が、毒々しく輝く『黒い果実』となって実り始めていた。

 

「……レオンハルト。……君が捨てた『愛』が、熟しているよ。……それを口にすれば、君は記憶を取り戻すが……同時に、世界の崩壊を加速させる『鍵』となる。……さあ、どうする?」

 

 樹の陰から現れたのは、色彩を完全に失った、死神のような姿をした黄金の瞳の男。

 彼は、熟れた「記憶の果実」を一つもぎ取ると、それをレオンハルトの目の前に差し出した。

第46話をお読みいただき、ありがとうございます!

運命の「黄金の樹」さえも、自分たちの思い出を保存するための「道具」に変えてしまったエルセ様……。

まさに「愛ゆえの反抗」、これこそが私の描きたかった逆転の形ですわ!


ですが、敵はさらに残酷な誘惑を仕掛けてきました。

枝に実ったのは、陛下が失った「甘い記憶の果実」。

食べれば思い出せる。けれど食べれば世界(エルセの負担)が壊れる。

陛下は、その果実をどう扱うのでしょうか?


「エルセ様、かっこいい! 陛下を守る姿が尊すぎる……っ」「果実の誘惑、ひどい……でも陛下なら、握りつぶしそうw」

そんな風に二人の絆に熱狂していただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いいたします!

皆様の評価が、揺れる陛下の心を支える「確信」となりますわ。


次回、第47話。

『記憶の毒林檎、あるいは魔王の咀嚼』。

目の前の果実を、陛下は笑いながら……。

どうぞ、お楽しみに!

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