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第17話:「神の遺物」と呼ばれた真実、あるいは「世界の心臓」としての鼓動

聖教国の首都、白亜の都セレスティア。

 空高くそびえる大聖堂のステンドグラスを背に、エルセは今、世界のことわりが崩れる音を聴いていた。


 帝国の漆黒の軍勢に包囲された聖教国の中心部。

 レオンハルトは、もはや馬車から降りる際もエルセを地に着かせようとはしなかった。彼は鎧の擦れる重厚な音を響かせながら、エルセを片腕で横抱きにしたまま、教国の最高聖域へと踏み込んだ。


「――ようこそ、哀れな泥人形の娘。……いや、『世界の心臓プリズム』よ」


 聖域の奥底。古びた石の扉の向こうに隠されていたのは、教国の歴史から抹消された巨大な壁画だった。

 そこに描かれていたのは、数千年前、神から「光」を盗み出し、人間の少女の体内に封じ込めた罪深き王たちの姿。


「何……これ……? 私に似た、銀色の髪の女の人が、鎖で繋がれて……」


 エルセの声が、恐怖で細く震える。

 レオンハルトは、彼女を抱く腕にさらに力を込め、その耳元に熱い唇を寄せた。


「案ずるな、エルセ。私がお前の鎖をすべて焼き切ってやったのだ。……大司教、説明してもらおうか。この忌々しい壁画の意味を」


 床に組み伏せられた大司教バルドが、狂信的な笑みを浮かべて顔を上げた。


「くく……。そうだ、その娘こそが、我が教国の始祖たちがソラリアの王族と共謀して作り上げた『最高傑作』だ! 世界に満ちる毒を吸い取り、純粋な魔力へと変換し続ける永久機関。……それこそが『無色』の正体! 彼女は人間ではない。神が地上を維持するために用意した、生きた『器』なのだ!」


「器……? 私が、ただの入れ物……?」


 エルセの瞳から、一筋の透明な涙がこぼれ落ちる。

 自分が誰よりも尽くしてきた祖国。自分を蔑んできた家族。そのすべてが、彼女を「人間」としてではなく、単なる「便利な浄化装置」として維持するために彼女を檻に閉じ込めていたのだ。


「だからこそ、その娘は神のここへ戻さねばならん! 漆黒の皇帝よ、貴公のような破壊の化身が、世界の心臓を独占するなど許されぬ。彼女を教国の祭壇へ捧げよ。さもなくば、世界は毒に満ちて滅びるだろう!」


 大司教の叫びが、聖堂の天井に反響する。

 エルセは絶望に目を閉じ、レオンハルトの胸に顔を埋めた。


(ああ、やっぱり……。私は、誰かに愛されるために生まれたんじゃない。ただ、世界のために使い潰されるだけの……)


 そう自分を呪いかけた、その時だった。


「――ふん、下らぬ」


 レオンハルトの、低く、冷徹な笑い声。

 彼は大司教の言葉を、路傍の石を蹴飛ばすかのような無関心さで切り捨てた。


「世界が滅びるだと? ……勝手に滅びればいい」


「な……な、何を……っ!?」


「エルセ。目を開けなさい。私を見ろ」


 レオンハルトはエルセの顎を強引に持ち上げ、独占欲に濁った、だが狂おしいほどに情熱的な紫水晶アメジストの瞳で彼女を射抜いた。


「世界が死のうが、神が泣こうが、私には知ったことではない。私にとっての『世界』は、お前の瞳の中にしかないのだ。……お前が道具だというなら、私はその道具を愛し、守るために、神の座を焼き尽くす魔王となろう」


 レオンハルトは、エルセの涙をその舌で丁寧に掬い取った。

 

「お前は器ではない。私の魂の半分だ。……エルセ、私を信じろ。お前を鎖に繋ごうとするすべての運命から、私が、私の漆黒でお前を隠してやる」


「陛下……っ」


 その瞬間、エルセの胸の『原初のプリズム』が、これまでにないほど激しく、そして「赤く」脈打った。

 それは彼女が初めて抱いた、自分勝手な「欲望」――陛下を愛し、愛されたいという、一人の女性としての熱情。


 その熱が、聖教国の結界を内側から粉々に砕いた。

 

   ◆


 一方その頃、聖教国の地下牢。

 

 帝国軍に捕縛され、ネズミの這う牢獄へ放り込まれたジュリアン王子は、壁の向こうから聞こえるエルセの魔力の咆哮に、ガタガタと震えていた。

 

「……ああ、そうだ。僕は、あんな恐ろしい『心臓』に触れていたのか……。愛してやる、なんて……。僕は、神様の持ち物を、ただの泥だと思っていたのか……」

 

 彼はもはや、後悔する言葉さえ失っていた。

 自分たちが「役立たず」と捨てたものは、自分たちが生きていくために絶対に触れてはならない、世界のコアだったのだ。

 

 ジュリアンの指先からは、もはや泥さえ出ない。ただ、カサカサと乾いた「死」の色が、彼の全身を侵食していた。

いかがでしたか? 第17話。

エルセ様の正体は「世界の維持装置」。

ですが、そんな運命を鼻で笑い、「お前が世界そのものだ」と言い切るレオンハルト陛下……!

これこそ、私が描きたかった「究極の、重すぎる愛」の形ですわ。


「世界よりもエルセ様を選んだ陛下、カッコよすぎる!」「王子の絶望がもう芸術的」

そんな風にスカッとした、あるいはキュンとしていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】をお願いいたします。


次は第18話。

いよいよ第2章のクライマックス。

神の代行者としての力を自覚したエルセ様が、レオンハルト陛下の腕の中で、世界を「あるべき姿」へと書き換えます。

どうぞ、絶対にお見逃しなく!

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