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シャルレーヌは手を合わせてから、かわいらしく首を傾げた。
しかし三人から何も反応がない。
「ナリニーユ帝国の男性はノリが悪いですわ。ねぇ、テネブル」
「「「…………」」」
誰も笑ってはいないが、今日はかわいらしいテネブルに会えたため満足していた。
ここまできた価値があるというものだ。
「テネブル、そろそろ戻った方がいいのではなくて?」
シャルレーヌの一言でテネブルはヴィクトールの影へと入っていく。
ひらひらと手のひらを横に振ると触手が真似をするように同じ動きをした。
「そろそろわたくしは部屋に戻らせていただきますわ」
シャルレーヌがそう告げると、引き止めるように腕を掴むヴィクトールの手。
(昨日の素直でかわいらしい陛下はどこに行かれたのかしら)
その表情は険しく、理由を言うまで逃がさないと言わんばかりだ。
「あら、部屋まで送ってくださるのですか? 今日も大胆ですわね」
「……誤魔化すな」
「はぁ……いつまでここで立ち話をさせるおつもりですの? それともわたくしとはここで話すのが当然だとおっしゃりたいのかしら」
肌寒さに腕を擦るシャルレーヌを見てここが人気のない外でシャルレーヌの体調のことを思い出したのだろう。
それに今は皆が寝静まった真夜中だ。
話をするにしてもシャルレーヌはここで話し続けるのはごめんだった。
「わたくし、これ以上ここにいたら倒れてしまいそうですわ」
それは昼間だけの話ではあるが、彼らには病弱だと思われているためちょうどいいだろう。
「すまない、部屋に戻ろう」
「ありがとうございます。それからモルガン様の無礼を陛下はどう清算してくださるのかしら」
「…………」
「わたくし、傷つきましたわ。一方的に罵倒されたんですもの」
こうなることがオノレが一番、防ぎたかったことではないだろうか。
モルガンも自分のしでかしたことをやっと理解したのか涙を堪えているが、シャルレーヌの知ったことではない。
(奪い返しほどの気概がありませんと、つまらないですわ)
弱い者など淘汰されて終わり。シャルレーヌの視界にすら入らない。
オノレが手合わせするにしても、この件は帳尻が合わないではないか。
ヴィクトールはシャルレーヌが何を求めているかわかったのだろう。
別室に移動したシャルレーヌは、テーブルを挟んでヴィクトールの前に座った。
「今度のパーティーでパートナーに指名する。それでどうだ?」
「……パーティー?」
簡単にまとめると、今度のパーティーにヴィクトールの妃として出席するそうだ。
エマニュエルやアナベル、ベアトリスをその場にあったパーティーで連れていくのだそう。
エマニュエルは帝国貴族、アナベルは商会や民衆の前で。ベアトリスは他国との外交の場だ。
ナタリーは本人の希望でパーティーなどの参加はしていない。
そこでも正妃になるための試練があるそうだが、シャルレーヌを連れていけばどうなるのか安易に想像できる。
「わたくし、正妃の座にもパーティーにも興味ありませんの」
そのことを初めて耳にしたオノレとモルガンは目を見張って驚いている。
シャルレーヌが打算で動き、ヴィクトールを狙っているとでも思っていたのだろうか。
二人にそのことを示せたのは、今後面倒なことにならずに大きいかもしれない。
そんなことをするよりもオノレと手合わせをしていた方がマシだろう。
(情報収集ばかりでは体が鈍りますものね。パーティーなんてつまらなくて嫌ですわ)
一番目に嫁いだ国も、二番目に嫁いだ国もシャルレーヌを見せびらかしたいという理由で、よくパーティーに参加していた。
正直、目的がなければ参加したくはなかった。
「欲しいものがあれば言うといい。新しい部屋にドレスや宝石や魔石も……」
「いりません。わたくしには必要ないものですわ」
まったく欲のないシャルレーヌに三人は驚きを隠せないようだ。
帝国ではこれで女性たちも喜ぶのだろうか。
動きにくいドレスも重く高いばかりの宝石も必要とされていない。
いざとなった時に自分を守れないし邪魔だからだ。
「……ああ、つまらない」
小さくため息を吐いたシャルレーヌは周囲に聞こえるか聞こえないかというほどにそう呟いた。
どの提案とくだらなすぎてシャルレーヌの興味を引くことはない。
するとヴィクトールがあることを提案する。
「帝国に歓迎されてない君が俺のプレゼントしたドレスや宝石をまとい、パーティーに出ることがつまらないと?」
「どういう意味でしょうか」
「それを見た妃たちはどう思う? 帝国民たちは? オノレとモルガンも君がそばにいることを認めているとしたら、暇になることなどないだろう?」
「…………!」
このまま引くかと思いきや、ヴィクトール側から提案があるとは思わずに多少なりとも驚いていた。
それは妃たちや帝国貴族たちも試すことにもつながるではないだろうか。
「……大した自信ですのね」
「互いに利用すればいい。俺はそう思っている」
つまりヴィクトールもなんらかの思惑があり、シャルレーヌを利用するということだろうか。
それにしてもこの方法では身を削るようなものだろう。
それでもヴィクトールは許容するつもりらしい。
どうやら今までのようにシャルレーヌに恋慕して身を滅ぼすような王子たちとは違うようだ。
シャルレーヌの唇が弧を描いていく。




