↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/10

第七話 勇者、王様を辞めさせる

第七話 勇者、王様を辞めさせる


古代魔神アグナディスが世界征服を諦め、建設現場で働き始めてからしばらく経った頃、勇者ユートたちは王都から東へ向かう街道を歩いていた。


最近の旅は以前にも増して奇妙だった。


魔王を倒した後、ゴブリンには農業を教え、古龍とは共存協定を結び、盗賊団には仕事を斡旋し、魔王の息子を弟子にし、世界最強決定戦では豆を箸で移し、ついには一万年前の魔神まで就職させてしまった。


セレスは時々思う。


自分たちは本当に勇者パーティなのだろうか、と。


「勇者様」


「何?」


「最近、魔物を討伐していませんね」


「そうだっけ?」


「ゴブリンは農民になりましたし、古龍とは友人になりましたし、ゼルディア様は弟子になりましたし、魔神は建設作業員になりました」


「平和でいいじゃん」


「それはそうなのですが」


セレスは少し考えてから続けた。


「勇者という職業の意味が分からなくなってきました」


隣を歩いていたバルガが笑った。


「困ってる奴を助けるのが勇者なら、別に魔物倒さなくてもいいんじゃねえか?」


ガイラスも頷いた。


「敵を倒すことと問題を解決することは同じではない」


リリシアが面倒そうに杖を肩へ乗せた。


「私は大魔法を撃てればどっちでもいいわ」


「リリシア様だけは目的が違います」


少し後ろからゼルディアが走ってくる。


背中には、また巨大な岩が括り付けられている。


「師匠!」


「何?」


「今日はどこまで走るのだ!」


「次の町」


「距離は!」


「三十キロくらい」


「なぜ我だけ走っている!」


「弟子だから」


「師匠は歩いているではないか!」


ユートは少し考えた。


「じゃあ俺も走る?」


ゼルディアの顔が明るくなる。


「当然だ!」


「分かった」


ユートが走り出した。


一瞬。


姿が消えた。


数秒後。


遥か彼方から声が聞こえた。


「先行ってるぞー!」


ゼルディアは立ち尽くした。


「……待て」


その姿は。


もう見えない。


「師匠ォォォォォ!」


セレスが静かに言った。


「ゼルディア様」


「何だ!」


「追いかけてください」


「追いつけるわけがないだろう!」


「修行です」


「お前たち全員、段々師匠に似てきていないか!」


それは。


誰も否定できなかった。



     ◇



一行が向かっていたのは、東方にある小国ラグレス王国だった。


人口およそ八十万人。


肥沃な平原を持ち、かつては穀物の輸出で栄えた豊かな国だったが、ここ数年、急激に国力を落としている。


原因。


重税。


役人の腐敗。


貴族の横暴。


軍事費の増大。


そして。


国王。


ボルガン三世。


民衆からは。


「暴君」


そう呼ばれていた。


ユートたちがラグレス王国の国境へ入った直後、異変はすぐに分かった。


畑。


荒れている。


家。


壊れている。


街道。


人が少ない。


「ずいぶん寂しいな」


ユートが言う。


ガイラスが周囲を見る。


「戦争でもあったのか?」


セレスが首を振った。


「この国は、ここ十年以上大きな戦争をしていません」


「じゃあ何でこんな状態なんだ?」


答えたのは。


道端に座っていた老人だった。


「王様だよ」


全員が老人を見る。


老人は痩せていた。


服も古い。


しかし。


目はしっかりしている。


「王様?」


ユートが聞く。


「ああ」


老人が吐き捨てるように言った。


「税金だ」


「高いの?」


「収穫の七割」


ユートが止まった。


「七割?」


「去年までは六割だった。今年から七割になった」


バルガが眉をひそめた。


「それじゃ食っていけねえだろ」


老人は笑った。


「だから皆逃げてる」


「どこへ?」


「隣国さ」


老人は遠くを見る。


「若い者はほとんど出ていった。残ってるのは、土地を捨てられない年寄りばかりだ」


ユートは畑を見る。


作物。


ほとんど育っていない。


「王様は何でそんなに税金取るんだ?」


老人が肩をすくめた。


「贅沢するためだろうよ」


「本当に?」


「王宮は毎年増築されている。貴族は宴会ばかり。兵士は税金を取り立てに来る。俺たちはパン一つ買う金もない」


ユートは黙った。


セレスが小さく言う。


「勇者様」


「うん」


「嫌な顔をしています」


「そう?」


「はい」


ユートは王都の方角を見る。


「王様に会おう」


セレスは予想していた。


「そうおっしゃると思いました」



     ◇



ラグレス王国王都。


王宮。


「勇者ユートが来た?」


国王ボルガン三世は、昼間から酒を飲んでいた。


年齢。


五十一歳。


大柄。


派手な服。


指には宝石。


首にも宝石。


頭には金の冠。


側近の大臣が答える。


「はい」


「魔王を倒したという?」


「その勇者です」


ボルガンは少し考えた。


「何の用だ」


「国王陛下にお会いしたいと」


「面倒だな」


「追い返しますか?」


「いや」


ボルガンは笑った。


「世界最強の勇者だろう。利用価値はある」


そう言って。


酒を飲む。


「通せ」



     ◇



謁見の間。


ユートたちは国王の前に立っていた。


ボルガン三世が玉座から見下ろす。


「お前が勇者ユートか」


「そう」


周囲の貴族がざわついた。


国王に対して敬語を使わない。


しかし。


誰も強く注意できなかった。


相手。


レベル128。


しかも。


後ろ。


123。


119。


115。


107。


82。


この国の近衛騎士団長。


レベル58。


注意したくても。


できない。


「我が国へ何の用だ」


国王が聞く。


ユートは答える。


「税金」


「税?」


「高すぎない?」


謁見の間が静まった。


国王の顔が変わる。


「何の話だ」


「収穫の七割取ってるって聞いた」


「それがどうした」


「暮らせないだろ」


「国家を維持するには税が必要だ」


「七割も?」


「必要だから徴収している」


「何に使ってるの?」


ボルガンの眉が動く。


「勇者」


「何?」


「お前は政治が分かるのか」


ユートは正直に答えた。


「全然」


周囲の貴族が少し笑った。


しかし。


ユートは続ける。


「だから聞いてる」


国王の笑みが消える。


「分からないから、教えてほしい」


セレスが少しだけユートを見る。


妙なところで。


この男は強い。


知らないことを。


知らないと言える。


国王は答えた。


「軍事」


「どれくらい?」


「何?」


「税金のうち、軍事にいくら?」


「そのような細かい数字を勇者に説明する必要はない」


ユートがセレスを見る。


「調べられる?」


「帳簿があれば」


「王様」


「何だ」


「帳簿見せて」


謁見の間。


沈黙。


国王が笑った。


「断る」


「何で?」


「国家機密だ」


「じゃあ」


ユートは少し考えた。


「何で税金が七割必要なのか分からないじゃん」


「国王である我が必要だと判断した。それで十分だ」


ユートは。


少し。


黙った。


そして。


「分かった」


国王が満足そうに笑う。


「理解したか」


「うん」


ユートは振り返った。


「帰ろう」


セレスが驚く。


「勇者様?」


「一回調べよう」


国王が笑う。


「そうすることだ」


この時。


ボルガン三世は。


気づいていなかった。


ユートが。


怒った時ほど。


静かになることを。



     ◇



三日後。


王都の宿屋。


テーブル。


書類。


山。


セレスが。


疲れ切った顔で。


帳簿を見る。


「勇者様」


「何?」


「どうやって集めたのですか、これ」


「町の人にもらった」


「国家予算の資料を?」


「役所の人が持ってきてくれた」


「なぜ役所の人が勇者様へ国家資料を持ってくるのですか」


ユートは答えた。


「困ってたから」


実際。


役人たちも。


困っていた。


国王。


大臣。


貴族。


好き勝手。


現場。


責任だけ。


押し付けられる。


しかも。


勇者ユート。


来た。


話を聞いてくれる。


その結果。


内部資料。


次々。


集まった。


セレスは帳簿を読む。


「ひどいですね」


「何が?」


「税収を百とすると、国民生活や公共事業へ使われているのは約二十です」


「残り八十は?」


「軍事費三十五」


「そんなに?」


「ただし」


セレスが別の帳簿を見る。


「実際に兵士へ使われているのは十五程度です」


「残り二十?」


「武器購入費、施設建設費などですが」


ガイラスが聞く。


「問題があるのか?」


「金額が合いません」


セレスが資料を並べる。


「市場価格の三倍から五倍で購入されています」


リリシアが言う。


「誰か抜いてるわね」


「おそらく」


「他は?」


「王宮維持費二十五」


バルガが吹き出した。


「王宮だけで?」


「増築、宴会、装飾品、王族費」


ユートが聞く。


「必要?」


セレスが答える。


「少なくとも、この金額は異常です」


「残り?」


「貴族への補助金、特別支出、用途不明金」


ユートは帳簿を見る。


もちろん。


よく分からない。


数字。


細かい。


難しい。


だから。


一番簡単なことを聞いた。


「つまり」


「はい」


「国が貧乏なんじゃなくて」


「はい」


「金の使い方がおかしい?」


セレスが頷いた。


「その理解でほぼ正しいです」


ユートは立ち上がった。


「じゃあもう一回、王様に会おう」



     ◇



再び。


王宮。


「また来たのか」


ボルガン三世は露骨に嫌な顔をした。


ユートが机の上へ帳簿を置く。


「これ」


国王の顔が変わった。


「どこで手に入れた」


「役所」


「誰が渡した!」


「いっぱい」


国王の顔が赤くなる。


「反逆者どもめ!」


ユートが言った。


「その前に」


「何だ!」


「軍事費」


帳簿を開く。


「武器、高すぎない?」


国王が止まる。


「王宮も」


別の帳簿。


「去年だけで金貨十二万枚」


「国家に必要な支出だ!」


「宴会が?」


「外交だ!」


「毎週?」


「重要な会合だ!」


「三日前の宴会」


ユートは資料を見る。


「参加者、国内の貴族だけ」


国王が黙る。


ユートは続ける。


「その前も」


「…………」


「その前も」


「勇者!」


「何?」


「貴様、我を裁くつもりか!」


ユートは少し考えた。


「いや」


国王が止まる。


「俺、裁判官じゃないし」


「なら口を出すな!」


「でも」


ユートは国王を見る。


「このままだと国なくなるよ」


「何?」


セレスが前へ出る。


「陛下」


「何だ」


「現在の人口流出率、農地放棄率、税収減少率を計算すると、現在の政策が続いた場合、三年以内に国家財政は事実上破綻します」


国王が笑う。


「馬鹿な」


「昨年度税収は前年度比十五%減。今年度上半期はさらに十二%減。税率を引き上げたにもかかわらず税収が落ちております」


「なぜだ!」


ユートが答えた。


「みんな逃げてるから」


国王は黙った。


「七割取られるなら」


ユートは続ける。


「別の国行くよ」


「国民は王に従うものだ!」


「何で?」


「国民だからだ!」


「でも」


ユートは真っ直ぐ国王を見る。


「国って、人がいないとできないだろ?」


静か。


誰も。


何も言わない。


ユートは政治を知らない。


経済も。


行政も。


財政も。


専門的なことは。


何一つ。


分からない。


だから。


ただ。


目の前にある。


簡単なことを見る。


「王様」


「……何だ」


「国民が王様のためにいるの?」


「当然だ」


「違うと思う」


「何?」


「王様が国民のためにいるんじゃないの?」


謁見の間。


完全な沈黙。


大臣たち。


貴族。


騎士。


誰も口を開けない。


ボルガン三世の顔が。


赤くなった。


「貴様!」


立ち上がる。


「我に説教するつもりか!」


「説教じゃない」


「なら何だ!」


ユートは言った。


「向いてないんじゃない?」


「何が!」


「王様」


全員。


固まった。


セレスも。


珍しく。


固まった。


国王が震える。


「貴様……」


「だって」


ユートは普通に続ける。


「国民困ってる」


「…………」


「金なくなってる」


「…………」


「役人も困ってる」


「…………」


「兵士も給料遅れてる」


「…………」


「なのに王様だけ宴会してる」


「黙れ!」


ボルガンが剣を抜いた。


周囲の近衛騎士が。


動く。


しかし。


誰も。


ユートへ剣を向けない。


正確には。


向けられない。


勇者ユート。


レベル128。


後ろ。


ガイラス119。


バルガ115。


リリシア123。


セレス107。


ゼルディア82。


戦闘。


成立しない。


しかも。


もう一つ。


理由があった。


近衛騎士たちも。


国王に。


うんざりしていた。


ユートが国王を見る。


「王様」


「何だ!」


「辞めたら?」


ボルガン三世。


固まる。


「…………何?」


「王様」


ユートは。


本気だった。


「向いてないなら辞めればいいじゃん」


「国王を何だと思っている!」


「仕事」


セレスが。


思わず。


ユートを見る。


「勇者様」


「違うの?」


「いえ」


セレスは少し考えた。


「ある意味では、間違っていません」


「国王は生まれながらの身分だ!」


ボルガンが叫ぶ。


「神より与えられた権利だ!」


ユートは首を傾げた。


「でも下手なんだろ?」


「下手?」


「王様やるの」


国王の顔が引きつる。


「剣だって」


ユートは腰の聖剣を指す。


「下手な奴に持たせたら危ないじゃん」


「…………」


「国も同じじゃない?」


誰も。


何も言えなかった。


そして。


その時。


一人の大臣が。


前へ出た。


財務大臣。


七十二歳。


三十年以上。


この国に仕えてきた男。


「陛下」


「何だ!」


「勇者殿の言葉」


深く。


頭を下げる。


「お考えください」


国王の顔が変わる。


「貴様まで!」


次。


近衛騎士団長。


「私からも、お願い申し上げます」


次。


農務大臣。


次。


司法大臣。


次。


地方長官。


一人。


また一人。


国王の前へ出る。


そして。


全員。


頭を下げた。


「御退位を」


ボルガン三世は。


初めて。


理解した。


自分を支えていると思っていた人間たちは。


もう。


誰も。


自分を支えていなかった。



     ◇



一週間後。


ラグレス王国。


ボルガン三世。


退位。


ただし。


処刑。


なし。


国外追放。


なし。


ユートが。


反対した。


「何で殺すの?」


革命派の貴族が答える。


「暴政を敷いた罪です」


「裁判した?」


「まだですが」


「じゃあ裁判すれば?」


「しかし民衆の怒りが」


「怒ってるから殺すの?」


貴族。


黙る。


セレスが。


少し笑った。


結局。


ボルガン三世は。


正式な裁判を受けることになった。


同時に。


新政府。


発足。


しかし。


ここで。


新しい問題。


発生。


「誰が王様になるの?」


ユートが聞いた。


大臣たち。


沈黙。


王子。


三人。


長男。


浪費家。


次男。


軍事狂。


三男。


まだ十二歳。


「…………」


ユートがセレスを見る。


「どうする?」


「私に聞かないでください」


財務大臣が言った。


「暫定統治評議会を設置してはどうでしょう」


「何それ?」


「複数の大臣、地方代表、商人代表、農民代表などで国政を運営し、新たな統治体制を決めるまでの暫定政府とします」


ユートが頷いた。


「それいいじゃん」


「ただ」


「何?」


「国民の信頼を得るため、象徴となる人物が必要です」


全員。


ユートを見る。


「…………」


ユート。


嫌な予感。


「何?」


財務大臣が言った。


「勇者様」


「嫌だ」


即答。


「まだ何も申し上げておりません」


「王様は嫌だ」


「せめて話を」


「絶対嫌だ」


「では国政顧問として」


「嫌だ」


「名誉議長」


「嫌だ」


「国家再建特別顧問」


「長いし嫌だ」


セレスが笑う。


「勇者様」


「何?」


「これまで他人には職業を勧めてきたのですから、たまにはご自身も働いてはいかがです?」


「俺は勇者やってる」


「最近、ほとんど職業紹介業です」


「そんなことない」


ゼルディアが言った。


「師匠」


「何?」


「我には弟子という職を与えた」


「弟子は職じゃない」


「魔神には仕事を紹介した」


「うん」


「盗賊百人にも仕事を与えた」


「うん」


「なら師匠も働け」


「働いてるって!」


バルガが大笑いする。


ガイラスも僅かに笑っている。


リリシアが言った。


「王様ユート」


「やめろ」


「似合わないわね」


「だろ?」


「でも面白そう」


「絶対やらない」


結局。


ユートは。


王にならなかった。


その代わり。


三か月だけ。


国の再建を手伝うことになった。



     ◇



最初。


税率。


七割。


ユートが聞いた。


「何割なら暮らせる?」


農民代表が答える。


「三割なら」


「じゃあ三割」


財務大臣が慌てる。


「勇者様!」


「何?」


「急に四割下げれば財政が!」


セレスが資料を見る。


「王宮費と不正支出を削減すれば可能です」


財務大臣が止まる。


「……可能なのですか?」


「計算上は」


ユートが言う。


「じゃあやろう」


王宮宴会。


原則中止。


不要な増築。


中止。


不正な武器取引。


調査。


貴族特別補助金。


廃止。


代わりに。


農地復興。


道路。


水路。


学校。


診療所。


そこへ。


金を回す。


さらに。


元盗賊団が再建したベルン村の仕組みを参考にし、土地を失った人間へ荒廃農地を貸し出す制度を作った。


ガルドも呼ばれた。


「勇者様」


「久しぶり」


「今度は国を作り直してるって聞いたんですが」


「俺じゃないよ」


「どう見ても勇者様が原因です」


「そうかな」


「そうです」


さらに。


古龍ヴァルガディオス。


輸送。


協力。


「なぜ我が荷物を運ばねばならぬ!」


「ヴァル、飛ぶの速いじゃん」


「我は古龍ぞ!」


「お願い」


「…………一回だけだぞ」


一週間後。


普通に。


穀物を運んでいる。


さらに。


魔神アグナディス。


公共工事。


参加。


「勇者よ」


「何?」


「また石か」


「嫌?」


「いや」


巨大な岩。


持つ。


「最近、慣れてきた」


三か月。


国。


変わった。


すぐに。


豊かになったわけではない。


失われた畑。


戻らない。


逃げた人。


すぐには帰ってこない。


壊れた信用。


簡単には直らない。


でも。


少しずつ。


人。


戻る。


店。


開く。


畑。


耕される。


市場。


人が増える。


そして。


ある日。


ユートたちは。


王都を出ることにした。



     ◇



城門。


財務大臣。


農民代表。


兵士。


商人。


大勢。


集まっている。


「勇者様」


財務大臣が頭を下げる。


「本当に、ありがとうございました」


「俺、何もしてないよ」


セレスが横から言う。


「かなりしました」


「帳簿読んだのセレスじゃん」


「質問したのは勇者様です」


「計算したのもセレス」


「決めたのは皆です」


ユートは少し笑った。


「じゃあ」


王都を見る。


「みんなでやったんだな」


「はい」


財務大臣が答える。


「その通りです」


ユートたちは。


歩き出した。


城門を出る。


ゼルディアが聞く。


「師匠」


「何?」


「結局、王とは何なのだ?」


ユートは少し考えた。


「知らない」


「またそれか!」


「でも」


歩きながら。


続ける。


「偉い人じゃなくて」


「うん」


「責任取る人なんじゃない?」


ゼルディアが。


少し黙った。


「父上は」


魔王グラディオス。


「責任を取る人だったのだろうか」


ユートは答えなかった。


分からないから。


ただ。


ゼルディアの肩を。


軽く叩いた。


「お前が考えればいいじゃん」


「我が?」


「次の魔王になるんだろ?」


ゼルディアが驚く。


「師匠」


「何?」


「我を魔王にするつもりなのか?」


「なりたいなら」


「敵になるぞ」


「その時考える」


「本当に適当だな!」


ユートは笑った。


「まだ先の話だろ」


そして。


一行は。


次の土地へ向かった。



     ◇



その夜。


宿屋。


ユートは。


眠った。



     ◇



「佐伯さん」


勇人は目を開けた。


「……ん」


天井。


スマイルマート。


休憩室。


目の前。


美咲。


「今度は何分?」


「寝てませんよ」


「え?」


「休憩中ずっと起きてました」


勇人は時計を見る。


確かに。


眠った記憶。


ない。


でも。


夢。


見ていた。


王国。


国王。


帳簿。


税金。


「俺」


勇人が呟く。


「寝てない?」


「はい」


「じゃあ」


夢。


何だった。


「どうしました?」


美咲が聞く。


勇人は答えない。


その時。


黒田店長が休憩室へ入ってきた。


「佐伯君」


「はい」


「ちょっといい?」


「何です?」


店長。


紙。


持っている。


「来月から勤務シフト変わる」


「俺ですか?」


「そう」


「時間減ります?」


少し。


不安になる。


時給1300円。


勤務時間。


減れば。


収入。


減る。


でも。


店長は首を振った。


「逆」


「逆?」


「少し増やしたい」


「俺の?」


「うん」


勇人が驚く。


「何で?」


店長も少し困ったように笑った。


「最近、前より仕事できるようになってるから」


勇人。


固まる。


「俺が?」


「自分で驚くなよ」


美咲が笑う。


「確かに最近、ミス減りましたよ」


「本当に?」


「この一週間、肉まんとあんまん間違えてません」


「基準低くない?」


店長も笑う。


「あと」


「まだ?」


「新人の玲央君」


ゼルダイ玲央。


「佐伯君が教えてるだろ」


「まあ」


「結構評判いいよ」


「誰に?」


「本人に」


勇人の顔が。


少し。


変わる。


「俺が人に教えられてる?」


「そうだよ」


「俺なのに?」


「だから自分を何だと思ってるんだ」


勇人は笑った。


少し。


照れた。


夢の中。


勇者。


人。


助ける。


現実。


自分。


何もできない。


ずっと。


そう思っていた。


でも。


少しだけ。


違うのかもしれない。


その時。


店長が言った。


「それともう一つ」


「何です?」


「本部から通知」


紙。


渡す。


勇人。


見る。


『店舗収益改善計画』


「何これ?」


「うちの店、赤字なんだよ」


勇人の表情が変わった。


「赤字?」


「最近、売上落ちてる」


「閉店するんですか?」


美咲も笑わなくなった。


店長は。


少しだけ。


黙った。


「このままだと」


勇人。


紙を見る。


数字。


売上。


人件費。


廃棄。


電気代。


仕入。


夢の中で。


見た。


帳簿。


似ている。


もちろん。


規模。


全然違う。


王国。


コンビニ。


でも。


「店長」


「何?」


「これ」


指差す。


「廃棄、多くないですか?」


黒田店長が止まる。


「分かる?」


「いや」


勇人は。


少し。


考えながら言う。


「分からないけど」


弁当。


おにぎり。


パン。


発注。


大量。


廃棄。


毎日。


「売れない時間に、商品多すぎる気がする」


店長が資料を見る。


美咲も近づく。


勇人は。


続ける。


「あと」


「何?」


「夜中」


「うん」


「客少ないのに、品揃え昼とほぼ同じですよね」


「まあ」


「減らしたら?」


店長が勇人を見る。


「佐伯君」


「はい?」


「発注間違えて鮭おにぎり百個頼みかけた人が言う?」


美咲が吹き出した。


「それ言っちゃ駄目ですよ!」


勇人も笑った。


「いや、あれは忘れてください」


「忘れられないよ」


「でも」


勇人は。


資料を見る。


「一回、ちゃんと調べません?」


店長の顔が。


少し。


変わる。


「調べる?」


「時間帯別の売上」


「うん」


「廃棄」


「うん」


「客数」


「うん」


「何が売れてるか」


「うん」


勇人自身。


驚いていた。


なぜ。


そんなことを。


言っている。


今まで。


仕事。


怒られないようにするだけ。


それで。


精一杯。


だった。


でも。


夢の中。


国。


帳簿。


セレス。


そして。


王様。


「金がないんじゃなくて、使い方がおかしい」


自分が。


そう言った。


店も。


同じかもしれない。


「やってみる?」


店長が聞く。


勇人は。


少しだけ迷った。


そして。


「やります」


答えた。


美咲が。


勇人を見る。


いつもの。


馬鹿にするような笑顔ではない。


少し。


嬉しそうな顔。


「佐伯さん」


「何?」


「勇者っぽくなってきましたね」


勇人が止まる。


「また勇者?」


美咲の表情。


一瞬。


変わる。


「何となくです」


「小川さん」


「はい?」


勇人は。


美咲を見る。


「七回目」


美咲。


黙る。


「今度は」


勇人が言う。


「俺が覚えてる」


「何をですか?」


「お前が毎回、数えてること」


数秒。


沈黙。


黒田店長が。


二人を見る。


「何の話?」


美咲が笑った。


「何でもありません」


「そう?」


「はい」


勇人は。


もう。


追及しなかった。


ただ。


思った。


夢。


何かある。


美咲。


知ってる。


でも。


今。


それだけじゃない。


現実。


店。


赤字。


仕事。


新人。


自分が。


やること。


ある。


「店長」


「何?」


「明日から、数字見せてください」


「分かった」


「あと」


「何?」


「発注」


勇人。


少し笑う。


「もう一回、ちゃんと教えてください」


黒田店長も。


笑った。


「今さら?」


「今さらです」


その日の夜。


勇人は。


自宅へ帰った。


ベッド。


横になる。


目を閉じる。


以前。


現実から逃げるように。


眠っていた。


夢の中なら。


自分は勇者。


最強。


何でもできる。


現実では。


時給1300円。


コンビニ。


ミスばかり。


でも。


少しずつ。


違ってきた。


「明日」


勇人は。


小さく呟いた。


「売上、見てみるか」


そして。


眠った。



     ◇



暗闇。


何もない。


ユートが。


一人。


立っている。


「……みんな?」


返事。


ない。


ガイラス。


いない。


バルガ。


いない。


リリシア。


セレス。


ゼルディア。


誰も。


いない。


そして。


暗闇の向こう。


誰か。


立っている。


ユートより。


少し。


背が高い。


顔。


見えない。


「誰?」


答え。


ない。


ユートが。


一歩。


近づく。


相手も。


一歩。


近づく。


そして。


頭上。


数字。


現れる。


Lv.150。


ユートの目が。


初めて。


大きく開いた。


「……百五十?」


黒い影が。


笑った。


「やっと」


低い声。


「見つけた」


ユートが。


聖剣へ手をかける。


影が。


続ける。


「勇者ユート」


一歩。


近づく。


「お前を」


黒い魔力。


広がる。


「倒せる者が現れたぞ」


ユートは。


初めて。


感じた。


恐怖。


ではない。


もっと。


別の。


嫌な感覚。


何か。


自分の中を。


直接。


見られているような。


感覚。


そして。


影が言った。


「逃げる準備はできたか」


その瞬間。


世界。


消えた。



第七話 勇者、王様を辞めさせる 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。