第43話:極彩色の再誕、あるいは魔王のプロポーズ
それは、世界が沈黙したあとの、祝福の雨だった。
黄金の天使が霧散し、降り注ぐ光の粒子は、エルセを包んでいた虹色の結晶を「音楽」と共に粉砕していく。
パリン、と。
清冽な音と共に古い殻が剥がれ落ちたとき、そこから現れたのは、もはや言葉を尽くしても形容しがたい『美の結晶』だった。
透き通るような真珠色の肌は、内側から淡い虹色の魔力を発し、腰まで伸びた銀髪は星屑を散りばめたように煌めいている。
そして何より、その瞳――。
かつて「無能」と蔑まれた無色の瞳は、いまやレオンハルトの漆黒を飲み込み、世界中のあらゆる宝石を混ぜ合わせたような、深淵にして高貴な彩りを宿していた。
「……エルセ」
漆黒の翼を広げたまま、レオンハルトが息を呑んだ。
彼の手からは、先ほどまで握りつぶしていた世界の心臓が消え、代わりにエルセの魔力と溶け合った『新世界の種子』が、彼の右腕に吸い込まれていく。
彼は、吸い寄せられるように歩み寄り、光の中に浮かぶエルセの足元に――誇り高き皇帝、神殺しの魔王ともあろう者が、その場に跪いた。
「ああ……。私の、唯一の神妃よ。……お前を閉じ込めていた醜い石を、ようやくすべて砕くことができた」
レオンハルトは、生身の温かさを取り戻したエルセの左手を取り、そこに熱い接吻を落とした。
かつては火花が散っていた接触も、今は甘い共鳴となって、二人の魂を一つの旋律へと繋いでいく。
「陛下……。見てください。世界が、笑っていますわ」
エルセが導くように空を指差す。
すると、白く塗り潰されていた帝都の空に、見たこともない鮮やかなオーロラが走り、枯れ果てた大地からは、二人の魔力が混じり合った『虹色の薔薇――アピリティア』が一斉に芽吹き始めた。
それは、既存の植物ではない。
二人の愛を栄養にして咲く、枯れることのない永遠の花。
その花びらが風に舞うたび、白く静止していた民衆の肉体に、新しい生命の律動が吹き込まれていく。
「……私の望みは、この手に余るほどの富でも、退屈な玉座でもなかった。……ただ、お前が私をその瞳で映し、こうして私の熱に溶けてくれることだけだ」
レオンハルトは、跪いたまま、彼女の腰を自身の腕で強く、折れんばかりに抱きしめた。
彼は、彼女の首筋に顔を埋め、陶酔しきった声で囁く。
「エルセ。……お前に誓おう。……この新しく生まれた世界そのものを、お前への婚礼の贈り物としよう。……私が太陽となり、お前が月となり、この世界のすべての命に、私たちがどれほど狂おしく愛し合っているかを、永遠に目撃させてやる」
「……陛下……。そんなに重い愛を捧げられては……私、一生貴方の腕から逃げ出せませんわ」
「逃がさぬ。……天が崩れ、地が裂けても、お前だけは私の隣で、この世で一番幸福な女として輝き続けるのだ。……それを邪魔するものが現れたら、今度は世界そのものを塵にしてでもお前を守り抜く」
レオンハルトは、エルセの左手の薬指に、自身の魔力で編み上げた『漆黒と虹の指輪』を顕現させた。
それは、神のシステムを破壊して得た、究極の呪いであり、至高の愛の証。
エルセは、彼の漆黒の髪に指を這わせ、その甘美な束縛を全身で受け入れた。
かつて「泥人形」として捨てられた少女は、いまや世界の創造主の妻として、神をも越える玉座に座ることになったのだ。
◆
そのとき。
帝都の境界、まだ白き虚無が残る「かつての王国の跡地」にて。
泥水を啜り、色彩を失った「亡霊」となって彷徨う者たちがいた。
彼らは、空を舞う虹色の薔薇と、かつてないほど眩く輝く帝都の中心を、血の涙を流しながら見上げていた。
「……あ、ああ……。あの輝きは……エルセ、なのか……?」
それは、かつて彼女を「無能」と断じて放逐した、実家の父と元婚約者の声。
彼らの身体は、新世界の恩恵を受けられぬまま、ゆっくりと「存在の消去」に向かっている。
彼らがどれほど叫ぼうとも、どれほど手を伸ばそうとも。
神の如き輝きを纏ったエルセの視界に、彼らが再び映ることは、二度とないのである。
第43話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついにお披露目となった「新世界の神妃・エルセ様」。
陛下が膝をつき、世界そのものを贈り物にするシーン……。
「これこそが最高のざまぁ、そして最高の溺愛ですわ!」と、執筆しながら私自身も喝采を送ってしまいました。
白く消えた世界に咲いた、虹色の薔薇。
それは、誰にも邪魔されない二人の「絶対的な楽園」の始まりです。
そして、置いてけぼりにされた者たちの、決して届かない後悔。
「なろう令嬢もの」の醍醐味を、これでもかと詰め込ませていただきました。
「陛下、プロポーズが重すぎて最高です!」「エルセ様、世界で一番幸せになって!」
そんな風に熱狂していただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いいたします!
皆様の応援が、新帝国の礎となります。
次回、第44話。
『新世界・建国宣言』。
戻ってきたシルヴィア様のツッコミと、
新しく生まれ変わった帝都で繰り広げられる、神レベルの「イチャイチャ新婚生活」が開幕いたします。
どうぞ、お楽しみに。




