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泥人形と呼ばれた令嬢、隣国の冷徹皇帝に「世界の至宝」として攫われる ~「無能」と捨てられた私が、実は世界を守る唯一の浄化術師だった件。~  作者: 西園寺ミオ


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第32話:神の降臨、あるいは新世界の揺籃

空が燃えていた。

 

 神域の崩壊によって飛び散った黄金の破片が、流星群となってアイゼンシュタット帝国の夜空を切り裂いている。帝都の民は、それが世界の終わりだと信じて地面に伏せ、あるいは神に許しを乞うていた。

 

 だが、その流星群の真ん中で、最も眩しく輝く「一つ」だけは、破壊の炎を纏ってはいなかった。


「……陛下、見てください。私たちが、戻ってきましたわ」


 大気圏を切り裂く轟音の中で、エルセはレオンハルトの首に腕を回した。

 猛烈な風圧さえも、今の二人の肌を傷つけることはできない。レオンハルトの漆黒の翼が、エルセを包み込むように広がり、摩擦熱を真珠色の光へと濾過していく。


「ああ。……不愉快な光は消えた。これからは、私とお前がこの空の主だ」


 レオンハルトの右腕――黒い宝石の鱗に覆われたその腕が、エルセの腰をさらに強く引き寄せる。

 

 二人は真っ逆さまに、皇城の広大なバルコニーへと着弾した。

 

 ドォォォォォンッ!!

 

 凄まじい衝撃波が走り、大理石の床に巨大な亀裂が入る。

 騎士たちが、そしてシルヴィア皇女が、爆煙を避けるように顔を覆った。

 

 だが、その煙が晴れた瞬間に広がったのは、死の情景ではなかった。

 

 割れた床の隙間から、見たこともないほど巨大で美しい白百合が次々と芽吹き、一瞬にしてバルコニーを「花の海」へと変えていたのだ。その花びらからは、嗅ぐだけで魂の傷が癒えるような、芳醇な香りが立ち昇っている。

 

「……レオン? エルセなの……?」

 

 シルヴィアが、恐る恐る目を開けた。

 

 そこには、立ち上がる二人のシルエット。

 レオンハルトの背後でたなびく漆黒の翼は、実体を持たない影のようでいて、夜そのものを物理的に切り取ったような圧倒的な存在感を放っている。

 そしてその隣で微笑むエルセは――その目尻から耳にかけて、虹色の鱗をダイヤモンドのように輝かせていた。

 

「……お姉様。ただいま戻りましたわ」

 

 エルセが声を出す。

 その声は、もはや単なる振動ではなかった。

 甘い旋律となって空間を揺らし、その場に跪いていた騎士たちの古い傷跡や、シルヴィアの慢性的な頭痛を、瞬時に「消去クリア」してしまった。

 

「あ……ああ……」

 

 誰かが声を漏らした。

 それは歓喜ではなく、圧倒的な「格差」に対する畏怖。

 二人は、もはや人間としての感情を共有できる存在ではない。

 

 見上げるレオンハルトの瞳は、紫水晶の奥に無数の星が渦巻く銀河を宿し、冷徹ささえも通り越した「絶対的な支配者」の光を帯びていた。


「通達せよ。神は死んだ。……今日より、アイゼンシュタット帝国は、私とお前の愛がことわりを定める『新世界』となる」


 レオンハルトの宣言が帝都中に響き渡る。

 その言葉と同時に、帝都の街路樹が一斉に季節外れの花を咲かせ、枯れていた噴水から浄化された真水が噴き出した。

 

 ……凱旋パレードなど、もはや不要だった。

 二人がそこに「在る」だけで、世界が書き換えられていくのだから。


   ◆


 深い夜。

 再構築されたばかりの皇帝の私室。

 

 レオンハルトは、窓際のソファにエルセを座らせ、その膝元に自ら跪いていた。

 彼は、エルセの虹色の鱗に覆われた頬を、自身の黒い鱗の指先で愛おしそうに撫でる。

 

「……疲れたか、私の神妃」


「いいえ、陛下。……ただ、少しだけ困ってしまいましたわ。私が何かを『欲しい』と思うだけで、勝手に窓の外に花が咲いたり、お茶が最高の温度で沸いたりしてしまって……」


「フッ。……お前の望みは、世界の望みだ。当然だろう」


 レオンハルトが、彼女の手に接吻を落とそうとする。

 だが、彼の唇が彼女の指先に触れようとしたその瞬間、パチリ、と青白い火花が散った。

 

 二人の強大すぎる魔力が、物理的に「干渉」し合ったのだ。

 レオンハルトの漆黒が、エルセの無色の光に触れただけで、周囲の空気がプラズマ化し、ソファの肘掛けが飴細工のように溶け始めた。


「……陛下……っ。これでは、まともに触れ合うことも……」


 エルセが悲しげに瞳を伏せる。

 神殺しの代償。二人の魂が融合し、強くなりすぎた結果、この「物理的な世界うつしよ」が二人の熱量に耐えられなくなっていた。

 

 愛し合っているのに、ただの口付けひとつで、周囲の城が消滅しかねないという究極の不自由。

 

 レオンハルトは、苦笑しながらも、その瞳に執着の炎を灯した。


「案ずるな。……ならば、お前と私が心置きなく愛し合えるように、この世界を『より頑丈に』作り直せばいいだけのことだ。……お前の指一本にさえ触れられぬ世界など、私にとってはゴミ溜めと同じだからな」


 レオンハルトは、魔力の反発を強引に漆黒でねじ伏せながら、エルセの指を、骨が鳴るほど強く握りしめた。

 

 神となった二人の、世界を巻き込んだ「贅沢すぎる蜜月」が、ここから始まる。

 

 一方その頃。

 帝都の遥か地下、かつて聖教国が封印した『虚無の回廊』で。

 

 金の鍵を失ったあの男が、ボロボロになりながら、ある「石板」に手を触れていた。

 

「……あはは……。神を殺して、自分たちが神になったつもりかい? ……でも、おめでとう。君たちが『愛し合う』たびに、世界の均衡は崩れ、本当の『終焉』へのカウントダウンが早まるんだよ……」

 

 男の背後から、無数の「影」が這い出してくる。

 それは神ですら制御できなかった、世界の「消しカス」たちの復讐劇の始まりだった。

第32話をお読みいただき、ありがとうございます!

第4章の開幕……いかがでしたでしょうか。

神を殺して最強になった結果、「愛し合うだけで世界が壊れかける」という、陛下にとってはこれ以上ない拷問のような、読者の皆様にとっては最高に「尊い」状況を描かせていただきましたわ。


人外としての美しさを手に入れたお二人。

もはや誰も逆らえない無双状態ですが、その愛の強さそのものが、新たな危機を招くことに……。


「陛下、触れたいのに火花が散るなんて萌える!」「エルセ様、もう神々しすぎて直視できない……」

そんな熱い感想をいただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いいたします!

皆様の応援が、世界を壊さないための二人の「理性」の楔となります。


次回、第33話。

二人の力を中和するための「ある儀式」の提案。

シルヴィア皇女が、またしても(苦労しながら)立ち上がります!

どうぞ、お楽しみに。

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