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強くなるために。(後編)

 子獅子が皆、本殿に移動してしまったので、社務所の子供部屋から音がすることもなく、布団を引くのを邪魔したり、潜り込んでこようとする奴も居ない。

 ホッとしたような、寂しいような何とも言えない気持ちを抱えていても、布団に入ってしまえば、あっと言う間に眠りに落ちてしまう。

 気がつけば朝を迎えており、朝になったからには何時までも布団でグズグズしてはいられない。布団を片付けて、朝食を取り、準備を整えたら仕事を始める。

 そう言えば、昨日は留守を任せて出掛けたので、今日が仕事始めだな等と思いながら掃除や洗濯を片付けていると、八幡(はちまん)が難しい顔でやってきた。



『じいちゃん、お仕事終わった?』

「ん、どうした? 何か有ったか?」

『手が空いたら、ちょっと、頼みたいことがあるんだけど。』

「わかった。」


 当社一の俊足の持ち主だけに、絶えず走り回っているイメージのある八幡だが、一歩一歩、地面を踏みしめるように近寄ってきて、真剣な表情でガウと吠える。

 これは只事ではあるまい。

 箒を動かしていた手を止めれば、従いてこいと言わんばかりに無言で歩き出した。

 ジャリジャリと砂利の音を聞きながら移動し、社務所までやってくると八幡は一息に縁側に飛び乗り、どさりと音を立てて乱暴に横たわった。


「どうした、八幡?」

『じいちゃん、オレの鬣、刈って頂戴。』

「はあ!?」


 聞いたは良いが、返ってきた言葉が信じられず、声を大きくしてしまった。

 日頃から毛並みの手入れに余念なく、ブラッシングが大好きな八幡が。

 短いながらも鬣が生えてきた時には、日に五回も梳かしてくれと強請りに来た八幡が。

 一体何事かと目を見張れば、最年長の子獅子はグルルと唸った。



『オレ、やっぱり、まだまだ子獅子だったよ。

 そりゃ、狐たちの攻撃は全部避けてやったけど、それだけで、自分も全く当てられなかった。

 普段の生活だって、リクのがよっぽどしっかりしてるし大人だよ。

 オレに鬣はまだ、相応しくないし、気にしてる場合でもなかったよ。』


 試合の結果だけでなく、普段の生活態度にも思う所があったらしい。

 弟の陸晶(りくしょう)が自分は考えもしなかった手伝いを、当たり前のように始めたのが悔しかったようだ。

 兄として、負けていられないと鼻に皺を寄せながらの言い分は立派だが、立派すぎて此方が躊躇してしまう。


「気持ちはわかったが、でも、良いのか?」

『良いの! どうせ直ぐに大人になって、ちゃんとしたの生やすから良いの!』


 元々、何時までも子獅子でいるつもりもなく、中途半端な生えかけな鬣など要らぬ。さっさと成長し、大人として正式に立派なのを手に入れると息巻くのを、止める理由はなかった。

 しかし、後でやっぱり止めとけば良かった、何故、止めなかったと八つ当たりされないか、不安は残った。



「本当に、良いのか?」

『良いってば! でも、格好良くしてよ!』

「……そこは約束できない。只の五分刈りだ。」


 案の定、毛刈りする意図とは関係ないと思える注文を付けられるのに、返って腹が座り、容赦なく刈り上げてやることにする。


「ほら、終わったぞ。」

『ありがと! じゃ、走り込みに行ってくる!』


 頭の天辺から首周りをすっきりさせてやれば、八幡はブルリと体を震わせ偉そうにミャアと鳴いた。

 そして来た時と同じ様に一息で縁側から飛び降りると、風のように去っていった。

 足の速さだけは相変わらず誰にも負けない。あっと言う間に見えなくなった白い毛玉に溜息をついて、縁側に散らばった鬣の残骸を見やる。

 多少の毛先の調整であればまだしも、鬣を刈り上げることなど普通はしない。さて、これはどうしたものか。


 うちの獅子たちの体は砂で出来ているので、これも放っておけば砂に戻る。

 霊獣の体毛や爪、牙などは武器や薬剤の原材料として便利に使えるので、取っておけば何かの役に立つかもしれず、使わずとも御神体の側に戻したほうが良いだろう。一先ず、集めて瓶に仕舞っておくか。

 他のゴミと混ぜるわけには行かないので掃除機は使えず、取り急ぎ手と箒で履き集める。

 先に新聞紙でも敷いておけばよかった。

 僅かな後悔を感じながら縁側を片付けていると、今度は瑞宮(みずみや)がやってきた。



『じいちゃん、今、余裕ある?』

「おう、どうした?」


 なんだか真剣な様子だ。

 不思議に思いながら返事をすれば、貰った鉱石(おやつ)をたっぷり食べた所為で、綿飴の様になった毛並みをブルリと震わせ、瑞宮はガウと鳴いた。


『暇だったら、ボクの毛、刈って頂戴。』

「お前もか、瑞宮。」

『? お前も?』


 先ほど兄獅子の鬣を刈ったばかりなので、思わず口にした言葉にフワフワ子獅子は首を傾げたが、すぐに思い直したように尻尾をブンと振った。


『なんだかよく分かんないけど、兎に角、刈って頂戴。』

「良いけど、どうしたんだ、急に?」


 ある時、突然変異的に全身長毛となった瑞宮だが、暖かくて良いと喜んでいたはずだ。それを刈り上げたいとは、どういうことか。

 なんとなく答えは分かっているような気もしたが、一先ず聞いてみれば案の定、八幡と似たような理由であった。


『ボク、お兄ちゃんなのに、テンちゃんの事を守ってあげられなかったよ。

 テンちゃんだけじゃない。サンジもミイチも、皆、守ってあげなきゃいけなかったのに出来なかった。

 ボクがもっと上手に動いて相手を蹴散らせてたら、リクだって切り込んでいけたし、イツだって続いてこれたよ。

 でも、出来なかった。 

 ボク、もっと、強くならなきゃ! フワフワぬくぬくしてる場合じゃないよ!

 だから、こんな毛いらない! 刈って頂戴!』


 話すほどに悔しさが募ってきたのか声は段々大きくなっていき、最後には叫ぶように瑞宮は吠えた。

 昨日、元気印な弟が心底落ち込む姿に、余程衝撃的を受けたのだろう。

 眉間に皺を寄せ、思いつめた様子で尻尾を振り回す子獅子に、なんと答えるべきか迷う。その責任感や向上心は立派だが、少し背負い過ぎではなかろうか。


「瑞宮、気持ちは分かるが、昨日の試合で負けたのはお前だけが悪いんじゃない。

 あまり入れ込みすぎると返って迷い、間違った方へ進んでしまうぞ。」

『でも、じいちゃん! ボク、強くなりたいんだよ!

 もう、あんなに落ち込んだテンちゃんや、皆の悲しい顔を見るのは嫌だよ!』


 宥めても必死の形相でガウと吠えるのに、子獅子の生真面目な頑固さを感じる。

 一歩も引かぬと耳と尻尾をピンと立て、まっすぐに自分を見つめる瞳は、もう大人の兄獅子達と変わらない気迫に満ちている。

 まあ、外見はフワフワで可愛らしい子獅子なんだけど。

 スピッツとかサモエドとか、北国の犬と見間違うほどモッフモフのムックムクなんだけど。



「瑞宮、お前は誰よりも頑張り屋で、努力する大事さをよく分かってる。

 だが、がむしゃらに進むだけじゃ駄目なのも、よく覚えておきなさい。

 一人ひとりに出来ることには限りがある。

 己の力量を弁え、冷静に周りを見て、無理なことは無理だと判断することも大切だ。

 天祥(てんしょう)たちの事を守るつもりなら、尚更だぞ。」

『でも、じいちゃん……』

「苦しく、辛いことをすることだけが努力でもない。必死になりさえすれば、良いというものでもない。

 失敗したからって、全部を抱え込もうするのはもっと違う。分かるか?」

『……。』


 怠け癖や不真面目なのは勿論困るが、抱え過ぎ、自分を責め過ぎるのも宜しくない。

 焦るなとゆっくり言い聞かせれば、子獅子は泣きそうな声でにゃあと鳴き、俯いて、尻尾を忙しなく振り回した。

 いじけたように前足で砂利をひっかき、ニャグニャグ口を動かすのをそっと撫で、その気持ちを汲んでやる。


「でも、単純に気合を入れたい、気分を変えたいなら、短くするのもいいかもな。

 急に寒くなるだろうから、体を壊さないように気をつけなさい。

 後、新聞紙を引くから、ちょっと待ちなさい。」

『……うん!』


 毛刈り自体はしてやると言えば、安心したように瑞宮は尻尾と耳をピンと立てた。

 改めて八幡の鬣を片付け、反省に基づいて新聞紙を広げる。



 もう、大分大きくなっている瑞宮の全身の毛を刈り上げるのはなかなか骨であった。

 変に長いところや短いところがないよう、気をつけたつもりだが、自分はトリミングの専門家ではない。毛が絡んでバリカンの歯が引っかかり、上手く刈れない箇所もあったので、後でまた調整したほうが良いだろう。

 自ら望んだとは言え長い時間拘束され、大人しくしていなければいけなかった瑞宮は、漸く開放されると何度も体を震わせ、大きく伸びをした。


『ふう、スッキリしたよ。

 寒いけど、元に戻っただけだもんね。

 ボク、寒さを感じる隙もないくらい、もっと運動するよ!』


 ミャッと高らかに鳴いて、体毛が短くなり、ほっそりした子獅子は兄弟たちのいる方向へ駆けていった。

 いや、刈った毛の割にはそこまで細くないな、彼奴。

 後に残ったモフモフの白い毛はモフモフだけに山のようになっており、瓶の中には収まるまい。

 仕方がないので新聞紙ごと丸め、ビニール袋に押し込む。


 しかし、随分時間を取ってしまった。

 何時だったか、留守中に獅子達全員の鬣を刈り上げ、外出から戻った二前と陸奥をも、止める間もなくスッキリさせてしまった郵便屋の技術は、やはり相当なものであったのだろう。

 どうせ磨き上げた手腕を発揮するなら、もっと他のことに使えば良いのに。不必要に器用で、無駄に悪戯好きな魔物に溜息をつく。

 そう言えば、彼も獅子たちの体から出た砂が貰えるのであればと興味を示していた。

 市場の価値はまだしも、毛の塊と思うとあまり積極的になれないのだが、彼奴には何時も貰ってばかりでなかなか返せない。この毛を譲れば喜ぶだろうか。

 それにこれだけ量があるのだ。何か良い使い道を思いついてくれるかもしれない。


 自然と浮かび上がってきた思いつきを頭を振って打ち消す。

 その万能性と危険性に置いて安易に触れてはいけない化け物のはずが、どんどん只の便利屋になりつつある。

 関係の緩みを改めて実感する。これではいけない。

 よし、譲るだけにしよう。袋ごと押し付けて、後の話は一切聞かない方向で行こう。

 けしてパンパンに膨れたビニールを見て、処理が面倒になったわけではない。



 ビニールを押し入れに仕舞い、ついでに社務所の中も片付ける。

 明日は新年の挨拶と過負盆地に対する打ち合わせを兼ねた、神社間での話し合いがあるのだ。どこも綺麗にして置かなければ。 

 三峰のシズはまだしも、ヒサ君は週イチで遊びに来ていたし、試合の関係で御武の青梅さん、齋登の長瀞さんとも昨日会ったばかりだが、智知の平さんとは久し振りになる。

 元気にしているだろうか。まあ、平さんが元気でないはずがないか。

 今後、後を継がせる予定として、娘の明ちゃんを連れてくると言っていたが、どんな子だろう。

 新聞紙から零れた毛も箒で掃いて、次は本殿へ向かおうとすれば、前方から青い綿飴がずんずか近寄ってくるのが見えた。


『じいちゃん、今、時間ある!?』

「うーん。まあ、無くはない。」


 ブルンと尻尾をひと振りし、ガウと吠えたのは末っ子の無比刀(むひと)

 瑞宮をも凌ぐ、フワフワもこもこした全身長毛の子獅子は、フガフガ鼻息荒く憤っている。


「それで、どうした?」

『トヨチーは駄目だよ! 一回やられたぐらいで、すっかり凹んじゃって!

 ちょっと失敗したってジン兄やトシ兄がなんとかしてくれるし、ムイもいるから大丈夫だって言ってるのに!』


 何かと思えば、同じ青毛の子獅子が頼りないと怒っているようだ。

 注意された一人称を直すのをすっかり忘れ、毛を逆立てガウガウ怒る。

 この様子だと一晩明けて、まだ豊一(とよいち)は凹んでいるようだ。昨日集中攻撃を受けたのが余程辛かったのだろう。

 一度と無比刀は言うが、何度か仕切り直しても、その度に同じ様に狙われ、敗因となってしまったので、それこそ責任を感じてしまっているに違いない。

 だが、青毛の末っ子の言うとおり、何時までも凹んでいても仕方ない。



『本当にトヨチーはだらしがないよ。ウジウジするばっかりで、勉強も訓練も、なんにもしないんだから!

 ムイが頑張んなきゃ!

 その分、ムイが頑張って、トヨチーが失敗した分も取り返せるって証明しなきゃ!』

「無比刀、気持ちは分かるが、そう怒るな。」


 さて、どうやって自信を取り戻させるかと考える暇もなく、無比刀がぴょんぴょん跳ねて怒る。

 自身を鼓舞するだけならまだしも、兄弟を責めるような言い方をするのを嗜めれば、があがあ吠えて反論してきた。


『だって、やだもん! ムイ、もう負けるのやだもん!

 だから、ムイがどんな奴でもやっつけられるようになるんだ!

 そしたら、トヨチーだって安心して戦える!

 でも、負けたらトヨチーどころか、テンちゃんやミナト兄ちゃんまで、またしょんぼりするじゃん!

 そんなの嫌だよ!』


 皆、泣き虫で情けないと怒る子獅子をよくよく見れば、無比刀こそ泣きそうだ。

 負けて落ち込む仲間たちへの不甲斐なさと、心配が入り混じり、居ても立っても居られないらしい。

 ただ(みなと)の名誉のために言えば、彼はもう切り替えて、早速朝早くから走り込みに行ったのだが、出掛けたのが早かっただけに無比刀の目には入らなかったようだ。

 青毛の子獅子はミャーと悲鳴を上げるように鳴いて、バリバリと地面を引っ掻く。


『皆の分まで全部、全部、ムイが吹っ飛ばせるようになるんだ!

 ムイの火の玉、幻術にだって効いてたもん! もっと強くなれば、きっと何だって吹っ飛ばせる!

 だから、もっと気合入れて頑張んなきゃ! じいちゃん、手伝って!』


 砂利を蹴飛ばし、荒れ狂う子獅子は小さくとも獅子。自身のプライドと群れのために牙を剥き、毛を逆立て全力を尽くそうとする。

 その気持ち自体はまだ褒めてやりたいが、この子も少々興奮しすぎだ。

 瑞宮たち同様、気合を入れるにしても、このままでは変な方向へすっ飛んでいきかねない。


「それは良いが、少し落ち着きなさい。」

『ムイの毛、梳かして! 今まで以上に、もっふもふのフックフクにして!』


 宥める言葉に耳を貸さず、子獅子は叫ぶ。

 ただ、こいつも毛刈りかと思っていたのに方向性が違った。

 って言うか、御免、ちょっと言ってる意味がわからない。



「……梳かすのか?」

『そうだよ! もう、誰も何も言えない位、モッコモコにだよ!

 見た相手が即座にひれ伏す様に、フッカフカにしてよ!』

「刈るんじゃなく?」

『なんでさ! 毛なんか刈ったって何も良いことないよ!

 寧ろ、この寒いのにわざわざ寒い思いを追加するなんて無駄でしかないよ!

 そんなことより、ムイは毛並みも万全以上にして、一分の隙なく訓練に取り組むよ!』

「……そうか。」


 合理的と言えば、合理的なのだろうか。

 なんか付いていけないのは、自分の考えが古いからだろうか。

 使われた表現にも違和感を覚えるが、力や技だけでなく、見た目でも他を圧倒しようとしていると思えば、まだ理解できるだろうか。

 何方にしても、子獅子の要望が判明した以上、さっさと応えて終わらせるに越したことはない。

 理屈はどうあれ、こうなったからには今までにないほど丹念にブラシをかけてやる。



 梳かされている間に気持ちも落ち着いてきたのか、無比刀はムフーと満足げに息を吐き、尻尾を揺らした。


「これでいいか?」

『ありがと、じいちゃん!

 やっぱり毛並みはこうでなくちゃ!』


 徹底的に梳かした結果、もはや生き物と言うより毛玉、それこそ風に乗って飛んでいきそうな綿毛にしか見えないのが、声ばかり子獅子らしくミャアミャアと鳴く。

 どうもにしっくり来ないが、本人が幸せそうなので良しとすべき、なのだろうか。


「無比刀の気合は、ブラッシングで入るんだな。」

『そうだよ。他に、何で入るっていうのさ?』


 つい、感じたままを口に出せば、無比刀は不思議そうに首を傾げたので、取り急ぎ、前例を教えてやる。


「瑞宮や八幡は『毛並みに構ってる暇はない』って、刈って欲しがったけどな。」

『ええー!? なにそれ!? 訳が分かんない!』


 兄たちの考えと要望を伝えれば、子獅子は悲鳴を上げて飛び上がった。


『ミミ兄だって、寒いの嫌いなのに!

 ハチ兄もあろうものが、毛並みを大事にしないなんて!!

 なにそれ! 訳が分かんない! ムイには、ちっとも分かんないよ!!』

「まあ、気合の入れ方は、人それぞれだから。」

『そりゃそうかもしれないけどさあ……』


 あまりの衝撃に叫ぶだけで済まなかったのか、よろめいて後ろに数歩下がった無比刀だが、価値観はそれぞれ異なると言えば、不満そうではあっても納得を示した。

 気持ちを落ち着かせようとグルグル同じところで回り、ムーと唸る。

 うん、やっぱり音の出る毛玉にしか見えない。



『ま、いいや! ムイがフワフワなのに変わりはないもんね。

 よし、まずはトヨチーに見せて、安心させてくるよ!

 その後はテンちゃんも!』


 暫く回り続けたことで落ち着いて、価値観の違いを受け入れられたのか、無比刀は兄弟達がいるはずの拝殿の方へ向かって、元気よく駆け出した。

 途中で走り込みから戻った兄獅子たちと鉢合わせ、勢い余ったのか、文字通りぶっ飛ばして行った。

 彼奴がぶっ飛ばしたかったのは、護矢(もりや)ではないはずなのだが。


 尤も、自分もぼんやりしている暇はない。

 さっさと中断していた仕事を再開し、明日の準備を終わらせねば。

 頭の隅を過ぎる一抹の不安を振り払い、それこそ気合を入れ直す。



 暫くして、ギャウギャウと子獅子達が騒ぐ声が聞こえると思ったら、群れになって駆けてきた。


『じいちゃん! ムイムイのあの毛並み、見た?!』

『凄いよ! もっふもふのむっくむくだよ!』

『ふっふーん! ムイの毛並みは、誰にも負けない柔らかさだよ!』


 落ち込んでいたはずの天祥や豊一も大興奮で、返事をする暇もなく、来たときの勢いのまま何処かへ駆けていった。

 取り敢えず、一定の効果はあったようだ。

 ついでに八幡と瑞宮の方も問題なく、ぶんぶん尻尾を振り回しながら、木登りに熱中しているのを見かけた。

 色々思うところがなくもないが、皆、より強くなろうと奮起し、どうすれば良いか考えている。その頑張りを結果に繋げられるようにしなければ。

 明日の会議でも、よく話し合っておこう。

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