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雪像。

 古来、神社とは神の御座す社であり、信仰の対象であったそうだが、現代では大地が生み出す霊気の流れや、その中心となる御神体の管理施設でしかない。

 それでも清く澄んだ霊気は純粋な願いや祈りに幸いを齎すと信じられており、形は違っても大いなる力の中心として神社は大切に扱われている。


 その神社で、雪祭りをやるのは如何なものであろうか。

 いや、作りたいなら雪だるまの一つや二つ、好きにしてくれて構わないのだが、この大きさはどうだろうか。ざっと見て、4mぐらいありそうなんだけど。

 何より、神社の管理者である自分たちに無断で作るのはどうなんだろうか。

 作られたのは当社の霊獣と同じ獅子であり、細部まで精巧に作られ、今にも動きだしそうなほど立派であるけれども、そう言う問題ではないことを製作者には分かって貰いたい。



 雪降りしきるクリスマス・イブに、近接する村の依頼で参加したイベントは無事に終わり、遊びに来ていた三峰の神狼と郵便屋の魔物達を見送ったあと、獅子達と細やかなパーティーをした。

 貰った霊獣用のケーキには大きいのも小さいのも大喜びして吠え、喧嘩にならない範囲で飾りのトナカイやサンタを取り合った。

 ひとしきり騒いでから仲良く分配し、珍しいごちそうに舌鼓を打ったあとは、何時も通り順番に温かい風呂へ入り、揃って幸せな気分で眠りに付いた。

 そして、目が覚めたら拝殿前に雪像である。

 タイミングよく振り始めた雪に人為的要因があった事は知っていたが、こんな事態に繋がるとは予想しておらず、古参の獅子、二前と一緒に溜息をつく。


「どうしようか、これ。壊すのも勿体ないし。」

『この季節です。即座に溶けることもないでしょうが、注意だけはしておかないといけませんね。』


 なにせ大きさが大きさだけに、崩れでもしたら事故に繋がりかねない。

 当社に参拝者は殆ど来ないが完全に居ないわけではなく、間もなく訪れる年末年始は流石に初詣で賑わう。

 獅子達に何かあっては困るのは勿論、訪れた人が巻き込まれぬ様、配慮が必要だ。


「しかし、加賀見の奴は、なんで相談もなしにこういうことをやるかね?」


 時折、遊びに来るように書類を配達しに来る郵便屋は、物を作るのが割と好きだ。

 安易に関わってはいけない魔物ではあるが、要望に答えてひな壇を作ったり、サンタ帽子やツリーを用意してくれる反面、思いつきで獅子達の鬣を刈ってしまったり、ペイントを塗りたくったりもする。

 そして大概、宮司で神社の責任者である自分に断らずに始める。

 この雪像もその類であろうと犯人を決めつけ、一体、何時作ったのかと只々呆れていた自分と異なり、鼻をピスピスさせながら雪像を調べていた二前が、難しい顔でがうと吠えた。


『おじいさん、これは加賀見さんの仕業ではないようです。』


 見てくれと呼ぶのに近寄ってみれば、前脚で凹みを示された。



『この小さい手の跡からして、子供です。

 それに残っている匂いが違います。先日、夜中に来た二人組でしょう。』

「あー……そう言えば、なんか今朝早く、ちょろついてる感じがしたな。」


 何日か前、深夜に子供の姿をした妖怪、座敷童子が遊びに来た。

 あまり人と交わる性質がないので、向こうから関わろうとしてこない限り、特に相手をする必要はなく、夜中に子獅子を叩き起こすなどしなければ害もない。

 故に再び気配を感じても、無視して二度寝してしまったのだが、置土産を残していったようだ。

 彼らの姿は大体3歳から5歳程度と就学前の子供で、小さいくせにこんな物も作れるのだなあと、改めて感心する。

 ただ、侵入者を見逃した結果と思えば落ち着かないのか、二前がしきりと鬣を振るった。


『知った気配だったので放置しましたが、やはり、いけませんでしたね。』

「いや、このぐらい、好きにさせといてやろう。」


 きちんと見張るべきだったと後悔し、低く唸るのを片手で止める。

 座敷童子は幸福を呼ぶ存在とされているが、死んだ子供の魂を依代に生まれるとも聞いている。

 それだけに強く咎める気にはなれず、出来る限り、好きに遊ばせてやりたいとも思う。

 今回はその規模がちょっと大きすぎるが、対応できない範囲でもない。

 安全のため、獅子たちには近寄らないように伝え、立入禁止の縄でも張っておけばいいだろう。


『ですが、勝手にこの様な真似をされるのはどうかと。』

「そうだな。

 でも、ちゃんと伝えればわかるだろうから、見かけたら言うぐらいでいいだろう。」


 縄張りを荒らされた二前は不満そうに唸るが、種族の違いで意識の範囲が異なるのは仕方がない。

 座敷童子的には大丈夫と思ったのだろう。むしろ好意で大きくした可能性もある。

 邪鬼や魍魎の立ち入りを許したわけではあるまいし、気にし過ぎだと真面目な獅子の耳の後ろを撫でてやる。

 それに何方かと言えば、気になることは他にあった。



「……しかし、あの子達、まだ地元に帰ってなかったんだな。」


 座敷童子は東北に住む妖怪であるが、向こうへ里帰りした宅配便のお兄さんと、お土産として収穫されたりんごにくっついて、此方まで出てきたらしい。

 出奔した理由は狙っていたりんごを横取りされたからと言うよりも、お兄さんの恋愛事情が大きく関わっているようだった。

 りんごの受け取り先が当社の子獅子と知って、随分がっかりしていた。

 ついでに見慣れぬ関東の暮らしぶりに興味を引かれ、暫く此方に居るようなことも口にはしていたが、先の来訪よりそれなりに日が経っている。

 観光旅行にしては滞在日数が長く、見学だけに留まってない予感がする。


『此方に来た理由が理由だけに、荒幡さんが心配ですね。』


 前回、童子たちの相手をした相方の陸奥から、事情を聞いていたようだ。

 古参の獅子もぐるりと唸る。


『なにか、余計なことをしてないといいですが。』


 座敷童子はちょっとした悪戯や会話はしても、あからさまに他者へ干渉するのは好まないと聞く。

 だが、ちょっとした悪戯で4mの雪像であれば、他のも結構な影響を及ぼすのではなかろうか。

 何かを軽く後押ししようとして、当人達にそのつもりはなくとも騒ぎを引き起こすことはないのだろうか。



 どれだけ考えても相手が相手だけに対策は疎か、推測も難しい。

 最終的に彼らの目論見通りとなれば、経過は然程問題ではないようにも思える。

 気にはなるが、取り立てて自分たちに出来ることもない。

 よし、これ以上はやめよう。


「まあ、座敷童子と言えば、幸福を齎すことになってるしな。」


 確かに状況によっては荒療治が必要なこともあるだろうし、仮にきっかけがどうであれ、最終的に丸く収まれば大丈夫なはずだ。

 多分、大丈夫なはずだ。

 付き合いが長いだけ、口にせずに留めた部分も二前には正しく伝わり、古参の獅子はぐるりと鳴いて頷いた。


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