ARE上陸
行也達が安土城に居た頃。夜空と同じ色の、深い深い紺色の海上で。
行也達の日本の国衛隊と、信長達の日本軍は横一文字で砲弾を撃ちあっていた。
小競り合いレベルとはいえお互いに砲弾を浴び。艦内の一部が破損。
大きく揺れた衝撃で怪我人も多数出た。今回の港防衛戦の最高司令官の九鬼は、
通信士にネオ安土城へ電話やメール、無線通信も送らせたのだが。黒田達が城の周りに立てた特殊な棒によって、その通信は遮断された。
「安土城でも何か起こっているのか……それとも単なる電波障害か? 取りあえず使者は送ったが怪我人だから足は遅い。気長に待つか。」
彼が使者を何とか走れる程度の怪我人にしたのは。無傷の人間は戦力として戦艦に乗せておきたいし、
使者になった怪我人もついでに病院に行ける、それにどうせ膠着状態になるからある程度足は遅くてもよい、と考えたからである。
信長軍の戦艦の方が防御力は高いのだが。国衛隊の方が戦艦が多く、戦力は拮抗していた。
そのため九鬼の読みは当たり。お互いに疲弊(船酔他)したのも重なって、戦いは膠着状態へ。
はーやくこいこい援軍さん、と口笛を吹きながら腕を組んだ九鬼は。港の地図がアップになった壁掛けスクリーンに目を通すと。棚から政宗印の缶詰を出した。
「枝豆入り伊達巻と明太子入り伊達巻と生クリーム入り伊達巻と鰻伊達巻と焼肉入り伊達巻とチョコレート風味伊達巻とベイクド伊達巻と生伊達巻とフライ伊達巻……伊達巻しかないじゃないか。」
がっくりと肩を落とす九鬼。膠着状態はしばらく続いたが。事態は急変。見張りからの報告に九鬼は厳つい目を見開いた。
「旧日本軍の奴らが、横方向に逃げていくだと!!」
副官の北条氏直も首をひねった。
「普通は我々から離れるように逃げる筈。おかしいですね。彼らの後ろから何か来たんでしょうか。」
「確かに嫌な予感がするな。」
九鬼は急いで館内放送を全戦艦に流した。
「……緊急館内放送…地下のミニ潜水艦で脱出しろ。繰り返す。緊急館内放送……」
「……もうミニクリームパン……たべれ…ない……よ」
目を閉じたままむにゃむにゃいう男を、同室の男は思いっきり揺すった。
「バカ! 起きろ! 船が沈むぞ!」
他の寝ていた者も叩き起こされ、ご飯を食べていたものはお盆を抱えて走り、医務室に走ったものは怪我人を背負い、シャワーを浴びていたものは泡だらけの体にバスローブを着て鑑内を走る。走る。走る。
乾燥した豆をジャラジャラと鍋に流し入れるような勢いで。足軽達はミニ潜水艦に雪崩れ込んだ。
「定員埋まりました!」
「よし! 出るぞ!」
次々と元の艦隊を離れていく青い塊。逃げ遅れたものを回収した最後の一隻が元の艦隊を離れていった時だった。
「な、なんだ!」
「地震か?」
国衛隊がさっきまで乗船していた戦艦の一つが上から爆弾を落とされたかのように大破。
破片は飛び散り、高速の刃となって飛んでいき。海全体もぐらぐらと揺れ。コインランドリーにぶち込まれたかのようにミニ潜水艦はグルグル回る。
中型避難用潜水艦の九鬼と北条もまた。揺れる船内であちこち体をぶつけつつも壁に手を付いて立ち。
新たに七つ戦艦が現れた等、報告が集まったノートPCを見て唸った。
「一応、皆脱出できたようだが……国衛隊やこちらの戦艦が全部破壊されたらあの七隻がここへ来る……。」
国衛隊がそのまま置いていった艦隊と自分達が脱出した艦隊が横一文字の柵となり。
七隻を遮る壁となっている。だが、七隻の戦艦はバンバン砲弾をぶっ放してその壁を破壊。
時間の問題だと二人は思った。
「私が時間稼ぎをします。」
「……北条殿! さすがにそれは危…」
その時再び船内が揺れ。九鬼の手は北条の腕からずり落ちた。九鬼がバランスを崩した間に北条は中型潜水艦の中の一人用潜水艦で浮上。蓋を開けてその船上に登った彼は、変身して兜をごっそりちぎると。それを海に投げつけてありったけの声で叫んだ。
「戦国一〇八計レジェンド・鉄壁の小田原城!」
空っぽの艦隊全てを破壊した七隻の集中砲弾を喰らうより一瞬早く。北条家の家紋が描かれた鉄の長い長い五重の壁は横一文字に展開。上から見ると、紺碧の譜面に銀の五線譜がひかれたかのようであった。
「北条殿! グッジョ……あーーーーーー!」
九鬼は、ガッツポーズをした北条が足を滑らせて落ちた地点に潜水艦を急行。彼とその兜を拾った。
――足軽達が桜港での惨状を報告した直後。復活した通信からさらなる凶報がもたらされた。
「ARE軍まで……」
信長の顔は赤から白へ変わった。彼は急いで桜港に援軍を手配すると。
部屋のど真ん中にある大きな八角形テーブル型PCで地図画面を出した。そして、屋根裏部屋からロープで大広間へ降りてくる詰襟軍服姿の謙信に声を掛ける。
「国民を避難させる。子供優先で。謙信殿。よろしくお願いします。」
「畏まりました。」
謙信は急いで着地すると。巨大な八角形テープル型PCからノート型PCを引っこ抜き。
そこに映した様々なデータを見ながら足軽達にテキパキと指示を出し始める。
信長はさらに、秘書に声をかけた。
「勘定省、外交省、サイエンス省に長官に電話し、機密文書を持ち出して避難するように指示しろ!」
「はっ!」
その後も頭をフル回転してあちこちに指示を飛ばし続ける信長だったが。突然頭を押さえて座り込んだ。
「まさお! 数分だけ休め! お前は昨日から寝ていないだろう! 医者として…」
「まさおじゃない! 信長だ!」
国営放送の準備をしていた家康に支えられて立ったまさお…信長の脳裏に。様々な思いがよぎる。
自分の選択は間違っていたのだろうか。外交で何とかするべきだったのか……だが…あいつらは許せないし許してはいけなかったのだ……。でも…。負の心の渦に巻き込まれそうになった彼に。
幽斎から電話が来た。
「ハアアアアアアアアアアアアア! 今はそれどころでは………わかりました。」
基本的に面白人間が大好きな彼は。贔屓している一人の幽斎の話は素直に聞いてしまうのである。
イライラした彼は思わず壁を蹴りつつも。幽斎の言う通りにすることにした。
――――月明かりに照らされる白き城。その門の前で。行也達は変身を解き。黒田達は甲冑を脱いで正座していた。合流した幽斎が信長達を警戒させないためには、変身を解いたほうが良いと言ったからである。
細川は相変わらず、コイツは信頼出来ないッ! とキーキー騒いだのだが。皆は無視した。
「織田中将にお取次ぎ願います。」
白衣を身に纏った幽斎が凛とした佇まいでそう言うと。行也達はあっさり足軽の案内であっさりと城内に通された。そこで詰襟軍服姿の信長と家康、さらに医務室から高坂に支えられてやってきた信玄が地図が映ったテーブルを囲んでいた。信長は、足軽の壁の一段上から厳しい口調で声をかけた。
「援軍に来ただと? ……裏切り者の明智と安東も一緒にか。色々言いたいことはあるが、今はそのことに関しては追及しない。それより本当にお前達は旧日本軍やAREとは関係が無いのか? もし無いなら援軍としてやってきたのは何故だ? 何が望みだ!」
「AREと繋がっていないという証拠は、私達が日本人だからです。
ARE総大将の自伝をお読みになりましたよね? 彼だけでなく、あの国の大統領も、日本人を嫌っています。そして選民思想の強いARE人自体も他民族に良い感情がありません。組むのは不可能です。
旧日本軍とも私達は組んでいません。むしろ敵対関係です。情報提供者は居ますが。
その証拠に日本と軍を牛耳る元首相から器物破損他の被害を受けました。
日本軍=元首相から敵と見られているその証拠があれば、グルではないと理解していただけるかと存じます。光紀殿。お願いします。」
小早川に促された光紀は。許されて信長達の前に進み出ると。落書きされた山田兄弟の家の防犯カメラの映像をPCに映し。その画像をドアップに移して解説を始めた。
「佐藤元首相の手先によるものと判断した理由ですが。
画像の男が元首相の息の掛かった暴力団……棘組の組員だからです。
……手首に特徴的な棘の腕輪をしています。これは棘組独特の腕輪です。
棘組が佐藤元首相と近しい関係であることは、ご存じですよね?」
「……滝川から聞いた。お前達の言いたいことはわかった。だが」
「もうワシらが運命共同体だというのはわかったろ! ワシらだって死にたくないんじゃ! 」
黒田はそう言うと。信長の許可を得て小早川と一緒に彼らのいる一段上の場所に向かった。
「実季の故郷の日本と、AREって仲良しじゃなかったのかよ? 友樹さん説明してくれ!」
「俺も何が何だかっす!」
「簡単に言うとARE軍の総大将と大統領は、僕たちの日本と信長様達の日本を両方潰したかったんだよ。日本人自体が嫌いだから。詳しくは話すと長いけど……。」
目で二人に促された友樹は。子供に絵本を読み聞かせるように言った。
「昔々、ARE人の兄弟がいました。彼らは優しい両親のもとで、幸せに暮らしていました。
ですがある日。彼らの父はある日本人の連帯保証人になって借金を背負わされてしまいます。
その借金を返そうと兄弟の父、そして母は必死に働きますが、体を壊して死んでしまいました。
日本人を恨んだARE人の兄弟は一生懸勉強して、兄はARE軍の総大将、弟は大統領になりました。
兄弟は何でもできる力を手に入れたので、大嫌いな日本をこの世から消すことにしました。
兄は地上の日本の元首相に声をかけ、地上の日本列島をAREの領土にする手伝いをしろと命令しました。元首相はAREでの生活と地位を保障されたので、快く引き受けました。
一方、弟は地上の日本と海底の日本両方に声をかけました。同士討ちを見たかったのでしょう。
地上の日本人には、キランの密輸も海洋汚染も黙っててあげるよ、だからAREに従ってね、口止め料もちょうだいね、軍隊も置かせてねと言い。
海底の日本人には、地上の日本を一緒に滅ぼそうと言ったのです。
海底の日本は、海底に住みはじめた時、援助をしてくれたAREを元々信頼していたし、
地上の日本に恨みがあったので快く引き受けました。
兄弟の計画は代々のARE大統領が海底の日本を援助して信頼されていたことにも助けられ、
完璧でした。
でもだんだんAREに色々利用されていることに気が付いた海底の日本が、逆らい出しました。
しかも海底の日本は世界デビューを狙って、色々な国とこっそり仲良くなってきたのです。
これ以上目立たれたら潰しにくくなってしまいます。兄弟は焦りました。
そこで、地上の日本に海底の日本を攻め込ませ、
相撃ちで両方が疲れ切った所をAREが滅ぼそうと思いました。終わり。」
目を潤ませる山田兄弟。一方、涼太はため息を吐きながら言った。
「……信長さん達の日本はAREの二股外交に気が付いて、俺達の日本と交渉するかという方向になったのに、悪事が明るみになるのを恐れた元首相がそのありがたい申し出を握りつぶしちゃったんだねぇ。
もうそうなったら海底の日本は国際法廷に訴えるべきなのに、AREはそれを嫌がって訴えさせないようにした。
もし訴えたら信長さん達の日本は保護されるから滅ぼしにくくなる。
一方、信長さん達も元首相の態度に腹が立って、もう穏便に解決する気がぶっとんでたんだろうね。
俺達の日本との交渉が駄目だった時のために平行して準備していた『他の国に根回しして、それが完成したころに地上の日本を糾弾しながら世界の表へデビュー』という路線は止めて、
もう直接軍事力で地上の日本をぶっ潰してやろう! となった。
そして軍事行動が目立たないように、表世界に出ることも一旦ストップしたんだろう。
そこまでの思いがあったのに、AREのことも警戒し始めたから俺達との戦いには大した予算が組めなくて、ダラダラ戦うしかなかった……ということですよね?」
「正解です。加賀殿。」
幽斎は涼太に苦笑いすると。先程から部屋で話を聞いている老人に会釈し、続いて信長達に力説する黒田を見上げた。
―――黒田は、珍しく頭を下げて言った。
「こっちの日本の罪を証言する証人も紹介するし、ワシらが集めた証拠も…ちょっと弱い証拠じゃが信長殿達に差し出す。それに取りあえず賠償金の一部も用意してある。
場所はノーザンデバートのコインロッカーじゃ。……ワシらに政府を動かす力は無いのは申し訳ない。
だが信長殿達がワシらの日本と法律で戦うなら命ある限り力になる。
だからワシらを信じていただきたい!」
「全力を尽くします! どうかよろしくお願いします。」
「……儂は…彼らを信じる。」
「俺も信じてみます。」
信玄と家康の言葉に信長は頭を抱えて、眉間に皺を寄せる。もうひと押し必要だ……そう黒田と小早川が思った時だった。
「申し訳ありません。どうしても……と。」
足軽に会釈すると、髭面の老人が黒田達の目の前に現れた。『外交省』と書いてあるバッチを付けた彼は大きな体を曲げて頭を下げ。ゆったりとした聞き取りやすい声で言った。
「話は聞かせていただきました。軍のことは軍の皆様にお任せすべきなのに、
でしゃばって申し訳ありません。ですがどうか、この苦しい状況で助けに来てくださった皆様と力を合わせてください。何かあったら責任は私が取ります。切腹でも何でも致します。
……軍の皆様が勇敢に戦って下さるお蔭で、他国からこの日本は守られています。
言葉では言い尽くせないほど、ありがたいと思っています。
ですが、軍事費や皆様の体力には限りがあります。借りれる力は借りましょう。
この戦いに勝ってから、ご先祖様達の無念をはらしましょう。
外交省も、勘定省も、他の省庁の文官も、力を尽くします。どうか……」
心にこびり付いていたよどみ、重しが落ちたかのように。すっきりとした表情の信長は。
老人の手をとり、頭を下げた。
「……結局、今回は国際法廷に訴えるとか、外交で何とかすべきでした。折角根回しをしてくださった外交省の皆様にも、軍事費を捻出してくださった勘定省の皆様にも、国民にも…申し訳ないことをしました。顔をお上げ下さい。」
黒田と小早川が目を合わせてほっと長い息を吐いた頃。黒田の電話が鳴った。
「もしもし……霧沢。無事に避難でき………AREが牡丹港にも!!!! 」
「なんかよくわかんないけどそっちにも行くなんてヤベエエエエエー!」
「カーチャーン! トーチャーン!」
「あはっやややあふぉあjふぁおd」
騒めく足軽達(新兵)を見た黒田は状況説明を買って出た。
アシスタントを命じられた栗山と涼太と光紀は信長、霧沢、橋本からの情報をPCに入力し、壁のスクリーンに映す。彼らは博士から裏日本PC研修を受けていたのである。
「はい! 足軽の皆さんに説明してやるから聞け!
現在、桜港にはAREの戦艦が七隻。牡丹港には金色の瓢箪型の巨大な艦隊が一隻浮かんでいる。
桜港の七つの戦艦の方は両方の日本の艦隊をことごとく破壊して、今は一〇八計・鉄壁の小田原城の五重の壁の二枚目を割った所らしい。牡丹港の戦艦の方は特に動きはないようじゃ。
怪我人は多いが、重体の者や死人は居ないらしい。よかったな!
で、国衛軍の方じゃが。田中の友人の橋本によると。国衛隊は全員退却したらしい。
その七つの艦隊を見張りが報告した途端、無駄にカンのいい元首相が退却を主張して、
艦隊が木端微塵になる前に予備のミニ潜水艦で避難したそうな。悪い奴に限って生き残るんじゃな!
人生はそんなもんじゃ!」
その後、足軽達の質問に答えていく黒田。一方、今までの経過シュミレーション動画を見ていた小早川は信長に尋ねた。
「敵の数自体は少ない……。ですが圧倒的な攻撃力です。まるで、船を溶かすような……
信長様、軍の艦隊の素材は何ですか?」
「戦士の甲冑と同じ素材だ………普通の砲弾には強いはずなのに……。」
「……申し訳ありません。織部の土はAREに流出してしまいました。」
段上に上がってきた幽斎は信長に跪き。頭を地に落ちそうなほど下げる。信長は目を見開いた。
「なんだと……!!!!! この技術だけは何が何でも流出させてはならないのに!!
…処罰は後で下す。他に流出したものは?」
「ヒデヨシです。」
黒田は手にしていた指揮棒をカラン、と落とした。
「この城もやられる。皆! この城から脱出じゃ!!」
それを聞いた小早川はテーブルの上の機械を目を皿にして見つめ。家康に声を掛けてから城内放送ボタンを押した。
「徳川様、館内放送お願いします。……信長様、ケガ人は?」
「重傷のものは医務室から病院に搬送済! 軽傷の者は走れるレベルだ!」
徳川が館内放送をすると。皆はわけもわからず脱兎の如く走り出した。
「黒田先生! どういうことだよ!」
行也に担がれた黒田は、いつも通りの甲高い声で行人に振り返った。
「あーそれはこの城を脱出してからのお楽しみじゃ!」
「楽しみじゃねえーーーーーーーーー!」
皆が脱出した、その数秒後。安土城は消えた。




