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メリクる。(前半)

 今年も今月のみとなり、師走の言葉通りとまでは言わずとも、年の瀬は何かと騒がしい。

 具体的には、子獅子がサンタの帽子をかぶって走り回っていたりする。

 我が国の特徴として由来や理由は然程気にせず、色々緩いのは古来からであるそうだが、神社に紅い帽子はどうしても似合わない。

 ご機嫌で境内を駆け回る子獅子たちの挨拶からして、どう頑張ってもおかしい。


『じいちゃん、ジングッべ!』

『ジングッべ!』

「変な短縮しない。」


 横を駆け抜ける際に声を掛けてくるのを注意するが、何処まで効果があるものか。



 神社同士の協定により、三峰神社から手伝いに来るようになった神狼のヒサ君は、元々、五十嵐を始めとした大人の獅子たちと仲が良いことも加わって、すっかり当社に馴染んだ。

 訪れる間隔も短くなり、昨今は大体週1ぐらいで顔を出す。

 初めは何をするという括りも特になかったのだが、日が経つに連れ、鬣の生えていない子獅子をメインに相手をしてくれるようになった。

 今まで通り、五十嵐達とも絡まないわけではないものの、若い狼が子供の面倒を見る種族的な習性、小柄なので子獅子のほうが相手をしやすい体格的要因、単純に此処が一番改善すべきと判断した必要性などから、自然と役割が決まった形だ。

 彼が居てくれる間は子獅子の心配をせずに済むので、その間、自分は獅子たちの訓練に付き合えるようになった。

 週に一度であっても、自主性に任せっきりであった連携の調整や、技の歪みなどをみてやることが出来るようになって、大変助かっている。

 故に此方としては何の不満もなかったのだが、先日、ヒサ君の方から苦情が来た。


「じいちゃんさぁ、瑞宮やリクのこと、いくつだと思ってるの?」

「え、いくつと言われても。」


 そう言うヒサ君がとる人の姿は大体15歳程度に見え、まだまだ子供っぽさが残っているので、絶世の美形と言われる兄の様に他を圧倒する凄味はない。それでも顔つきだけは瓜二つなだけに、真面目な顔で眉間に皺を寄せれられると、結構な威圧を感じる。

 彼やうちの獅子達といった霊獣の成熟度は、単純な年齢だけでは測れず、判断が難しいところであるが、人間であれば何歳ぐらいと認識しているのか。

 怒っていると言うよりは不貞腐れるような言い方で問われ、何事かと思えば、いい加減、神術の訓練に入れと怒られた。


「瑞宮達はとっくに中学生ぐらいになってるよ。

 天祥とかだって小学校高学年とは言わなくとも、中学年ぐらいにはなってるよ。

 なんで神術使わせてないの? 危ないから? だとしたら、過保護だと思う!」


 言われてみれば、いつの間にやら瑞宮や逸信はレトリバーなどの大型犬ほどに成長しており、獅子たちの中で最年少組である天祥達5匹の体つきも随分しっかりしてきた。

 すぐ上の八幡と間が空いていることもあって、つい、まだまだ子供として扱ってしまっていたが、確かにそろそろ火球の一つは作れていい頃だ。


「勇のおっちゃんに子獅子も戦えるって言ったんでしょ。

 実際、そうなんだよ。ミミ太達はちっちゃい子供じゃない。術だって練習しないと。

 大体、夏場はそれこそ忙しくて構えないってんのに、今、やらなくて何時やるのさ!」

『今でしょ!』

『余裕のある冬場の今でしょ!』

「はい、ごめんなさい。」


 幾ら冬場の町中に出るような、爪と牙だけで勝てる弱い奴が相手としても、術を使えなくて良い事には繋がらない。寧ろ始めるのが遅すぎる。

 当社には自分しか神職がいないからこそ、きちんと監督できるようスケジュールを組んでやるべきで、無計画だと叱られた。



 周りで話を聞いていた白毛の子獅子達は、新しい訓練が始まると意気込み、もう、小さな子供ではないと調子に乗ってガアガア吠え立てた。


『本当だよ! もっと早くやらせてくれれば良かったんだよ!

 ボクら、もうお兄ちゃんだもん。術ぐらい使える!

 じいちゃんはいっつもボクらを小さい子供扱いするんだから!』

『ハチ兄からも話は聞いてるけど、そんなに難しそうじゃなかったよ。』

『術が使えるようになったら、格好いいって褒めてもらえるかなあ?』


 彼らにとって訓練と言えば体を動かすものであったため、単純にボール叩きや木登りの延長の感覚でいたようだが、そう話は甘くない。


「皆、なんか勘違いしてるっぽいけど、実技に入る前にまず基本が分かっているか確認、復習してからだからね。

 術符や魔石の知識も併せてテストするよ。」

「ミギャッ!?」

「勿論、基本抑えたらどんどん次に進むからな。

 宿題も出すからそのつもりでいろよ。」


 まず、座学の増加と冷たい目をしたヒサ君の宣言に恐慌状態へ陥り、揃って毛を逆立てて逃げ出してしまった。

 今までも兄獅子に教鞭を取らせ、神術について簡単に教えてはきたが、宿題やテスト等はなかったのがいけなかったであろうか。ヒサ君の白眼はそのまま此方に向けられて、非常に肩身が狭かった。


 その点、術の扱いに向いている青毛として、既にいくつかを習得している豊一と無比刀は、話の流れが見えていたようで、白毛の兄弟たちが瞬く間に姿を消しても、ミーと低く鳴いただけ。

 ぼやきはしても逃げだすことはなく、その場に留まった。


『でも、まず体力がないと駄目だって、兄ちゃん言ってたのに。』

「それはそれ、これはこれ。

 運動も今まで通り、きっちりやるよ。」

『じゃあ頑張んないと、お昼寝もブラッシングの時間もなくなっちゃう。』


 呆けたように俯く二匹の頭をぐしゃぐしゃと撫で、ヒサ君はふんと鼻先で笑うと、白い毛玉共が逃げていった方向を眺めた。


「何方にしても、オレから逃げられると思うなよ。」


 こうして境内の中で始まった凄まじい追いかけっこは、瑞宮がまず首根っこを掴まれ、陸晶、逸信と順番にその他も程なく捉えられた。



「勉強しないんなら、実技もやらせないからな。

 境内で遊ぶ、大きなにゃんこのままでいたいんだったら、好きにしろよ。」


 全員、一列に並べられた後、辛辣な言葉を掛けられた子獅子達は、お互いの顔を見ながら耳を頭にくっつけ、悲しげにミャアミャア鳴いた。

 とは言え、知識がなければ神術は使えない。出来ないままでは悔しい思いをするのは自分自身。

 大人しくヒサ君に従い、尻尾を引きずるようにして、すごすご教室代わりの本殿へ向かう弟たちの姿に、翔士と護矢が戦慄していた。


『見たか、護矢。陸晶達だけならまだしも、あの天祥が大人しく勉強しに行ったぞ。』

『降ってくる。天からお空が落ちてくるよ。』


 酷い言われようであるが、今まで教師役をしていた湊が、まず席に着かせる時点で苦労をしてきたのを考えれば、当然の反応とせざるを得ない。

 まあ、逃亡と捕獲を経由してるんだけど。



 そもそも勉強以上に天祥は仲間はずれが嫌いだ。仲良しの瑞宮を始めとした兄弟たちが皆、頑張っているのに、自分だけが机に向かわないと言う選択肢はないだろう。

 他の子も遅かれ早かれやらねばならぬ事として、子獅子なりに腹をくくったようで、ヒサ君が来ない日も決まった時間にお互いを促しながら、与えられた宿題へ向かうようになった。

 飽きっぽい子獅子達だけに何時まで続くか心配していたが、今の所、問題なく継続されている。


 気になったので少し覗いてみたのだが、単語の暗記や問題文を解くだけでなく、与えられたテーマについて調べ、発表するようなのもあるらしい。

 今日は霊気と瘴気の違いについて、深く考えたことなどないと揃って首を捻っていた。

 問題集も答え合わせまで終わらせなければならず、後日の確認テストにむけて、お互いに確認したり、問題を出し合ったりしている。

 問題集は分からないところを教え合い、研究発表は着眼点が多いほどより良いものになるとして、出来不出来はあっても、どの子も懸命に取り組んでいた。

 下手に少数に分けず、全員で助け合いながら課題に取り組ませるやり方は、団結力の高いうちの獅子達に向いているかも知れない。


『瘴気と霊気の違いって、美味しいのと不味いやつってじゃ駄目なの? 

 なんでそんな事を調べなきゃいけないのか、テンちゃんにはちっとも分かんないよ!』

『ミイチも分かんない。それ以外の違い、ない気がする。』

『ボク知ってる。瘴気が濁ってって、霊気は澄んでるから違うんだよ!』

『それは誰でも知ってるよー』


 なんか前途多難な声が聞こえるが、ひとまず自主性に任せねば。

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