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12月24日イベント前。(中編)

「水都と言えば、じいさん、新春慶賀の会、今年も欠席するんだって?」

「あー……毎年欠席してるから、申し訳ないとは思うんだが。」

「宿泊費、向こう持ちなんだから獅子達と行きゃいいのに。イベント参加キャンペーン中でもあるんだろ。」

「そうだけど、留守とか交通費とかがな。後、キャンペーンとはなんだ。」

「実際、子獅子の良い社会勉強になると思うぞ。」

「それは考えたけど、あまりに正式な場過ぎて普通に俺が行きたくない。面倒い。」

「わかる。それ、凄いわかる。」


 霊気のこととなると獅子達、特に瑞宮は鋭い。見つからないように冷蔵庫にしまえ、真ん中の苺ならぬ赤い石を外せば崩れるから混ぜて分配しろと、あれこれ言われながら箱ごと隠し、水都がらみで正月の行事について話していたら、ミャアミャア騒ぎながらヒサ君と子獅子達が戻ってきた。


「じいちゃん、兄ちゃん、ちょっと見て欲しいものがあるんだけど。」


 言いながらヒサ君が二つ、円盤状のガラス玉を差し出す。

 赤と青い縞の入ったそれらは日の光を受け、キラキラと輝いて美しい。


「何だ、おはじきじゃないか。」


 子供がいない当社には余り縁がないが、用途が知れないほどではない。

 これがどうしたと聞き返せば、人の姿をとった神狼の少年は困った様子で首を傾げた。


「そうなんだけど、なんか変な感じしない?

 悪い意味じゃなく。」

「ふむ、そう言われてみれば。」


 魔石とするほど強くはないが、霊気を纏っているようだ。

 加えて温もりを感じると言うか、何か不思議な力が宿っている様に思える。



「逸信の寝床にあったんだけどさ。イツは知らないって言うし、オレにはよく分かんないし、じいちゃんたちなら知ってるかと思って。」


 子獅子が使っている部屋の掃除中に発見されたものらしい。

 加賀見がゆっくりと目を瞬かせ、横から口を出した。


「……めずらしい。座敷童子のものだな。」


 覚えのある妖怪の名前に逸信がプーッと毛を逆立て、瑞宮がミャウミャウ鳴く。


『加賀見の兄ちゃん、それ、小さい人でしょ?

 きいたんとおんなじ、小さい人でしょ?』

「なんだ、心当たりがあるのか?」


 名前が有名だからといって、数が多いとは限らない。

 滅多に会えないのは勿論、この近辺に居る存在ではないがと不思議がられる。


「先日、それっぽいのが夜中に来たんだよ。」


 当人たちからすれば大事な理由で、地元から出てきたらしいのを目撃している。

 自分が補足すれば、他の子獅子たちも騒ぎ出した。


『あれは迷惑だったねえ。』

『寝てるときだって! 寝てる時に、本殿に来たんだって!』

『ミイチ、社務所にいたもん。ちっとも気が付かなかった。』

『ムイも。』

『テンちゃんは、気がついた!』

『でも、気がついただけじゃんー』


 好き勝手喋るのをハイハイと黙らせれば、最後に逸信が不機嫌そうにガウと吠える。



『あの子達、ボクのりんご、勝手に食べちゃったんだよ!

 折角、荒幡のお兄ちゃんがくれたのに酷いよ!』

「じゃあ、りんご代だな。そのおはじき。」


 先日、宅配業者のお兄さんがりんごの好きな逸信に、ご実家で採れたのをくれた。

 このお土産を追いかけて座敷童子が当社にやってきて、夜中に騒いだ挙げ句、りんごを食べてしまった。

 寝ているところを叩き起こされた上に、お気に入りだったお土産を芯だけにされ、温和で大人しい逸信にしては珍しく真剣に怒っている。

 困り眉毛に見える額の暗色班のせいで、あまり怖くはないものの、毛を逆立て憤慨する子獅子の頭をゴシゴシと撫でて、加賀見は鼻先で笑った。


「ま、子供のすることだから、そう怒るな。

 それに座敷童子関連のアイテムは貴重品だぞ。」

『……そうなの?』

「福を呼ぶとされる存在だからな。持っていたら良いことがある、かも知れない。」


 幸運を呼ぶものと言うのは皆、真偽のほどが曖昧で、当てに出来るようなものではない。

 うちの子獅子達も、いつぞや旅行先で福招きの技を覚えてきたが、見物人がほっこりする以上の効果は不明瞭である。

 それでも縁起物と聞いて興味が湧いたのか、逸信は不思議そうにおはじきを見上げ、鼻をぴすぴすと動かした。



『加賀見の兄ちゃん、それ持ってたら良いことがあるの?』

「あるかもな。」

『じゃあ、ミオちゃんにあげよっと。ヒサ兄、それ、ミオちゃんに渡して。』

「え、また?」


 子獅子の質問にやる気無く郵便屋は答え、ラッキーアイテムならばと逸信は新しい友達にあげることにしたようだ。

 体の弱い妹へのプレゼントとなった掌の上のおはじきを眺め、ヒサ君は難しい顔をした。


「イツ、ミオのことを気にかけてくれるのは嬉しいけどさ、自分で持ってたほうが良いんじゃないの?」


 この間、入手の難しい高品質の薬を受け取ったばかり。

 そうそう貰ってばかりはいられないと遠回しに断られるが、逸信には伝わらなかったようで、呑気にぺろりと口の周りを舐めた。


『ううん。ボク、今、十分幸せだから。

 持ってたらミオちゃんの病気、治るかも知れないでしょ。

 それにクリスマスだもん。プレゼントだよ。』

「なんでもあげちゃうね、君は。」


 欲のない逸信に加賀見が苦笑し、他の子達は目を丸くした。



 ミオちゃんは喜んでくれるかなと恥ずかしげに尻尾をくねらす逸信を見て、自分たちも新しく出来た可愛い友達にプレゼントを贈りたいと思ったらしい。

 最初にガウと吠えたのは一番小柄な巳壱だった。


『じゃあ、ミイチのセミの抜け殻も、一緒に持ってって!』

『ミイちゃん、セミの抜け殻じゃあ女の子は喜ばないって。

 いい加減、学習しなよ。』

『この時期は、なかなか見つからないんだよ!』


 自分の宝物も進呈すると言い出したのは良いが、横から燦馳に否定され、巳壱は憤慨して尻尾を振り回した。

 時期外れのレア物であると主張するも、鼻で笑われる。


『それより、ボクのどんぐりのほうが良いよ。真ん丸で大きなクヌギの奴。

 転がして遊べるし、綺麗だもん!

 じいちゃんに冷凍殺菌してもらったから、ムシムシもいないしね。』


 丸くて艶々光るどんぐりこそ至上と燦馳は尻尾をピンとまっすぐ立て、二匹のやり取りを口を開けて見ていた豊一が慌てたようにその場でグルグルと回った。


『セミの抜け殻、駄目だって! じゃあ、ボクのトカゲの尻尾も……?』

『駄目に決まってるよ。』

『そんなぁー』


 やはり燦馳に却下され、豊一はしょんぼりとその場で座り込んだ。

 落ち込む兄弟をフシッと天祥が笑う。


『皆がどれだけ頑張ったって、ミオちゃんの一番の仲良しはテンちゃんだもんね。

 それにテンちゃん、大きな鳥の羽根もってんもん。

 どんぐりやセミの抜け殻より、羽根のほうが良いに決まってるよ。』


 遊びに来た時に、沢山お喋りしたのは自分だと言う自負があるらしい。

 偉そうに尻尾を振り回すのをのんびり眺め、無比刀がひげをピクピク動かした。


『ムイは、知流お姉ちゃんがムイとミミ兄の毛で作った毛玉、あげよっと。』

『ボクらの毛はフカフカだから、立派で大きいのができたもんね。』


 末っ子の提案に、瑞宮が大きく頷く。

 時折いらっしゃる不二神社の姫君が梳かしてくれた毛で、ピンポン玉ほどの大きな毛玉が出来たらしい。

 通常の獅子とは違い、故あって全身長毛となった彼らが自慢げに胸毛を膨らますのに、陸晶がフーッと大きく息を吐いた。


『どれだけ立派でも、抜け毛を上げるのはどうかなあ。

 それより、女の子が喜ぶものって言ったら花だよ。』


 眠そうな割に賢い陸晶らしく、もっともらしいことを言う。

 皆、分かっていないと呆れた様子に、瑞宮がフサフサの尻尾を膨らませて文句を言った。


『でも、今は冬だもん。花なんか咲いてないじゃん。』

『森で柊の花が咲いてたよ。他にはボケの花とか。』

「柊はトゲトゲだし、ボケは名前が良くなくないか。」


 探せば冬でも花ぐらい見つかる。

 前足を上げて、にゃふっと偉そうに陸晶は言ったが、加賀見に淡々と指摘された。

 暫く無言になるも、子獅子はもう一度ミャーと鳴いた。


『じゃあ、川べりの水仙とか。』

「水仙は、毒があるぞ。」

『……お花って、難しいね。』


 どれだけ賢くてもまだ子獅子。爪が甘かったようだ。

 やはりプレゼント向きではないことを教えられた陸晶は頭を低くし、尻尾を細かく左右に振った。



「着眼点は良かったと思うよ。」


 読みが外れて不貞腐れる陸晶をヒサ君が慰めた。


「オレには女心とか分かんないけど、ミオは花も好きだし、多くの女の子はそうだと思うよ。

 次、リクが何かあげたい子がいたら、そうしなよ。」

『お花なんか食べられないのにね。変なの!

 ボクは貰えるなら毛玉やどんぐりのがいいな。転がして遊べるから。

 でも、一番欲しいのはカリカリ!』

『テンちゃんも、カリカリがいい!』


 フォローする側から瑞宮と天祥が色気より食い気なことを言い、それが選べるならと他の子たちも同意し始めた。

 うちの霊獣は雄獅子の姿をしているとは言え、無機物から産まれるので性別はあってないようなもの。

 番を作る習性はないが、若干将来への不安を感じる。

 ただ、巳壱には引っかかるものがあったようで、加賀見の足元にちょこちょこ歩み出ると首を傾げてナアと鳴いた。


『加賀見の兄ちゃん、きいたんもそう?

 きいたんもやっぱり、セミの抜け殻よりお花のが好き?』


 不安そうに耳を横に垂らして聞く小柄な子獅子に、青い目の郵便屋は深い溜息をついて答えた。


「きいこは……花も好きだけど、四つ葉のクローバーのがもっと好きかな。

 でも、公園につれていくとそれ以上にバッタや蝶、カマキリに気を取られる。」

『……やっぱり、お花より虫の方がいいよね!』

「時々、一緒に遊んでた友達そっちのけで追い回してるから、どうなのかと少々不安になる。後、池の魚とかにもちょっかい出して落ちる。」


 小さい人への父親の懸念は、子獅子の耳には入らなかったようだ。

 ミイチのきいたんは、ちゃんと良いものが分かっているよと尻尾を振り回して喜ぶ巳壱と、無表情で遠くを眺める加賀見の姿が対照的であった。

 種族問わず子供は好奇心旺盛なもので、生き物を厭わないのは良い傾向だと思うが、友人を顧みない程ともなれば、親の悩みに繋がらなくもない。

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