第五話 勇者パーティ、世界大会に出場する
第五話 勇者パーティ、世界大会に出場する
世界最強決定戦。
その名の通り、この世界で最も強い者を決める大会である。
四年に一度、王都にある大闘技場で開催され、各国の騎士、冒険者、傭兵、武闘家、魔法使いなど、腕に覚えのある者たちが集結する。
出場者は二百五十六名。
過去最高レベルは74。
優勝者には「世界最強」の称号と、金貨一万枚が与えられる。
もっとも。
今年の大会には、一つだけ大きな問題があった。
勇者ユート。
レベル128。
剣闘士ガイラス。
レベル119。
拳闘士バルガ。
レベル115。
魔法使いリリシア。
レベル123。
僧侶セレス。
レベル107。
この五人が。
全員。
出場すると言い出したのである。
◇
「絶対に駄目です」
セレスが言った。
王都へ向かう馬車の中。
ユートが首を傾げる。
「何で?」
「何でではありません」
「世界最強を決める大会だろ?」
「そうです」
「じゃあ出てもいいじゃん」
「駄目です」
「理由は?」
セレスは五人を見る。
「あなた方が出場したら、世界最強を決める大会ではなく、私たちの中で誰が一番強いかを決める大会になります」
沈黙。
バルガが腕を組んだ。
「それはそれで面白そうだな」
「面白くありません」
ガイラスも少し興味を示した。
「確かに、ユートとは本気で戦ったことがない」
「ガイラス様まで!」
リリシアも笑う。
「私もユートに一度、本気の魔法を撃ってみたいわ」
「絶対にやめてください!」
「闘技場なら大丈夫じゃない?」
「消滅します!」
「闘技場が?」
「王都がです!」
ユートが笑った。
「大げさだな」
セレスが真顔で答える。
「あなた方に関しては、大げさではありません」
馬車の後ろを走っていたゼルディアが叫んだ。
「師匠!」
ユートが窓から顔を出す。
「何?」
「なぜ我だけ馬車に乗れない!」
「修行」
「王都まで百二十キロあるぞ!」
「だから修行になる」
「我は魔王の息子だぞ!」
「今は俺の弟子だろ」
ゼルディアが黙った。
「……そうだった」
「頑張れ」
「師匠!」
「何?」
「せめて荷物を降ろしてくれ!」
ゼルディアの背中には巨大な岩が括り付けられている。
バルガが窓から顔を出した。
「俺の修行より軽いぞ!」
「お前と一緒にするな!」
「俺は三倍だった」
「頭がおかしい!」
セレスが小さく呟いた。
「そこは否定できませんね」
「聞こえてるぞ!」
こうして。
勇者一行は王都へ向かった。
◇
王都。
世界最強決定戦受付会場。
「次の方」
受付係の女性が書類を見る。
「お名前を」
「ユート」
受付係の手が止まった。
「ご職業は?」
「勇者」
「…………」
受付係が顔を上げる。
「勇者?」
「うん」
「もしかして」
「何?」
「魔王グラディオスを討伐された……」
「多分それ」
受付係の顔が青くなった。
「少々お待ちください!」
奥へ走っていった。
ユートが振り返る。
「何か問題あった?」
セレスが答える。
「あるに決まっています」
数分後。
大会運営委員長が走ってきた。
「勇者様!」
「はい」
「出場されるのですか!」
「そのつもり」
「なぜ!」
ユートが首を傾げる。
「大会だから」
「そうではなく!」
委員長が額の汗を拭く。
「勇者様は魔王を討伐された方です!」
「うん」
「この大会は一般の武人たちが技量を競う大会でして……」
「俺も一般人だけど」
「レベル128は一般人ではありません!」
会場が静まり返った。
参加者たちがユートを見る。
「レベル128?」
「嘘だろ?」
「人間のレベルじゃないぞ」
「俺、今年レベル61まで上げたのに……」
「帰ろうかな」
委員長が慌てる。
「皆さん! 落ち着いてください!」
そこへガイラスが来た。
「俺も出る」
受付係が震える。
「レベルは?」
「119」
参加者たちがざわめく。
バルガ。
「俺も」
「レベルは?」
「115」
さらにざわめく。
リリシア。
「私も出るわ」
「レベルを……」
「123」
何人かが帰り始めた。
最後。
セレス。
「私は出ません」
委員長が泣きそうな顔でセレスを見る。
「ありがとうございます!」
「ただし」
「はい?」
「この四人が暴走しないように監視します」
委員長が両手を握った。
「ぜひお願いします!」
ユートが不満そうに言う。
「俺、暴走したことないぞ」
セレスが振り返る。
「ゴブリン退治で何をしました?」
「用水路作った」
「ドラゴン退治では?」
「友達になった」
「盗賊退治では?」
「村作った」
「魔王の息子は?」
「弟子になった」
「十分です」
「全部解決してるじゃん」
セレスは言葉に詰まった。
確かに。
全部。
解決はしている。
ただし。
誰も予想しない方向に。
◇
緊急運営会議が開かれた。
「どうする!」
「勇者パーティが四人も出場するなど想定していない!」
「普通に戦わせたら死人が出るぞ!」
「それ以前に大会にならん!」
大会委員長が机を叩いた。
「ハンデをつける!」
「ハンデ?」
「そうだ!」
委員長は立ち上がった。
「勇者一行だけ特別ルールを適用する!」
◇
一時間後。
大会規則が発表された。
第一。
勇者ユート、ガイラス、バルガ、リリシアは武器の使用禁止。
ユートが聞いた。
「聖剣使えないの?」
「はい!」
ガイラスが聞く。
「俺も?」
「当然です!」
リリシアが聞く。
「杖は?」
「禁止です!」
バルガが笑った。
「俺、元々拳なんだけど」
委員長が固まった。
「…………」
セレスが言った。
「考えていませんでしたね」
十分後。
規則が追加された。
第二。
バルガは利き腕の使用禁止。
「片手だけ?」
「はい!」
「分かった」
委員長が安心する。
第三。
リリシアは攻撃魔法禁止。
「じゃあどうやって戦うの?」
「身体強化魔法などで……」
「私、魔法使いなんだけど」
「お願いします!」
第四。
ガイラスは両手を背中で縛る。
ガイラスが聞く。
「足は使っていいのか?」
委員長が嫌な予感を覚える。
「……はい」
第五。
ユートは。
委員長が悩んだ。
「勇者様」
「何?」
「片足で戦ってください」
「片足?」
「はい」
「分かった」
セレスが委員長を見る。
「それで大丈夫ですか?」
「大丈夫でしょう!」
セレスは何も言わなかった。
その表情だけが。
明らかに。
大丈夫ではない。
そう告げていた。
◇
大会当日。
観客十万人。
王都大闘技場は満員だった。
第一試合。
勇者ユート対王国騎士団副団長グレイ。
グレイ。
レベル67。
過去三大会連続準優勝。
優勝候補筆頭。
実況が叫ぶ。
「さあ! 世界最強の勇者が、ついに公式大会へ登場です!」
観客席が沸く。
「ただし勇者ユートには特別ルールが適用されます! 武器禁止! そして片足のみ!」
ユートは右足だけで立っていた。
グレイが剣を構える。
「勇者殿」
「はい」
「手加減は不要です」
「でも」
「武人として、全力のあなたと戦いたい」
ユートが少し困った。
「全力だと多分危ない」
「侮辱ですか?」
「違う」
「ならば!」
グレイが踏み込んだ。
速い。
王国騎士団副団長。
レベル67。
並の冒険者なら剣筋を見ることすらできない。
「神速三連斬!」
三方向から同時に剣が迫る。
ユートは片足で。
ぴょん。
跳んだ。
「え?」
グレイの頭上。
ユートがいる。
高さ。
二十メートル。
観客席が静まり返る。
ユートが空中で言った。
「跳びすぎた」
セレスが観客席から叫ぶ。
「勇者様! 着地に気をつけてください!」
「分かった!」
ユートが降りてくる。
グレイが剣を構える。
「今だ!」
着地の瞬間を狙う。
しかし。
ユートが地面へ片足をついた瞬間。
ドン!
地面が陥没した。
衝撃波。
グレイが吹き飛ぶ。
「うわぁぁぁぁ!」
場外。
壁に突き刺さった。
沈黙。
実況者が立ち上がる。
「しょ……勝者!」
声が震える。
「勇者ユート!」
ユートが困った顔をする。
「俺、何もしてないけど」
セレスが答えた。
「着地しました」
「それだけだよな?」
「それだけです」
委員長の顔が青くなった。
◇
第二試合。
拳闘士バルガ。
利き腕禁止。
相手は東方武術大会王者。
レベル64。
「始め!」
相手が突進する。
「奥義! 百烈――」
バルガが。
くしゃみをした。
「へっくしょん!」
衝撃波。
相手が場外まで飛んだ。
実況。
沈黙。
バルガ。
沈黙。
観客。
沈黙。
セレスが言った。
「風邪ですか?」
「いや、鼻がむずむずした」
「勝者! バルガァァァ!」
委員長が頭を抱えた。
◇
第三試合。
ガイラス。
両手を縛られている。
相手は獣人族最強の戦士。
レベル70。
開始。
獣人戦士が飛びかかる。
ガイラスは一歩も動かない。
「どうした!」
獣人戦士が叫ぶ。
「攻撃しないのか!」
「する」
「なら来い!」
ガイラスは。
息を吸った。
そして。
「ふん!」
気合を入れた。
ただそれだけ。
闘気が爆発した。
獣人戦士が吹き飛んだ。
場外。
実況者がもう驚かなくなっていた。
「勝者、ガイラス」
淡々としている。
委員長が叫ぶ。
「もっとハンデを増やせ!」
◇
第四試合。
リリシア。
攻撃魔法禁止。
相手は王国最高位魔術師。
レベル69。
「攻撃魔法は禁止ですよ!」
委員長が念を押す。
「分かってるわ」
リリシアが答える。
試合開始。
王国魔術師が巨大な火炎魔法を放つ。
「爆炎獄!」
炎がリリシアを包む。
観客席から悲鳴。
しかし。
炎が消える。
リリシア。
無傷。
「そんな……」
王国魔術師が震える。
リリシアが微笑む。
「私、攻撃できないから」
「な、何だ」
「あなたの魔法、返すわね」
「え?」
リリシアが指を動かす。
先ほどの炎が。
逆方向へ戻った。
「反射魔法!?」
ドォォォォン!
王国魔術師が場外へ飛んだ。
委員長が叫ぶ。
「反射魔法も禁止!」
リリシアが頬を膨らませる。
「何なら使っていいのよ!」
「何も使わないでください!」
「魔法使いなのに?」
「お願いします!」
◇
そして。
大会は進んだ。
ユート。
片足。
勝利。
バルガ。
片腕。
勝利。
ガイラス。
両手使用禁止。
勝利。
リリシア。
攻撃魔法禁止。
勝利。
準々決勝。
四人とも残った。
他の四人。
全員。
棄権した。
大会委員長が頭を抱える。
「予想していた最悪の展開だ……」
セレスが隣で紅茶を飲んでいる。
「だから言ったでしょう」
「どうすればいいのです!」
「大会を続けるしかありません」
「勇者パーティ同士が戦うのですよ!」
「そうですね」
「王都が消えます!」
「可能性はあります」
「そんな冷静に!」
セレスは紅茶を置いた。
「大丈夫です」
委員長が顔を上げる。
「本当ですか?」
「私が止めます」
「止められるのですか?」
セレス。
レベル107。
微笑んだ。
「多分」
委員長は思った。
この僧侶も。
十分。
化け物だった。
◇
準決勝。
第一試合。
ユート対バルガ。
観客十万人が息を呑む。
バルガが笑う。
「やっとお前とやれるな」
ユートも笑う。
「本気で来いよ」
セレスが叫んだ。
「駄目です!」
二人が振り返る。
「何で?」
「何でではありません!」
セレスが闘技場へ降りてくる。
「本気で戦ったら王都がなくなります!」
バルガが笑う。
「大丈夫だって」
「何を根拠に!」
ユートが言う。
「じゃあ拳だけ」
「駄目です」
「指一本」
「駄目です」
「じゃんけん?」
セレスが止まった。
「…………」
バルガがユートを見る。
ユートがバルガを見る。
セレスが言った。
「それでお願いします」
観客席がざわつく。
実況者が困惑する。
「えー」
説明を受ける。
「安全上の理由により、準決勝第一試合は……」
長い沈黙。
「じゃんけんで決着をつけます!」
観客席から大ブーイング。
「金返せ!」
「戦え!」
「世界最強決定戦だろ!」
「じゃんけんって何だ!」
バルガが拳を握る。
「ユート」
「何?」
「俺は本気で行く」
「俺もだ」
「最初はグー」
二人が構える。
「じゃんけん!」
「ポン!」
ユート。
パー。
バルガ。
グー。
沈黙。
バルガが膝から崩れ落ちた。
「負けた……」
ユートが拳を上げる。
「よし!」
観客席から。
なぜか。
大歓声。
「勇者つええ!」
「読み切った!」
「心理戦だ!」
「さすが魔王を倒した男!」
セレスが呆然とした。
「何でも盛り上がるのですね……」
◇
準決勝第二試合。
ガイラス対リリシア。
セレスが言った。
「こちらもじゃんけんで」
二人が同時に答えた。
「嫌だ」
「嫌よ」
「では何を?」
ガイラスが考える。
「腕相撲」
リリシアが怒る。
「私が不利でしょう!」
「では魔法勝負」
「ガイラス様が不利です」
リリシアが言った。
「知恵比べ」
「具体的には?」
「チェス」
ガイラスが頷いた。
「いいだろう」
一時間後。
勝者。
ガイラス。
リリシアが盤面を見つめている。
「嘘……」
ガイラスが立ち上がる。
「いい勝負だった」
「もう一回」
「大会中だ」
「もう一回!」
「駄目だ」
リリシアが机を叩いた。
「納得できない!」
セレスが笑う。
「魔法以外では意外と負けず嫌いなのですね」
「うるさい!」
こうして。
決勝。
勇者ユート。
対。
剣闘士ガイラス。
世界最強の二人。
誰もが待ち望んだ戦い。
しかし。
戦わせるわけにはいかない。
委員長。
セレス。
王国軍。
王宮魔術師団。
全員で話し合った。
その結果。
決勝戦の競技が決まった。
◇
「…………」
ユートが目の前を見る。
ガイラスも見る。
テーブル。
その上。
大量の豆。
実況者が叫ぶ。
「世界最強決定戦、決勝!」
観客十万人。
静まり返る。
「最終競技は!」
実況者が一度言葉を詰まらせた。
「豆つかみです!」
観客席。
沈黙。
ユートがセレスを見る。
「何これ」
「箸を使って、こちらの皿から反対側の皿へ豆を移します」
「それで世界最強決めるの?」
「安全です」
「世界最強関係なくない?」
「安全です」
「二回言った」
ガイラスが箸を持つ。
「面白い」
「ガイラス、やる気?」
「ああ」
「じゃあ」
ユートも箸を持った。
「負けないぞ」
試合開始。
一分。
二分。
三分。
観客たちが。
次第に前のめりになる。
「ガイラス速い!」
「勇者が追いついた!」
「あと三個!」
「落とした!」
「勇者が逆転するぞ!」
なぜか。
本日一番の盛り上がり。
そして。
「終了!」
数を数える。
ユート。
四十七個。
ガイラス。
四十八個。
「勝者!」
実況者が叫ぶ。
「剣闘士ガイラス!」
大歓声。
ガイラスが拳を上げる。
ユートが膝をついた。
「負けた……」
セレスが笑う。
「勇者様」
「何?」
「初めて負けましたね」
「魔王にも負けなかったのに」
「豆に負けました」
「豆じゃない。ガイラスに負けた」
ガイラスがユートへ手を差し出す。
「いい勝負だった」
ユートがその手を握る。
「次は負けない」
「俺もだ」
こうして。
世界最強決定戦。
優勝。
剣闘士ガイラス。
準優勝。
勇者ユート。
大会史上初。
一度も剣を振らず。
一人も殴らず。
最後は豆を箸で移して。
世界最強が決まった。
◇
大会終了後。
ガイラスが優勝賞金の金貨一万枚を受け取った。
ユートが目を丸くする。
「そんなにもらえるの?」
「ああ」
「何に使う?」
ガイラスは少し考えた。
「ベルン村へ半分」
「え?」
「残りはヴァルのいる村と、ゴブリンたちの村へ」
ユートが笑う。
「自分には?」
「剣が一本あればいい」
バルガが肩を組む。
「酒くらい買えよ!」
「お前が飲みたいだけだろう」
「ばれたか!」
リリシアがまだ不機嫌そうに言う。
「私は納得してない」
「何が?」
「チェス」
「まだ言ってるのか」
「今夜もう一回!」
「いいだろう」
セレスは四人を見ながら笑った。
そして。
ゼルディアが聞いた。
「ところで師匠」
「何?」
「世界最強はガイラスということになったが」
「うん」
「我は誰に弟子入りしたのだ?」
ユートが止まった。
全員。
ガイラスを見る。
ゼルディアも見る。
ガイラスが言った。
「来るか?」
ゼルディアが即答した。
「師匠はユートだ!」
「何でだよ!」
「何となくだ!」
ユートが笑った。
「何だそれ」
ゼルディアも笑った。
「我にも分からん!」
その夜。
祝勝会が開かれた。
そして。
ユートは。
いつものように。
眠った。
◇
「佐伯さん」
「…………」
「佐伯さん」
「…………」
「負けましたよ」
「何に!」
勇人が飛び起きた。
目の前。
小川美咲。
コンビニの休憩室。
「何だ……」
「何だとは何ですか」
「いや」
勇人は周囲を見る。
また。
スマイルマート。
時計。
午後三時二十分。
「俺、寝てた?」
「十分くらい」
「店長は?」
「今日は外出中です」
「助かった……」
美咲がテーブルを見る。
「それより」
「何?」
「負けましたよ」
「だから何に?」
美咲が指差した。
テーブル。
その上。
コンビニ弁当。
そして。
割り箸。
勇人は自分の右手を見る。
箸。
持っている。
「……何これ」
「豆」
小さな容器。
枝豆。
「佐伯さん、寝ながら枝豆つまんでました」
「嘘だろ」
「本当です」
勇人の顔が変わる。
夢の中。
豆つかみ。
ガイラス。
四十八個。
自分。
四十七個。
「何個?」
「はい?」
「俺、何個移した?」
美咲が少し考える。
「四十七個」
勇人の手から箸が落ちた。
「……え?」
「どうしたんですか?」
「四十七?」
「はい」
「本当に?」
「数えましたから」
「何で数えたの?」
「暇だったので」
美咲は笑っている。
勇人は笑えなかった。
銀貨。
ヴァルのたまご。
ベルン農園。
ゼルダイ。
そして。
四十七個。
「偶然……」
美咲が聞く。
「何がです?」
「いや」
勇人は立ち上がる。
「何でもない」
その時。
休憩室のドアが開いた。
「失礼します」
若い男が立っていた。
十九歳くらい。
黒髪。
長身。
少し鋭い目。
店の制服を着ている。
「今日からアルバイトで入りました」
勇人は男を見る。
「もしかして」
「はい」
男は頭を下げた。
「瀬留大玲央です。よろしくお願いします」
勇人は固まった。
ゼルダイ・レオ。
夢の中の。
ゼルディア。
もちろん。
顔は違う。
角もない。
翼もない。
普通の大学生だ。
「佐伯さん?」
美咲が声をかける。
「どうしました?」
「いや……」
勇人は玲央を見る。
「よろしく」
「店長から聞きました」
玲央が言った。
「佐伯さんが仕事を教えてくださるって」
「俺?」
「はい」
勇人は美咲を見る。
美咲が笑っている。
「頑張ってください、先輩」
「俺が教えるの?」
「先輩でしょう?」
「俺、まだ発注間違えるんだけど」
玲央が真顔で答える。
「大丈夫です」
「何が?」
「俺、覚えるの早いんで」
「それ、俺が教える必要なくない?」
美咲が吹き出した。
「確かに」
玲央も少し笑った。
その笑い方。
どこか。
見たことがある。
夢の中。
「師匠!」
そう叫びながら。
自分の後ろを走っていた。
魔王の息子。
勇人は頭を振った。
違う。
夢だ。
ただの夢。
そう思った時。
玲央が勇人を見る。
「佐伯さん」
「何?」
「俺、変なこと聞いていいですか?」
「何?」
玲央が少し迷う。
「俺たち」
一瞬。
「前に会ったことありません?」
勇人の身体が固まった。
美咲の笑顔が。
消えた。
「……ないと思う」
「ですよね」
玲央は笑った。
「すみません。何となく見たことある気がして」
「どこで?」
「分からないです」
玲央は少し考えた。
「夢とか」
勇人の心臓が跳ねた。
「夢?」
「冗談ですよ」
玲央は笑って売り場へ向かった。
勇人は動けなかった。
そして。
隣にいる美咲を見る。
「小川さん」
「はい?」
「お前」
初めて。
美咲を真剣に見る。
「何か知ってる?」
美咲は勇人を見る。
いつもの笑顔。
「何をですか?」
「俺の夢」
数秒。
二人は黙っていた。
やがて。
美咲が笑った。
「佐伯さん」
「何?」
「寝すぎなんですよ」
「……そうかな」
「そうです」
美咲は売り場へ戻っていく。
その背中を。
勇人は見ていた。
そして。
美咲も。
勇人に背を向けたまま。
小さく呟いた。
「五回目」
誰にも聞こえない声。
「あと半分ですね」
第五話 勇者パーティ、世界大会に出場する 了




