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真夜中の来客。

 草木も眠る丑三つ時とはよく言うが、具体的には現在の午前二時から二時半頃に当たるらしい。

 少なくとも夜が更け、日付が代わった頃ともなれば、当社の霊獣たちも眠りに着いており、境内の中にはそれこそ風の音ぐらいしかしない。

 それでも妙な気配を感じて目が覚めた。

 これでも自分は当神社の管理を任される神職であり、御神体と契約を交わした身。神域に流れる霊気を糧とし、その変化に敏感な獅子たちほどではなくとも、地脈の流れに異変があれば、それなりに感じ取れる。

 けして加齢による寝付きの浅さが原因で目覚めたわけではない。


 よく見知っている様な、全く知らない様な何かが参道から入ってきたようだ。変わった気配と言うだけでさした危険性も感じないが、それとこれとは別である。

 参道前には基本、担当の獅子が門番に立っており、夜通し神域を見張っている。特に今日の担当は古参の陸奥と二前。彼らが侵入者を見逃すとは思えないのだが。

 不思議に思いながらも取り急ぎ、身支度を整えて見に行くことにした。

 途中で子獅子が寝ている子供部屋の戸がガタガタ鳴って、あくびをしながら天祥が出てきた。


『……じいちゃん、誰か来たの?』


 幼くとも神域を護る獅子の一匹。自分と同じく異変を感じたようだ。

 しかし眠いのか、それ以上は何も言わず黙り混む。

 昼間、あれだけ暴れまわって、睡眠不足などになれば体調を崩す。ニャムニャムと口だけ動かす子獅子に、部屋に戻るよう伝える。


「天祥、部屋に戻ってなさい。」

『うーん、』


 なにか反論しようとしたようだが、そのまま蹲ってしまったのに重ねて言いつける。


「大丈夫だから、部屋に戻りなさい。

 何かあったら、ちゃんと呼ぶから。」

『うん、わかった。』


 睡魔に囚われながらも異変に動こうとするのは、一人前に神社の眷属として責務を果たそうとしているのか、単に何かやるなら、仲間はずれになりたくないだけなのか。

 何方とも取れる子獅子の性格に苦笑して、上着を引っ掛け、靴を履く。



 外に出た瞬間、残っていた眠気は寒さで吹っ飛んだ。

 もはや今年は1ヶ月しか残っておらず、真冬の風は身を切るように冷たい。

 死ぬわ。これ、油断したら普通に死ねるわ。

 そんな物騒な考えが脳裏をよぎる。

 魔術的防寒効果もある装束を着てくればよかったと軽く後悔するが、いちいち着替えるのも面倒だ。諦めてさっさと安眠を妨害した原因を確認することにする。


 じゃりじゃりと踏みしめた砂利が建てる音を聞きながら拝殿の前を通り、当社の特徴である青い鳥居をくぐり抜け、参道の階段までやってくる。

 真っ白い大きな塊が、のしのしと上がってくるのが目に入った。

 陸奥だ。

 当社で最も大柄な獅子は、何かを二つほど背に負って、ゆっくりゆっくり階段を踏みしめて上がってくる。向こうも此方に気が付いたようで、ぐるぐると低い鳴き声と言葉の代わりに発する思念波が飛んできた。


『おじいさん、起こしてしまいましたか。』

「起こされたっていうか、起きたっていうか。」


 もそもそと動く荷物の正体はもう分かった。

 獅子の背から降り、しがみつくようにして此方を見ているのは小さな子供。


『この神社の、宮司さんだよ。』


 弟たちへ対するように挨拶しなさいと陸奥が言い、獅子の体にしがみついた子供達は真っ黒い瞳をジツとこちらに向けて、交互に喋った。


「人間の、神職。」

「でも、袴じゃない。ジャージ。」

「悪かったね、こんな格好で。」


 神職であっても、流石に寝る時は装束を脱ぐ。

 臆面なく人前に出られる格好とは確かにいい難いが、時間も時間であるし上着も着ているし、見逃していただきたい。



 正体が知れて警戒を解いたのか、子供の片方は再び陸奥の背に登り、もう片方はトントン階段を駆け上がってきた。

 そのまま挨拶するでもなく、境内の中をずんずか進んでいこうとする。


『こら、待ちなさい。走ったら危ない。』


 時間を考慮しているのだろう。低く小さい声でガオウと陸奥が静止する。

 立ち止まった子供をゆっくりと追いかけ、自分の横を通り過ぎる際に困ったような視線を送ってきた。

 軽く肩をすくめて頷き返す。

 ついでに獅子の背中にしがみついて、運ばれる子供と目が合った。真っ黒い、感情の今ひとつ読み取れない瞳。

 そのまま、すれ違っていくのを黙って眺め、溜息を一つ付く。


 何処かで感じたような気配だと思えば、思い出したようにやってくる郵便屋の小さい娘、きいちゃんにそっくりなのだ。

 何となく暗い感じがするあの子達と、いつもニコニコと機嫌が良く、元気なきいちゃんを並べて比べれば、全く似ていないと言わざるを得ないのだが、雰囲気と言うか、存在として同じだと思う。

 理論で説明できない感覚的なものではあるが、つまりはそういうことなのだ。

 大体2歳程度のきいちゃんより、外見だけなら年上のようだが、恐らく中身はそう代わるまい。

 半ば諦めて、前を行く獅子の後を追う。


 自分で歩いている子は紺色、陸奥の背にしがみついた方は紅い服を来ているが、双方、性別は良くわからない。もんぺや袴等と時代掛かった服装でもなく、何処にでもいそうな普通の格好。ただ、こんな時刻に子供が二人だけで彷徨いているはずがない。

 少し進んだところで紅い服の子も陸奥の背から降りて、手水場に走っていった。


「手を洗う。」

「神社に入ったら、手を洗う。」


 機械的に行動を報告するが如く、抑揚のない調子で呟きながら柄杓を取り、お互いの手にばしゃばしゃと水を掛け、手を洗い始める。

 ハンカチを持っていないのか、洗い終わった手をそのまま服に擦り付けて拭き、拝殿へ向かう。

 淀みなく流れるような動きに、少し慌てた様子で陸奥がその後を追った。


「お参りする。」

「手を叩く。」


 拝殿の前に立つと、お互いの動作を確認し合うように手を叩き、紺色の服を着た子が首を傾げた。


「なむなむ?」

「なむなむ。」


 相方の問いに紅い子が深く頷く。そのまま、二人揃って当然の顔で手を併せ、頭を下げた。

 いや、此処、神社なんだけど。古代に語られたような神は居ないことになってはいても、一応、此処は神社で仏閣じゃないなんだけど。

 尤も、神域への敬意を示していることには変わりがなく、子供に違いを説明するのも難しい。


 本殿の方から、やはり様子を見に来たらしい湊が顔を出した。仕草だけで部屋に戻るように伝える。

 陸奥と自分が居るなら大丈夫と判断したのか、無言で鬣を震わせ、本殿へ戻っていく湊を子供たちが指差した。


「もふい、生き物。」

「あれも、首がもふい生き物。」


 そして再び手を併せ、南無南無と拝む。

 いや、湊は真面目で面倒見のいい獅子とは言え、拝まれるような対象じゃないんだけど。



 一頻り拝んで満足したのか、子供たちは当然のように拝殿の階段を上がり、ぱぱっと靴を脱ぎ捨てて、影が滑るように中へ入っていった。


「あ、こら。」


 拝殿に続く本殿は一般の参拝客に開放していない。奥には獅子たちが休んでおり、こんな深夜に自宅と同じ様に上がりこまれても困る。

 できるだけ音を立てないよう後を追いかける。

 子供たちは廊下を通り、本殿の中央にあたる外陣まで突っ込んでいく。

 そこで何かを探すようにキョロキョロと当たりを見回した。


「どっち?」

「あっち。あっちから匂いがする。」


 何を嗅ぎつけたのか、片方が指で方向を示し、此方に構わずどんどん進む。

 向かったのは大きな子獅子たちの部屋がある方向。

 人懐っこく、人間の子供と遊ぶのも好きな彼らであるが、こんな深夜に騒がれて良い顔をするはずがない。

 一悶着起きなければよいが。

 心配する此方の気など考慮せず駆けていく小さい人の後を追う。


 部屋の入り口前で子供達は立ち止まり、無表情に顔を見合わせた。


「ここにも、もふい生き物。」

「ちいさく、もふい生き物。」

『誰? 何のよう?』


 鬣のない子獅子の中で、一番大きな八幡が低い声でグルルと唸る。

 他の子も寝ぼけ半分ながら顔を上げ、望まぬ来客を胡散臭そうに眺めている。


「いいから、寝てなさい。」

『なんなの、じいちゃん?』


 子供たちの後ろから声をかければ、不機嫌を隠さず八幡はフシッと鼻を鳴らしたが、自分が居るなら問題ないものと思ったようだ。そのまま元通り、丸くなる。

 兄獅子と自分を交互に見てから、他の子たちも頭を床に降ろした。

 寝ている子獅子達に一応配慮しているのか、足音を一切立てず、子供たちが部屋の中を歩き回る。

 途中で瑞宮のところで立ち止まった。


「もふい!」

「真っ白い、もふもふ!」

『……そうだよ。ボクはモフモフ、フワフワなんだよ。』


 先日、瑞宮に生えてきた獅子らしからぬ長毛は、やはり珍しいらしい。

 小さな悲鳴を上げて子獅子を指差し、驚く子供達に、みゃむみゃむと寝ぼけた調子で瑞宮が返事をした。


「触ったら駄目だぞ。寝ているのを邪魔されたら子獅子も怒るからな。」


 フワフワへの驚きが消えぬうちに注意をする。

 賢い霊獣とは言えども、睡眠時は意識がはっきりしないだけにうっかり牙を剥き、爪を奮ってしまい、意図せぬ怪我をさせてしまうことがある。痛い思いをしたくもなければ、させたくもない。

 危険性が伝わったのか、子供たちは無表情ながらも神妙に頷いた。

 既に寝息を立て始めた子獅子を起こさぬよう、綿飴のような毛並みをそっと触れる程度に撫で、有り難そうに手を合わせる。


「もふい生き物は、(たっと)い、(たっと)い。」

「フワフワは、(とうと)し、(とうと)し。」


 (たっと)かろうが、(とうと)かろうが、意味も漢字も同じである。

 何処で覚えてくるのか、妙な言葉遣いをするところもきいちゃんに似ている。



「この辺から、匂いがする。」

「このもふもふから、匂いがする。」

『……何? どしたの?』


 再びウロウロと部屋を歩き回り、最終的にたどり着いたのは逸信のところであった。

 真夜中に起こされて、お人好しの逸信も寝たまま耳を横に垂らし、迷惑そうに鼻をピスピスと動かす。

 丸くなったまま動かず、尻尾だけピシリ、ピシリと揺らす子獅子に、子供達はもう一度顔を見合わせ頷きあうと、寝ている逸信に飛びかかるように手を突っ込んだ。

 起こすな触るなと先程注意したのに、なんて狼藉を働くのか。

 一騒ぎ起こるのを想像して、陸奥と一緒に顔を青くするが、幸いにして逸信はジタバタ足を動かして藻掻くだけ。


『何? なんなの!?』

『イツ、煩いよ!』


 びゃあと小さくない悲鳴を上げたのをシッと周囲から怒られて、困り眉毛の子獅子は不本意そうにミャーと鳴いた。

 悪くもないのに叱責をかった逸信は災難であったが、温和な子で助かった。

 不満げに鼻に皺を寄せるのを、怒らなくて偉かったと黙って撫でてやる。その横で陸奥が駄目でしょと子供たちを叱った。


 大きな獅子に怒られて、何を感じているのかは二人とも表情からは測れない。

 ただ、然程気にしていないのは明らかであった。

 逸信の寝床から取り出したのであろう、紺色の服の子が手のひらに乗せた赤くて丸いものを、二人してジツと見つめて動かない。


「りんご、あった。」

「りんご、ここにあった。」


 30秒ほど固まった後、紺の子が呟いたのに紅い服の子が繰り返した。

 むふーと不満とも満足感ともわからないものを吐き出すのに、見ている此方も溜息をつく。


「これを、探してたのか?」


 このりんごは先日、当社を担当している宅配業者のお兄さんが、逸信にくれたものだ。

 食べられはしなくても、りんごの匂いが大好きな子獅子は子供たちを見上げ、不機嫌そうにぷしぷしと鼻を鳴らした。


『それはボクのだよ。荒幡のお兄ちゃんから、貰ったんだよ。』


 夜中に叩き起こされた挙げ句怒られて、流石に気分を害している逸信を、もう一度撫でてから寝るように言い付け、困った小さい人たちにもう一度尋ねる。



「このりんごを探して、うちに来たのか?」


 膝を折って視線を合わせれば、二人ともゆっくりと頷いた。


「とられた。」

「一個だけ、木に残ってたの、持ってかれた。

 帰る時に、持っていった。」


 彼らの言葉は片言で、何方も主語がだいぶ抜けている。

 持っていったのは宅配便のお兄さんだろう。このりんごは実家に帰った際のお土産だと聞いているが、ご自宅の庭か畑から収穫したものと思われる。

 狙っていたりんごを取られて憤慨し、取り返しに来たとするにはどうにも元気がない子供らは、何処か気まずそうにお互いの顔をみやった。


「誰にあげるかと思った。」

「嫁ではなかった。」

「もふもふであった。」

「期待して損した。」


 淡々と交互に話し、無表情なまま溜息らしいものをつく。


「聞いても答えぬ。心配である。」

「もふもふは尊い。しかし、心配である。」


 やはり、主語がないので推測でしかないが、この流れであれば実家に戻った際、親御さん辺りがいい人は居ないのかと聞くのに、答えがなかったと言ったところであろうか。

 神社の子獅子、しかも雄にお土産を持って帰るぐらいなら、他に渡したい人は居ないのであろうか。

 そんな状況を察して、自分も肩を落とす。



「なあ、陸奥は荒幡さんから浮いた話って聞いたことあるか?」

『いつも仕事中ですからね。そういう業務外の話はちょっと……

 でも、あの見た目なら僕らが知らないだけで、何かしら、あるんじゃないかと。』

「そうだな。性格だって仕事熱心で真面目だもんな。モテないってことはないだろう。」


 つい、交わしてしまった噂話に子供たちは深く頷き、お互いの顔をみやった。


「ここじゃない。」

「職場以外。」


 顔には出ない意気込みを感じ、余計なことを教えてしまったかと反省する。

 しかし、今更取り返しはつかない。


「心配なのはわかるが、荒幡さんに迷惑を掛けないように気をつけるんだぞ。」


 注意すれば素直に頷く。


「折角だから、見て回る。ここは珍しい。」

「見るもの、沢山ある。もふもふもいる。」


 ウンウンと頷きながら、真面目な顔で言う。

 先の台詞よりもヒントが少ないが、他のものも見る、ひいては荒幡さんだけに集中的にまとわりつくことはないから、大丈夫だと言いたいのであろうか。


「それにしたって、もうちょっと考えないと駄目だろう。

 少なくとも、こんな夜中に遊びに来られたら大概のところは困るぞ。

 せめて、もっと明るい時間にしなさい。」

「失敗した。反省。」

「気付かれないと思った。此処の霊獣、敏感。」


 あたりを付けて叱れば、やはり素直に頷いた。

 彼らの経験から問題ないものと判断したようだが、感知能力は種族や環境に寄って異なる。侵入者への対応も、其々の価値観や状況によって変わるので注意が禁物だ。


『僕らは討伐系だからね。でも、大概の霊獣は気がつくと思うよ。』

「うちのじいさんは、気が付かない。鈍感。」

「じいさんだから。もう歳だから。鈍感。」


 うちの獅子達は邪霊悪鬼を相手にするだけに、特に気配には敏感でなければならない。

 しかし、神域を護る霊獣であれば皆、侵入者には気を配っているであろうと陸奥が言うのに、紺色の服の子は首を傾げ、紅い服の子が尤もらしい顔で頷く。

 何処の、どの種族のじいさんだか知らないが、何だか不本意だ。

 知っているけれども見て見ぬ振りをしているということはないのだろうか。



「もう帰る。」

「また、今度にする。」


 満足したのか、単に飽きたのか。

 唐突にそんなことを呟いた彼らはタタッと駆け出し、部屋を出ていった。

 周囲を顧みない、如何にも子供らしい自分勝手な態度に呆れてしまうが仕方がないだろう。陸奥と頷きあって、後を追う。


 拝殿を出れば、参道の階段前で遊ぶようにして待っているのが目に入った。

 大きな獅子が追いついたのに、当然の顔をして背中によじ登る。

 馬代わりにされた陸奥は鬣を振るう代わりに肩を動かし、グルルと鳴いた。


『それじゃあ戻りがてら、入り口まで送ってきます。』


 門番に残った二前が、心配しながら待っているだろうと尻尾を大きく振る。


「ああ、よろしく頼む。」

『おじいさんも、早く布団に戻ってください。』


 腰を叩いて送りだせば、此方を心配するようなことを口にして、大柄な獅子は来た時と同じ様にのっしのっしと階段を降りていった。

 子供たちが交互に振り返り、手を振るのに片手で応じる。



 陸奥の姿が見えなくなったのを確認してから、あくびを一つして、社務所に戻る。

 あれは俗に言う座敷童子というものだろう。主に東北に住む妖怪の一種で滅多に人の目には触れない、霞のような存在だと聞くが、住み着いた家に幸運を呼ぶとも言われる。当社にも、何か良いことがあるだろうか。

 そんなことを考えて、鼻先で笑う。

 魑魅魍魎が活発化し、忙しい夏の最中であればまだしも、取り立てて現状に大きな不満はない。

 確かに考えれば幾らでも改善したい点は出てくるかも知れないが、欲望に限りはなく、考えるだけ不遜というものであろう。

 獅子たちが元気で、近郊が平和であれば、大概のことは何とかなるから大丈夫。

 取り敢えず、今は温かい布団でゆっくり眠れれば、十分幸せだ。



 一晩明けていつもどおりの朝を迎え、境内を掃除していると子獅子達がミャウミャウやってきた。


『じいちゃん、昨日のあれ、何だったの?』

『小さい人が、遊びに来たんだよ。』

『なんで夜中に来るのさ。』

『ムイ、ちっとも知らなかった。』


 好き勝手に騒ぐのを、ハイハイと片手で抑える。


「騒ぐんじゃないよ。大したことじゃないから。

 来るとしても明るい時間にしなさいって伝えたから、次からは大丈夫だろ。」


 その性質から一般的な付き合いが出来る相手ではないが、悪い存在ではないので、そう気にすることはない。来た時は喧嘩をせずに仲良くしなさいと伝えれば、びゃあと鳴いて揃って了承を示した。

 取り敢えず、納得した様子で彼らが去った後、一歩遅れて肩を落とした逸信がノロノロとやってくる。

 どうにも元気がないのは、夜中に叩き起こされた寝不足であろうか。


「どうした、逸信。大丈夫か?」

『じいちゃん。』


 声をかければ、咥えてきたものをポトリと落とし、悲しげにミャアと鳴いた。


『ボクのりんご、食われた。』


 一体、いつの間に。

 同じ部屋の兄弟は勿論、うちの獅子はりんごなど食べない。

 犯人は自ずと知れるが、昨晩、そんな暇も隙もなかったはずなのに。

 すっかり芯だけで、只のゴミとなってしまったお土産を見つめ、耳をピッタリと頭にくっつけた子獅子にしてやれることと言えば、頭を撫でてやることぐらい。


「大変だったな。逸信、大変だったな。

 でも、次は良いことがあるさ。」

『うん……そうだといいけど。』


 ワシワシと首周りに掛けて大きく撫で回してやれば、子獅子は小さくミュウと鳴いた。

 確か、座敷童子は幸福を呼ぶ存在であったはずなのだが。

 逸信にとっては踏んだり蹴ったりな来客であったようだ。

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