第七話 勇者、王様を辞めさせる
第七話 勇者、王様を辞めさせる
古代魔神アグナディスが世界征服を諦め、建設現場で働き始めてからしばらく経った頃、勇者ユートたちは王都から東へ向かう街道を歩いていた。
最近の旅は以前にも増して奇妙だった。
魔王を倒した後、ゴブリンには農業を教え、古龍とは共存協定を結び、盗賊団には仕事を斡旋し、魔王の息子を弟子にし、世界最強決定戦では豆を箸で移し、ついには一万年前の魔神まで就職させてしまった。
セレスは時々思う。
自分たちは本当に勇者パーティなのだろうか、と。
「勇者様」
「何?」
「最近、魔物を討伐していませんね」
「そうだっけ?」
「ゴブリンは農民になりましたし、古龍とは友人になりましたし、ゼルディア様は弟子になりましたし、魔神は建設作業員になりました」
「平和でいいじゃん」
「それはそうなのですが」
セレスは少し考えてから続けた。
「勇者という職業の意味が分からなくなってきました」
隣を歩いていたバルガが笑った。
「困ってる奴を助けるのが勇者なら、別に魔物倒さなくてもいいんじゃねえか?」
ガイラスも頷いた。
「敵を倒すことと問題を解決することは同じではない」
リリシアが面倒そうに杖を肩へ乗せた。
「私は大魔法を撃てればどっちでもいいわ」
「リリシア様だけは目的が違います」
少し後ろからゼルディアが走ってくる。
背中には、また巨大な岩が括り付けられている。
「師匠!」
「何?」
「今日はどこまで走るのだ!」
「次の町」
「距離は!」
「三十キロくらい」
「なぜ我だけ走っている!」
「弟子だから」
「師匠は歩いているではないか!」
ユートは少し考えた。
「じゃあ俺も走る?」
ゼルディアの顔が明るくなる。
「当然だ!」
「分かった」
ユートが走り出した。
一瞬。
姿が消えた。
数秒後。
遥か彼方から声が聞こえた。
「先行ってるぞー!」
ゼルディアは立ち尽くした。
「……待て」
その姿は。
もう見えない。
「師匠ォォォォォ!」
セレスが静かに言った。
「ゼルディア様」
「何だ!」
「追いかけてください」
「追いつけるわけがないだろう!」
「修行です」
「お前たち全員、段々師匠に似てきていないか!」
それは。
誰も否定できなかった。
◇
一行が向かっていたのは、東方にある小国ラグレス王国だった。
人口およそ八十万人。
肥沃な平原を持ち、かつては穀物の輸出で栄えた豊かな国だったが、ここ数年、急激に国力を落としている。
原因。
重税。
役人の腐敗。
貴族の横暴。
軍事費の増大。
そして。
国王。
ボルガン三世。
民衆からは。
「暴君」
そう呼ばれていた。
ユートたちがラグレス王国の国境へ入った直後、異変はすぐに分かった。
畑。
荒れている。
家。
壊れている。
街道。
人が少ない。
「ずいぶん寂しいな」
ユートが言う。
ガイラスが周囲を見る。
「戦争でもあったのか?」
セレスが首を振った。
「この国は、ここ十年以上大きな戦争をしていません」
「じゃあ何でこんな状態なんだ?」
答えたのは。
道端に座っていた老人だった。
「王様だよ」
全員が老人を見る。
老人は痩せていた。
服も古い。
しかし。
目はしっかりしている。
「王様?」
ユートが聞く。
「ああ」
老人が吐き捨てるように言った。
「税金だ」
「高いの?」
「収穫の七割」
ユートが止まった。
「七割?」
「去年までは六割だった。今年から七割になった」
バルガが眉をひそめた。
「それじゃ食っていけねえだろ」
老人は笑った。
「だから皆逃げてる」
「どこへ?」
「隣国さ」
老人は遠くを見る。
「若い者はほとんど出ていった。残ってるのは、土地を捨てられない年寄りばかりだ」
ユートは畑を見る。
作物。
ほとんど育っていない。
「王様は何でそんなに税金取るんだ?」
老人が肩をすくめた。
「贅沢するためだろうよ」
「本当に?」
「王宮は毎年増築されている。貴族は宴会ばかり。兵士は税金を取り立てに来る。俺たちはパン一つ買う金もない」
ユートは黙った。
セレスが小さく言う。
「勇者様」
「うん」
「嫌な顔をしています」
「そう?」
「はい」
ユートは王都の方角を見る。
「王様に会おう」
セレスは予想していた。
「そうおっしゃると思いました」
◇
ラグレス王国王都。
王宮。
「勇者ユートが来た?」
国王ボルガン三世は、昼間から酒を飲んでいた。
年齢。
五十一歳。
大柄。
派手な服。
指には宝石。
首にも宝石。
頭には金の冠。
側近の大臣が答える。
「はい」
「魔王を倒したという?」
「その勇者です」
ボルガンは少し考えた。
「何の用だ」
「国王陛下にお会いしたいと」
「面倒だな」
「追い返しますか?」
「いや」
ボルガンは笑った。
「世界最強の勇者だろう。利用価値はある」
そう言って。
酒を飲む。
「通せ」
◇
謁見の間。
ユートたちは国王の前に立っていた。
ボルガン三世が玉座から見下ろす。
「お前が勇者ユートか」
「そう」
周囲の貴族がざわついた。
国王に対して敬語を使わない。
しかし。
誰も強く注意できなかった。
相手。
レベル128。
しかも。
後ろ。
123。
119。
115。
107。
82。
この国の近衛騎士団長。
レベル58。
注意したくても。
できない。
「我が国へ何の用だ」
国王が聞く。
ユートは答える。
「税金」
「税?」
「高すぎない?」
謁見の間が静まった。
国王の顔が変わる。
「何の話だ」
「収穫の七割取ってるって聞いた」
「それがどうした」
「暮らせないだろ」
「国家を維持するには税が必要だ」
「七割も?」
「必要だから徴収している」
「何に使ってるの?」
ボルガンの眉が動く。
「勇者」
「何?」
「お前は政治が分かるのか」
ユートは正直に答えた。
「全然」
周囲の貴族が少し笑った。
しかし。
ユートは続ける。
「だから聞いてる」
国王の笑みが消える。
「分からないから、教えてほしい」
セレスが少しだけユートを見る。
妙なところで。
この男は強い。
知らないことを。
知らないと言える。
国王は答えた。
「軍事」
「どれくらい?」
「何?」
「税金のうち、軍事にいくら?」
「そのような細かい数字を勇者に説明する必要はない」
ユートがセレスを見る。
「調べられる?」
「帳簿があれば」
「王様」
「何だ」
「帳簿見せて」
謁見の間。
沈黙。
国王が笑った。
「断る」
「何で?」
「国家機密だ」
「じゃあ」
ユートは少し考えた。
「何で税金が七割必要なのか分からないじゃん」
「国王である我が必要だと判断した。それで十分だ」
ユートは。
少し。
黙った。
そして。
「分かった」
国王が満足そうに笑う。
「理解したか」
「うん」
ユートは振り返った。
「帰ろう」
セレスが驚く。
「勇者様?」
「一回調べよう」
国王が笑う。
「そうすることだ」
この時。
ボルガン三世は。
気づいていなかった。
ユートが。
怒った時ほど。
静かになることを。
◇
三日後。
王都の宿屋。
テーブル。
書類。
山。
セレスが。
疲れ切った顔で。
帳簿を見る。
「勇者様」
「何?」
「どうやって集めたのですか、これ」
「町の人にもらった」
「国家予算の資料を?」
「役所の人が持ってきてくれた」
「なぜ役所の人が勇者様へ国家資料を持ってくるのですか」
ユートは答えた。
「困ってたから」
実際。
役人たちも。
困っていた。
国王。
大臣。
貴族。
好き勝手。
現場。
責任だけ。
押し付けられる。
しかも。
勇者ユート。
来た。
話を聞いてくれる。
その結果。
内部資料。
次々。
集まった。
セレスは帳簿を読む。
「ひどいですね」
「何が?」
「税収を百とすると、国民生活や公共事業へ使われているのは約二十です」
「残り八十は?」
「軍事費三十五」
「そんなに?」
「ただし」
セレスが別の帳簿を見る。
「実際に兵士へ使われているのは十五程度です」
「残り二十?」
「武器購入費、施設建設費などですが」
ガイラスが聞く。
「問題があるのか?」
「金額が合いません」
セレスが資料を並べる。
「市場価格の三倍から五倍で購入されています」
リリシアが言う。
「誰か抜いてるわね」
「おそらく」
「他は?」
「王宮維持費二十五」
バルガが吹き出した。
「王宮だけで?」
「増築、宴会、装飾品、王族費」
ユートが聞く。
「必要?」
セレスが答える。
「少なくとも、この金額は異常です」
「残り?」
「貴族への補助金、特別支出、用途不明金」
ユートは帳簿を見る。
もちろん。
よく分からない。
数字。
細かい。
難しい。
だから。
一番簡単なことを聞いた。
「つまり」
「はい」
「国が貧乏なんじゃなくて」
「はい」
「金の使い方がおかしい?」
セレスが頷いた。
「その理解でほぼ正しいです」
ユートは立ち上がった。
「じゃあもう一回、王様に会おう」
◇
再び。
王宮。
「また来たのか」
ボルガン三世は露骨に嫌な顔をした。
ユートが机の上へ帳簿を置く。
「これ」
国王の顔が変わった。
「どこで手に入れた」
「役所」
「誰が渡した!」
「いっぱい」
国王の顔が赤くなる。
「反逆者どもめ!」
ユートが言った。
「その前に」
「何だ!」
「軍事費」
帳簿を開く。
「武器、高すぎない?」
国王が止まる。
「王宮も」
別の帳簿。
「去年だけで金貨十二万枚」
「国家に必要な支出だ!」
「宴会が?」
「外交だ!」
「毎週?」
「重要な会合だ!」
「三日前の宴会」
ユートは資料を見る。
「参加者、国内の貴族だけ」
国王が黙る。
ユートは続ける。
「その前も」
「…………」
「その前も」
「勇者!」
「何?」
「貴様、我を裁くつもりか!」
ユートは少し考えた。
「いや」
国王が止まる。
「俺、裁判官じゃないし」
「なら口を出すな!」
「でも」
ユートは国王を見る。
「このままだと国なくなるよ」
「何?」
セレスが前へ出る。
「陛下」
「何だ」
「現在の人口流出率、農地放棄率、税収減少率を計算すると、現在の政策が続いた場合、三年以内に国家財政は事実上破綻します」
国王が笑う。
「馬鹿な」
「昨年度税収は前年度比十五%減。今年度上半期はさらに十二%減。税率を引き上げたにもかかわらず税収が落ちております」
「なぜだ!」
ユートが答えた。
「みんな逃げてるから」
国王は黙った。
「七割取られるなら」
ユートは続ける。
「別の国行くよ」
「国民は王に従うものだ!」
「何で?」
「国民だからだ!」
「でも」
ユートは真っ直ぐ国王を見る。
「国って、人がいないとできないだろ?」
静か。
誰も。
何も言わない。
ユートは政治を知らない。
経済も。
行政も。
財政も。
専門的なことは。
何一つ。
分からない。
だから。
ただ。
目の前にある。
簡単なことを見る。
「王様」
「……何だ」
「国民が王様のためにいるの?」
「当然だ」
「違うと思う」
「何?」
「王様が国民のためにいるんじゃないの?」
謁見の間。
完全な沈黙。
大臣たち。
貴族。
騎士。
誰も口を開けない。
ボルガン三世の顔が。
赤くなった。
「貴様!」
立ち上がる。
「我に説教するつもりか!」
「説教じゃない」
「なら何だ!」
ユートは言った。
「向いてないんじゃない?」
「何が!」
「王様」
全員。
固まった。
セレスも。
珍しく。
固まった。
国王が震える。
「貴様……」
「だって」
ユートは普通に続ける。
「国民困ってる」
「…………」
「金なくなってる」
「…………」
「役人も困ってる」
「…………」
「兵士も給料遅れてる」
「…………」
「なのに王様だけ宴会してる」
「黙れ!」
ボルガンが剣を抜いた。
周囲の近衛騎士が。
動く。
しかし。
誰も。
ユートへ剣を向けない。
正確には。
向けられない。
勇者ユート。
レベル128。
後ろ。
ガイラス119。
バルガ115。
リリシア123。
セレス107。
ゼルディア82。
戦闘。
成立しない。
しかも。
もう一つ。
理由があった。
近衛騎士たちも。
国王に。
うんざりしていた。
ユートが国王を見る。
「王様」
「何だ!」
「辞めたら?」
ボルガン三世。
固まる。
「…………何?」
「王様」
ユートは。
本気だった。
「向いてないなら辞めればいいじゃん」
「国王を何だと思っている!」
「仕事」
セレスが。
思わず。
ユートを見る。
「勇者様」
「違うの?」
「いえ」
セレスは少し考えた。
「ある意味では、間違っていません」
「国王は生まれながらの身分だ!」
ボルガンが叫ぶ。
「神より与えられた権利だ!」
ユートは首を傾げた。
「でも下手なんだろ?」
「下手?」
「王様やるの」
国王の顔が引きつる。
「剣だって」
ユートは腰の聖剣を指す。
「下手な奴に持たせたら危ないじゃん」
「…………」
「国も同じじゃない?」
誰も。
何も言えなかった。
そして。
その時。
一人の大臣が。
前へ出た。
財務大臣。
七十二歳。
三十年以上。
この国に仕えてきた男。
「陛下」
「何だ!」
「勇者殿の言葉」
深く。
頭を下げる。
「お考えください」
国王の顔が変わる。
「貴様まで!」
次。
近衛騎士団長。
「私からも、お願い申し上げます」
次。
農務大臣。
次。
司法大臣。
次。
地方長官。
一人。
また一人。
国王の前へ出る。
そして。
全員。
頭を下げた。
「御退位を」
ボルガン三世は。
初めて。
理解した。
自分を支えていると思っていた人間たちは。
もう。
誰も。
自分を支えていなかった。
◇
一週間後。
ラグレス王国。
ボルガン三世。
退位。
ただし。
処刑。
なし。
国外追放。
なし。
ユートが。
反対した。
「何で殺すの?」
革命派の貴族が答える。
「暴政を敷いた罪です」
「裁判した?」
「まだですが」
「じゃあ裁判すれば?」
「しかし民衆の怒りが」
「怒ってるから殺すの?」
貴族。
黙る。
セレスが。
少し笑った。
結局。
ボルガン三世は。
正式な裁判を受けることになった。
同時に。
新政府。
発足。
しかし。
ここで。
新しい問題。
発生。
「誰が王様になるの?」
ユートが聞いた。
大臣たち。
沈黙。
王子。
三人。
長男。
浪費家。
次男。
軍事狂。
三男。
まだ十二歳。
「…………」
ユートがセレスを見る。
「どうする?」
「私に聞かないでください」
財務大臣が言った。
「暫定統治評議会を設置してはどうでしょう」
「何それ?」
「複数の大臣、地方代表、商人代表、農民代表などで国政を運営し、新たな統治体制を決めるまでの暫定政府とします」
ユートが頷いた。
「それいいじゃん」
「ただ」
「何?」
「国民の信頼を得るため、象徴となる人物が必要です」
全員。
ユートを見る。
「…………」
ユート。
嫌な予感。
「何?」
財務大臣が言った。
「勇者様」
「嫌だ」
即答。
「まだ何も申し上げておりません」
「王様は嫌だ」
「せめて話を」
「絶対嫌だ」
「では国政顧問として」
「嫌だ」
「名誉議長」
「嫌だ」
「国家再建特別顧問」
「長いし嫌だ」
セレスが笑う。
「勇者様」
「何?」
「これまで他人には職業を勧めてきたのですから、たまにはご自身も働いてはいかがです?」
「俺は勇者やってる」
「最近、ほとんど職業紹介業です」
「そんなことない」
ゼルディアが言った。
「師匠」
「何?」
「我には弟子という職を与えた」
「弟子は職じゃない」
「魔神には仕事を紹介した」
「うん」
「盗賊百人にも仕事を与えた」
「うん」
「なら師匠も働け」
「働いてるって!」
バルガが大笑いする。
ガイラスも僅かに笑っている。
リリシアが言った。
「王様ユート」
「やめろ」
「似合わないわね」
「だろ?」
「でも面白そう」
「絶対やらない」
結局。
ユートは。
王にならなかった。
その代わり。
三か月だけ。
国の再建を手伝うことになった。
◇
最初。
税率。
七割。
ユートが聞いた。
「何割なら暮らせる?」
農民代表が答える。
「三割なら」
「じゃあ三割」
財務大臣が慌てる。
「勇者様!」
「何?」
「急に四割下げれば財政が!」
セレスが資料を見る。
「王宮費と不正支出を削減すれば可能です」
財務大臣が止まる。
「……可能なのですか?」
「計算上は」
ユートが言う。
「じゃあやろう」
王宮宴会。
原則中止。
不要な増築。
中止。
不正な武器取引。
調査。
貴族特別補助金。
廃止。
代わりに。
農地復興。
道路。
水路。
学校。
診療所。
そこへ。
金を回す。
さらに。
元盗賊団が再建したベルン村の仕組みを参考にし、土地を失った人間へ荒廃農地を貸し出す制度を作った。
ガルドも呼ばれた。
「勇者様」
「久しぶり」
「今度は国を作り直してるって聞いたんですが」
「俺じゃないよ」
「どう見ても勇者様が原因です」
「そうかな」
「そうです」
さらに。
古龍ヴァルガディオス。
輸送。
協力。
「なぜ我が荷物を運ばねばならぬ!」
「ヴァル、飛ぶの速いじゃん」
「我は古龍ぞ!」
「お願い」
「…………一回だけだぞ」
一週間後。
普通に。
穀物を運んでいる。
さらに。
魔神アグナディス。
公共工事。
参加。
「勇者よ」
「何?」
「また石か」
「嫌?」
「いや」
巨大な岩。
持つ。
「最近、慣れてきた」
三か月。
国。
変わった。
すぐに。
豊かになったわけではない。
失われた畑。
戻らない。
逃げた人。
すぐには帰ってこない。
壊れた信用。
簡単には直らない。
でも。
少しずつ。
人。
戻る。
店。
開く。
畑。
耕される。
市場。
人が増える。
そして。
ある日。
ユートたちは。
王都を出ることにした。
◇
城門。
財務大臣。
農民代表。
兵士。
商人。
大勢。
集まっている。
「勇者様」
財務大臣が頭を下げる。
「本当に、ありがとうございました」
「俺、何もしてないよ」
セレスが横から言う。
「かなりしました」
「帳簿読んだのセレスじゃん」
「質問したのは勇者様です」
「計算したのもセレス」
「決めたのは皆です」
ユートは少し笑った。
「じゃあ」
王都を見る。
「みんなでやったんだな」
「はい」
財務大臣が答える。
「その通りです」
ユートたちは。
歩き出した。
城門を出る。
ゼルディアが聞く。
「師匠」
「何?」
「結局、王とは何なのだ?」
ユートは少し考えた。
「知らない」
「またそれか!」
「でも」
歩きながら。
続ける。
「偉い人じゃなくて」
「うん」
「責任取る人なんじゃない?」
ゼルディアが。
少し黙った。
「父上は」
魔王グラディオス。
「責任を取る人だったのだろうか」
ユートは答えなかった。
分からないから。
ただ。
ゼルディアの肩を。
軽く叩いた。
「お前が考えればいいじゃん」
「我が?」
「次の魔王になるんだろ?」
ゼルディアが驚く。
「師匠」
「何?」
「我を魔王にするつもりなのか?」
「なりたいなら」
「敵になるぞ」
「その時考える」
「本当に適当だな!」
ユートは笑った。
「まだ先の話だろ」
そして。
一行は。
次の土地へ向かった。
◇
その夜。
宿屋。
ユートは。
眠った。
◇
「佐伯さん」
勇人は目を開けた。
「……ん」
天井。
スマイルマート。
休憩室。
目の前。
美咲。
「今度は何分?」
「寝てませんよ」
「え?」
「休憩中ずっと起きてました」
勇人は時計を見る。
確かに。
眠った記憶。
ない。
でも。
夢。
見ていた。
王国。
国王。
帳簿。
税金。
「俺」
勇人が呟く。
「寝てない?」
「はい」
「じゃあ」
夢。
何だった。
「どうしました?」
美咲が聞く。
勇人は答えない。
その時。
黒田店長が休憩室へ入ってきた。
「佐伯君」
「はい」
「ちょっといい?」
「何です?」
店長。
紙。
持っている。
「来月から勤務シフト変わる」
「俺ですか?」
「そう」
「時間減ります?」
少し。
不安になる。
時給1300円。
勤務時間。
減れば。
収入。
減る。
でも。
店長は首を振った。
「逆」
「逆?」
「少し増やしたい」
「俺の?」
「うん」
勇人が驚く。
「何で?」
店長も少し困ったように笑った。
「最近、前より仕事できるようになってるから」
勇人。
固まる。
「俺が?」
「自分で驚くなよ」
美咲が笑う。
「確かに最近、ミス減りましたよ」
「本当に?」
「この一週間、肉まんとあんまん間違えてません」
「基準低くない?」
店長も笑う。
「あと」
「まだ?」
「新人の玲央君」
ゼルダイ玲央。
「佐伯君が教えてるだろ」
「まあ」
「結構評判いいよ」
「誰に?」
「本人に」
勇人の顔が。
少し。
変わる。
「俺が人に教えられてる?」
「そうだよ」
「俺なのに?」
「だから自分を何だと思ってるんだ」
勇人は笑った。
少し。
照れた。
夢の中。
勇者。
人。
助ける。
現実。
自分。
何もできない。
ずっと。
そう思っていた。
でも。
少しだけ。
違うのかもしれない。
その時。
店長が言った。
「それともう一つ」
「何です?」
「本部から通知」
紙。
渡す。
勇人。
見る。
『店舗収益改善計画』
「何これ?」
「うちの店、赤字なんだよ」
勇人の表情が変わった。
「赤字?」
「最近、売上落ちてる」
「閉店するんですか?」
美咲も笑わなくなった。
店長は。
少しだけ。
黙った。
「このままだと」
勇人。
紙を見る。
数字。
売上。
人件費。
廃棄。
電気代。
仕入。
夢の中で。
見た。
帳簿。
似ている。
もちろん。
規模。
全然違う。
王国。
コンビニ。
でも。
「店長」
「何?」
「これ」
指差す。
「廃棄、多くないですか?」
黒田店長が止まる。
「分かる?」
「いや」
勇人は。
少し。
考えながら言う。
「分からないけど」
弁当。
おにぎり。
パン。
発注。
大量。
廃棄。
毎日。
「売れない時間に、商品多すぎる気がする」
店長が資料を見る。
美咲も近づく。
勇人は。
続ける。
「あと」
「何?」
「夜中」
「うん」
「客少ないのに、品揃え昼とほぼ同じですよね」
「まあ」
「減らしたら?」
店長が勇人を見る。
「佐伯君」
「はい?」
「発注間違えて鮭おにぎり百個頼みかけた人が言う?」
美咲が吹き出した。
「それ言っちゃ駄目ですよ!」
勇人も笑った。
「いや、あれは忘れてください」
「忘れられないよ」
「でも」
勇人は。
資料を見る。
「一回、ちゃんと調べません?」
店長の顔が。
少し。
変わる。
「調べる?」
「時間帯別の売上」
「うん」
「廃棄」
「うん」
「客数」
「うん」
「何が売れてるか」
「うん」
勇人自身。
驚いていた。
なぜ。
そんなことを。
言っている。
今まで。
仕事。
怒られないようにするだけ。
それで。
精一杯。
だった。
でも。
夢の中。
国。
帳簿。
セレス。
そして。
王様。
「金がないんじゃなくて、使い方がおかしい」
自分が。
そう言った。
店も。
同じかもしれない。
「やってみる?」
店長が聞く。
勇人は。
少しだけ迷った。
そして。
「やります」
答えた。
美咲が。
勇人を見る。
いつもの。
馬鹿にするような笑顔ではない。
少し。
嬉しそうな顔。
「佐伯さん」
「何?」
「勇者っぽくなってきましたね」
勇人が止まる。
「また勇者?」
美咲の表情。
一瞬。
変わる。
「何となくです」
「小川さん」
「はい?」
勇人は。
美咲を見る。
「七回目」
美咲。
黙る。
「今度は」
勇人が言う。
「俺が覚えてる」
「何をですか?」
「お前が毎回、数えてること」
数秒。
沈黙。
黒田店長が。
二人を見る。
「何の話?」
美咲が笑った。
「何でもありません」
「そう?」
「はい」
勇人は。
もう。
追及しなかった。
ただ。
思った。
夢。
何かある。
美咲。
知ってる。
でも。
今。
それだけじゃない。
現実。
店。
赤字。
仕事。
新人。
自分が。
やること。
ある。
「店長」
「何?」
「明日から、数字見せてください」
「分かった」
「あと」
「何?」
「発注」
勇人。
少し笑う。
「もう一回、ちゃんと教えてください」
黒田店長も。
笑った。
「今さら?」
「今さらです」
その日の夜。
勇人は。
自宅へ帰った。
ベッド。
横になる。
目を閉じる。
以前。
現実から逃げるように。
眠っていた。
夢の中なら。
自分は勇者。
最強。
何でもできる。
現実では。
時給1300円。
コンビニ。
ミスばかり。
でも。
少しずつ。
違ってきた。
「明日」
勇人は。
小さく呟いた。
「売上、見てみるか」
そして。
眠った。
◇
暗闇。
何もない。
ユートが。
一人。
立っている。
「……みんな?」
返事。
ない。
ガイラス。
いない。
バルガ。
いない。
リリシア。
セレス。
ゼルディア。
誰も。
いない。
そして。
暗闇の向こう。
誰か。
立っている。
ユートより。
少し。
背が高い。
顔。
見えない。
「誰?」
答え。
ない。
ユートが。
一歩。
近づく。
相手も。
一歩。
近づく。
そして。
頭上。
数字。
現れる。
Lv.150。
ユートの目が。
初めて。
大きく開いた。
「……百五十?」
黒い影が。
笑った。
「やっと」
低い声。
「見つけた」
ユートが。
聖剣へ手をかける。
影が。
続ける。
「勇者ユート」
一歩。
近づく。
「お前を」
黒い魔力。
広がる。
「倒せる者が現れたぞ」
ユートは。
初めて。
感じた。
恐怖。
ではない。
もっと。
別の。
嫌な感覚。
何か。
自分の中を。
直接。
見られているような。
感覚。
そして。
影が言った。
「逃げる準備はできたか」
その瞬間。
世界。
消えた。
第七話 勇者、王様を辞めさせる 了




