第18話:色彩の戴冠、あるいは神殺しの接吻
「――さあ、還るのだ! 世界の心臓よ、祭壇の炎にその身を捧げ、永遠の浄化となれ!」
聖教国の最奥、天を突くような『降臨の祭壇』。
大司教バルドが狂ったように叫び、古代の魔導回路を起動させる。床に刻まれた幾何学模様が不吉な黄金色に発光し、エルセの足元から彼女の魔力を強引に吸い上げようと牙を剥いた。
エルセの全身を、見えない鎖のような光が縛り上げる。
だが、その鎖が彼女の肌を焼くよりも早く――。
ドォォォォンッ!!
凄まじい轟音と共に、大聖堂の分厚い壁が「漆黒の炎」によって内側から爆散した。
「……私の目の前で、誰を焼くと言った? 塵め」
煙の中から現れたのは、もはや人の域を超えた殺気を纏ったレオンハルトだった。
彼は飛来する聖教国の魔術を片手で握り潰し、一歩踏み出すごとに祭壇の石材を粉々に砕いていく。その背後には、彼を主と仰ぐ黒鉄騎兵団が、白亜の都を黒く塗りつぶすように雪崩れ込んできた。
「レオンハルト……貴公、本当に世界を敵に回すか!」
「世界だと? 笑わせるな。エルセを泣かせる神など、この私がいらぬ。……エルセ、こっちへ来い。お前の居場所は、そんな冷たい石の上ではない」
レオンハルトが右手を差し出す。
黄金の光に拘束され、苦痛に顔を歪めていたエルセだったが、彼の姿を見た瞬間、その透明な瞳に「決意」の火が灯った。
(……私は、道具じゃない。私は、陛下の隣で笑いたい一人の女ですわ!)
その刹那、エルセの胸元で『原初のプリズム』が、太陽さえも色褪せるほどの純白の輝きを放った。
キィィィィィィィンッ!
聖なる鎖が、まるでガラス細工のように脆く砕け散る。
吸い上げられようとしていた彼女の魔力は、逆流して祭壇そのものを飲み込んだ。黄金の光は一瞬にして「無色」へと書き換えられ、大司教たちが守り続けてきた『神の結界』が、音を立てて崩壊していく。
「な……馬鹿な……! 神の理が、一人の娘の感情に屈したというのか!?」
「神の理ではない。――これが『愛』だ」
レオンハルトは宙を舞うようにエルセを抱き上げると、着地と同時に、ひれ伏す大司教の目の前で彼女の唇を深く、奪うように塞いだ。
二人の魔力が、完璧に混ざり合う。
漆黒の闇が白銀の光を抱き、白銀の光が漆黒の闇を浄化する。
その共鳴から生まれた「真実の極光」が、聖教国の首都全体を包み込んだ。
呪われていた大地からは青々とした草芽が吹き出し、病に倒れていた者たちの肺からは毒気が消え失せる。だが、エルセを道具として扱おうとした「聖なる者たち」だけは、そのあまりに清浄な光に焼かれ、一瞬にして魔力を失い、ただの老人へと成り果てた。
「……陛下。私、もう怖くありませんわ。あなたがいてくださるなら、神様なんて必要ありません」
エルセがレオンハルトの首に腕を回し、愛おしげに囁く。
その背後には、彼女の魔力が具現化した「虹色の光輪」が輝き、彼女の姿はもはや人の令嬢ではなく、世界を統べる『真実の女神』そのものだった。
「ああ、お前は私の女神だ。……だが、女神になっても私だけの檻からは出さんぞ。お前のその神々しい姿さえ、一生私だけが独占してやる」
レオンハルトは満足げに、彼女の白銀の髪に顔を埋めた。
◆
その頃。
聖教国の地下牢の奥底。
瓦礫に埋もれ、這い出そうとしていたジュリアン王子は、頭上から降り注ぐ「エルセの光」を浴びて、絶望に顔を歪めていた。
その光は、清らかで、温かくて――そして、自分のような卑怯な者にとっては、触れるだけで魂が削られるほどに「眩しすぎた」。
「……ああ……。僕は……僕は一体、何を捨てたんだ……。あんな、世界そのもののような輝きを、僕は……っ」
彼はもはや涙さえ出なかった。
彼の髪は完全に白く枯れ、その瞳からは一切の光が消えていた。
遠くで鳴り響く、帝国の勝利を告げるファンファーレ。
かつての婚約者が、世界で最も美しい男に抱かれ、世界の頂点に立つ音。
ジュリアンは冷たい石の床の上で、二度と手に入らない「幸せ」という名の幻を追いかけながら、静かに、誰にも知られず、その惨めな生涯の幕を閉じることさえ許されず、ただ孤独な時間を数え続けるのだった。
第2章、最大のクライマックス!
神の理さえも「陛下への愛」で書き換えてしまったエルセ様。
これぞ、西園寺ミオがお贈りする「格差逆転・ハッピーエンド」の極致ですわ。
「道具」として扱ってきた者たちが、その「道具」が放つ本当の輝きに焼かれて没落する……。
ジュリアン王子の「眩しすぎて魂が削られる」という絶望、楽しんでいただけましたか?
「エルセ様、かっこいい!」「陛下の独占欲がもう神レベル!」
そんな風に熱狂していただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いいたします!
皆様の応援が、第3章への大きな扉を開く鍵となりますわ。
次回、第19話。
聖教国を事実上の属領とした帝国。
勝利の凱旋の中、エルセの「ある意外な変化」が、レオンハルト陛下をさらなる狂乱へと追い込むことに!?
どうぞ、お楽しみに!




