表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

第31話:玉座破砕、あるいは愛という名の簒奪

「――っ、ぁ、あああああああッ!!」


 エルセの胸の奥で、甲高い劈裂音が響いた。

 純白の輝きを放っていた『原初のプリズム』に、無慈悲な亀裂が走る。神が求める「天への回帰」と、レオンハルトが離さない「地への固執」。その正反対の巨大な力が、エルセという一人の少女を内側から引き裂こうとしていた。


 彼女の指先が、再び淡く透け始める。

 だが、その透明な輪郭には、レオンハルトの黒い鱗の右腕が、食い込むほどの強さで絡みついていた。


「離さん……! 離してなるものか! 世界が平穏を望もうと、神が秩序を語ろうと、そんなものは知ったことではない! エルセがいない世界に、守るべき価値など一欠片も存在せん!」


『愚かな。漆黒の王よ。お前が掴んでいるのは、ただの泥の殻だ。魂はすでに、こちらへ流れている』


 玉座に座る「神」――無数の眼球が蠢く光の塊が、冷酷な波動を放つ。

 神の瞳の一つがレオンハルトを捉えた瞬間、彼の身体に「消去」の圧力がかかった。右腕の黒い鱗が、ピキピキと音を立てて剥がれ落ち、そこから鮮血が噴き出す。


「陛下……っ、離して! このままでは、あなたまで消えてしまいますわ!」


「黙っていろと言っている! お前は、私の腕の中で大人しく愛されていればいいんだ!」


 レオンハルトは、血に塗れた右腕をさらに変異させた。

 鱗の隙間からどす黒い魔力を噴出させ、割れゆくエルセのプリズムの「亀裂」の中へと、自分の魂ごと漆黒を叩き込んだ。


 それは、補修ではない。侵食だ。

 神が所有権を主張する神聖な宝石を、自分の汚れた愛で塗りつぶし、物理的に「自分の持ち物」へと作り替える暴挙。


『……っ!? 何を……その娘の核に、人間の汚濁を流し込むというのか! 狂っている!』


 神の波動に、初めて「動揺」が混じった。

 

 レオンハルトが注ぎ込む漆黒の魔力は、エルセの割れたプリズムを繋ぎ止める糊となり、同時に、その中に眠る神の権能を「黒く」染めていく。

 

 エルセの瞳から、虹色の涙がこぼれ落ちた。

 

(……ああ。陛下。……あなたが私を、こんなにも……狂おしいほどに求めてくださる)

 

 エルセの心の中にあった「神への恐怖」が、レオンハルトの圧倒的な独占欲に塗りつぶされていく。

 彼女は、自分を天へと引き上げる光の糸を、自らの意志で断ち切った。

 

「……お父様。お母様。……そして、名もなき神様。……私は、あなたの部品ではありません」

 

 エルセの背中から、真珠色の翼が広がる。

 だが、その翼にはレオンハルトの漆黒が脈のように走り、神聖でありながら、禍々しい「反逆の色彩」を放っていた。

 

「私は……この方の隣で、幸せに溺れる『エルセ』という一人の女ですわ。……私の光を、世界のために使いたいなら……まずは、私を愛するこの方を、跪かせてみることです!」


 エルセが、割れたプリズムを自らの手で握りつぶした。

 

 パリンッ、という絶望的な音と共に、彼女の身体から「神を喰らう闇」が溢れ出した。

 それはレオンハルトの漆黒を糧に、神の純白を食い荒らす、新たな理。


「行こう、エルセ。……神の座など、我ら二人の蜜月の邪魔だ」


「はい、陛下……。――さようなら、無情な世界」


 二人の魔力が完全に同期し、一つの巨大な「黒銀の龍」となって神の玉座へ突撃した。

 

 神の放つ「絶対消去」の光を、レオンハルトの右腕が真正面から掴み、握りつぶす。

 エルセの翼が、神の視界を真っ白な虚無で覆い尽くす。


 ドォォォォォォォォォンッ!!


 黄金の門が、そしてその奥にある無数の眼球が、二人の絶叫に近い愛の奔流に飲み込まれた。

 玉座は粉々に砕け散り、神聖だった回廊は、レオンハルトの漆黒とエルセの光が混ざり合った「カオスの海」へと沈んでいく。


『……あ……ああ……。人間……ごとき……愛……などという……バグ……が……』


 神の断末魔が響き、黄金の都が崩壊を始めた。

 

 落下していく瓦礫の中で、レオンハルトはエルセを、世界で一番大切な宝物を抱きしめるようにして確保した。

 エルセの身体は、もう透けていない。

 陛下の漆黒で塗りつぶされた彼女の肉体は、重く、確かな体温を持って、彼の胸に寄り添っていた。


「……勝ったぞ、エルセ。神は死んだ。……これでお前を縛るものは、私の腕以外に何もない」


「陛下……っ。愛しております。……私を、地獄まで連れていってくださって、ありがとう……」


 二人は、崩れゆく神域から、遥か下方の帝都へと向かって、真っ逆さまに落ちていく。

 

 その背後で。

 金の鍵を持つ男が、砕け散った神の眼球の一つを拾い上げ、狂喜に満ちた声を上げていた。

 

「ああ……素晴らしい! 『神殺し』の完成だ! ……レオンハルト皇帝、エルセ。君たちは今、神を殺し、その力をその身に宿した。……それは、この世界に『新たな神』が二人誕生したことを意味するんだよ」

 

 男の瞳が、黄金色に輝く。

 

「……さあ、始めようか。人間を辞めた二人の、世界を蹂躙する『真の神婚』を」

 

 第3章、完結。

 だがそれは、二人が「人として」生きる道を永遠に失ったことを意味していた。

第3章『神域の揺り籠編』、完結いたしました!

神の玉座を物理的に粉砕し、エルセ様を「自分のもの」として完全に簒奪した陛下……。

これほどまでに清々しく、そして狂気に満ちたハッピーエンドが他にあるでしょうか!


「神を殴り飛ばす陛下、最高!」「エルセ様が陛下の色に染まっていくのが堪らない……っ」

そんな熱狂を届けてくださった皆様に、心からの感謝を。

二人の絆は、もはや世界の理さえも寄せ付けないほどに強固なものとなりました。


ですが、敵の男が不穏な言葉を残しました。

「人間を辞めた二人の神婚」。

人としての限界を超えてしまった二人が、再び帝都に戻った時、世界は彼らをどう受け止めるのか?

そして、エルセ様の身体に起きる「究極の変化」とは……。


もしこの先の『第4章:終焉の神婚編』も読み届けてくださるなら、

ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】で、二人の新たな門出を祝福してください!

皆様の応援が、神をも恐れぬ二人の愛の糧となります。


次回、第32話より新章開幕。

人外となった二人が、帝都に「真の楽園」を築き始める、さらなる溺愛の極地へ。

どうぞ、お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ