あなたのもとへ
―――ヨッシー達と別れた行也達。彼らは安土城跡地がある山をぐるりと囲むように、
雪が解けてぬかるんだ山道だけでなく本丸跡地に続く固い石段へも巨大な屏風を等間隔で差し込んだ。
この屏風は幽斎が行也達と合流する際に持ってきたもので、
行也達の手により、黒田から渡された藤のレリーフが埋め込まれたもの。色は紫。
ちなみに、わざと屏風と屏風の空間を大きくあけた部分もある。
本丸跡地の簡易矢倉の上で。黒田は頭を押さえて柵に寄りかかり。
緑と茶色の中に紫の線が引かれていく風景を見つめていた。
「思ったより早いな。さすがじゃ。」
足軽達はテキパキと設置作業をこなし、思ったより速く工事は終了。
作業が終わって本丸跡地に上ってきた行也は、黒田に訪ねた。
「この板と板の間を通らせるのが目的なら、緑や茶色に塗りつぶした方がいいんじゃないでしょうか?
警戒されて、先に屏風を砲弾で壊されてから登られたら……。」
「お前もちょっとは頭を使うようになったのう! この屏風は割れても効果があるから大丈夫じゃ。
むしろ、この屏風を意識させたい。
敵がぐるりとワシらを囲み、屏風を無視するか壊して一気に登ってくるようなら作戦A、
もし屏風と屏風の間が広い一部の区間を全員で登ってくるなら、細長い隊列の敵を作戦Bで一気に殲滅じゃ。」
少し目を細めて行也に微笑んだ黒田へ。行也と一緒に帰ってきた明智は異論を唱えた。
「作戦Bはありえないと明智は思う。敵が一列になって登るのは考えられないからだ。
この山は木々の間とか、隠れる場所がある。そこからの伏兵を考慮しながら相手も進軍するはずだろう。
細長い一列になって進軍したら、伏兵に横から挟み撃ちされた場合に各個撃破されやすくなるし、
最前列と最後尾の連携が取りづらくなる。
奴は経験が豊かな上、排他的なARE人の癖に古代華国の兵法書も読んでいるというぞ。
作戦Bはあきらめたほうが良いと明智は考える。」
「経験豊かだから逆に引っかかるんじゃよ。それにもう一つ策がある。作戦Bに持ち込むためのな。」
黒田は悪戯を仕掛ける子供のように得意げに笑うと、肩や首をコキコキ鳴らし。
紫の枝垂れ藤の指揮棒で金色の月を指した。
「逆空城の計じゃ! さて。お前達にはもう一仕事してもらう。あっちを手伝え。」
黒田の指す先には。弾丸斬をし終わって休憩している行人と、スコップでせっせと深い穴を掘る足軽達。彼らは水堀の内側に、空堀を掘っていた。
空堀は数十人が横数列に並べば体を自由に動かせる幅と奥行で、横長。深さは背が高い行也がすっぽり入るくらい。
それが完成すると。黒田はその堀の中に入って、母里と栗山が誕生日にプレゼントした扇を広げた。
「今から景気づけに黒田節ダンスコンテストをやるぞ! 太兵衛! 手本を見せろ!」
「おうよ!」
月光と黒田の下手くそな笛(信長に借りた)の音を浴び。母里は力強く槍を振り回しながら舞う。
力強いだけでなく、速く滑らかで風雅な槍捌の母里。皆は口笛を鳴らしたり、写真を取ったり、笑顔で手を叩いた。
……その十分後。安土城跡地の山の麓へ。ARE軍の金瓢箪戦車が集まってきた。
「伊達からの報告によると固まって来たようじゃな。これはありがたいのう!」
黒田は照明をガンガン浴びる物見矢倉へ、悲鳴を上げながら震える新人の足軽二人と立ち。
着物に小型マイクを付けて黒田節を歌う。さらに扇もぱっと開いて足軽達と舞い始めた。
それを見た行也達は堀の中に隠れてそわそわしながら三人を見守っていたが。
細川はイライラして舌打ちをし。友樹は同情の眼差しを送った。
『突かれた鐘のように小刻みに震える弱弱しい足腰! 粥に手を伸ばす病人のような不安定に揺れる手!
回転寿司で見かけるやっすい白身のように生命力も気品もない無い真っ青な顔!
裏返った悲鳴のような歌声! 全てが無様で見るに堪えないッ!』
『かわいそうに……一番気弱そうな人達だったのに……。こんな命懸けの罰ゲームをやらされて……
それにしても僕も行也君達も、特に太兵衛さんは必死に代わると言ったのに、
なんで黒田さんは拒否したんだろう? とにかく無事だといいんだけど……。』
首を傾げた友樹は、気遣うように足軽達を見上げた。
その視線の先には、鬼教師と生徒…足軽達。
「もっと大きな声で! もっと大きな動作で! お前達は戦士なんじゃぞ!! もっと頑張れ!」
「すすすみまふぇん」
「ごごっごごごめんなさい」
かわいそうな新人足軽。彼らは黒田に怒鳴られ、裏返った声で黒田節を叫んでいたが。
「ぎゃああああうぇえふぁえふぁえふぇふぁ!」
「もういやであああああああああああああああああああ!」
小さな砲弾が水堀の数メートル前に落ちると。彼らは高い矢倉からロープでするすると素早く降りて脱出した。
そんな彼らを見て。黒田は腹を抱えて笑った。
「中々やるじゃないか。これからもがんばるんじゃぞ。」
そしてその一分後。屏風を破壊しながら様子を伺っていた金色の瓢箪戦車は。
アクセルを踏んだように加速して山を登りはじめた。
頭だけ出して、戦車と水堀の内側の空堀の自分たちとの距離を見ていた明智は叫んだ。
「立花殿! 田中殿! 行人殿! 今だ!」
「戦国一〇八計・二神を継ぐ者!」
「島津弾丸斬! 連射!」
巨大な風の弾丸数発と雷を纏った巨大な石槍は。雄叫びを上げて高速回転しながら大地を抉り進み。
空堀を突き破ってその先の水堀の一部も破壊。
それに勢いよく押し出された冷たく透明な帯は。木をなぎ倒し。土を押し流して土砂崩れを起こす。
「よし!」
物見矢倉の上からそれを見ていた黒田は小さくガッツポーズをした。
化け物と化した木や土に襲われ。瓢箪戦艦はミルフィーユをハンマーで割ったように崩れ。
小さな金の小判型に分解した。
土砂で回復の間も与えず一気に押しつぶす。または最上の技や今川の技の様に、瓢箪戦車を光合成などができないように土で覆って窒息させる。それが黒田の作戦Bであった。だが。
何故か黒田の脳裏に嫌な映像が浮かんだ。……ヒデヨシは。全ての戦士の技が使える最強の兜である。
さっき見えた部隊は囮で、もし鍋島の兜の技『葉隠れ』を使って真後ろからこっそり攻められたら?
上空からヘリで情報を送ってくれている伊達からも、見張りの足軽や援軍で駆け付けた森長可、山県からも葉隠れ部隊らしき報告は来ていない……人の気配や不自然な動きをする塊は見えないし感じないと彼らは言う。
だがAREは歴戦の猛者。葉隠れを使用し、気配を消して背後を狙っていたとしたら?
これ見よがしに攻めてきた奴らが囮だったら?
黒田の脳裏に、幾つもの考えが波紋のように広がり、不安も重なる。
「まぁ念には念をいれるか。背後にも作戦Aの準備はしてあるがな。
明智殿は太兵衛と行也と足軽を数十人連れて、キチガイの援軍に回ってくれ。」
「森殿の……。」
少し顔が固く暗くなった明智へ。黒田は信長から預かった、軍の統率権を示す小さな刀を放り投げた。
「森はキチガイじゃが信長殿の命令は絶対に聞く。……ワシは明智殿に背後を守っていただきたい。
お主を信頼しておる。大事な仲間じゃ。のぅ、細川殿!」
「単なる嫌いな同僚ですッ! 大事なんかじゃありません!」
ラーシャは細川を見て素直な笑みを溢した。
「…気は合わないけど一応仲間だと思っているそうデス。」
「……フン!」
明智は少し水を湛えた目で微笑み。足軽と行也達を引き連れて、長可達の応援に向かおうとした……が。土砂に埋まった筈の瓢箪戦車がまた現れたという足軽からの報告、そして行也の言葉にはっとした黒田に引き戻された。
「そう言えば、AREの総大将は自伝を読まれていることや自分が全部の戦士の技を使えることを俺達が知っていることに気が付いているのでしょうか。」
AREの総大将は、自分が古代華国の兵法に詳しいこと、戦士の全ての技を使えること、
の二点を知られていることを逆手に取ったのだ。
ヒデヨシを明け渡した張本人の本多博士が海底日本側に付いた時点で、
彼らは自分たちの情報が知られていること前提で作戦を立てていた。
AREは黒田の目の前でわざとやられ。正面はもう大丈夫だから、葉隠れでこっそり攻められないように、背後にも兵力を割こう……と黒田が考えるように誘導した。
気配を感じないという長可、山県、伊達達の報告を信じるべきだったのだ。
それに気が付いた彼は、背中に冷たい氷を押しあてられた気がしたが。
物見櫓の上から急いで指示を飛ばした。
「定軍山じゃ! 下手に人数を分けてはいけなかった! こちら側に戦力を集中する!」
走る足軽。それに連れられてくる援軍。そして。
先程より二回り小さくなった瓢箪戦車が紫の壁の間に入り。
物見櫓まである程度(明智が知らずに引かされた線)の距離まで引き付けた時。
黒田は枝垂れ藤の指揮棒の表面を刀で削いだ。指揮棒はバチバチ光る糸を纏い出す。
「戦国一〇八計・レジェンド・鳥取城飢え殺し。」
黒田はそう叫ぶと。指揮棒を思いっきり金瓢箪戦車の方向へぶん投げた。
空中から降り注いだ指揮棒の藤の花が張り付いた瓢箪戦車は。
藤の花のレリーフの屏風の破片を磁石のように引きよせた。
さらに。その破片は瓢箪戦車を養分にして、どんどんどんどん膨れ上がっていき。破裂。
紫の破片の下には。粉々になった瓢箪戦車。さらに、その下敷きとなったARE軍兵士の手足が見える。
「待て! 様子を見ろ!」
一瞬目の前が真っ暗になって膝をついていた黒田は。鼻血を拭いてよろよろと立ち上がり。
突進しようとした長可や細川達をありったけの声で留める。その数秒後。
金色の角ばった瓢箪型のタワーが地中を突き破り、黒田達の群れと下敷きになったARE軍の兵士達の間に建った。
「何だよアレエエエエエぇ! ぶっ壊してやる! 邪魔なんだよォ!」
「待て! うかつに突っ込むな!」
珍しく止める側に回った行人は。近くに居た細川と一緒に長可の白装束を思いっきり引っ張った。
「オメエエエエに言われたくネエーよォ!」
「普段無茶する行人すら躊躇する程、あの瓢箪タワーは危険だということだッ!」
長可は細川の言葉に、それはそうだな、と納得して素直に引き下がり。一緒に瓢箪タワーを見上げた。
…異変は直ぐに起こった。月の光に照らされた二人の視線の先の瓢箪タワーに、にょきにょきと太い金色の筒が数本生えてきたのだ。
「全員逃げろ! とにかく逃げろーーーーー!」
物見櫓の黒田は法螺貝を使って叫び。皆は散り散りになって逃げる。
「先生!」
「殿!」
行也と母里が黒田を担いで物見櫓から降りた十秒後。物見櫓は跡形もなく消えていた。
金色の筒は瓢箪型の砲弾を連射。安土城跡地は月面の様になった。
一方。友樹はラーシャと一緒に走っていたが。背後の声に振り向いた。
「助けてくれー! 足が……。」
自分より少し幼いその声を聴いた友樹は、無意識に走り出していた。
「駄目デス!」
「大丈夫だから! 先に行ってて!」
「お馬鹿サンデス!!! モウ!」
普段よりめちゃくちゃ走るのが速い友樹を慌てて友樹を追い掛けたラーシャは。
足から血を流す少年兵を背負って戻ってきた友樹を見て、長い息を吐いたが。直ぐに凍り付いた。
大砲が、こちらを向いている。
「友樹サ……」
ラーシャが口を開いた時。薄桃色に光る何かが瓢箪タワーに降り注いだ。流星群のように光り輝くそれは、瓢箪タワーから生えた全ての砲台を破壊しつくし。瓢箪にもヒビを走らせる。
ラーシャは爆風に巻き込まれて倒れた友樹に追いつくと。友樹の背中にのしかかっていた少年をひっぱがし。重しが取れて立ち上がった友樹と、二人で彼を担いで早歩きした。
「瓢箪タワーは……。」
ラーシャは一度だけ恐る恐る振り返ったが、瓢箪タワーは静まりかえって動かない。
「い、一応止まっているみたいデス……」
「大丈夫か!」
様子を見に来た足軽達に少年兵を引き渡すと。彼らは走り戻ってきた行人達と合流し。
安土城跡地の地下シェルター…昔の公園の地下シェルターに逃げ込んだ。
信長から地下シェルターの存在を聞いていた黒田は、行也達、足軽達、援軍に来た者達に、
何かあったら(退却の合図をしたら)地下シェルターに逃げ込もうと言ってあったのである。
「ラーシャ君、迷惑をかけてごめんなさい…」
「避難の際は戻るなって学校で習わなかったんデスカ! 死にたいんデスカ!」
頬をぷくっと膨らませて怒るラーシャに頭を下げ、歩き出した友樹は。
シェルターの奥で泣き崩れている立花達を見つけた。
「どうし……ヨッシー!!!」
友樹は血だらけになったピンク色のモモンガを見て、皆の輪をかき分けた。
―――時間は遡り。金瓢箪タワー地中から生えた時。
ヨッシーは本部の巨大スクリーンを見て。真っ青な顔でペタン、と座り込んだ。
黒田の兜には小型カメラを取り付けてあり。そこから入った映像などの様々な情報がスクリーンに映っていたのである。
「大友さん、大丈夫ですか?」
「うん……。ありがと……。ちょっとトイレ行ってくるね…。」
同じように画面を見て真っ青になっていた光紀に助け起こされた彼女は、
涙をぬぐってたちあがると。騒がしくなった本部…信長の家からこっそり走り出た。
「おじょうちゃん! 危ないよ!」
彼女に声を掛けた、見張りの足軽の首元を見たヨッシーは。咄嗟に言った。
「お祈りがしたいのー。安土城ってどっち方向?」
「えっと……あっちかな。」
「ありがと! 本当にすぐに戻ってくるから心配しないでー!」
足軽がさした方向へ走って行ったヨッシーは。十字を切って跪くと。両手を組んで目を閉じた。
「友ちゃん…ムネリン……戸次…高橋も…ユッキーも…アニーも……千代ちゃんも…玲美ちゃんも…石ちゃんも…吉乃ちゃんも…みんなも…いままで…ありがとう。大好きだよ。田中殿、黒田殿、後はよろしくね!」
彼女は目から落ちるものも拭わず。早口で言った。
「神様。私の大好きな人達をどうかお守りください。…戦国一〇八計・幸福の鐘。」
彼女の体は薄桃色に輝きだす。何となく嫌な予感がした光紀、顔色の悪い光紀を心配して追いかけてきた栗山の目の前で。ヨッシーは薄桃色の巨大な鐘と化し、ロケットのように空へと舞い上がった。
「大友さん……。」
「大友殿……。」
茫然としていた二人だが…安土城跡地方向へ走っていく薄桃色の光を見て事態を悟り。
目頭を押さえて本部へ走った。
……砲台が壊れ、瓢箪に罅が走ったのは。ヨッシーが分身して体当たりしたからであった。
血だらけになって、虫の息の彼女だったが。一生懸命止血する友樹達、そして泣きじゃくる立花を見て口を開いた。その口からも、血が溢れだす。
「喋るな!」
思わずそういう友樹に力なく微笑むと、ヨッシーは立花と田中を目で呼び寄せた。
「とのらしいこと……できな…ご…めん……たなかど…の…どうか…ムネ…リ…ン…は…ぬけた…ところ…やむぼ…な…とこが…ある…から…ちゅうい……」
「わかりました! もう喋らないでください! すぐに医者に……」
涙があふれ出した田中の言葉を、ヨッシーは本当にごくごく微かに目を動かして否定し。
続いて友樹を見た。
「あ…なた……は…じ…ぶ…で…おも…う…より…やさ…しく…つよい…ひと…です…なきわ…め…いて…も…あきらめ…ない…い…つよ…い…ひと…で…じしんを…もっ…て」
彼女はそういうと、持ち上げかけていた手をどさっと落とし。目を閉じた。
とうめいなかたまりと化した彼女を抱え。体中から色素がぬけたような友樹、泣き出す皆。
時が止まったかのように静まった中。黒田は目を擦って口を開いた。
「大友殿は気の毒じゃったが。ワシらには悲しんでいる暇はない。瓢箪タワーを…」
「……黒田さんは知っていたんですか。」
掠れ声でそういう友樹に。黒田は平然と答えた。
「そうじゃ。ワシがいざとなったら犠牲になってくれと頼んだ。」
「…ヨッシーはまだ中学生の女の子なのに! なんでこんなことをさせるんですか!
本当は心が弱いことを黒田さんは知っているはずなのに! 矢になった城井さんを見て怖がっていたのに! 何でですか!!!!」
泣いていた行也達は、友樹の鬼のような形相、激しく厳しい剣幕に驚いて顔を上げた。
手が滑った立花に熱々のラーメンを頭からぶちまけられても、行人がぶん投げたものが顔をかすっても、黒田や行人に無神経なことを言われても、ヨッシーにパシリにされても我儘を言われても、
疲れている時に島津からしつこく絵日記メールが来て返信を強要されても、
客から見当違いないちゃもんをつけられても、
苦笑したり、平謝りしたり、きちんと対応するだけで決して怒ったり声を荒げたことのない彼が。
こんなに体中を怒りに染めているのを皆は初めて見た。
だが。黒田はそれに構わず。淡々と続けた。
「女児だろうがジジイだろうが関係ない。大友殿も戦う宿命を背負った武士じゃ。
命を懸けてもらうのは当然だ。それより…」
「なにがそれよりだ!!!!!! どう考えたって怖がっている子供に自爆を強制しやがってーーーー!」
目じりが切れる程かっぴらいた目と血管が浮かぶ手で黒田の着物の衿口を掴んだ友樹を。
行也達は慌ててひっぺがし。母里は黒田をかばうように友樹の前に立って、赤い目で彼を睨んだ。
「…殿だってこんなことをしたくないのも苦しいのもお前だって知ってるだろ!!!」
「知ってるけど許せない!」
母里の怒号にも敵をぶっ刺すような瞳にもひかず。友樹は思いを続けた。
「軍師ならなんとかできなかったんですか。いつも自分の事を天才軍師だって言ってるじゃないですか!!!」
言い終わった瞬間。友樹は取り返しがつかないことを言ってしまった…と両手で口をおさえた。
…黒田は真っ青でやつれた顔をしている。彼もずっと命を懸けているのだ……友樹はやっと気が付いた。
「申し訳ありません。言いすぎました。黒田さんだって命を懸けていることは知っているのに……。
元々は僕が誘拐されたから……残るって言ったから…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめ…」
泣き崩れて何度も頭を下げ続ける彼の肩を黒田はポン、と叩いた。
「キツイのう! でもお前の言う通りじゃ。ワシは軍師として力不足だった。それは申し訳ない。
…でもワシに言い過ぎたなって思うなら…大友殿が言っていたように…強い人間なら…立ち上がって欲しいのぅ。」
友樹は、ヨッシーの最後の言葉を思い出した。
『貴方は自分で思うより優しくて強い人です。泣きわめいても諦めない人です。自信を持って!』
かいかぶりすぎだ…そう思った彼だが。行也と黒田にささえられ。なんとか立ち上がった。
「おちこむのは……あとに…しま…す。たたかいにかってから…」
そのしゃくりあげながらの小さな鼻声に。行也達は強い意志を感じた。




