表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国DNA  作者: 花屋青
46/90

祭りの後

 人々がざわめく中。着物姿の青年は血走った目で日本刀を振り下ろした。幽斎は咄嗟に後ろへ一歩飛ぶ。そして手にしていたキーボードを盾のように構え、腕を伸ばして突き出した。青年から振り下ろされた光り輝く刃先はまさに電動鋸。キーボードを縦真っ二つにして幽斎の身体ギリギリをなぞって落下。

「クソォアアア!」

 素早く刀を構え直す青年。彼の腕に栗山と母里は噛みつく。そして島津は青年が取り落とした刀を人が居ない方向へ蹴飛ばした。双子は目を瞑って幽斎の前に立ち、彼らの前に双子の母は覆い被る。行也も青年を後ろから羽交い締め。

 青年は両手両足をバタバタさせ、口から泡を吹きながら不明瞭な発音で叫んだ。

「離せ山田! 細川の名を汚すヤツは許せないんだッ! こんな下品な服装で意味不明な楽曲を喚き散らしてやがってッ!」

「……その声……まさか細川さん?」

 行也達が目を見開いて驚いた時。火のように荒れ狂う青年へ、声の消火剤が振り掛かった。


「た、ただおき……サン……そこまでデス。」

 いつのまにか、金髪碧眼の少年がステージに上がっていた。頭に小さな兜をちょこんと乗せ、法被を纏ったその少年は。肩に飛び乗った黒田の耳打ちを聞きながら、荒い息をしつつ細川にゆっくり歩み寄る。そして小声で言った。

「徳…川殿、父は…勝手に石田側に降伏し…たクソ野郎でス。ガラシャだって…降伏しなかったのに信じられないと叫んでクダサイ……。」

「は? それよりラーシャ、熱は……」

「ハヤク!!」

 真っ赤な目、真っ赤な顔真っ赤な声のラーシャ。彼の気迫に押された細川は、首をかしげつつも腹のそこから叫んだ。

「徳川殿ォーッ! 父は勝手に石田側に降伏したクソ野郎ですーーッ! ガラシャだって降伏しなかったのに信じられん! 成敗してくれるゥ!」

 目をかっぴらいて幽斎を睨む細川。

 一方、これもまたステージに上がっていた行人は、肩に飛び上がった黒田の指示でマイクをラーシャに渡す。

 ラーシャは深呼吸すると一気に言った。

「細川殿、もういい加減許してあげるべきでス。

 私は秀吉様を失ってバラバラになったこの国を纏め、安定させ、平和にするため、泣く泣く関ヶ原の戦いを起こしたのダ。それナノにそれが原因デ、貴方達親子が仲違いするナンテ……アア!」

 深くため息を吐き、額に手を当てて膝をつくラーシャ。彼は少し咳き込む。

 細川は羽交い締めされつつも思わず身を乗り出した。

「ラー……徳川殿!」

 ラーシャはゆっくり立ち上がり、細川を諭すように言った。

「私は平和な国を作りタイ。その一歩トシテ、まず目の前の親子の心を平和にしたいのダ。さぁ、幽斎殿と握手して仲直りしてクダサイ。」

「ハぁァアー! 何を言ってるんだ! だから奴はに……。」

 白い顔に血管をびきびき走らせ、ラーシャを睨み叫ぶ細川だったが。自分を羽交い締めしている行也の小声で我に帰った。彼は横目で周囲を見て息を飲む。警備員数人が、此方を鋭い眼差しで見つめていたのだ。

「わかった……わかりましたッ!」

 行也から解き放たれた彼は、幽斎の手を潰す勢いで握る。そんな彼に幽斎は艶やかに微笑んだ。


 二人の握手を見届けた行人はマイクをラーシャから受け取り、観客席を向いて口をパクパクさせた。

「こうして、徳川家康のおかげで細川親子は仲直り出来たのじゃ! めでたしめでたし!

 以上、『平和を愛する権現様と細川親子』の寸劇でした! 最後まで見て下さってありがとうございました!」

 ステージの皆は頭を下げた。しかし会場は子供の泣き声、大人達の批難と疑問の声でごった返す。

「ゴリラが人間にならなかった……?」

「何がなんだかわからない……。イエヤス? って外人だっけ?」

「関ヶ原の戦いで幽斎が敵に自城……田辺城を取り囲まれ、開城したのは本当。それに忠興がキレたのも本当だけど……。家康が仲を取り持ったって話はあったっけ? それにこんなにあっさり仲直りしたかな?」

 行人はまた観客席を向いて口をパクパクさせた。

「えー! 今年の祭のテーマは『絆』です! 親子の切っても切れない絆を描くためにこのテーマを選びました!

 ゴリラが人間になったのは、役者さんの特殊メイクが汗で落ちたからじゃ!」 観客席からは怒号が飛ぶ。

「嘘くせー!」

「もっとライブ聞きたかったのに!」

 そんな中、一人の赤い髪の男がステージに掛け上った。

「ぼ、ぼくは! 劇のいわんとすることはわかりましたっ!」

 彼は双子の母を指した。

「この婦人は、ゴリ……役者さんが暴れる演技をしている最中、この子達を庇っておられました! 劇と気付くまでずっと! これはただの寸劇ではありません! 普段中々接する時間のない親子の、愛を映し出すドッキリでもあったのです!」

 悠太、そして離れた席にいた洋平とその兄弟達は立ち上がって拍手した。それに流されるようにパラパラと拍手が起こる。行也達はそそくさとステージから降りた。

 その後の出し物のマジックショーが圧巻で、行也達の刃物騒ぎは観客の意識から薄れたのだが。彼らは会場の警備担当と実行委員にこってり絞られた。幸い怪我人等は出なかったため、行也達は会場撤収の手伝い後に解放されたのだった。

 祭の次の日。行也はラーシャ宅で安土城百分の一のジオラマを手伝っていた。 行也は隣でポニーテールを結い直している細川に尋ねた。

「細川さん。信長様はどこに座っていただきますか?」

 仏具サイズのクッションに鎮座する、一円玉よりも小さい信長人形。細川は信長人形に頭を小さく下げ、腕を組んで唸った。

「……不本意だが…依頼者の言う通り、天守閣のてっぺんにご案内するか。俺がやるからお前は触るな。」

 細川は美術品取り扱い用手袋をはめた。彼は医者が手術をするように神経を集中させ、信長を丁寧に丁寧に天守閣に貼り付ける。少しして彼は手を人形からそっと離した。そして長い息を吐き、手拭いで汗を拭う。

「信長様。無礼をお許し下さい。」

 信長人形に頭を下げた彼は、行也に目線を移した。

「山田は一旦休憩に入れ。客間に菓子が置いてある。メイドにもお前の話はしてあるから、声を掛ければ茶ぐらい出すだろう。」

「細川さんは休憩なさらないんですか?」

「俺はラーシャの様子を見に行く。」

 昨日、風邪をひいているのにも関わらず、家を飛び出した細川を追いかけたラーシャ。一晩経って体調はほとんど良くなったのだが、母・シャローンの命令で横になっていた。

 一緒に様子を見に行きたいと思った行也だが。何となく細川はラーシャに大事な話があるような気がして遠慮した。

「お大事に、とお伝え下さい。」

「……山田。」

 ドアを開けた細川は、ふと振り返って行也に尋ねた。

「島津殿も、黒田殿も取り乱さなかったのか?」

 モモンガの時から、針のように鋭く光る細川の眼差しが、今はかくれんぼで取り残された子供のように見える。

 行也は細川のくっきりした平行二重の目を見て答えた。

「取り乱しはしませんでしたが……。やっぱりショックだったみたいです。今は吹っ切れたように見えますし、顔には出しませんが、きっと不安になることもあると思います。」

 細川さんは? という言葉を行也は飲み込んだ。細川は自分が不安だから他の人が気になるのだ。そしてプライドの高い彼が、そのことに気付かれたくないのは想像がつく。

「そうか……。まあ今日は夜にあのニセ貴族が説明会をするから、全ては明らかになるだろう。」

 細川はそう呟くと、部屋を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ