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第16話:戦場に咲く真珠、漆黒の進軍

アイゼンシュタット帝国の軍勢が動く時、それは世界の地図が書き換わる時を意味する。

 地平線を埋め尽くすのは、漆黒の鎧に身を包んだ「黒鉄騎兵団」。その放つ威圧感だけで、並の軍隊なら戦わずして瓦解するだろう。


 だが、その殺伐とした軍勢の最中心、皇帝直属の親衛隊が守護する一角だけは、異様なほどに清浄で、甘やかな空気が漂っていた。


「……陛下、本当に私も付いていってよろしいのですか? 私は、剣も魔法も使えませんのに……」


 巨大な神獣が引く、移動式の離宮とも呼ぶべき豪華な馬車の中。

 エルセは、自身の腰をがっしりと抱き込み、膝の上に拘束しているレオンハルトを見上げて困ったように微笑んだ。

 レオンハルトは今、戦場へ向かうための黒銀の甲冑を纏っている。冷たく硬い金属の質感が、エルセの柔らかなドレス越しに伝わり、彼女の鼓動を速めさせていた。


「言ったはずだ。お前を私の視界から外すなど、万に一つもありえぬとな。……それに、お前を城に残して、万が一にもあの聖教国の刺客が潜り込んだらどうする。私はその瞬間に、この国ごと世界を滅ぼしてしまうぞ」


「陛下……それは極端すぎますわ」


「本気だ。お前がいない戦場など、ただの無価値な殺戮の場に過ぎん。だが、お前がそばにいれば――ここはお前のための、ただの散歩道になる」


 レオンハルトは、甲冑の籠手ガントレットを外し、熱を帯びた素手でエルセの顎を掬い上げた。

 戦いを前にした猛禽の瞳。だがその奥には、エルセにだけ向けられるドロドロに溶けた執着が渦巻いている。


「……お前の『無色』が、私の『漆黒』を欲しているのがわかる。……戦いの前に、私を十分に満たしておけ。エルセ」


 低く囁き、レオンハルトは彼女の唇を深く、深く塞いだ。

 馬車の外では数万の兵士が足音を響かせているというのに、この空間だけは二人だけの蜜月ルナ・セーラ。エルセは彼の首に腕を回し、その圧倒的な存在感に身を委ねた。


   ◆


 進軍の途中、帝国軍は聖教国の第一防衛拠点である『白銀の砦』へと到達した。

 本来ならば数ヶ月の包囲戦が必要とされる難攻不落の要塞。だが、レオンハルトは馬車の扉を開き、エルセを抱き抱えたまま、軍勢の前へと姿を現した。


「見ろ。あれがアイゼンシュタットの魔王だ!」

「……待て、あの腕の中にいるのは……なんだ、あの輝きは!?」


 砦を守る聖教国の兵士たちが、驚愕に目を見開いた。

 戦場に現れたのは、死を撒き散らす皇帝と――その胸に抱かれた、月光そのもののような少女。


 エルセがその場に立った瞬間、戦場に漂う不吉な瘴気や殺気が、霧が晴れるように消え去った。

 彼女がそっと地面に足を降ろすと(レオンハルトが渋々許可した)、泥濘んでいた戦場から、純白の百合が次々と芽吹き、一瞬にして一面の花畑へと変貌したのだ。


「戦う必要はない。……ひれ伏せ。この御方に、色彩の審判を下される前に」


 レオンハルトの宣告と共に、エルセの『原初のプリズム』が共鳴する。

 彼女の指先から放たれた透明な光が砦を包み込むと、聖教国が誇った『神の加護(結界)』が、まるで古い紙が燃え尽きるように、跡形もなく消滅した。


 戦わずして、勝負は決した。

 エルセという「奇跡」を目の当たりにした敵兵たちは、次々と武器を投げ出し、祈りを捧げるように膝をついた。


「……陛下、争わずに済みましたわ。良かったです」


 エルセが安堵して微笑むと、レオンハルトは満足げに彼女を再び抱き上げ、周囲に見せつけるようにその額に口付けた。


「ああ、お前の慈悲深さが、私の手を汚さずに済ませてくれた。……だが、これでお前を崇める者がまた増えたな。……やはり、帰ったら一生地下の奥深くに閉じ込めることにしよう」


「もう、陛下ったら……っ」


   ◆


 その頃。

 聖教国の国境近くに辿り着いたジュリアン王子は、その光景を遠くから見て、腰を抜かしていた。


「な……なんだ……。あの砦が、一瞬で花畑に……? エルセ、お前は……お前は一体、どれほどのバケモノになったというんだ……!」


 彼は気づいていない。

 エルセが「バケモノ」になったのではない。彼女の持っていた本来の価値を、レオンハルトが全力で、狂気的なまでの愛で解き放っただけだということに。


 自分たちがドブに捨てた真珠が、今、世界を飲み込む大海の一滴となった。

 ジュリアンの震える手からは、もはや魔力の色すら消え、ただの醜い泥がこぼれ落ちていた。

いかがでしたか? 第16話。

「戦場を花畑に変える」という、エルセ様の圧倒的な神性と、それを「自分だけの小鳥の芸」のように愛でるレオンハルト陛下の温度差……!

これこそが、格差逆転劇の醍醐味ですわね。


そして、その光景を遠くから眺めることしかできないジュリアン王子の絶望。

「自分の知っていたエルセではない」という恐怖は、彼にとってどんな暴力よりも残酷な罰となります。


「戦場でのあま~い雰囲気に当てられた!」「陛下のガントレットを外しての溺愛、たまらない!」

そんな風にキュンとしていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いいたします!

皆様の熱い応援が、エルセ様を飾る新たな宝石となりますわ。


次回、第17話。

ついに聖教国の本拠地へ。

そこでは、エルセの「出生の秘密」に関わる、衝撃の事実が待ち受けています。

どうぞ、お楽しみに!

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