12月24日イベント前。(後編)
「ま、皆の気持ちだけミオにも伝えとくよ。
取り敢えず、逸信のこれだけ貰ってくな。」
『ヒサ兄、よろしく伝えてね。』
ラッキーアイテムならば確かに病気に良いかも知れない。
さり気なく他の受け取りを拒否しつつ、おはじきを受け取ったヒサ君に、逸信が満足げに尻尾を揺らすのを見て、天祥が思い出したように毛を逆立て、大きな声で吠えた。
『テンちゃんのも! テンちゃんの鳥の羽根も!』
再度、煩く主張するのを押し留める。
「天祥、やめなさい。鳥の羽根には病原菌が居るかも知れないから。」
『テンちゃんが一番ミオちゃんと仲良しなのに!
それにあの羽根、引っこ抜いてやるの大変だったんだよ!』
「ちょっと待て、何時、誰にそんな乱暴なことした?」
苦労して入手した自分のプレゼントが却下されるのが納得いかないと聞かん坊主が怒る横で、一番ちっさいのはもう、別のことで頭がいっぱいだ。
背負った魚と一緒にぴょんぴょん跳ねて、横から催促する。
『ねえ、それよりお片付け終わったから、もう遊びに行って良いよね? 良いよね?』
「良いけど。」
ヒサ君が許可すると同時に、巳壱は社務所の子供部屋に飛び込んでいった。
『ミイチ、きいたんにセミの抜け殻、あげんだ!
きいたんはミイチの妹だもん。ミイチが来るのを待ってるに決まってるよ!
クリスマスプレゼント、早く持っていってあげなきゃ!』
尻尾を振り回しながら突っ込んでいくのに、今日は小さい人達も来ているのを思い出した他の子も、大慌てで後に続く。
『じゃあ、ボクのトカゲも!』
『どんぐりが一番だってー』
『ムイの毛玉のが立派。』
『だから、立派で一番なのはテンちゃんの鳥の羽根!』
揃って飛び込んだ子供部屋でびゃあびゃあ叫び、ドタバタ大きな音を立てて出てきたと思う間もなく、其々の宝物を咥え、参道の方へ集団で駆けていった。
騒がしい連中に加賀見がボソリと呟く。
「え、つまりガラクタは、うちが引取れってこと?」
『宝物だよ!』
『ガラクタじゃないよ、宝物だよ。』
残った瑞宮と陸晶が弟たちの代わりに主張するが、子獅子と人型の魔物では価値観が大いに異なる。
小さい娘が喜ぶだけに嫌だと、大袈裟に顔をしかめる郵便屋を無視し、ヒサ君が手のひらごと、おはじきを逸信に差し出した。
「一個は持って帰るけど、二個あるじゃん。
もう一つは逸信が持ってなよ。どっちにする?」
『うーん。』
赤と青の縞が其々入ったおはじきを前に逸信は首を傾げ、隣の兄弟たちをみやった。
『どっちが良いと思う?』
『わかんない。でも、女の子にあげるなら、赤じゃない?』
『ボクも赤で良いような気がするけど、じいちゃんはどっちが良いと思う?』
問われて陸晶は一般論を上げ、瑞宮は自分を見上げてみゃあと問うてきた。
きっと、良い回答をくれると子獅子たちの期待に満ちた視線を受けて、苦笑する。
「そうだなあ。
赤も可愛いが、ミオちゃんの目は青かったから、青で揃えても良いんじゃないか?」
『そっか、じゃあ、青いのをあげて、ボクが赤いのにする。』
女の子に送るなら赤が定番かも知れないが、とても綺麗な蒼緑色の瞳を思い出し、意見を述べれば、逸信は嬉しそうに尻尾を揺らして頷いた。
「よし、じゃあ、赤いの返すな。」
「その前に、ちょっとそれ貸せよ。」
早速、プレゼントしない方を返そうとしたヒサ君に、加賀見が思いついたように横から口を挟んだ。
なんだと視線が集まる中、左手を差し出しておはじきを双方寄越せと言う。
「何、兄ちゃん?」
「そのままじゃ持ち歩くのも大変だし、落とすだろ。」
子獅子や子狼が持っていられるよう、加工してくれるらしい。
一旦、ヒサ君は逸信を振り返り、子獅子が頷いたのを確認してから、おはじきを郵便屋に手渡した。
「よし。頼むわ、グレイプ。」
受け取ったおはじきを左手に加賀見が呟くと、呼ばれたように袖口から銀色の紐がスルスルと這い出てきた。
銀の紐はおはじきを確認するように、くねくねと宙を浮いていたが、巻き取るようにして赤い方を持ち上げた。
紐の先端が針のように細くなり、ぷすりとおはじきに穴を開ける。その穴を通ってからおはじきが動かぬよう結び目を作り、紐は蛇が自分の尻尾に噛み付くように丸くなると、勝手にプツリと切れた。繋ぎ目もあっと言う間になくなってしまう。
「ほら、逸信。首から下げとけ。」
『わぁ、加賀見の兄ちゃん、ありがとう!』
立派なネックレスになったおはじきに逸信は尻尾をくねらせて喜び、早速首にかけてもらうと胸を張って兄弟に見せびらかした。
『どう? 似合う?』
『いいんじゃない?』
『首周りの毛に埋もれちゃって、あんまり目立たないところが返って良いんじゃない?』
瑞宮と陸晶がふんふん鼻を動かしながら褒め、逸信はますます得意そうに胸の毛を膨らませた。
「じゃあ、もう片方も……そう言えば袋も有ったな。」
「兄ちゃん、そう言う小物を高確率で持ってるよね、男の割に。」
「小さいの相手で使うんです。残念ながら、俺の趣味じゃありません。」
青い方も同じ様に加工し、可愛らしいラッピングも施してくれる加賀見に、ヒサ君が余り感心してない様子で礼を言う。
失くさないようにしなくちゃと懐にしまうか袂にしまうか悩む人型に化けた神狼を、かばんくらい持ち歩けと郵便屋が鼻先で笑い、三匹の子獅子達は自分たちも広場で遊んでくると言い出した。
別段止める理由もなく、公民館へ向かう時間になったら呼びに行くと伝え、送り出す。
さて、予定の時間までまだ余裕がある。
お茶でも入れようと声をかければ、ヒサ君も加賀見も揃って頷いた。
子獅子達がいなくなったのを良いことに掃き出し窓を閉めれば、それだけで空気が暖かくなったような気がする。
「やっぱり、窓閉めると違うな。」
「12月だもんね。寒くないほうがおかしいけど、毛皮が有っても寒いものは寒い。」
「コタツに足を突っ込んだら立ち上がれなくなるな。」
「魔のトラップ。冬の魔のトラップ。」
「下手なトラバサミより、質が悪い。」
「そんな訳あるか。物騒なこと言わない。」
しょうもないことを言い合う二人を横から窘め、台所へ向かう。
「でもさー クリスマスだし、雪が降ればますますそれっぽいのにね。
兄ちゃん、出来ないの?」
「そりゃ、やってやれなくはないけど、氷系ならお前のほうが専門じゃないの。」
「んー 今日の天気だったら行けると思うけど。
イベント会場で降らせたら、盛り上がるかな?」
寒いのが苦手な獅子達は嫌がるかも知れないし、雪が降れば何かと面倒であるが、確かに今日ぐらいは振ってもいいかもしれない。
年格好だけは近しいヒサ君と加賀見の話し声を聞きながら、薬缶を火に掛け、時計を確認する。
お茶を飲み終わる頃には、出掛けるに丁度良い時分となっているだろう。獅子達に被せる帽子や角は、到着してからで間に合うはずだ。
クリスマスがすぎれば今年もあと数日で終わる。
思えば今年は親善試合への参加や、拾ってきた鳥の雛に三峰の可愛らしい子狼、お手伝いに来てくださるようになった不二の姫君と随分賑やかな年だった。
来年はヒサ君が正式に当社へ来ることになっている。
子獅子達も今以上に勉強するのだと張り切っているので、来年はもっと騒がしくなるだろうか。
そう考えると寒い冬にも関わらず、何だか心が温かい。
等と、のんきなことを考えながらお茶を入れて戻ってくれば、窓の外が雪嵐になっていた。
「わざとじゃない。じいちゃん、わざとじゃないよ。」
「大丈夫だ。境内の中だけだから、大丈夫だ。
公民館ではもっとちゃんと調整する。」
「……そうか。」
掃き出し窓に張り付いて、仲良く首を横に振る二人に掛ける言葉は特にない。
無駄に高位の魔物と由緒ある神社の霊獣は、下手に天候を動かす力があるから油断できない。
一先ず、ここだけと言うのを信じるにしても、出発時間は早めよう。




