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戦国DNA  作者: 花屋青
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三本の矢

桜港へ向かった信長、吉川、小早川、鍋島、長宗我部、輝元、神崎、春彦、涼太、実季は。

桜港で龍造寺、霧沢、さらに、病院から抜け出して来た蒲生と合流。

彼らはやっと運ばれてきた新しい戦艦に乗り。

桜港での戦いの経過を撮影した動画、

続いて小田原城壁の向う側…敵が砲弾を撃ち続ける様子が映る、壁掛けスクリーンを睨んだ。

八角形のテーブル型PCには。戦艦を象った銀の鯰型船のコマが横一列に七つ、いたってシンプルなフォルムの船の白いコマが四つ置かれ。九鬼は湿布の張られた腕で、それを指す。

「こちらの戦艦は残り四隻。AREは七隻です。

海底の探索もさせていますが、今のところAREの戦艦は見つかっていません。

ですが数も攻撃力もこちらが下。正面から戦いを挑むのは避けたいですね。

一隻づつ誘き寄せて各個撃破か、包囲に持ち込みたいところなんですけど……。

銀鯰型の船体に何本か生えた砲台から鯰型の砲弾が発射されて、近付くことすら難しいです。」

 頭を抱えたり、ため息を吐く皆。小早川は失礼します、と前に進み出た。

「まだヘリ、戦車もあるのですよね?」

「ああ。だが戦車の攻撃は殆ど効かない。ヘリも二機あるが爆撃機能は無い。上空を飛べるだけだ。」 

 腕組みをし船のコマを見つめる信長へ、小早川は冷静な眼差しで答える。

「爆撃が出来なくても良いのです。AREに上からの攻撃を意識させることは出来る筈。

無視されたらそれは逆にチャンスです。レジェンド一〇八計をぶち込めば良いですから。

……兄上。お命頂戴致します。」

 吉川を無表情に見つめる小早川の肩は小刻みに震えていた。吉川はそんな彼の肩に手を置き。

夜の闇を柔らかく照らすような笑顔を見せた。

「戦場で死ねるなら本望だゼ。それに俺は簡単には死なないから安心するんだゼ。」

「お、お命って何すか!」

 小早川に詰め寄った輝元に、小早川は努めて棒読みで言った。

「軍師では無い武将が同じ日に一〇八計とレジェンド一〇八計を使うのは、脳の負担が大きいのです。

下手をすれば脳の血管が切れたり、頭蓋骨を骨折するなどして、死に至ります。」

 騒めく皆をかき分け。春彦は吉川の腕を掴んだ。

「わしが代わりに一〇八計を使いますけぇ、元春さんは違う場所で戦ってつかぁさい!」

「お前は涼太とさ……安東と一〇八計を撃て。」

 吉川は実季に毛利輝元の兜を乱暴に放り投げ。機械的に言った。

「安東、毛利の兜を装備して戦え。」

「……もういいんです。実季と呼んで下さい。」

 寂しそうに自分を見上げる実季を見て。吉川は頭をかいた。

「演技がヘタで悪かったゼ。……涼太。春彦と実季を頼む。

冷静なお前なら、無茶をしがちな二人のブレーキになってくれると信じているゼ。」

「畏まりました。」

 深く頷く涼太を見た小早川は。

青い五角形の中のコマ、さらに小田原城壁に見立てた細長い横棒を差し。作戦を提案した。

「こちらの四つの戦艦をA、B、C、Dとしますね。

まずに私、殿、兄上が上空をヘリでうろついて囮になります。

ARE軍の目が上空にも意識が殺がれた時にA、Bが直進、

恐らくARE軍は横一列になってAとB隻を集中砲火するでしょうが、その場で耐えてください。

そのA、B隻が潜った途端、潜んでいたC隻目が敵の真横に浮上して、横一列の敵の横っ腹を

『戦国一〇八計・三本の矢』で串刺しにします。これで大ダメージを与えられると思います。

その塊に小田原城壁の外に潜っていたDが壁を倒して上から、潜っていたAとBが下からダメージを与えます。小田原城壁がもう壊れている場合は、上からの攻撃をヘリがやります。

DはA、Bの援護に回ってください。」

 美しい所作で船のコマを動かしながら説明する小早川へ、輝元は手を上げて質問した。

「もし三本の矢を避けられたらどうするっすか?」

「三本の矢は文字通り三本発射出来ますから、最低一隻は沈められると思います。

ですが最悪の事態…全部外してしまった場合は、

ヘリから三本の矢を落として最低でも一隻を確実に落とします。

残りの六隻は散り散りになるでしょうから、四隻は退却を装って背走。追ってきた戦艦を各個撃破。

船本体よりも、元素を補給する太いパイプを破壊して下さい。

それが難しいなら無理せずバラバラに潜水して逃げてください。集合場所は食糧倉庫の地下室にしましょう。」

「私は命を懸けて最期まで戦う! 退却なんて出来ない!」

「この鍋島も、命を懸けて戦います!」

「その間に上陸されてしまったらどうするのだ! 私は戦う!」

「家族を守る為にも命懸けで奴等を止めます!」

「俺はいいからお前らは逃げろ! と言うことに俺は憧れていたんだ!」

 思わずいきり立つ蒲生、鍋島、信長、足軽、神崎、

そして彼らと同じく不平を漏らす皆を、小早川は宥めた。

「正面から戦ってあっという間に全滅をしたら、一般市民の方々を逃す時間稼ぎすら出来ません。

それに。霧沢殿の撮影してくださった画像では、上陸中にわずかな隙があります。

船を戦車に変形させないといけないからです。そこを狙いましょう。

敵を殲滅するのが一番。でも出来なかった場合は頭を切り替えて相手の兵糧切れを狙い、ダラダラ戦う。それが大切です。幸い信長様が素早く指示を飛ばしてくださったおかげで、

ここら辺も牡丹港の兵糧も運ばれるか、隠されたかしていますし。」

「その間に、AREの援軍が来ちゃったらどどどどどどどどどどうするっすかあああああああ!」

 おちょぼ口で顔を揺らしながら刀を握りしめる輝元にため息を吐くと。

小早川はゆっくりはっきりと言った。

「そうなった時の為にも、犠牲を少なくして勝つ必要があるのです。」

 まあ、援軍が来たら全員死亡確定だから考えなくても良いのです……と小早川は心の中で呟き。

違う言葉を吐き出した。

「兎に角、海戦で敵を出来る限り削りましょう。」 

「何で隆景さんは、海中からの攻撃にこだわるんですか?」 

 手を上げた涼太の質問に、小早川は少し間をあけてから言った。

「動画からの情報による、希望的憶測ですが。

ARE軍の戦艦は、潜水機能と海中への索敵および攻撃力が海底日本軍より低いのかもしれません。

敵に容赦しないARE軍が、海中を避難用潜水艦で彷徨う敵を放っておくなんてありえません。」

 村上はあっ、と声をあげた。

「そう言えば動画ではこっちの艦隊も国衛隊の艦隊も海上に浮いていた!!

AREはその下をくぐって避難用潜水艦を追うなり、魚雷を海底に向けて放つことは出来たよな!」

「……そこまで考えていなかったぜ。海の男の本能でとりあえず脱出したが、

どうして海中浮遊中にやられる危険に気が付かなかったんだ…。」

「いや、その本能は正しかったと思うぞ。正面からぶつかったら確実にやられたろ。」

 小早川は九鬼の肩を優しく叩く村上の言葉に頷くと、言葉をつづけた。

「確かに北条中佐の小田原城壁の発動は早かったようですが、

ぷかぷか浮く国衛隊の戦艦を撃つ暇があるなら人間を殲滅するのが先決です。攻撃側なのですから。

戦艦は奪い取って船員を乗せて戦うこともできますし。

もし、逃げる相手に気が付かなかったというなら、もっと索敵能力が不足しているということです。

わざわざ逃がすというメリットも考えられません。

敵が無防備な状態なのですから、好機だと考えて急いで殲滅するのが当然。

……ですが気になる点もあります。九鬼殿に見せていただいた画像だと、海にやたら砲弾をぶち込んでいるようにも見えます。単に砲弾に余裕があってローラー作戦を敷いているのかもしれませんが。

なにか待ち伏せ効果のある特殊な砲弾かもしれません。潜る際はくれぐれもお気を付けください。

……以上が私の作戦案です。

疑問点や、他の作戦を思いついた方はおられますか? 皆様の方が軍事に詳し……」

「自分達ばっかり安全そうな船やヘリに乗るなんてズルイだろ!」

「いいだしっぺが危険な役目をやれ!」 

 一部の足軽が漏らす不満を、信長は険しい目で撥ね付けた。

「一〇八計の性質上、そういう配置になるのは当然だ。

そもそも我らの国のことなのだから、私達が危険な役目を負うのが道理!

小早川殿の案で行く!」

 信長はそう断言し。四つの戦艦に乗る人員を決めた。

「A、Bは船の操舵技術が問われる。おまけに生きて帰れる保障が無い。誰か……」

 殆どの者が手を上げたのを見て信長は目を少しだけ潤ませ。前に進み出た九鬼、北条、蒲生、

非番だが駆けつけた村上の手を握った。

「かたじけない。特に北条殿と氏郷は私より若いのに……。

九鬼大佐には戦艦A、村上大佐には戦艦B、氏郷には戦艦C、北条殿には戦艦Dを頼もう。

私もAに乗る。」

「の、信長様! お止め下さい!」

 慌てて止める皆に首を振る信長へ。小早川は厳しい声と表情で言った。

「信長様を失ってしまったら皆の士気が落ちます。

信長様が責任感がお強いことは、短時間しか接していない私でもわかります。

ですが先陣を切って死ぬことだけが、責任の取り方ではありません。

何も知らない者が失礼な事を言っているのは百も承知です。ですが作戦立案者としてもこれだけは譲れません。

信長様には戦艦Dに乗っていただきます。」

「だが……」

 尚も不満そうな信長の肩を神崎はポン、と叩いた。

「信長殿。ここは海の男・神崎に任せてくれ! ……大型船の免許は無いけどな!」

 そんな彼の横に。鍋島、霧沢、龍造寺は立った。

「骨になろうと戦う所存です!」

「…私は大型船の運転経験がある。ゲームで。

勝利の暁には危険手当として、この国名産の花とその種を戴きたい。

部下を預けているグループ企業の会長の土産をまだ購入していないのだ。」

「…牛タン一年分だぞ……」

「霧沢殿! 殿も! 戻って来てくださったのは御礼目当てだったのですか!」

 一瞬感動していた鍋島は呆れたように頭に手を当てた。

結局、戦艦Aには九鬼、神崎、龍造寺達、戦艦Bには村上、鍋島、霧沢達、

戦艦Cには大型船の免許を取った長宗我部と、春彦、涼太、実季、蒲生達。

戦艦Dには信長、北条達が乗ることになり。小早川達は円陣を組んだ。

「絶対ARE軍を皆殺しにしてやるゥウゥゥ―――――!」

「お、おおおおー!」

 円陣の真ん中で。血走った眼の信長は絶叫し、足軽達は信長から後退り怯えながら腕を突き上げた。


――白いヘリは紺色の夜空へ飛び。輝元は運転手……本多博士を見た。

「よくヘリに乗ると決心なされたっすね。戦艦Dに乗ったほうが安全だったっすよ。」 

 本多博士は、自分の胸元の銀のロケットを一瞬だけ見てから答える。

「どのみちわたくしは処刑です。それなら敵前で華々しく散ってやりますわ。」

「ふ、不吉なことを言うのはやめていただきたいっす!!!」

「死ぬ覚悟が無ければ、生き残ることも出来なくってよ。」

 彼女は震える輝元にそう言い放つと、銀の鯰型戦艦の上空をこれ見よがしにくるくる飛ぶが。

ARE軍はそれを襲わず。沈黙を保つ。小早川は小さく唸った。

「完全に無視されている…このヘリに爆撃機能が無いことを知っているのでしょうね。」

「……他の銀鯰戦艦より一回り大きいヤツの上に銀の足軽が二人、その後ろに銀鯰が正面に付いた一の谷兜の男がいるゼ。アイツが指揮官か? 中々沈着冷静で立派な立ち姿だ。」

「長い銀髪の若い男ですか?」

 望遠鏡で下を覗き込む吉川へ、普段ふてぶてしい程冷静な本多博士は珍しく揺れる声で尋ねる。

「そうだゼ。」

「AREの総大将の片腕です。厄介な野郎が来ましたわ。」

「……それなら、作戦が見破られる可能性もありますね。」

 小早川は信長に借りた戦艦直通電話(同時にすべての艦隊に連絡できる)を掛けた。

 その間にも戦艦A、Bはクレーンで持ち上げられて壁を越え。AREの銀鯰型戦艦の正面に向かう。

「陣形壱。撃て。」

 銀鯰戦艦の上に立つ男はそういうと。細長い銀竹の指揮棒を振り下ろした。 

AREの戦艦は横一列に並び、戦艦A、Bに集中砲火。

そこから放たれた銀の鯰型弾は乱れ飛び。戦艦AとBの頭上に銀色の巨大で精緻な点描画を描く。

その僅かな隙間へ戦艦を動かし続け。何とか鯰型弾から致命的なダメージを受けていない戦艦A、Bだが。全ては避けきれず。石鹸のように船体は摩耗していく。さらに。

 銀髪の男は二隻の戦艦を、ヘリの真下……戦艦Cの移動前の場所に派遣。二隻は戦艦Cのさっきまでいた場所を中心に円形に銀鯰弾を放ち。その後も銀鯰弾を放ちながら激戦地をぐるぐる回る。

銀鯰弾が落ちていない場所を埋めていくかのようなその動き。

そして二隻のパイプに走る深い亀裂を見た小早川は。全艦直通電話を再び掛けた。

「罠です。さりげなく銀鯰弾が落ちた範囲から脱出してください。Dも壁から離れてくださ 

……いえ。 全速力で逃げてください! 見え見えでもいいのです! 

本多殿! 銀髪男にあと二十メートルくらい近寄ってください! 兄上は銀髪男を撃ってください!  当たらなくてもいいですから視線をこちらに向かせて下さい! ……開けますよ!」

 小早川は窓際に居た輝元の命綱と吉川の命綱をぱぱっと確認すると、

ヘリのドアを少し開けた。銃を撃つのは明智達程に得意ではない吉川だが。銀髪の男を狙い撃つ。

弾丸は足軽と足軽の隙間を抜け。奇跡的に銀髪の男の手に命中。

彼が開いていた竹簡は強風にあおられて暗い海に落ちた。

銀髪の男は海を指し、傍らにいた足軽は海に飛び降りてそれを拾う。その間に急いで逃げる三隻。

 吉川は時間稼ぎをするために何発か銃弾を放つが。続いて放った弾丸は足軽の盾に弾かれ。

さらに艦内から銃を手にした足軽達が飛び出してきた。

「一旦距離を取ってくれ!」

 吉川はドアを閉め。本多博士はヘリを急いで右旋させたが。

ヘリの窓ガラスには銃弾が数発刺さり。冷たい風が吹き込んできた。

「レジエンド一〇八計を使いましょう! 殿、準備を!」 

「ええええっと……まず兜を擦って矢を…あっ! 違う! 先に宣言するっすか!」

「いいえ。まず兜を引きちぎって三本の矢を造ってください。

そしてそれを私達の矢と撚って一本の矢にしてください。それを三セットお願いします。

最後に声を揃えて宣言して、飛ばすのです。」

「さ、三番のの矢だったっすか?」 

「三本の矢、です!」 

 外したらどうしよう、と緊張した輝元がもたもたしている間に。

小早川の視線の先の銀髪の男は、海に降りた足軽が投げた竹簡を受け取り。

そこから数本の竹を引き抜いた。彼はそれに自分の血をなすりつけ。海中に投げる。

「孫子の兵法・山陣。」

 海中に沈んでいた銀の鯰色弾は集合して隆起し。海に浮く銀山となる。

「津波が来ます! 潜水してください!」

 小早川の叫びの直後に戦艦Dは潜水。元いた場所には小田原城壁の銀の破片が舞い。

黒布の大きな皺を動かしたような波が通り過ぎた。

 それでも戦艦D、そして戦艦Cはなんとか銀山から逃げおおせたが。

戦艦AとBは剣山に刺さった花の如く銀山に船体を貫かれ。破裂。

戦艦Aの九鬼、神崎、龍造寺達、戦艦Bの村上、鍋島、霧沢達はなんとか戦艦から飛び出し。

尖った銀山を驚異的な速さで走って、戦艦から戦車に変形した銀の塊から逃げまどう。

二百メートルはあった差がみるみる縮まり、十数メートル差になった時。

その銀山の真横の海面ギリギリにヘリを走らせた小早川達は。窓を全開にした。

 それに気が付いた銀髪の男は法螺貝を手にして注意を促し。戦車は真横へ注意を向ける。

「戦国一〇八計・レジェンド! 三本の矢……わっ!!」

 ライトアップされた鳥居のように輝くぶっとい矢は。目にも止まらぬ速さでかっとび。

……銀鯰型戦車の奥に居た銀髪男の戦艦を貫いた。

輝元は自分の正面にある、神崎達を追う戦車に目線も矢先も向けていたが。

矢は斜め横に飛んでいったのである。小早川は風向きを計算していたのだ。

「……!」

 銀髪男の乗っていた戦艦は少しして爆発し。血だらけになった銀髪男は足軽達とともにかろうじて脱出した。一方、戦車からの砲弾が掠めたヘリは外装が燃えるが、座席部分は小早川達が脱出するまで持ちこたえた。そして小早川達のヘリに砲弾を発射したその戦車へは。

「戦国一〇八計・レジェンド! 三本の矢ーー!」

 小早川達の反対側から浮上した戦艦Cの蓋を開けて、春彦や涼太とともに飛び出た実季は。

輝元と同じやり方で矢を放つ。

その透明に輝く矢は神崎達を追っていた戦艦三体を縫うように貫いた。

戦艦から慌てて飛び出す銀の足軽数十人だが。爆風に巻き込まれてぶっ倒れた。

神崎達も爆風に煽られたが銀山を出るべく走る。

残りの戦車は三つ。一つは銀山を抜けて海上にいる銀髪男達の救出へ。

もう一つは今倒れた足軽達を急いで収容中。そして最後の一つは神崎達を追わずに銀山を出て変形し。

陸方向へ走り出した。

「奴等に我らの土地を踏ませるなーー!!」

 戦艦Dの信長達はその戦艦を追いかけ。

戦艦Cは銀山の隣に戦艦を止めて、息が上がる神崎達を助けに行った。

海上に本多博士のボートでぷかぷか浮く小早川は、さっきと同じだと気が付き。電話で叫んだ。

「早く銀山からでるか、一〇八計を海上の鯰にぶちこんでください! 敵全員が銀山を出る前に!」

 周囲百数十メートルは広がる銀山。息が荒く仰向けに倒れた九鬼、神崎、村上、鍋島、霧沢、足軽数十人達を見た龍造寺は何とか起きると急いで刀を引き抜き。

離れた場所に居るARE軍に聞こえないくらいの大きさの声で神崎に言った。

「…戦国一〇八計・日足十二本斬を使え…十二人の刀に太陽の光を当てて、

そのエネルギーを神崎の刀の先端に集約させるのだ…。発動時は失明しないように目を閉じろ…

…太陽の代わりになるものは…」

「月光に…すればいいだろ……格好いいし。」

 月を見上げて訴える神崎の言葉に首を振った涼太は。

大きなライトを点灯させ、取りあえず味方を収容中のARE軍をぱっと照らした。

AREの兵士達は目を押さえてうずくまる。

「明るさは落としたから失明はしないよ~。

さて神崎さん。太陽光と比べて月光はエネルギーが低いですからこの赤外線ライトを使いましょう。」

「格好悪い…嫌だ…月光がいい…」

「格好悪いことも、神崎さんなら絵になりますよ~イケメンですからね~!」

「そうか…?」

 涼太のお世辞に神崎は満面の笑みで髪の毛をくるくる弄ると。反動をつけて起き上がった。

「九鬼殿、隆信、村上殿、鍋島、霧沢、春彦、涼太、実季、長宗我部、蒲生殿、

あとそこの体格のいいお前。俺の刀のなるべく先端に刃先を当ててくれ。

そこの背が高いお前達は赤外線ライトで刀を照らせ。早く。」

 神崎は片膝立ちになり。前方に刀を突き出すように構えた。

一方、龍造寺達と足軽の計十一人は、神崎の刀の先端三分の一に自分の刀をちょこんと当てる。

「皆、目をつぶれ。……ライトスタンバイ!」

 足軽達は赤外線ライトを最大の明るさにして、十二本の刀の束に光を当てた。

「戦国一〇八計・日足十二本斬!」

 十二本の光の束を集めた神崎の刀の先端には。

神崎の家紋・日足十二本の家紋が巨大な銀花のように咲き輝き。紫紺色の空へとぶっ飛んで行く。

「孫子兵法・火の……脱出しろアアアアア!」

 鯰型戦艦からちょうど頭を出した銀髪の男の戦艦には。電気を帯びて咲き輝いた龍造寺家家紋型巨大手裏十二枚が突き刺さり。爆発して燃え始めた。

「海面に転がれ!」

 銀髪男の叫びで炎に包まれた甲冑の銀髪男達は海面に転がって消火し。

せいぜい軽いやけどですんだものの、体力と気力が尽きてがくりと膝を付いた。

銀髪男もふらりと倒れて気を失い。AREの銀の足軽に担がれる。

「止めを刺すぞ! 海の男達よーーー!」

 神崎はそう叫ぶと銀から暗黒色のじゅうたんとなった地面を踏みしめて海上を掛ける。

村上達に収容された重傷の怪我人以外は、雄叫びを上げながら彼に続く。

しかし。先頭の神崎、春彦、涼太は、比較的軽傷なARE銀足軽が、よろよろしながらも銃を手に取って、怪我人の前に立って壁を作ろうとするのを見た。

「健気だ……。」

 少し目が泳ぎだした神崎。その後ろの涼太と春彦は少し苦い顔で目を合わせ。

海面に刀を突き立てて神崎を追い抜き走りながら言った。

「わしらの後ろに下がってつかぁさい!」

『毛利両川・氾濫!!』

 二人が海面から跳ね上げた水竜巻は重なって巨大化し。その水塊は銀足軽達の体を手にした銃ごと吹っ飛ばし。AREの銀足軽達は全員海面につっぷした。


―――一方。逃げた戦艦を追う信長は。皆の静止を振り切って砲弾が降り注ぐ甲板に立った。

「桶狭間の奇襲!」

 肩に砲弾が掠めて顔をしかめつつも。信長は助走をつけ、青い織田家の家紋入り槍を投げつける。

それは海中をひっそりと走り。銀鯰戦艦の下に辿り着くと浮上。船体を貫き、破裂させた。

「一人も逃すなアアアアァアア!」

 目をひん剝いて怒号を上げる信長。戦艦は猛スピードで走り。彼らは海中を走り逃げるAREの銀足軽を捕らえたのだった。

……その後戦艦Dも他の三隻と合流。小早川はその信長の戦艦に呼ばれ、黒田との電話内容を説明した。

「……というわけで人質を捉えたから降伏しろ、と訴えたようです。」

「黒田殿は本気か?」

「本気です。基本的には人の命を尊いと思う方ですから。」

「そう言えば先程も私を敢えてうつけものだと罵って叱咤激励して下さった。

なんと仁愛に溢れたお方なのだ!」

「まあ……確かに情も併せ持つお方ですから……。」

 黒田がいる方向を向き、心を込めて一礼する信長。

小早川はそんな彼を暖かさと心苦しさの混ざった目で一瞬だけ見つめ。心で呟いた。

確かに情はある方です。信長様の心配をしていたのも本当でしょう。

ですが敢えてでは無くて、苛々しながら素で罵ったんだと思いますよ……黒田殿はそう言うお方です……。



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