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ヴィクトールはそんなモルガンの言葉を聞いてため息を吐く。
「そんなことで捨てたりはしない」
「……ほんと、ですか?」
「ああ、今はまだ慣れないだけだが、安定しさえすればまた以前のように戻るのだろう?」
「はい……!」
涙を溢れさせるモルガンは幼い子どものようだ。
シャルレーヌはテネブルを撫でながらその様子を見ていた。
それだけヴィクトールはモルガンの力を重宝しているのだろう。
けれど「これ以上、余計なことをして手を煩わせるな」と、釘を刺すことも忘れない。
モルガンは口を閉じて何度も頷いていた。
「それで……お前がカラスを奪ったというのは本当なのか?」
ヴィクトールの視線は突然、シャルレーヌへと向けられた。
シャルレーヌは首を傾げたものの、後ろにはカラスやコウモリたちの羽音が微かに聞こえていた。
「魔法は使えないはずだ。どうやってモルガンから奪った?」
「陛下もわたくしのせいになさるのですか? わたくしが魔法を使えると?」
「闇魔法が懐くのもおかしな話だ。今までこんなことは一度もなかった」
名前をつけてかわいがっていることも、慣れた様子でいることもなんらかの魔法や魔導具を使っていると疑われているようだ。
「禁術の類か?」
「禁術……? それはなんでしょうか」
「何らかの代償を支払う代わりに強大な力を得る。大体は肉体か精神が壊れてしまう」
どうやらヴィクトールたちはシャルレーヌが病弱なのは特別な力を使うための代償だと思っているようだ。
(なんて馬鹿馬鹿しいのかしら……)
魔法がまったく使えないことに加えて、挑戦的な態度でいることも、そう思わせる原因になっているようだ。
「医師たちは何か原因かわからないといった。特に夜を好んでいるのも気になる」
「そうなのですね。わたくしは何も隠しませんわ。体の隅々まで調べていただいて構いません」
シャルレーヌにやましいことは何もない。
詳しく調べれば魔導具を使っていないことも、魔力がないこともハッキリするだろう。
「魔導具なんてサンドラクト王国に持ち込んだが最後、お父様に殺されてしまいますし」
「……質問の答えになっていない」
「だからお好きに調べてと申し上げているのです。ロミとルイも同じようにしていただいて構いませんわ」
「…………」
「それと魔力があるかどうかくらい、わからないものなのですか? わたくしは何も感じませんけれど……」
疑うのは構わないが、悪だと決めつけられるのは気分が悪い。
徹底的に調べて欲しいという態度を崩すことはなかった。
それに何らかの方法で互いの魔力を感じているのかもしれない。
三人はこちらを見ると眉を寄せた。
つまりシャルレーヌから魔力は感じないということだろう。
「それにすべて魔法のせいにしていたら視野が狭くなりましてよ?」
「……なんだと?」
ヴィクトールの苛立ちを感じとったのかテネブルが心配そうに左右に揺れ動いている。
シャルレーヌは触手に触れつつ、安心させるように笑みを浮かべた。
「ふふ、心配しなくとも大丈夫ですわよ。それとわたくしを守ろうとしてくれてありがとう。あなたは優しい子ね」
シャルレーヌはテネブルにキスをする。
すると喜びを露わにするように触手がぶわりと広がった。
オノレとモルガンもそれには驚愕しているが、シャルレーヌは気にすることはない。
するとカラスたちもシャルレーヌのそばにやってくる。
モルガンが下唇を噛んで悔しそうにしているが、一羽がシャルレーヌの腕にとまった。
「どうして……」
「あなたに魅力がないからではなくって?」
「僕に魅力が……?」
「あなたが陛下に従いたいと思うのは何故ですの?」
「……それは、その」
シャルレーヌの言葉の意味を珍しく理解したのだろう。
モルガンが口ごもる。
「この子たちも感情のコントロールができないお子さまに付き従うのは本意ではなかった。それに彼らにも意思がある、そうでしょう?」
「それは、そうだけど……っ」
シャルレーヌがカラスの艶やかな美しい嘴を撫でた。
すると満足そうに真っ黒な羽根を広げて飛んでいった。
悔しそうに擦り寄ってくるシャルレーヌのストロベリーピンクの瞳が暗がりの中で細まり怪しく光る。
真っ赤なルージュが弧を描いていた。
「わたくしのほうが彼らの主人として相応しいと判断された……それだけのことですわ」
「……!」
「使役するためには魔力を対価とする。より強いものに従う。つまり、あなたの実力不足では? それにこの子たちは頭がいい……誰につけばいいかすぐにわかりますわ」
「だったら、どうすればいいんだ」
「陛下やオノレ様のように魅力的な男性になることですわ。このままでは皆さまに見捨てられてしまいますわよ?」
「……そんな」
シャルレーヌが魔法について話していることが意外なのだろうか。
「なぜそんな話ができる?」
「わたくしだって少しはナリニーユ帝国について学びましたから」
シャルレーヌの含みのある言い方にヴィクトールは苛立っている。
「それに女は秘密があったほうが魅力的だと、お父様も言っておりましたわ」




