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戦国DNA  作者: 花屋青
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生き残る義務

実季と友樹の思い、そして立花の決意を聞き、このままAREに利用されたまま滅びるのは、海底の日本人が気の毒だと思った行也達。

そして和平を結ぶのにここで恩を売る必要があると考えた黒田と小早川達。

彼らは幽斎や外交省の長官の助けを借りて、信長達と停戦。

共に海底日本の人々と戦うことにする。

一方、年末の特別番組が見たい霧沢、

春彦と長宗我部達に逃げるよう懇願されて気絶させられた海、輝、

その海と輝を任された高木、避難用潜水艦龍造寺船を使用できる龍造寺は。

別行動をとって避難することにした。

時間は遡り。輝、海、高木、霧沢、龍造寺が牡丹港に着いた頃。

「何あれ!!」

 海が差す先には。小さな金瓢箪が深紺の海に浮いていた。

「ま、まさかARE?」

 海と、輝を背負った高木がその瓢箪に気を取られている間に。霧沢は黒田に電話。

 そして龍造寺は風呂敷を開いて大きなアヒル……龍の船を出すと。海に叩きつけた

「龍造寺船。」

 スフレのようにもこもこ膨らんで巨大化する龍造寺船。濃紺色で夜闇に紛れた船体に、アヒルの三白眼だけがギラリと光る。

「……早く乗れ…。」

 海と、輝を背負った高木、霧沢が上の蓋を開けて潜水艦に入った後。

龍造寺は背後に気配を感じ。体を左に倒した。彼の斜め前のコンクリートに、湯気を放つ小穴が出来る。

「お、おいその船は潜水艦か? よこせ!」

 腕や足に包帯を巻いた男達八人は、龍造寺を半円型に取り囲む。

彼らの銃を構える手はガクガクと震え。血走った目も視線が定まらない。

おまけに何かに怯えるようにぶつぶつうわごとを言いだす始末。

うわごとの内容、さらに腰に透明な兜をぶら下げていたことから、

龍造寺は彼らが信長軍の脱走兵だと解った。彼は上蓋を閉めながら言う。

「…これはただの船だ。」

「そ、そんなわけないだろ! その潜水艦をよこさないと、う、撃つぞ!!!」

「…お前らのような腰抜けどもに投資などせぬ……!」

 龍造寺は大きな三白眼で男達を冷たく見つめた。その気迫に男達が一瞬たじろいだ、その時。

「龍造寺さん!」

 ドアをバーンと開け。高木、続いて霧沢がびっくり箱のように飛び出した。

彼等は艦内にあった消火器を噴射。白い煙が辺りを覆う。

「アアアアア!」

 さらに。高木と霧沢、続いて出てきた海は艦内にあったモップの柄で流れるように脱走兵をぶっ叩く。

「あと三人か!」

「うわぁぁぁ! 来るな!」

 脱走兵達は半狂乱になって叫び。体をガクガクさせながら振り返った高木の頭上へ弾丸を放つ。

余裕で一発目を避けた高木だが。少し遅れて放たれた二発目の銃弾は避けきれなかった。

彼は咄嗟に体を捩るが。鉄の凶器は肩を掠め。灰色のコンクリートに赤く崩れた円が落ちる。

「高木さん!」

 海達が薄くなってきた霧をかき分けて高木の元へ向かった時。その脱走兵の背後から低音が響いた。

二人の脱走兵は前のめりに倒れる。高木が自分を撃った男を倒したので、脱走兵は全員冷たいコンクリートに突っ伏した。

「大丈夫ですか!」

 銃を閉まった紺の制服の男達は。脱走兵を霧沢達と縛り上げた後、輝に手当てされている高木を見た。

「ありがとうございました。」

「一応、病院に……あ! 高……」

 彼らは警官手帳と書かれた携帯端末に送信された『要注意リスト』から高木を見つけたが。

輝の不安そうな顔、そして今はもうタコの無い自分の手を見つめて、くるりと背を向けた。 

「早く立ち去って下さい。」「サインくだ……いっ! 先輩いたいです!」

 高木は警官達の背中に頭を下げると。海と輝を潜水艦に入らせた。

「龍造寺さん、霧沢さんも速く!」

「……さっさと入れ怪我人…。」

 龍造寺が高木を掴んで艦内にそっと投げ入れた時だった。

「…気付かれたのか? ……。」

 金色の小さな光が黒い海に落ち。白い水柱が立つ。その余波で船はぐらぐら揺れ始めた。

金色の瓢箪の姿も、その砲台から放たれる金色の光も、水柱も、ザバァという水の音も段々大きく近くなってくる。それを見た霧沢は珍しく硬く緊張した顔で目を見開き、彼しか聞こえない声で呟いた。

「義兄上……。」

「……さっさと入れ!」

 首根っこを掴もうとした龍造寺の手を避け。霧沢は首を振った。

「…私はヤクザだ。身内以外との約束は守らない。お前こそさっさと……。」

「……某こそ悪人だ……約束は守らぬ……むしろ裏切る……。」

 二人は一瞬、口の端だけ上げて笑うと。様子を見に来た高木に視線を移した。

「どうしたんで……」

「……高木に任せる…。」

「え? うわっ!」

 蓋を開けた高木にリモコンを投げつけると。

龍造寺と霧沢は高木を突き落として蓋を閉め。龍造寺の家紋柄の分厚い緑色のテープで密封した。

「……伝説の船よ! 北海合衆国まで駆けて行け!」

 龍造寺は思いっきり下方向に張り手をし。潜水艦は下に沈んで行った。

「龍造寺さん! 霧沢さ……」

 艦内に落っこちた高木、そして彼をキャッチしようとした海と輝は。

急に沈み出した船でバランスを崩してずっこけた。海は尻をさすりながら窓を見る。

「魚がいる! 沈んでる! 浮上ボタンを探さなきゃ!」

「急がないと!」

 海と輝は船内をくまなく探す。そんな中、高木は落としたリモコンを拾った。

浮上ボタンを押そうとした彼だが。それを止めるような声が心に再生された。

『どうかどうかどうかどうか輝と海を北海合衆国に逃がしてつかぁさい!』

『どうか宜しくお願いします! もう大事な人達に先に死なれたくありません!』

『辛い役目を頼んで申し訳ありません。ですがどうか宜しくお願いします。』

 泣きながら自分の手を握って頭を下げる春彦と長宗我部。吉川、小早川、そして涼太の珍しく真剣な眼差し。別行動前の彼らの必死な姿が、彼の心に焼き付いていた。

『……高木、後は任せた……。』

 このリモコンは少年二人の命。例え卑怯でも。恨まれても。受け止める。絶対に守って見せる。

高木は唇を血が出るほど噛むと。リモコンを置いた。

「あった! 何かに捕まって!」

「だめだ!」

「え?  急がないと二人が危ないよ!!」

「そうです!」

 抗議する二人に高木は毅然と言った。

「生き残る義務が君たちにはある。」

 二人に責められること、泣いて嫌がられることは覚悟していた高木だが。

帰って来たのは意外な答えだった。目があった輝と海は高木に近付き。鼻声で言った。

「ごめんなさい。」

「え?」

「高木さんも辛いのに……。」

「……目が赤いし、口から血が出てる。高木さんは悔しい時に血が出るほど唇をかむくせがあるって、

友樹さんが言ってた」

「情けない……すまない…」

 三人は体がからからになるほど、泣き続けたが。しばらくして海は強張った笑顔を見せた。

「ニセ紅白、録画してあげなくちゃ!」


ーー龍造寺船が海底に消えて少しして。

金色の瓢箪戦艦は海岸から二メートル程の位置でピタリと止まり。大砲をバンバン放った。

大砲は一つだけだが破壊力が凄まじく。

信長軍の戦車も海岸沿いの建物はモナカやウエハースや発泡スチロールかと錯覚する程、

バリバリサクサク壊れていく。

葉隠れ……巨大なコンクリート色の葉に隠れていた霧沢、龍造寺、そして警官達と脱走兵は。

巨大な葉を掲げ持ちながら港岸からソロリソロリと離れていく。脱走兵は泣き出した。

「死にたくないイイイイイイイイ!」

「こわいよー! もうおうちにかえりたいよー!」

「お前ら人を殺そうとした癖によく言うな……」

 警官は呆れると。甲冑姿の龍造寺を見た。

「何で上陸しないのかな?」

「…水陸両用ではないのか…それとも海でなければいけない事情があるのか……」

 大砲は首ふり扇風機のようにくるくる回りながら彼方此方を撃つ。

同じく甲冑姿の霧沢は電話をしたまま。双眼鏡でその瓢箪型の戦艦に背後から立ち向かう戦艦を見た。

「…チャレンジャーだな。」

 瓢箪艦隊はわざわざぐるりと百八十度回転してから砲撃を放った。戦艦はそれを避けて砲弾を放つが。砲弾は瓢箪戦艦を凹まませただけ。その戦艦は急に不規則な動きをした後。砲弾が当たって撃沈した。

「…撃沈したか。気の毒に。」

「げげげ撃沈!」

 気まり悪そうに顔を合わせると。また泣き出す脱走兵。彼らはピタリと足を止め。

自分の両手を組んで目をつぶり。ぶつぶつ祈り始めた。警官達も十字をきって祈りだす。

霧沢は黒田に報告をしながらそれをフシギな目で見つめたが。

もっとフシギな出来事を見つけておお、と感歎の声をあげた。


―――黒田は霧沢の報告を聞いて、小さく唸った。ちなみに携帯端末はスピーカーモードなので全員に聞こえるようになっている。

「なんで上陸しないんじゃ? それから、信長殿の軍は空軍はないのか?」

「……無い。元々少ない上に今は海外派遣中だ。一応伊達中佐達がが空から偵察して、情報を送ってもらう手配はしたが……爆撃機能は無い。」

 海底日本は天井のドームが割れたら大変なことになるので、基本的にドクターヘリなどを除き、空中の交通機関にはあまり予算を割いていない。白いため息で空間が満たされ。そのため息を吹きかけたように水堀の闇色の水もさざめく。少しして、喧々諤々の軍議を始めていた黒田達の耳へ。

戦場リポーターの霧沢から再び通信が入った。どこかウキウキした彼の声に、

皆は少し希望を見出したが。神崎だけは頭を抱えた。

「…こちら戦場リポーターの霧沢だ。ちょっとファンタジーな事態になった。

近くの警官に端末を借りたので、そこから動画を送る。」

「もう報告はいいから避難しろ! 十分じゃ! 信長殿達とも停戦したから安心して避難しろ!」

 慌ててそういう黒田を他所に、霧沢は淡々と語る。

「…坂崎弟と魚住は避難させたから安心しろ。私と龍造寺は桜港に向かう。ちなみに瓢箪艦隊は安土城方向に向かっているのではないかと警官たちが言っていた。」

「は? ちょっと待て!」

 安土城から持ち出した八角形テーブル型PCに映ったのは。

金色の瓢箪戦艦が数十個、さらにその真ん中に瓢箪タワー付きの戦艦が浮かぶ牡丹港であった。

しかもその瓢箪はずんずん上陸し始めた。

船底にはキャタピラーが生えて、生き物のように滑らかに動く。

「ひょーたんまつりだアアアアアハハハハッハハハハッハハー!」 

「モウヤダアアアアアアアヨーーーーーーーーーカミサマー!」

「仏様ーー!」

 怯える足軽達(新人)は泣きながら肩を震わせ。PCから目を逸らした。

官兵衛も大量に湧いた金色の瓢箪に口をぱっくり開けて見つめていたが。また泣き出した足軽達に喝を入れた。

「こら! 泣いてもいいけど画面からも現実からも目を逸らすな! 

この天才軍師が策を練ってやるから! お前達もちょっとはがんばれ! 

まだ敗北と決まったわけではないんじゃぞ! 自分自身の為に戦え! ここが正念場じゃ!」

「自分自身の為に……。」

 涙を拭いた足軽達へ。黒田は明るく笑って言った。

「そうじゃ! このピンチを乗り越えれば新年じゃ! 

年を越す前に面倒なことはぜーんぶ片付けて良い年を迎えるぞ! ちぇすとー!」

「ちぇすと?」

「……ある僻地の戦闘狂集団の掛け声じゃ。敵の真正面を突っ切って退却するようなむぼ……勇ましく誇り高い戦士達のな。」

 行人の背中の十文字を黒田は寂しそうに見つめた。そんな彼へ。遠慮がちに新人の足軽が声をかけた。

「なんじゃ?」

「あの……失礼なことを言いますが、俺の死んだばーちゃんが、自分のことを賢い賢い言う人に限ってあまり頭が良くないって言っていました……。黒田さんは本当に天才なんですか? 

天才なのに何でこの状況でわざわざ戻ってきたんですか?

死にに戻るようなものじゃないですか。こっちの日本に関係のない人なのに。」

 黒田はあどけなさが残る顔のその足軽の側に寄り。ギリギリ聞こえる程度の声で言った。

「一見すると損なことが、利益に繋がることもある。それに、最善を尽くした後は自分は天才だから大丈夫だと自分自身を思い込ませることも大切なんじゃよ。」

 そういうものなのか? と考え込む足軽に背を向けて、黒田は再びPCモニターを睨んだ。

「戦車の攻撃もあまり効いていないようじゃな。」

 数十個の金色の瓢箪は、あらゆる建物、戦車を薙ぎ倒し。安土城へと向かってくる。

そんな中、家康に連れられて白衣の美しい女性が入って来た。

「……本多博士か。」

 家康に連れられた本多は。彼と一緒に銀髪の頭を深々と下げた。

「この度は監督不行き届きでした。申し訳ありません。」

「徳川少将は関係ありませんわ。この度の事は全て私の独断による失態です。

事態に収拾の目処が立ちましたら、切腹でも銃殺刑でも何でも受け入れます。

ただ……一つお願いがございます。どうか、信忠様の為の予算は削らないで下さい……。どうか……。」

「沙汰は追って下す。今は事態の収拾に集中せよ。……信忠の件は考えておく。」

 信長は伸びきった庭の雑草を見るような冷ややかでうんざりした目を本多に向けたが。

本多はそれに動じず、様々な情報が映るPC画面を見て淡々と解説を始めた。

「織部の土で作られたものは凄まじい再生力が有ります。でもその再生力は無限ではありません。

休む時間が無いと細胞が回復しないのです。従って短期間に増殖するほど、一つ一つは脆くなります。

ですが、最上大佐の報告によると艦隊は背後のポンプで海水を組み上げていたそうですね。

織部の土のエサの元素……特に金属元素を補給していたということなので厄介ですわ。」

「ARE軍の進軍ルートを見ても、山や畑のある場所を出来るだけ通っているな。土の金属元素を補給しながら進んでいるということなんじゃろうか? この安土城跡地が目的地と思われるのもそのためか?

それとも地下に何かあるのか?」

 本多博士は黒田の質問に即答した。

「地下には特に無いと思いますわ。昔も只の公園でしたし。

安土城は山城でしたから、この辺りは木とそれに生える重金属豊富なきのこはそれなりにもあります。

土砂崩れで少々減りましたけれど。まあ草も生い茂って土地は痩せていませんし十分元素が補給できます。眺めの事も含めれば陣を敷くのに悪くない場所でしょう。

ここで戦う場合は、こちらの攻撃もあまり効かない、しかも弾丸が中々尽きない戦車と戦うことになってしまいますわ。

……放棄したら元素を補給してさらにスタミナの増した戦車と戦うことになってしまいますけれど。」

「弱点はないのですか?」

 小早川の問いに幽斎も本多博士も顔を曇らせる。

「不明です。開発者の菊地博士が情報を残さないで五年前に亡くなったのです。」

「三子相伝と言われて、私と種田博士と本多博士が情報を教えて頂く三日前の出来事でした。

ヒデヨシの兜を装備している者を倒せばよいのでしょうが、頑丈な瓢箪タワーの中から引きずり出さなければなりません。それにヒデヨシ自体も最強の兜なので、戦車のようなものです。

装備者に近づけたとしても危険です。」

 暗くなる皆の顔。跡地に残された水堀の水は闇を映して不安げにさざめき。

黒田も闇色の顔で目を閉じると、苦し気に眉間に皺をよせた。

そして一瞬だけヨッシーを見る。どこか辛そうな表情の黒田を見て、

行也は持ち出した荷物の中から信玄の座っている折り畳み椅子と同じものを見つけて持ってきた。

「黒田先生? 体の具合が悪いのですか? どうかお座り下さい。」

「大丈夫じゃ。ありがとう。」

 少し重い空気の中。緊急連絡が入った。

「五重の壁が四枚目まで割られました。」

 足軽の報告を聞いた信長は。早口で幽斎に問う。

「安土城に来るにはまだ余裕があるか?」

「一時間くらいです。」

 目の色が変わった彼は、複数の鍵束と、赤い宝石で縁取られた扇形の軍配を家康に押し付けた。

「全権を家康殿に委ねる。ここは寒いから十キロ先の我が家を本部に使え。

コンクリート舗装の場所で土がないから奴等は通らないだろう。

それに霧沢の報告だとここ……安土城跡地を占領されたとしても大砲の射程外だ。

信玄殿。お体の具合が優れないのに無理を言いますが、家康殿の補佐をお願いします。」

「桜港には行くな………総大将が……万が一…のことがあって……はならぬ」

 首を絞められながら話すが如く。苦しみつつも言葉を紡ぐ信玄に、家康は頷き。再び変身した。

「俺が行く!」

「殿! お供します!」

「俺も行きます!」

 俺が俺が状態になった家康、本多、行也達。だが。信長はそれをはねのけるように言った。

「私に行かせてくれ! 総大将だからこそ判断ミスの責任を取りたい。命に変えても!」

「お前、死ぬ気か!」

 まるで無茶をする弟をいさめるように、声を張り上げる家康へ。信長は目に涙を溜めて言った。

「……ミッシェル兄。貴方の言葉にも、表情にも皆を落ち着かせる力がある。

だから、この国を……皆を…どうか頼む……。」

「馬鹿なことを! 俺にも責任がある! お前が居……」

「信長殿が自身で仰る通りじゃ。こんな酷い判断ミスをするトップは最悪の大うつけじゃよ。

お前のせいで何千万人もの人々の命が失われるかもしれないんじゃ! 死ぬ気で責任をとれ! 

本部は冷静な家康殿と信玄殿に任せればよい。

 信長殿の出陣で皆の士気もあがるしな! そうと決まったらさっさと行くぞ!」

「……さっきからなんなんだよアンタ! いつの間にか仕切ってるし!!」

「信長様だって悩んだのに! あんまりだ!」

「黙れチビ! 偉そうに!!」

「鬼だ!」

 確かに判断は間違っていたかも……と思っていた一部の足軽まで、

話の途中で割り込んで信長を容赦なく罵倒する黒田に白い目を向け。

腕をまくって黒田を庇うように立つ太兵衛と睨みあう。家康、栗山、行也達は慌ててその間に立った。

落ち込んでいた信長も不穏な空気にはっとして顔を上げ。足軽を宥める。

一方黒田は足軽達の批判を、ハイハイワシは鬼ですよ! と耳をほじって聞き流し。

栗山にPC画面を切り替えさせると、地図を指して役割分担をした。

「というわけで、信長殿、吉川殿、小早川殿、鍋島殿、長宗我部殿、毛利殿、神崎、春彦、涼太、は桜港で龍造寺殿と霧沢と合流、

ワシ、太兵衛、細川殿、明智殿、立花殿、茂、行也、行人、友樹、ラーシャ……大友殿はここで金色の瓢箪戦車を防ぐ。利安と光紀は本部で家康殿と信玄殿の補佐を頼む!」

「黒田さん。ヨッシーは本部に置いていきます。ヨッシーはPCが使えるし役にたつはずです。」

 友樹の発言に確かに、と賛同する皆だが。黒田は頑として首を縦に振らない。

「ワシの作戦が通用しなかった時……最後の最後に大友殿が必要じゃ。」

 いつもの甲高い声に闊達な話し方では無く。低く落ち着いた冷徹な声で。

有無を言わせない威圧感を黒田は放ち始めた。

その瞳の中に死体が転がる戦場を見た友樹は一歩後退りしたが。足を踏ん張って言った。

「一生のお願いです。もし危険な作戦をヨッシーにさせる気なら、僕が代わりにやります。

だからどうかヨッシーを本部に置いて行ってください!」

「お前一人の一生ではすまない問題じゃ。皆の一生が掛かっている。」

 やっと行也達も何かがおかしいと思い始め。ヨッシーを本部に置いていこうとするが。

黒田は険しい顔で顔を横に振る。俯いていたヨッシーは深呼吸すると。無邪気な顔を上げた。

「……心配しないで! 友ちゃんが居ない間に明智殿に射撃をこっそり習ったから、

黒田殿は連れていきたがっているだけだよー!」

 確かに射撃は教えた。だが自分自身を守れるかどうかというレベルで、戦力にはならない。

そう口に出そうとした明智だが。ヨッシーはそれを言わせまいと早口で言葉を重ねた。

「それに結局どこにいても危ないよ。だったら友ちゃんのそばがいいー!」

「絶対だめだ!!!」

 その剣幕に目をパチパチさせたヨッシーの肩を掴み。友樹は血走った目をかっぴらいて言った。

「置いていく! 絶対に!」

 ―――結局、友樹や皆に押し切られ。ヨッシーは本部に行くことになったが。

別れ際に黒田は死神のような目でヨッシーに言った。

「ワシも全力は尽くす。じゃがもしもの時は…大友殿に…」

「もちろん。……黒田殿。無理はしないでね。友ちゃん達の為にも黒田殿は倒れてはいけない人だから。いざとなったら私に任せて。」

 穏やかに微笑んだヨッシーに黒田は頷くと、無言で背を向けて去ったが。

彼の表情は池の表面の氷の内側から暗く物悲しい色が透け、背中にも重い何かがのしかかっているようだ

とヨッシーは思った。

「……そういう所は軍師に向いてないよねー。」

 彼女は小さくなっていく黒田の背中に苦笑した。


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