表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/299

12月24日イベント前。(前編)

 神社であろうが、仏閣であろうが12月24日は平等に来る。ひいては本日はクリスマス・イブである。

 ついでに当社は今年からこのイベントを取り入れた。

 色々思うところもあったが、もう考えない。

 周囲の評価も確認した。追加で発生した依頼もこなした。夜には村の公民館での催しにも参加する。

 準備は万全。問題もなければ、悪いことは何もしていないのだから、楽しいのが一番だ。

 しかし、日頃の不摂生が祟り、瘴気撲滅委員会なうちの獅子達に追いかけられ、施術の前にまずボコボコ殴られた郵便屋は、楽しいどころの騒ぎではないようだ。

 クリスマスだからと小さい娘にそのお守りを連れて遊びに来たは良いが、何処まで本当か、まだ殴られたあちこちが痛いと煩い。

 爪は出しておらず手加減はしていても、成獣の獅子による猫パンチは凶悪である。

 そして、叩かれる方も極悪である。主に、しょうもない方向で。


「まだ節々が痛む。どうせ叩くんなら、肩を叩いて欲しかった。」

「節々って、それ本当にうちの連中のせいか?

 あと、肩とか腰とか場所以前に、まず叩かれるようなことをするなよ。」

「それだけのことはしている自覚はある。

 逆の立場なら余計な手間や心配をかけるなって思うしな。後回しにしたところで変わらんし。」

「ならば何故、逃げ回る。

 さっさと施術を受ければ良いのに。」

「そうなんだよなー だが断る。」

「だが、ことわる!」


 黒髪に黄色い肌、160㎝程度で小柄な体格と、何も知らなければちょっと目の色が変わった只人にしか見えない郵便屋の魔物は、社務所の縁側に腰掛け、文句を言いながらもいつもの飄々とした態度を貫いた。

 久方ぶりに付いてきた娘のきいちゃんが、父親の言葉を復唱する。

 話の流れは恐らく分かっておらず、音の響きが面白かっただけだろう。フシシシと機嫌よく笑う小さい人に、同席していた当社の獅子、陸奥も嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らした。



 大人の話になぞ、さして興味を持っていないきいちゃんは、さっさと自分のやりたいことを始めることにしたようで、座っていた縁側から、よっこらしょと降りた。


「きいたん、ルーとティーのとこ、いくよ。」

「はいよ。陸奥、頼んでいいか?」

『勿論。』


 一緒に連れてきた二匹の動くぬいぐるみのところへ行くと歩き出したので、何時も通り、古参の獅子にお守りを頼む。


「ルーとティーは、きいたんがみてないと、すぐけんかするよー

 まったく、こまっちゃうよー」

『兄さんたちも、色々あるからね。』


 可愛らしいおちびちゃんは尤もらしく溜息を付いて、ハスキー犬を模したぬいぐるみ達が悪さをしていないか心配した。

 本来、ルー達がきいちゃんのお守り役のはずだが、小さい人側の感覚では立場が逆らしい。

 実際、今日は来るなり、同じく顔を出していた三峰のヒサ君に突っかかっていかれたので、きいちゃんがこういう態度を取るのもわかる気がする。


 

「なんで居んの! 三峰のヒサが、なんで咲零に居んの!」

「何だもかんだも、ないよ! 仕事だよ! 来年からはずっと居るよ!」

「侵犯行為! 縄張りの侵犯行為!」

「違うし! 許可とってるから侵犯じゃないし!」


 どれだけ愛らしく、小さいぬいぐるみの姿をしていても、ティーもルーもその正体は神に連なる古代の魔狼。

 うちの獅子たちも敬意を払い、頭を下げるが、それ以上に同じ狼系として関係が複雑らしい。

 顔を合わせた側から茶色と灰色のぬいぐるみ双方に威嚇されて、ヒサ君は正体を現す一歩手前。人型が崩れて飛び出した狼耳は完全に頭にくっついていた。


「けんかしたら、だめえ! なかよくしなくっちゃ、だめえ!」


 すぐに怒ったきいちゃんが、二匹の尻尾を引っ捕まえたが、怒られてもルーは知らん顔。ティーに至っては小さい人に吠え返した。


「きいたんは何も分かってない! 縄張りは大事なんだよ!

 仲良しでも怒る時はちゃんと怒らなくっちゃ駄目なの!」

「いや、それ以前に此処はお前らの縄張りじゃない。

 五十嵐の、っていうか、じいさんのだ。」


 毛を逆立てて怒るのを加賀見が呆れた様子で止め、一緒に遊んでこいと大きな獅子たちと纏めて追い払ってくれた。

 巻き込まれた五十嵐達にはちょっと迷惑だったかも知れないが、格上の相手と手合わせ出来る機会は少ない。良い訓練になるだろう。



「大変だったな。」

「なんなの! 加賀見の兄ちゃん、ちゃんとティー兄達にオレのこと、教えてくれてないの!?」

「言ったんだけどね。多分聞いてなかったんじゃないかと。」

「言い聞かせて! 理解するまでちゃんと言い聞かせて!」


 ブーブー文句を言いながらぬいぐるみ達が居なくなった後、さも、災難であったかのように加賀見はヒサ君を労ったが、当然、猛然と抗議された。

 神社に残った兄ほどではなくとも、気の強い方であるヒサ君が必死で抗議する姿は、うちの子獅子たちにも印象的であったらしく、やはり、ぬいぐるみ達は凄いのだと、真剣な顔で頷きあっていた。


「ったく、もう! これだから加賀見の兄ちゃんは当てにならないってんだよ!

 あと、今日は公民館でクリスマス会をやるんだからな!

 きいこを連れていくなら、ちゃんと他の用事済ませておけよ!

 オレも子獅子部屋の点検、片付けちゃうから!

 ツリーの点灯は17時からだからな!」

「はいよー」

『きいたん、また後でねー』


 ガウガウ怒りながらもしっかり予定を教えてくれるヒサ君と、年末大掃除を終わらせてくると尻尾を揺らし、本殿へ戻る子獅子達に手を振って、加賀見はプフーと笑った。


「そっくり。怒りながらも要点きっちり教えてくれる所、兄貴そっくり。」

「それ、ヒサ君本人はまだしもシズの前で言うなよ。怒るから。」

「確かにイガ達に殴られた傷が治っていない今、シズに蹴られるのは流石に辛い。」

「……そんなに痛むのか?」

「手加減されてるのは勿論、防御魔法張ったからな。体は問題ないんだが、主に心が。」

「つまり、全くの無傷ってことだな。一瞬でも申し訳なく思って損した。」


 ヒサ君の兄である三峰の霊獣頭は気難しく、言葉がきついが面倒見が良い。しかし、面倒見が良くとも口が悪く、怒ると怖い。



 触らぬ神に祟りなしと雑談を交わしている間にきいちゃんが離脱し、加賀見も仕事を思い出したようだ。周囲をキョロキョロと見渡す。


「今日は手紙は無いんだが。じいさん、これ、夜まで隠しておいてくれ。」


 素早く縁側に魔法陣を書き、割と大きめの箱を召喚する。

 周囲に誰も居ない今のうちに、見つからないよう早く隠せと急かされた。


「なんだ、これ?」

「獅子ども向けのクリスマスケーキだよ。

 イベントは19時には終わるだろ。帰った後、皆で食え。」

「マジか。」


 そっと蓋を開ければ、色とりどりの鉱石で作られたケーキが入っていた。

 霊力が詰まった魔石で作られた霊獣向けの菓子類など聞いたことがない。 

 飾りのサンタやトナカイまでが精密に作られており、一体、どれだけの価値があるのか考え、ちょっと目眩がした。

 こんな高そうなもの貰えないと言おうとすれば、先んじて分かっていたように、片手で制止される。


「大丈夫だ。手間は兎に角、材料費は掛かってないし、代金は貰ってる。」

「誰から?」


 作ったのは手先の器用な郵便屋だが、依頼を受けての事であり、金額云々は気にしなくて良いらしい。

 しかし、こんな物を貰う謂れはなく首を傾げれば、送り主は意外な方であった。



「水都のばあさんからだよ。」


 そう言って加賀見は軽く首をすくめた。

 不敬な呼び方ではあるが、水都のといえば他にいない。関東地方を治める龍族の長、竜堂家の前御台所だろう。


「どうしてそんな、」


 竜堂家は200を超える神社や部族と協力関係を結び、統制を取っているだけに、当社だけが優遇を受けるのは問題がある。

 公明正大なことで知られる龍族の長にあるまじき寄贈品に困惑するが、きちんとした理由があるらしい。


「勇がこないだやらかしただろ。あと、俺の面倒見てるお礼だって。」

「前半は了解したが、後半は自分で言ってて恥ずかしくないか?」


 結構前、前御台所の御三男に当たる勇殿が、三峰から当社への手紙を渡しそこね、不二とのダブルブッキングが発生した。

 加えて先より加賀見が文句を言っている様に、また何か無理をして瘴気を抱えていたのを獅子達が追い回して祓った。

 いつも通り材料費はさほど掛かっておらず、息子の不始末へのお詫びと、触れてはいけない魔物の管理への謝礼故に、気にせず受け取れと問題の片方から言われるのはしっくり来ないが、折角なのでありがたく頂戴することにする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ