夏祭り
「ただいま!」
空が青と茜色のグラデーションに色付く時。行人は家のドアを元気よく開けた。
「おかえり。」
「おかえりでござる。」
行人は玄関までやってきた黒田と島津をまじまじと見つめた。
「……何かあったのか? なんとなくだけど。」
行人を見上げ、黒田はいつも通りの甲高く明るい声で言った。
「実はワシらの体は、兜の一部なんじゃよ。色々な物質と戦国武将の汗とかで出来たごちゃまぜ動物じゃ。生まれ変わりというより、リサイクルされた生物というのがが正しい。」
「……マジでー!」
部屋が音符で埋め尽くされるほどの声を発した行人は、二匹を再び凝視。
黒田は一呼吸おいて続ける。
「マジじゃ。お前達にした戦国時代の話も、実際に体験したのはオリジナルの戦国武将なんじゃ。
この記憶もオリジナルの戦国武将の体……汗や骨に染み付いたものなのか、造られた時に植え付けられたのかもわからん。」
自分の手を見つめる黒田。彼の目は、いつものトパーズのような透明な金色ではなく。古い五円玉のように疲れて濁った金色へ変わった。
「行也は本物だと言ってくれて、嬉しかった。ワシもそうだと思いたい。……じゃが、冷静に考えるとワシらは物心ついた時から何故か現代の知識があるからのぅ。記憶操作をされた可能性はある。そう考えたくはないがな……。」
黙って彼らを見つめる行人に、今度は島津が口を開いた。
「でも記憶が本物であれ、造られたものであれ、拙者や黒田殿……細川殿達が話したことは本気の本物の気持ちで話したことは信じて欲しいでござるよ。」
部屋に差す橙色の光を浴び、少し厳かな佇まいの二匹。彼らは背筋を伸ばして行人を見つめる。
行人はしゃがむと、二匹の目をしっかりと見て頷いた。
「……難しくてよくわかんねーけど。先生と師匠がどうやって生まれたのかは関係ねぇよ!
俺は俺に本気でぶつかってくれる先生も師匠も信じるぜ!」
「行人殿……。」
島津がそっと目頭を押さえた時。チャイムが鳴った。
「兄貴かな。」
行人はインターホンを耳に当てる。
「……みっちゃん?」
ドアを開けるとそこには。三段の跳び箱が入りそうなキャリーケース、降灰用の傘を持っている光紀がいた。なお、キャリーケースの上にはモモンガゲージが積んである。
「……やあ……夕飯前で失礼だが……お邪魔させていただく。」
息を切らせて、光紀はキャリーケースに頭を乗せる。
スプリングコート、長袖シャツ、セーター、冬物のズボンと、七月なのに相変わらず厚着の彼だが。今日は火山灰がひどいためマスク、ゴーグルまでしていた。
彼は喉と頭を震わせながら声を発した。
「ところで、黒田さんと島津さんは、早まったことはしていないであろうな? 生きているであろうな!」
「……事情は行也殿から聞いた。確かにちょっとショックではござったが……拙者も黒田殿ももう大丈夫でござるよ。心配してくれてありがとう。」
行人の足元の黒田と島津は、光紀を見上げる。島津の柔らかい微笑みに、光紀は溜めていた息を吐きだした。そして炒めたもやしのように、しんなりとキャリーケースにしなだれ掛かる。
行人はそんな彼を助け起こしながら言った。
「ところでキャリーケースには何が入ってんだ? 辛子明太子か?」
行人はキラキラした目を光紀に向ける。光紀はそんな彼に淡々と答えた。
「辛子明太子は一箱だけだ。後は黒田さんと島津さんに……。」
「いや! 絶対に見ない方がよいと明智は考える!」
モモンガゲージの内側の壁を叩き、明智は叫ぶ。いつものクールな声ではなく、非常ベルを押したような波長の声であった。
「そこまで言われると逆に見たいけどな。わかったぜ。とりあえず二人とも中に入れよ!」
居間に通された光紀は。行人が床に置いた大きな不織布のバックを見つめて腕を組んだ。
一方、行人は紙袋を受け取ると、鼻歌を歌いながら台所へ。
――行人が紅茶とレモンケーキを持ってきても、光紀は不織布のバックを持って、ぶつぶつ言いながらテーブルをぐるぐる回っていた。
「紅茶さめちまうぞ!」
「一見吹っ切れたようだが……微かに悲しい影があるような……ないような……一応見ていただく方がよいのか。見ない方が幸せなのか。……ファっ!」
不織布の袋はビリッと音を立てて割けた。色とりどりの可愛らしい絵本、マンガ、オドロオドロしい表紙の本が床に撒き散らされる。
「何だこれ?」
「見るな!」
明智の声より先に島津は一つの本を取った。
「何か目がチカチカする表紙でござ……せ、拙者がランドセルしょった女児にされている!」
本を持つ手は震え、口をパクパクさせる島津。黒田はその本を横から取り、裏表紙のあらすじを読み始めた。
「わたし、島津義乃十一才! あの暴れん坊・鬼島津の生まれ変わりなの。うちのパパが酔っぱらってどこかからパクった不思議な火縄銃で、今日も困った奴をぶっ倒しちゃうよ! じゃと。
……フヒヒヒヒヒアヒャハハハハ!」
「小学生のヤクザかよ! 師匠、ワルだな!」
本を放り投げて笑い転げる黒田。同じく腹を抱えて笑い出す行人。
「ひどいでござる! ひどいでござる!」
明智は顔を手で押さえてしゃがむ島津の肩を優しく叩き、床の本に目を凝らした。一冊の本が目に入る。明智はそれを手に取ると、黒田に渡した。
「こちらは貴殿が主役である。」
笑い袋状態で転がっていた黒田はゆっくりと立ち上がって本を受け取る。本の表紙を見た彼は。冷蔵庫に長時間ぶちこまれたが如く、身をぶるっと震わせた。
「く・ろ・だ・む・し……。」
本を取り落とし、言葉を失った黒田。光紀はそっと本を拾う。そして、明智にペンライトで顎下を照らされつつも本の内容を読み上げた。
「喉が痛いのですか? 私が代わりに読み上げましょう。
……昔々、黒田という虫が居た。奴らは人の涙と睫毛の常在菌が化学変化を起こして生まれたハート型の虫である……生まれ落ちた彼らは、あらゆる虫を食らう織田斬草と手を組み、昆虫たちを恐怖に陥れる……果たしてサナダムシは……。」
「もうよい! そもそもこーんな本をワシらに見せて何が言いたいんじゃ!」
目をクレーンで引っ張られたように吊り上げ、じたんだを踏む黒田に光紀は正座して答えた。
「色々な黒田官兵衛や島津義弘が世の中には溢れているのです。
モモンガだって良いではありませんか。合成生物でも良いではありませんか! 貴方達の体には戦国武将の成分、心も含有されているのです。迷いを振り払い、モモンガよ! 大志を抱け!」
立ち上がり、クラーク博士のようなポーズを取って情熱的にいい放つ光紀。
島津はそんな彼に苦笑しながら口を開いた。
「ある意味また打ちのめされた気もするが……光紀殿が我々を思いやる気持ちはありがたく受け取るでござるよ。」
一方、黒田は黒田虫の裏表紙の下部を見て、溜め息をついた。千八百円。散らばった他の本も同じようにハードカバーで立派な装丁。安くはない。
「こーんな無駄遣いしおって! こんな金があるならもっと専門書とか自分のために使いなさい! バーカ!」
「なっ、なな……! 私は勉強は出来るバカなんです! 偏差値七十のバカなんです! バカにしないで下さい!」
思わず身を乗り出す光紀の服の袖を、明智は引っ張った。
「新幹線の時間がある。そろそろ帰った方が良いと明智は考える。」
「……そうですね。明日は大友さん……。」
「いや! こんな嫌がらせツアーはやめろよ!」
全力で行人達に止められた光紀は、絵本読み聞かせツアー断念を決めた。帰宅の準備を始めた彼は、チラシを十枚行人へ渡した。
「今週末は天文館祭りがあるのだ。夜のステージイベントで双子の館君達が歌うから是非来て欲しい。幽斎さんはキーボード、栗山さんもハーモニカ、母里さんもタンバリンで参加している。
……残りの九枚はクラスメイトに配っておいてくれ。」
無事に期末テストを乗り越えた行人達は、天文館祭りに来ていた。
祭りは盛況であった。紺色の空の下。周りを照らすような笑顔で元気に走り出すこども。青、紫、ピンク、黄色、色とりどりの浴衣を纏った華やかな女性達。はしゃぐ若者の声、様々な店の威勢のよい声、焼き鳥、焼きそばなど食べ物の香ばしい匂い。音。
祭りは目にも鼻にも耳にも鮮やかであった。
紺色の空に瞬く星が見えないほど、ステージを光輝かせるライト。
その光に負けないほど、光輝く三人と二匹がステージに上がり、頭を下げる。「バンド名は、『夢見る言葉』です。よろしくお願いします。」
目の下にほくろのある双子の兄の挨拶に、暖かい拍手が起きる。
焼きそばのキャベツをバリバリと音を立てて食べる行人の傍らで、悠太はステージに釘付けになっていた。因みに洋平は弟と妹を連れて別行動である。
「あれ、光ファイバーのマントか? 青く光ってキレイだ! 行人も焼きそばばっか食ってるなよ。」
少しして。双子は小鳥のような口を開いた。
静寂な空気を、双子のキラキラした伸びやかな声、優美で力強い幽斎のキーボード、栗山のシチューのようにまろやかに溶け込むハーモニカ、母里のパワフルなタンバリンが、勢いよくぶち破る。情熱的で、生きとし生けるもの全てのエネルギーを桜島のように爆発させる彼らのメロディー。それに会場の人々の手拍子が加わり、会場は焼けた石を投げ込んだ石焼きビビンバのようにジュージュー熱い。
その次の曲も弾けるような調べで会場の熱気はさらに増す。そして。
幽斎はマイクを握り、双子、そしてステージ裏の彼らの母を振り返ってから、会場の人々に語りかけた。「次が最後の曲に……。」「ギャアアぁー!」
会場の観客席は、モーゼの十戒で海が割れるが如く、真っ二つ。道が
「フゴォォオ!」
その道をどこか優美なゴリラが走り、幽斎に日本刀を降りおろす。
それをキーボードで受け止める幽斎。
「先生ー!」
真っ二つになったキーボードの隙間から幽斎が、ステージ裏から出てきた行也が、島津が、黒田が、観客が見たのは。
ゴリラから変身した、若く精悍で背が高い袴姿の若武者であった。
頭の上で結った黒髪を荒馬のように振り回しながら、美しい顔に血管を浮かべて若武者は叫んだ。
「細川の名を、父の名を、汚すとはァアアー! 成敗してくれるゥウ!」
「ただいま!」
空が青と茜色のグラデーションに色付く時。行人は家のドアを元気よく開けた。
「おかえり。」
「おかえりでござる。」
行人は玄関までやってきた黒田と島津をまじまじと見つめた。
「……何かあったのか? なんとなくだけど。」
行人を見上げ、黒田はいつも通りの甲高く明るい声で言った。
「実はワシらの体は、兜の一部なんじゃよ。色々な物質と戦国武将の汗とかで出来たごちゃまぜ動物じゃ。生まれ変わりというより、リサイクルされた生物というのがが正しい。」
「……マジでー!」
部屋が音符で埋め尽くされるほどの声を発した行人は、二匹を再び凝視。
黒田は一呼吸おいて続ける。
「マジじゃ。お前達にした戦国時代の話も、実際に体験したのはオリジナルの戦国武将なんじゃ。
この記憶もオリジナルの戦国武将の体……汗や骨に染み付いたものなのか、造られた時に植え付けられたのかもわからん。」
自分の手を見つめる黒田。彼の目は、いつものトパーズのような透明な金色ではなく。古い五円玉のように疲れて濁った金色へ変わった。
「行也は本物だと言ってくれて、嬉しかった。ワシもそうだと思いたい。……じゃが、冷静に考えるとワシらは物心ついた時から何故か現代の知識があるからのぅ。記憶操作をされた可能性はある。そう考えたくはないがな……。」
黙って彼らを見つめる行人に、今度は島津が口を開いた。
「でも記憶が本物であれ、造られたものであれ、拙者や黒田殿……細川殿達が話したことは本気の本物の気持ちで話したことは信じて欲しいでござるよ。」
部屋に差す橙色の光を浴び、少し厳かな佇まいの二匹。彼らは背筋を伸ばして行人を見つめる。
行人はしゃがむと、二匹の目をしっかりと見て頷いた。
「……難しくてよくわかんねーけど。先生と師匠がどうやって生まれたのかは関係ねぇよ!
俺は俺に本気でぶつかってくれる先生も師匠も信じるぜ!」
「行人殿……。」
島津がそっと目頭を押さえた時。チャイムが鳴った。
「兄貴かな。」
行人はインターホンを耳に当てる。
「……みっちゃん?」
ドアを開けるとそこには。三段の跳び箱が入りそうなキャリーケース、降灰用の傘を持っている光紀がいた。なお、キャリーケースの上にはモモンガゲージが積んである。
「……やあ……夕飯前で失礼だが……お邪魔させていただく。」
息を切らせて、光紀はキャリーケースに頭を乗せる。
スプリングコート、長袖シャツ、セーター、冬物のズボンと、七月なのに相変わらず厚着の彼だが。今日は火山灰がひどいためマスク、ゴーグルまでしていた。
彼は喉と頭を震わせながら声を発した。
「ところで、黒田さんと島津さんは、早まったことはしていないであろうな? 生きているであろうな!」
「……事情は行也殿から聞いた。確かにちょっとショックではござったが……拙者も黒田殿ももう大丈夫でござるよ。心配してくれてありがとう。」
行人の足元の黒田と島津は、光紀を見上げる。島津の柔らかい微笑みに、光紀は溜めていた息を吐きだした。そして炒めたもやしのように、しんなりとキャリーケースにしなだれ掛かる。
行人はそんな彼を助け起こしながら言った。
「ところでキャリーケースには何が入ってんだ? 辛子明太子か?」
行人はキラキラした目を光紀に向ける。光紀はそんな彼に淡々と答えた。
「辛子明太子は一箱だけだ。後は黒田さんと島津さんに……。」
「いや! 絶対に見ない方がよいと明智は考える!」
モモンガゲージの内側の壁を叩き、明智は叫ぶ。いつものクールな声ではなく、非常ベルを押したような波長の声であった。
「そこまで言われると逆に見たいけどな。わかったぜ。とりあえず二人とも中に入れよ!」
居間に通された光紀は。行人が床に置いた大きな不織布のバックを見つめて腕を組んだ。
一方、行人は紙袋を受け取ると、鼻歌を歌いながら台所へ。
――行人が紅茶とレモンケーキを持ってきても、光紀は不織布のバックを持って、ぶつぶつ言いながらテーブルをぐるぐる回っていた。
「紅茶さめちまうぞ!」
「一見吹っ切れたようだが……微かに悲しい影があるような……ないような……一応見ていただく方がよいのか。見ない方が幸せなのか。……ファっ!」
不織布の袋はビリッと音を立てて割けた。色とりどりの可愛らしい絵本、マンガ、オドロオドロしい表紙の本が床に撒き散らされる。
「何だこれ?」
「見るな!」 明智の声より先に島津は一つの本を取った。
「何か目がチカチカする表紙でござ……せ、拙者がランドセルしょった女児にされている!」
本を持つ手は震え、口をパクパクさせる島津。黒田はその本を横から取り、裏表紙のあらすじを読み始めた。
「わたし、島津義乃十一才! あの暴れん坊・鬼島津の生まれ変わりなの。うちのパパが酔っぱらってどこかからパクった不思議な火縄銃で、今日も困った奴をぶっ倒しちゃうよ! じゃと。
……フヒヒヒヒヒアヒャハハハハ!」
「小学生のヤクザかよ! 師匠、ワルだな!」
本を放り投げて笑い転げる黒田。同じく腹を抱えて笑い出す行人。
「ひどいでござる! ひどいでござる!」
明智は顔を手で押さえてしゃがむ島津の肩を優しく叩き、床の本に目を凝らした。一冊の本が目に入る。明智はそれを手に取ると、黒田に渡した。
「こちらは貴殿が主役である。」
笑い袋状態で転がっていた黒田はゆっくりと立ち上がって本を受け取る。本の表紙を見た彼は。冷蔵庫に長時間ぶちこまれたが如く、身をぶるっと震わせた。
「く・ろ・だ・む・し……。」
本を取り落とし、言葉を失った黒田。光紀はそっと本を拾う。そして、明智にペンライトで顎下を照らされつつも本の内容を読み上げた。
「喉が痛いのですか? 私が代わりに読み上げましょう。
……昔々、黒田という虫が居た。奴らは人の涙と睫毛の常在菌が化学変化を起こして生まれたハート型の虫である……生まれ落ちた彼らは、あらゆる虫を食らう織田斬草と手を組み、昆虫たちを恐怖に陥れる……果たしてサナダムシは……。」
「もうよい! そもそもこーんな本をワシらに見せて何が言いたいんじゃ!」
目をクレーンで引っ張られたように吊り上げ、じたんだを踏む黒田に光紀は正座して答えた。
「色々な黒田官兵衛や島津義弘が世の中には溢れているのです。
モモンガだって良いではありませんか。合成生物でも良いではありませんか! 貴方達の体には戦国武将の成分、心も含有されているのです。迷いを振り払い、モモンガよ! 大志を抱け!」
立ち上がり、クラーク博士のようなポーズを取って情熱的にいい放つ光紀。
島津はそんな彼に苦笑しながら口を開いた。
「ある意味また打ちのめされた気もするが……光紀殿が我々を思いやる気持ちはありがたく受け取るでござるよ。」
一方、黒田は黒田虫の裏表紙の下部を見て、溜め息をついた。千八百円。散らばった他の本も同じようにハードカバーで立派な装丁。安くはない。
「こーんな無駄遣いしおって! こんな金があるならもっと専門書とか自分のために使いなさい! バーカ!」
「なっ、なな……! 私は勉強は出来るバカなんです! 偏差値七十のバカなんです! バカにしないで下さい!」
思わず身を乗り出す光紀の服の袖を、明智は引っ張った。
「新幹線の時間がある。そろそろ帰った方が良いと明智は考える。」
「……そうですね。明日は大友さん……。」
「いや! こんな嫌がらせツアーはやめろよ!」
全力で行人達に止められた光紀は、絵本読み聞かせツアー断念を決めた。帰宅の準備を始めた彼は、チラシを十枚行人へ渡した。
「今週末は天文館祭りがあるのだ。夜のステージイベントで双子の館君達が歌うから是非来て欲しい。幽斎さんはキーボード、栗山さんもハーモニカ、母里さんもタンバリンで参加している。
……残りの九枚はクラスメイトに配っておいてくれ。」
無事に期末テストを乗り越えた行人達は、天文館祭りに来ていた。
祭りは盛況であった。紺色の空の下。周りを照らすような笑顔で元気に走り出すこども。青、紫、ピンク、黄色、色とりどりの浴衣を纏った華やかな女性達。はしゃぐ若者の声、様々な店の威勢のよい声、焼き鳥、焼きそばなど食べ物の香ばしい匂い。音。
祭りは目にも鼻にも耳にも鮮やかであった。
紺色の空に瞬く星が見えないほど、ステージを光輝かせるライト。
その光に負けないほど、光輝く三人と二匹がステージに上がり、頭を下げる。「バンド名は、『夢見る言葉』です。よろしくお願いします。」
目の下にほくろのある双子の兄の挨拶に、暖かい拍手が起きる。
焼きそばのキャベツをバリバリと音を立てて食べる行人の傍らで、悠太はステージに釘付けになっていた。因みに洋平は弟と妹を連れて別行動である。
「あれ、光ファイバーのマントか? 青く光ってキレイだ! 行人も焼きそばばっか食ってるなよ。」
少しして。双子は小鳥のような口を開いた。
静寂な空気を、双子のキラキラした伸びやかな声、優美で力強い幽斎のキーボード、栗山のシチューのようにまろやかに溶け込むハーモニカ、母里のパワフルなタンバリンが、勢いよくぶち破る。情熱的で、生きとし生けるもの全てのエネルギーを桜島のように爆発させる彼らのメロディー。それに会場の人々の手拍子が加わり、会場は焼けた石を投げ込んだ石焼きビビンバのようにジュージュー熱い。
その次の曲も弾けるような調べで会場の熱気はさらに増す。そして。
幽斎はマイクを握り、双子、そしてステージ裏の彼らの母を振り返ってから、会場の人々に語りかけた。「次が最後の曲に……。」「ギャアアぁー!」
会場の観客席は、モーゼの十戒で海が割れるが如く、真っ二つ。
「フゴォォオ!」
その道をどこか優美なゴリラが地鳴りを立てて走り、幽斎に日本刀を力任せに振りおろす。
それをキーボードで受け止める幽斎。
「先生ー!」
真っ二つになったキーボードの隙間から幽斎が、ステージ裏から出てきた双子の母が、行也が、島津が、黒田が、行人達観客が見たのは。
ゴリラから変身した、若く精悍で美しい袴姿の若武者であった。
頭の上で結った黒髪を荒馬のように振り回しながら、背が高い若武者は叫んだ。
「細川の名を汚しやがって! 成敗してくれるゥウ!」




