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ACT 4:本能と理性

「好奇心。」


「とても単純に聞こえる言葉だ。」


「しかし、歴史におけるほとんどすべての大きな一歩は、いつもそこから始まった。」


「誰かが空を見上げ……そして、問いかけた。」


「誰かが禁じられたものに触れ……そして、問いかけた。」


「誰かが、本来なら閉じておくべき扉を開いた……その向こうに何があるのか知りたかったから。」


「好奇心は、知識を生み出した。」


「そして好奇心は、災厄も生み出した。」


「何かを知りたいと思うこと自体に、間違いはない。」


「危険なのは……」


「……お前が探している答えが、ずっと前からお前を待っていたとしたら。」


「そして、その時が来たら……」


「学ばれるのは、お前のほうだ。」


「ようこそ……」


「……好奇心の、次なる一歩へ。」


【石炭紀|283年|7月15日|13:43】


「うわああああああああああああああ!!」


リオンの絶叫が空に響き渡った。


彼は機械仕掛けのプテラノドンの爪にぶら下げられ、必死にもがいている。


「離せえええ!!」


「BOSS 429!!」


BOSS 429は、まったく振り返らなかった。


ただ薄く笑う。


「もちろん。」


「それが目的だからな。」


「はぁ!?」


リオンはさらに慌てた。


機械仕掛けのプテラノドンが、さらに強く翼を羽ばたかせる。


「FWOOOSH!!」


二人は雲の層を突き抜けた。


冷たい風がリオンの顔を叩く。


目を開けていることさえ難しい。


「止まれ!!」


「吐くぞ!!」


ようやくBOSS 429が振り返った。


「それで?」


「その『それで?』は何なんだよ!?」


「俺は人間だぞ!! 宅配便じゃない!!」


BOSS 429は肩をすくめた。


「大差ない。」


「全然違うわ!!」


その瞬間……


BOSS 429が爪を開いた。


「さらば。」


「……」


「……は?」


落下。


リオンの身体が、そのまま自由落下した。


「うわあああああああああああああああああ!!」


風が耳元で轟く。


雲が凄まじい速度で後方へ流れていく。


地面がどんどん近づいてくる。


「俺はまだ死にたくねえええええ!!」


「父さあああん!!」


「スプートニク!!」


「スープラ!!」


「86ぅぅぅぅ!!」


地面に激突する数メートル前……


「WHOOSSH!!」


機械仕掛けのプテラノドンが猛烈な速度で急降下した。


「GRAB!!」


爪が再びリオンを捕らえる。


身体が大きく揺さぶられた。


リオンの目がぐるぐる回る。


「……」


「……」


「うえっ……」


そのまま気絶した。


BOSS 429は意識を失ったリオンの顔を見下ろす。


「フン。」


「まだ弱すぎる。」


「だが……」


「……こういう子供のほうが……」


「……誘導しやすい。」


彼は機械仕掛けのプテラノドンの頭を軽く叩いた。


「行こう。」


「まだ旅は長い。」


金属の翼が再び羽ばたく。


「FWOOOSSHH!!」


二人は雲の向こうへ消えていった。


川辺。


86は座り込み、服を絞っていた。


「げほっ!」


「水、全部入った……」


スープラが彼の肩を支える。


まだ呼吸は安定していない。


しかし、その目はずっと空を見ていた。


「……」


「いない。」


86が振り返る。


「何が?」


「大きな動物。」


「もし、いたなら……」


「……追える。」


二人は黙り込んだ。


聞こえるのは風の音だけ。


そして……


86が遠くに何かを見つけた。


「ん?」


「あれ。」


一人の老人が川辺でのんびり座っている。


麦わら帽子が顔を覆っている。


その隣には古いバイクが停めてあった。


86が満面の笑みを浮かべる。


「俺、いいこと思いついた。」


スープラが彼を見る。


「何?」


「釣りしてる爺さん。」


「きっとミミズが好きだ。」


スープラが瞬きをする。


「……」


「続けて。」


「物々交換だ。」


スープラは少し考えた。


「……理にかなっている。」


「行こう。」


86はすぐに茂みへ走っていった。


「ガサッ!」


「ガサッ!」


数秒後……


彼は蠢くミミズがたっぷり入ったバケツを持って戻ってきた。


「見ろ!」


「新鮮だ。」


スープラはゆっくり頷く。


「いい。」


二人は老人に近づいた。


スープラが丁寧に咳払いする。


「すみません、おじいさん。」


老人がゆっくり顔を上げる。


「ん?」


スープラはバケツを持ち上げた。


「そのバイクを買いたいんです。」


「その代わり……」


「……ミミズを一杯。」


老人はバケツを見つめた。


目が徐々に大きくなる。


「……」


「……」


「土ミミズか?」


「まだ生きてる。」


86が誇らしげに頷く。


「プレミアムだ。」


老人は即座に立ち上がった。


「交渉成立。」


「え?」


86は呆然とした。


「早すぎない?」


老人は宝物を見つけたようにミミズのバケツを抱きしめる。


「おお……」


「自分たちで掘ったのか?」


「はい。」


「若いの……」


「釣り人の好みを分かってるな。」


老人はすぐにバイクの鍵を渡した。


「ほら。」


スープラが鍵を受け取る。


「ありがとうございます。」


86はまだ信じられない。


「こんな簡単に?」


老人はもう一度座り、ミミズのバケツを眺めて笑っていた。


「これで一週間は釣りができる……」


「いやあ、運がいい。」


スープラがバイクを始動させる。


「BRRMMM……BRRMMM……」


エンジンは確かに古い。


だが、まだ動く。


86が後ろに乗る。


「行こう!」


「あのムカつくガキを迎えに行くぞ。」


スープラがアクセルを回す。


「掴まれ。」


「VRRROOOOMMMM!!」


古いバイクは川辺を離れ、走り去っていった。


その一方、空では機械仕掛けのプテラノドンの影が、リオンを連れてさらに遠ざかっていた。


古いバイクが土の道を突き進む。


「BRRROOOOMMMM!!」


スープラはアクセルを限界まで回した。


86の身体が後ろへ吹き飛びそうになる。


「おい!」


「もう少しゆっくり!」


「時間がない。」


スープラは前だけを見ている。


空では……


機械仕掛けのプテラノドンが、気を失ったリオンを運んでいる。


86は、救出する際に持ち出したリオンのバッグを開いた。


「おっ!」


「まだある。」


彼はリオンのライフルを取り出した。


「こいつを誘拐される前に反射的に取っておいて正解だった。」


スープラが頷く。


「役に立つ。」


86がマガジンを装填する。


「CKLAK!」


最初の弾丸が装填された。


彼はバイクの後部座席に立ち上がる。


「もう少し!」


「もっと上げろ!」


スープラは木の根を避けながらバイクを急旋回させる。


「ドン!」


「ドン!」


バイクが激しく跳ねる。


86がバランスを崩しかける。


「道を跳ねさせるなよ!」


「道がこうなっている。」


「踏むなよ!」


スープラがため息をつく。


「……」


「運転しているだけだ。」


二人は木々の密集地帯を抜けた。


今度はBOSS 429との距離が縮まっている。


86が呼吸を整える。


「静かに……」


「静かに……」


ライフルの照準がBOSS 429の背中を正確に捉える。


「DOR!!」


弾丸が飛ぶ。


しかし……


BOSS 429が一瞬だけ振り返った。


「ん?」


機械仕掛けのプテラノドンが急旋回する。


「WHOOSH!!」


弾丸は空気だけを切り裂いた。


BOSS 429が小さく笑う。


「邪魔だな。」


彼が操縦レバーを引く。


プテラノドンが急降下。


そして旋回。


再び上昇。


また下降。


まるで空を舞うダンサーのような動きだった。


86は汗を流す。


「こいつ鳥か、それとも戦闘機か!?」


スープラが短く答える。


「両方だ。」


BOSS 429は空中で自在に機体を操り続ける。


86は苛立ってライフルを下ろす。


「チッ!」


「上にいる限り当たらねえ!」


彼はスープラを見る。


「スープラ!」


「落とせ!」


スープラはバイクの操作に集中したまま答える。


「どうやって?」


「とにかく下に落とせ!」


「飛んでるままだと撃ちにくい!」


スープラが一瞬だけ空を見る。


「……」


「分かった。」


「方法を探す。」


数秒後……


目がわずかに細くなった。


「……見つけた。」


BOSS 429が下を見た。


「ガキども……」


「いつ諦めるべきなのかも分からないらしい。」


突然……


「SKREEEE!!」


崖の裂け目から大量の黒いコウモリが飛び出した。


数は数百。


一斉に空を埋め尽くす。


「FRAAAP!」


「FRAAAP!」


プテラノドンの視界が塞がれる。


BOSS 429が一匹ずつ払いのける。


「どけ!」


しかしコウモリは噛みつき続ける。


「チッ!」


プテラノドンが大きく揺れる。


BOSS 429がバランスを崩す。


「……飛べ!」


彼は乗騎に叫ぶ。


しかし、もう遅かった。


身体が離れる。


「WOOOOSHHHH!!」


自由落下。


86の目が大きく開く。


「今だ!」


照準を合わせる。


息を吸う。


「DOR!!」


弾丸が一直線に飛ぶ。


BOSS 429は鼻で笑う。


「甘い。」


彼は手首の金属製ブレスレットを押した。


「KLANG!!」


あらゆる方向から鉄板が出現する。


それらが集まり……


回転し……


巨大な鋼鉄球を形成した。


「TAAANG!!」


弾丸が跳ね返る。


「何だよ、あれ!?」


鋼鉄球が地面へ激突した。


「DUUUUM!!」


そして……


転がり始める。


速い。


さらに速く。


スープラのバイクへ向かってくる。


「GRRRRR……」


岩を砕く。


木々をなぎ倒す。


通過したものすべてを押し潰していく。


86が唾を飲み込む。


「……スープラ。」


「分かってる。」


「俺たち、ボールに追われてる。」


「知ってる。」


鋼鉄球がさらに近づく。


スープラが燃料タンクの蓋を開けた。


「CKLIK。」


ガソリンが後方へ流れ始める。


長い跡を作る。


86がすぐに理解した。


「なるほど。」


スープラが短く言う。


「準備。」


鋼鉄球が後輪に触れそうになった瞬間……


スープラが急旋回する。


「SKRIIIIIT!!」


86がガソリンの跡へ銃を向ける。


「DOR!!」


「FUUUSHHH!!」


炎が一気に広がる。


ガソリンの道を伝って進み……


鋼鉄球へ到達する。


BOSS 429が内部でようやく気づいた。


「……」


「しまった。」


「DUUUAAAAAAAAAARRRRR!!」


巨大な爆発が森全体を揺るがした。


衝撃波が葉や枝を吹き飛ばす。


木々が激しく揺れる。


86が満面の笑みを浮かべる。


「当たった!」


しかし……


煙が動く。


亀裂が入る。


「KRAAAK……」


「KREEEK……」


鋼鉄球がゆっくりと割れていく。


金属片が次々と落ちる。


その内部から……


黒い金属鎧をまとったユタラプトルが現れた。


目が赤く光っている。


「RAAAAAARRRHHH!!」


その背中には……


BOSS 429が立っていた。


肩の埃を払いながら、彼は平然としている。


「なかなか楽しかった。」


「だが……」


「転がるのにも飽きた。」


彼はユタラプトルの首を軽く叩いた。


「行こう。」


ユタラプトルが激しく咆哮する。


「RAAAAAGGHHH!!」


そしてスープラのバイクを追って猛スピードで走り出した。


「DOOM!」


「DOOM!」


「DOOM!」


一歩ごとに地面が震える。


前方の森の道は、さらに危険なものへ変わっていった。


倒木が道を塞ぐ。


古い木橋が崩れ始める。


巨大な根の間に細い谷が現れる。


スープラはハンドルを強く握る。


後方では……


BOSS 429が薄く笑っていた。


「本当のゲームは……」


「……今からだ。」


ユタラプトルが咆哮する。


「RAAAAAGGHHH!!」


BOSS 429が身体を低くする。


「遊びは終わりだ。」


「ここからは本気で行く。」


ユタラプトルが跳躍する。


「DUUUM!!」


スープラが突然バイクの後部座席に立ち上がった。


「86。」


「ハンドル。」


86が慌ててハンドルを掴む。


「は?」


「ちょっと待て、俺!?」


「持て。」


「追われてる最中にバイクを押し付けるなよ!」


スープラはすでに跳んでいた。


「WHOOSSHH!!」


ユタラプトルの背中へ正確に着地する。


BOSS 429が少し笑う。


「度胸があるな。」


スープラがシラットの構えを取る。


「車両を止めてください。」


BOSS 429は両拳を上げる。


「断ったら?」


スープラがため息をつく。


「仕方ありません。」


「DUAAKK!!」


BOSS 429の右拳が飛ぶ。


スープラは頭を傾ける。


「SWISH!」


拳が髪をかすめる。


反撃が一瞬で飛んだ。


「PLAAKK!!」


スープラの掌がBOSS 429の肘を打ち、拳の軌道を逸らす。


BOSS 429が腰を回す。


「BUUKK!!」


左フックが脇腹へ向かう。


スープラは腕で受ける。


「DUKK!!」


衝撃で二人が一歩後退する。


ユタラプトルは走り続けている。


「DOOM!!」


「DOOM!!」


後方では……


86がパニックになりながらバイクを運転していた。


「おい!」


「恐竜の上で喧嘩してるのかよ!?」


「俺も混ぜろ!」


バイクが木の根に激突する。


「DUK!」


86が投げ出されそうになる。


「うわっ!」


前方では……


倒木が横たわっている。


86が急旋回する。


「SKRIIIIITT!!」


バイクが狭い隙間を滑り抜ける。


「うおおお!」


「抜けた!」


スープラはその隙を利用した。


身体を回転させる。


「WHAPP!!」


回し蹴りがBOSS 429の頭へ向かう。


BOSS 429が腕を上げる。


「BRAKK!!」


激突。


彼はすぐに連続パンチを繰り出す。


「DUK!」


「DUK!」


「DUAK!」


スープラはシラットの技術ですべてを受け流す。


攻撃を逸らす。


手首を取る。


足を滑らせる。


力で押し返すのではない。


流す。


BOSS 429が小さく笑う。


「シラットか。」


「面白い。」


「だが俺は……」


「……一撃で終わらせるほうが好きだ。」


「BUUUKKK!!」


アッパーカットがスープラの顎を捉える。


スープラが宙へ跳ねる。


しかし……


空中で身体を回転させる。


そして再びユタラプトルの背へ着地した。


BOSS 429が拳銃を取り出す。


「CKLIK!」


「DOR!」


スープラが身体を傾ける。


弾丸が頬のすぐ横を通り過ぎた。


彼は腰から短刀を抜く。


「CLING!」


ナイフと拳銃がぶつかる。


火花が飛び散る。


その一方……


86はまだ必死にバイクを操っていた。


突然、一頭のイノシシが横切る。


「おいおいおい!!」


「SKREEEET!!」


バイクが巨大な岩を飛び越える。


「WOOOOSH!!」


その先には……


低い木の枝。


86が身を屈める。


「危ねえ!!」


さらに前方……


小さな谷。


「これ、本当に道か!?」


バイクが跳ぶ。


「WOOOOSH!!」


激しく着地する。


「BRAK!!」


「腰が……」


ユタラプトルの上では……


BOSS 429とスープラが再び攻撃を交わしている。


「BUUKK!!」


「PRAAK!!」


「DUAK!!」


BOSS 429の一撃一撃はハンマーのように重い。


スープラの動きは流れるようで、相手の力を回転させ、逸らしていく。


ユタラプトルは森を切り裂きながら走り続ける。


木々が倒れる。


石が飛ぶ。


その後ろで86は必死にバイクを保っていた。


「スープラ!」


「早く勝ってくれ!」


「こっちはもう普通の道がねえぞ!」


古いバイクが咳き込み始める。


「BRETT……BRETT……」


86が燃料計を見る。


「……」


「……スープラ。」


「まずい。」


86が思い出す。


「さっき……」


「鋼鉄球を爆破するためにガソリンを使った……」


エンジンが再び止まりかける。


「BREET……」


「BRETT……」


「おい。」


「今はやめろよ……」


バイクの力が失われる。


速度が一気に落ちる。


前方では……


ユタラプトルがスープラとBOSS 429を乗せたまま走り続けている。


86が歯を食いしばる。


「もう選択肢がない。」


彼はバイクの上に立つ。


「飛ぶぞ!!」


「WOOOOSHH!!」


身体が宙へ飛び出す。


しかし距離が足りない。


掴めたのは……


ユタラプトルの尻尾だけだった。


「GRAB!!」


「うわあああああ!!」


ユタラプトルは走り続ける。


86は引きずられていく。


「BRUK!!」


背中が木に激突する。


「うわっ!」


「DUK!!」


足が岩にぶつかる。


「痛え!」


「PRAK!!」


頭が枝にぶつかる。


「誰がこんなところに木を植えたんだよ!?」


ユタラプトルの上では……


スープラとBOSS 429が殴り合っている。


BOSS 429が右フックを放つ。


スープラがかわす。


「BUUK!!」


肘打ちで反撃する。


BOSS 429が半歩後退した。


その時……


86が顔を上げる。


目を見開く。


「スープラ!!」


「前!!」


「崖だ!!」


全員が振り向く。


その先……


地面が突然途切れていた。


巨大な谷が広がっている。


BOSS 429がすぐに手綱を引く。


「止まれ!」


ユタラプトルが急停止する。


「SKRRRRRRTTTT!!」


前脚が崖の縁から飛び出しかける。


石が下へ落ちていく。


「KRAK……」


「KRAK……」


しかし……


先ほど捨てた古いバイクが……


まだ無人のまま滑走していた。


「待て……」


86が振り返る。


バイクは一直線にこちらへ向かってくる。


「……やめろ!!」


「BRRROOOOMMMM!!」


「スープラァァァ!!」


BOSS 429も目を見開く。


「……マジか?」


「DUUUAAAKKKK!!」


バイクがユタラプトルへ激突する。


全員が吹き飛ぶ。


「WHOOOOSHHHH!!」


宙を舞う。


BOSS 429が最も早く反応した。


彼は小さな金属製の笛を吹く。


「FIIITTT!!」


機械仕掛けのプテラノドンが急降下する。


BOSS 429が安全ロープを掴む。


「GRAB!!」


「捕まえた。」


慌てたユタラプトルが咆哮する。


「RAAAAGHHH!!」


そしてBOSS 429のベルトを噛んで、落下を防ごうとする。


スープラがその隙を見る。


彼は……


ユタラプトルの尻尾を掴む。


「GRAB!!」


空中に放り出された86が叫ぶ。


「スープラ!」


「俺を置いてくな!」


スープラはすぐに手を伸ばす。


86がそれを掴む。


「GRAB!!」


86は空中で必死になった。


「スープラ……離すなよ……」


スープラは苦しそうに答える。


「俺だって……必死に掴んでいる。」


今や彼らは一本の鎖になっていた。


プテラノドン。



BOSS 429。



ユタラプトル。



スープラ。



86。


プテラノドンが翼を全力で羽ばたかせる。


「FWOOOOSHHH!!」


しかし……


重すぎる。


警告音が鳴り始めた。


「BEEP!」


「BEEP!」


BOSS 429がボタンを押す。


「ターボ!」


ジェットターボが起動する。


「VVRRRRRAAAAAAAAMMM!!」


エンジンから炎が噴き出す。


プテラノドンは数メートル上昇した。


だが……


再び下降する。


エンジンが苦しそうに唸る。


BOSS 429が舌打ちする。


「チッ。」


「重すぎる。」


BOSS 429は下を見る。


そして淡々と言った。


「こんなに乗客を乗せたのは初めてだ。」


彼はユタラプトルを見る。


「そいつらを放せ。」


ユタラプトルが尻尾を持ち上げる。


スープラを振り落とそうとする。


しかし……


「BWEEEK!!」


一羽の野鳥がプテラノドンのくちばしに衝突した。


「PRAAK!!」


プテラノドンがバランスを崩す。


左翼が崖に激突する。


「BRAKK!!」


ターボが停止する。


BOSS 429の目が見開かれる。


「……何!?」


鎖全体が揚力を失った。


全員が同時に落下する。


「うわああああああああああ!!」


風が轟く。


崖が凄まじい速度で流れていく。


その下には……


巨大な滝を伴う川が待っていた。


「BYAAAAAAAAAARRRRR!!!」


全員が水面へ激突する。


巨大な水しぶきがあらゆる方向へ飛び散る。


そして激流が全員を滝壺へ向かって流していった。


滝の下では、激しい水音が響いている。


「GGRRROOOOOSSHHHH……」


一人ずつ水面へ浮かび上がる。


スープラが最初に立ち上がった。


髪から水が滴っている。


少し離れた場所で86が咳き込みながら胸を押さえる。


「げほっ……げほっ……」


「危なかった……」


BOSS 429が最後に水面から出てきた。


彼はまるで散歩から帰ってきたかのように落ち着いている。


川面には……


リオンが意識を失ったまま浮かんでいた。


ゆっくりと流されている。


BOSS 429が手首を上げる。


未来的な機械時計が数字を投影する。


彼は眉をひそめる。


「……エネルギーが残り少ない。」


「無駄遣いはできない。」


彼がボタンを一つ押す。


金属の光が身体から流れ出す。


ゆっくりと……


機械仕掛けのプテラノドンが粒子へ変わっていく。


ユタラプトルも同じように崩れていく。


二体は再びBOSS 429の身体へ融合した。


「省エネルギー。」


BOSS 429が指を鳴らす。


「SNAP。」


金属片から機械仕掛けのチーターが形成された。


細身の身体。


脚には小さな車輪。


目は青く光っている。


BOSS 429がリオンを指差す。


「運べ。」


「できるだけ遠くへ。」


チーターは頷く。


そしてリオンの服の襟をそっと噛んだ。


「FWUSSHH!!」


一瞬で森の中へ消えていった。


86が目を見開く。


「リオン!」


BOSS 429は薄く笑う。


「無駄だ。」


「お前たちの努力は……」


「……結局、何も変わらない。」


スープラがゆっくり歩み出る。


冷たい目。


言葉はない。


次の瞬間……


彼は突進した。


「WHOOSSH!!」


「BUUUUKKK!!」


スープラの拳がBOSS 429の腹へ直撃した。


BOSS 429がむせる。


「クッ……!」


身体が数歩後退する。


しかし……


彼は笑った。


「ヘッ……」


「ハハハ……」


さらに大きく。


「ハハハハハハ!!」


スープラが眉をひそめる。


「何がおかしい?」


BOSS 429が口元の血を拭う。


「気に入った。」


「お前が怒れば怒るほど……」


「……面白くなる。」


スープラが再び攻撃しようとする。


しかし……


86が腕を掴んだ。


「スープラ。」


「もういい。」


スープラが振り返る。


「こいつは時間稼ぎをしているだけだ。」


86が頷く。


「逃げた奴のほうが重要だ。」


「リオンを追え。」


スープラは数秒黙った。


そして頷く。


「……死ぬなよ。」


86が小さく笑う。


「努力する。」


スープラはすぐに走り出した。


「WHOOSSH!!」


チーターを追って姿を消した。


今……


残っているのは86とBOSS 429だけ。


突然、空気が静かになる。


背後では滝が轟音を立てている。


86が息を吐く。


「また……」


「……二人きりか。」


BOSS 429が首を傾ける。


「何をするつもりだ?」


86が笑う。


「決闘。」


「銃で。」


「一対一だ。」


BOSS 429はすぐに拳銃を構える。


「いいだろう。」


86はゆっくりジャケットの内側から一枚のディスケットを取り出した。


BOSS 429がそれを見る。


目が少し細くなる。


「……」


「そういうことか。」


86はペンを取り出す。


素早くディスケットの表面に何かを書いた。


そして……


空中へ投げた。


「FWIING!!」


BOSS 429は撃たなかった。


ただ笑う。


「ユニークな人間。」


「お前もそうだったか。」


86が笑い返す。


「ようやくバレたか。」


二人が拳銃を構える。


風が吹く。


誰も瞬きをしない。


「DOR!!」


「DOR!!」


二発の銃声が同時に響く。


86が後ろへ吹き飛ぶ。


弾丸が太腿を貫いた。


「ぐっ!」


BOSS 429も歯を食いしばる。


弾丸が左腕を貫く。


血が川へ滴り落ちる。


しかし……


先ほど投げたディスケットが高速回転し始めた。


「WIIIIIIING……」


86が顔を上げる。


「あれだ……」


ディスケットが降下する。


地面ではない。


そのまま……


86の頭部へ突き刺さった。


「CRAAAK!!」


ディスケットが身体へ消えていく。


86の目が見開かれる。


身体が激しく震える。


皮膚の奥から……


何かが動き始める。


これまで隠されていた力が、ついに目を覚まそうとしていた。


86が長く息を吸う。


身体はまだ震えている。


そして……


彼は全力で叫んだ。


「1984!」


「BZZZZZZTTT!!」


空気が震える。


86の背後から、ゆっくりと人型の存在が現れる。


頭から背中まで、数十個のスピーカーで覆われている。


それぞれのスピーカーが低く唸る。


「HMMMMMMMM……」


そして……


音楽が谷全体を満たし始めた。


BOSS 429は驚かなかった。


ただため息をつく。


「……なるほど。」


彼が手を上げる。


「Time Machine。」


「VRRRRRRMMM!!」


別の存在がBOSS 429の背後に現れる。


身体は歯車と金属板で覆われている。


両腕は巨大なボクシンググローブのような形状。


合図を待つことなく……


Time Machineが突進した。


「BOOOM!!」


右拳が86の顔へ向かう。


「Clamor Cerebri!」


1984の全スピーカーが一斉に回転する。


「BWOOOOOOOOOMMMMM!!」


目に見えない音波が空気を叩く。


BOSS 429が頭を押さえる。


「……クッ……!」


その音は耳を傷つけているのではない。


直接……


思考の内部へ入り込んでくる。


視界が震える。


Time Machineの拳の軌道が乱れる。


しかしBOSS 429は歯を食いしばる。


「まだだ。」


左手を上げる。


「Kray Nebes!」


瞬間……


Time Machineの両腕が何倍にも膨張した。


金属が厚くなる。


機械の筋肉が唸りを上げる。


「KRAAAAAKKK!!」


「伏せろ。」


「DUUUUAAAKKKK!!」


巨大な両手が同時に叩きつけられる。


86と1984が吹き飛ぶ。


「BBAAAMMM!!」


身体が巨大な木へ激突する。


幹が折れる。


埃が舞う。


86が咳き込む。


「……結構痛いな。」


BOSS 429が薄く笑う。


「立て。」


「まだ終わっていない。」


86が唇の血を拭う。


「悪くない。」


「次は俺だ。」


彼が指を鳴らす。


「Resonantia Ferri!」


1984が両手を上げる。


周囲のスピーカーが高周波を放つ。


「WIIIIIIIIIIIIIIIIIIINNNNNG!!」


周囲の石が震える。


剣。


釘。


金属片。


すべてが空中へ浮かぶ。


BOSS 429が叫ぶ。


「Zheleznyy Zaslon!」


Time Machineが両腕を交差させる。


空中を飛んでいた金属片が、その身体へ吸い寄せられる。


「KLANG!」


「KLANG!」


厚い鋼鉄の盾が形成される。


86が小さく笑う。


「確かに俺は、金属をそっちへ飛ばした。」


「でも……」


「……攻撃するためじゃない。」


BOSS 429が眉をひそめる。


「何?」


「Sonus Frangens!」


1984が両手を叩きつける。


「DOOOOOOMMMM!!」


音波が金属製の盾を直撃する。


すべての金属が激しく共鳴する。


「KRRRRRAAAAAAAKKKK!!」


盾が内側からひび割れる。


小さな爆発が何度も発生する。


BOSS 429が数メートル後退する。


しかし、すぐに足を地面へ突き刺す。


「悪くない。」


彼が手を上げる。


「Molniya Rytm!」


Time Machineが動く。


直線ではない。


消えては現れ……


何度も位置を変える。


「BAM!」


「BAM!」


「BAM!」


右から拳。


左。


背後。


上。


86は必死に避け続ける。


しかし……


「BUUKK!!」


一発が肩を捉えた。


身体が吹き飛ぶ。


何度も地面を転がる。


1984がすぐ前に立つ。


主人を守る。


86が薄く笑う。


「近いな。」


「なら……」


「……もっと強くする。」


彼は空へ手を伸ばす。


「Cantus Ultimus!」


1984の身体にあるすべてのスピーカーが、一つずつ点灯していく。


音楽が止まる。


谷が静寂に包まれる。


あまりにも静かだった。


BOSS 429が周囲を見る。


「……どうして静かになった?」


86が一本の指を立てる。


「それは……」


「……曲が始まるのは、これからだからだ。」


一方、BOSS 429はゆっくりと拳を握る。


その目つきが変わる。


「なら……」


「……俺も音量を上げよう。」


「Posledniy Chas。」


二人の周囲の空気が震え始める。


足元の地面が少しずつ亀裂を走らせる。


二人の戦いは、さらに危険な段階へ入ろうとしていた。


その頃、スープラは森の中を走り続けていた。


「BRUK!」


「BRUK!」


木の枝が顔を叩く。


しかし止まらない。


彼の頭にあるのは一つ。


リオン。


そして……


86。


先ほど川から聞こえた巨大な爆発音が、まだ頭に残っている。


「……86。」


スープラが拳を握る。


「死ぬなよ。」


彼は走り続けた。


しかし追跡すればするほど……


痕跡が少なくなっていく。


機械の足跡。


金属片。


すべてが消え始めている。


スープラが立ち止まる。


目を森全体へ向ける。


「……消えた。」


チーターは速すぎる。


身体能力だけでは……


追いつけない。


スープラは長く息を吐く。


そして服の中から何かを取り出した。


一枚のディスケット。


数秒見つめる。


それからペンを取り出す。


一つの言葉を書く。


「WE」


ディスケットを空へ投げる。


「FWIING!!」


光が生まれる。


ディスケットが回転する。


そして……


「CRAAAK!!」


スープラの頭へ戻っていく。


スープラが目を閉じる。


身体が一瞬震える。


そして目を開いた。


「We。」


「BZZZZTT!!」


スープラの身体から、いくつかのマザーボードのような物体が現れる。


生物のようには動かない。


意識も持たない。


ただの電子部品。


しかし、それぞれが彼と接続されている。


スープラは複数のマザーボードを手に取る。


そして投げる。


「FWISH!」


「FWISH!」


一枚が鳥へ付着する。


「ZZZT!」


もう一枚が鹿へ当たる。


「ZZZT!」


さらに周囲の動物たちへ。


徐々に……


マザーボードが溶ける。


そして融合する。


動物たちが動きを止める。


ゆっくりとスープラへ顔を向ける。


恐怖ではない。


接続されているからだ。


スープラが手を上げる。


「Invenire。」


捜索命令。


すべての動物の目が一点へ集中する。


鳥が高く飛ぶ。


昆虫が木の隙間へ入る。


鹿が森を走る。


数分が過ぎた。


そして……


一羽の鳥が戻ってきた。


接続を通じて映像が送られる。


スープラはそれを見る。


機械仕掛けのチーター。


そして……


リオン。


巨大な木の上にいる。


スープラがすぐに動く。


「見つけろ。」


「追え。」


森の別の場所……


機械仕掛けのチーターが木から木へ跳んでいる。


「CLANK!」


「CLANK!」


リオンはその身体の上に横たわっている。


「うっ……」


意識が戻り始める。


「何が……」


「起きた……」


チーターは答えない。


ただ走り続ける。


しかし……


森の音が変わった。


静かすぎる。


チーターが停止する。


目が光る。


木々の向こうから……


数十匹の動物が現れる。


鳥。


狼。


鹿。


その他の動物。


チーターを包囲する。


遠くにはスープラが立っていた。


「止まれ。」


チーターから機械音がする。


「BEEP。」


「BEEP。」


「脅威対象を確認。」


チーターが金属の爪を開く。


「KLANG!!」


そして突進する。


「WHOOSH!!」


狼が立ちはだかる。


「BRAKK!!」


身体が吹き飛ぶ。


上空から鳥が襲う。


チーターが背中を開く。


「FSSSHHH!!」


金属製の刃が飛び出す。


鳥がすぐに回避する。


スープラが観察する。


「高速。」


「自動防御。」


「厄介な相手だ。」


チーターが再び攻撃する。


スープラが手を上げる。


「Defendere。」


大型の鹿が前へ出る。


「DUUM!!」


チーターの爪が角へ激突する。


地面に亀裂が入る。


スープラは直接攻撃しない。


観察する。


計算する。


チーターには一定のパターンがある。


常に最も弱い場所を狙っている。


スープラが目を細める。


「……機械。」


「狩人ではない。」


「プログラムだ。」


彼は再び手を上げる。


「Circumdare。」


鳥たちが円を形成する。


昆虫が機械の身体の隙間へ入り込む。


チーターが動きを乱す。


「BEEP!」


「BEEP!」


速度が落ちる。


スープラが前進する。


「Ligatio。」


大型動物たちが一斉に動く。


攻撃ではない。


拘束する。


チーターの脚を押さえる。


尾を引っ張る。


小型の機械翼を挟む。


チーターが咆哮する。


「KRRRREEEEKKK!!」


しかし……


その身体が変形し始めた。


内部が開く。


小型兵器が出現する。


スープラが気づく。


「そういうことか……」


「お前にも予備がある。」


チーターが兵器を向ける。


「LOCKING TARGET。」


スープラは動かない。


そして薄く笑う。


「いい。」


「なら、俺も遠慮しない。」


手を上げる。


森全体が動き始める。


「Convergere。」


接続されたすべての動物が近づいていく。


チーターはさらに追い詰められる。


あらゆる方向から……


スープラと接続された動物たちが進んでくる。


「BRUK!」


「DUK!」


「KRAK!」


逃げ道が一つずつ塞がれる。


チーターが跳ぶ。


しかし鳥たちが視界を妨害する。


金属の爪で攻撃する。


大型動物がそれを押さえる。


スープラは後ろに立っている。


「Concludere。」


最後の命令。


すべての動物が同時に動く。


チーターは埋め尽くされる。


動けない。


その上にいたリオンが目を開く。


「何……」


「起きてる……」


しかし……


数十匹の動物の身体に押さえつけられている。


「うっ……」


「重い……」


「息が……」


リオンが押し返そうとする。


しかし数が多すぎる。


身体がさらに動かなくなる。


そして……


暗闇の中。


何かが見えた。


小さな青い光。


きらめいている。


ゆっくり近づいてくる。


リオンが目を細める。


「何だ……?」


光がさらに近づく。


リオンが反応するより先に……


「FWIING!!」


青い物体が身体へ入っていった。


リオンが驚く。


「な、何!?」


身体が硬直する。


一瞬、痛みが広がる。


しかし数秒後……


すべてが止まった。


呼吸が正常に戻る。


リオンが目を開く。


「俺……」


「どうして平気なんだ?」


その頃……


拘束されていたチーターが突然動きを止めた。


「BEEP。」


「BEEP。」


「WARNING。」


「SELF DESTRUCTION ACTIVATED。」


スープラがすぐに振り返る。


「……」


「全員、下がれ!」


遅かった。


リオンが機械の身体にある赤いランプを見る。


「待て……」


「まさか……」


「BZZZZZZT!!」


光が森を覆う。


「DUAAAAAAAAARRRRR!!」


巨大な爆発が周囲を揺らした。


地面が持ち上がる。


木々が激しく揺れる。


衝撃波がすべてを吹き飛ばす。


動物たちが宙へ投げ出される。


スープラも吹き飛ぶ。


「リオン!」


しかし声は爆発音に飲み込まれた。


全員が空中を飛ぶ。


「WHOOOOSSHHH!!」


その下には……


巨大な川。


一人ずつ落ちていく。


「BYUUURRR!!」


スープラは水面に触れた瞬間、目を開いた。


しかし身体はまだ流されている。


その時……


何かが彼へぶつかった。


「DUK!!」


「痛っ……」


スープラが目を開く。


その下には……


86が驚いた顔で水中に横たわっていた。


「……スープラ?」


スープラは数秒黙る。


「悪い。」


86がため息をつく。


「なあ……」


「再会する方法、いろいろあるだろ。」


「よりによって……」


「これが一番痛い。」


その一方、川の反対側……


リオンが上空から落ちてくる。


「BYUUURR!!」


しかし、すぐには水面へ落ちなかった。


何かが彼を受け止めた。


リオンが目を開く。


「……」


BOSS 429が上を見ている。


その身体の上に……


リオンが乗っている。


BOSS 429がため息をつく。


「マジか?」


「どうしてお前は……」


「……会うたびに俺のところへ落ちてくるんだ?」


リオンはまだ混乱している。


「BOSS 429?」


数秒の沈黙。


そしてBOSS 429が、爆発によって煙に包まれた空を見る。


リオンがゆっくり川から立ち上がる。


髪から水が滴る。


目の前には……


BOSS 429が静かに立っていた。


二人は互いを見つめる。


しかし突然……


リオンの表情が変わった。


目から感情が消える。


身体が勝手に動き始める。


思考する人間の動きではない。


まるで、ただ本能に従っているようだった。


「リオン?」


BOSS 429が眉をひそめる。


そして……


リオンが突進した。


「WHOOSH!!」


拳がBOSS 429へ向かう。


しかし……


「PLAK!!」


軽い平手打ちだけで攻撃を止められた。


リオンが数メートル吹き飛ぶ。


BOSS 429が困惑する。


「速度が変わった。」


「だが動きはまだ野性的だ。」


その瞬間……


リオンの身体から何かが現れた。


一枚のディスケット。


川の水で濡れている。


追いついた86とスープラが同時に立ち止まる。


「……」


「リオン?」


スープラがその物体を見る。


「待て。」


「こいつ……」


86が目を細める。


「普通のユーザーじゃない。」


BOSS 429も気づいた。


視線がリオンのバッグへ移る。


空だった。


以前そこに入っていたものは……


もう存在しない。


「そういうことか……」


「もう融合したんだな。」


ディスケットが突然動く。


「FWIING!!」


空中へ飛び上がる。


そして再び……


リオンの頭部へ戻っていく。


「BZZZZT!!」


リオンの身体が震える。


口から奇妙な声が漏れる。


「Doctor……」


「……Moreau。」


BOSS 429の表情が一変する。


「あり得ない。」


リオンが再び立ち上がる。


しかし今度は動きが違う。


速い。


予測できない。


何かが彼の戦闘方法を変えている。


人間と生物の本能が混ざり合ったような戦い方。


もう……


彼らが知っているリオンではない。


三つの影が同時に動く。


一つはBOSS 429へ。


一つはスープラへ。


一つは86へ。


「BOOOOM!!」


彼らの立っていた地面が割れる。


BOSS 429がすぐに後退する。


初めて……


その表情から余裕が消えた。


「面白い。」


「だが危険だ。」


スープラが構える。


「リオン……」


「お前に何が起きた?」


86が鋭く見る。


「つまり……」


「今までずっと……」


「こいつは普通の人間じゃなかったってことか。」


BOSS 429が、制御不能に動き続けるリオンを見る。


「Observer。」


「本人すら知らない何かだ。」


リオンは答えない。


ただ動く。


攻撃する。


敵も味方も区別しない。


そして初めて……


三人は理解した。


彼らが戦っているのは、リオンではない。


彼の内側から目覚めた何かだ。


三体のDoctor Moreauが川の中央に立っている。


それぞれ異なる動きをしている。


一体目は獣のように四つん這いで動く。


二体目は直立し、長い腕を持つ。


三体目はただ静かに立っている……


しかし、その目は彼らの動きを追い続けている。


空気が突然静まる。


86が息を吐く。


「……こうなったら。」


「協力する。」


スープラが頷く。


BOSS 429も前へ出る。


「認めたくはないが……」


「しばらくの間……」


「……俺たちは同じ側だ。」


三人が横一列に並ぶ。


三つのHorizon……


三体のDoctor Moreauと対峙する。


Doctor Moreauの一体目がBOSS 429へ突進する。


「BOOOM!!」


BOSS 429が拳を握る。


「Stalnoy Udar!」


Time Machineが一直線に拳を放つ。


「DUUUAAAKK!!」


Doctor Moreauが吹き飛び、川の岩を破壊する。


しかし……


すぐに立ち上がった。


Doctor Moreauの二体目がスープラへ跳びかかる。


スープラが手を上げる。


「Praesidium!」


森の奥から数十匹の動物が現れる。


狼。


鹿。


熊。


彼らが生きた壁を形成する。


Doctor Moreauが突っ込む。


「BRAKK!!」


しかし動物たちは互いに位置を入れ替える。


スープラが再び命令する。


「Circumdare!」


すべての動物が包囲する。


噛む。


引っ張る。


押さえる。


Doctor Moreauが怒りの咆哮を上げる。


Doctor Moreauの三体目が86を狙う。


86はただ笑った。


「まずは音楽だ。」


「Clamor Cerebri!」


1984がすべてのスピーカーを開く。


「WWWWOOOOOOMMMMM!!」


音波がDoctor Moreauを直撃する。


Doctor Moreauが頭を押さえる。


身体がふらつく。


86が続ける。


「Echo Mortis!」


音楽が変わる。


さらに速く。


さらに激しく。


川の水まで震え始める。


BOSS 429が跳ぶ。


「Ledyanoy Shag!」


Time Machineが水面を滑走する。


一瞬で薄い氷の道が現れる。


速度を上げる。


「BOOOM!!」


アッパーカットがDoctor Moreauの顎を捉える。


身体が高く舞い上がる。


BOSS 429は隙を与えない。


「Krasnyy Grom!」


二発目の拳が腹へ突き刺さる。


「DUAAAAAAAAKKKK!!」


Doctor Moreauが隕石のように落下する。


スープラはDoctor Moreauの二体目が包囲を抜けたのを見る。


空を指差す。


「Convergere!」


数百羽の鳥が一斉に降下する。


翼が視界を覆う。


Doctor Moreauが暴れる。


しかし……


一頭の鹿が膝へ突撃する。


狼が腕へ噛みつく。


熊が背後から押さえる。


スープラが前進する。


「Ligatio!」


すべての動物がDoctor Moreauの身体を拘束する。


一方……


Doctor Moreauの三体目が音波を抜ける。


86へ突進する。


「WHOOOSH!!」


86が手を上げる。


「Resonantia Ferri!」


川の周囲にあるすべての金属が浮かび上がる。


鎖。


釘。


鉄片。


すべてが嵐のように回転する。


Doctor Moreauが突っ切る。


しかし……


「Sonus Frangens!」


1984が両手を叩きつける。


「DOOOOOOMMMM!!」


音波がすべての金属を叩く。


飛び散った金属片が雨のように降り注ぐ。


Doctor Moreauが全方向から攻撃を受ける。


BOSS 429が叫ぶ。


「Volchiy Ryk!」


Time Machineが両拳を連続して振るう。


「BUK!」


「BUK!」


「BUK!」


「DUAAAK!!」


Doctor Moreauの一体目がついに倒れる。


しかし……


三体のDoctor Moreauが突然動きを止めた。


互いを見つめる。


そして……


一つの場所へ走り出す。


86が目を見開く。


「え?」


「何してる?」


三つの身体が再び一つになる。


「KRRRRRAAAAKKKK……」


地面が震える。


川が荒れる。


BOSS 429が拳を握る。


「……まだ終わっていない。」


スープラが息を吸う。


「気をつけろ。」


86が弾を装填しながら薄く笑う。


「へえ……」


「やっと面白くなってきたな。」


霧が川を覆い始める。


一つへ戻ったDoctor Moreauが、轟音を立てる滝の中央でゆっくりと立ち上がる。


何も言わず……


三人の敵を見つめる。


Doctor Moreauが再び突進する。


「BOOOOM!!」


BOSS 429がTime Machineを構える。


スープラがすべての動物を呼び寄せる。


1984が再び谷を音楽で満たす。


次の衝突が始まろうとした、その瞬間……


「PLUK。」


リオンのリュックから小さな物体が落ちた。


BOSS 429が一瞬だけそれを見る。


「……何だ、これ?」


触れるより先に……


その物体が白い光を放った。


「BZZZZZZTTTTT!!」


次元の円が開く。


全員が目を見開く。


「待て!」


「これは……!」


「WHOOOOSHHH!!」


全員が中へ吸い込まれていった。


「BRRAAAKKK!!」


全員が巨大な大理石の床へ投げ出された。


人工の空。


浮遊する建物。


Brighthorn Institute。


BOSS 429がすぐに頭を押さえる。


身体が点滅し始めた。


「GLITCH……」


「GLITCH……」


腕が時折ピクセルへ変化する。


「クッ……」


「何だ……」


スープラが廊下を指差す。


「急げ!」


「登録されていなければ、消える!」


数人の職員がすぐに走ってくる。


BOSS 429を持ち上げる。


「どけ!」


「中央登録室へ!」


86も押すのを手伝う。


「途中で消えさせるなよ!」


その時……


重い足音が聞こえた。


「TOK!」


「TOK!」


「TOK!」


スプートニクが走ってくる。


リオンを見た瞬間……


目を見開いた。


「旦那様!」


すぐにリオンの横へ跪く。


スープラが振り返る。


「……お前もObserverなのか?」


スプートニクは気楽に頷く。


「うん。」


「もう三年になる。」


「旦那様と一緒に瓦礫の下敷きになった時から。」


86がすぐ近づく。


「マジで!?」


「なんで今まで言わなかった!?」


スプートニクは頭を掻く。


「誰も聞かなかったから。」


「……」


86が黙る。


「まあ……それは確かにそうだ。」


スプートニクはジャケットの中からディスケットを取り出す。


素早く何かを書く。


そして投げる。


「FWIING!!」


ディスケットが再び身体へ戻る。


スプートニクが拳を握る。


「Devil Wears Outfits!」


「FWUSSHH!!」


ホールの天井が突然、服で埋め尽くされる。


スーツ。


ドレス。


コート。


制服。


帽子。


ネクタイ。


靴。


マフラー。


すべてが雨のように降ってくる。


「PLAK!」


「BLAK!」


「DUFF!」


Doctor Moreauが大量の服の下へ埋まる。


一着のスーツが顔を覆う。


その中から……


正式なスーツを着た毛むくじゃらの腕だけが伸びている。


スープラが無表情で見つめる。


「……」


86は必死に笑いをこらえる。


唇が震える。


「プッ……」


スープラも顔を背ける。


「プッ……」


二秒後……


「ハハハハハハハ!!」


「なんでフォーマルスーツ着てんだよ!!」


スプートニクは誇らしげに頷く。


「身だしなみは大切だから。」


笑い声の中……


服の山が突然爆発する。


「BOOOOOOM!!」


Doctor Moreauが再び現れる。


今度は……


まだ暴れている。


しかし……


どういうわけか蝶ネクタイだけが首に引っかかっている。


86はその場に座り込んで笑う。


「ごめん……」


「……もう無理だ!」


スープラが周囲を見る。


学生。


教授。


職員。


全員がパニックになり始めている。


彼は拳を握る。


「……ダメだ。」


「ここには森がない。」


「Weは最大限に力を発揮できない。」


スープラが86を見る。


「任せる。」


86が頷く。


「彼らを避難させろ。」


スープラはすぐに廊下へ走る。


「みんな、俺についてこい!」


「押すな!」


「ホールから出ろ!」


彼は通り過ぎるすべての扉を開き、学生たちを避難経路へ誘導していく。


今……


残っているのは86、スプートニク、そしてDoctor Moreau。


Doctor Moreauが咆哮する。


「RAAAAGHHH!!」


86へ突進する。


「Clamor Cerebri!」


1984がすべてのスピーカーを開く。


「BWOOOOOOOMMMM!!」


音波がDoctor Moreauを直撃する。


床がひび割れる。


しかしDoctor Moreauは止まらない。


86が舌打ちする。


「……まだ動けるのか?」


スプートニクが前へ出る。


「Dress him up!」


数十着のスーツが飛んでくる。


「FWISH!」


コートがDoctor Moreauの脚を包む。


ネクタイが腕を縛る。


手袋が目を覆う。


帽子が頭へ叩きつけられる。


Doctor Moreauが暴れる。


すべての服が数秒で破れる。


スプートニクが再び指を向ける。


「Suit up!」


数百着の服が空から降ってくる。


今度は何層もの防壁のように重なる。


Doctor Moreauがスーツとコートの山に埋もれていく。


86がその隙を逃さない。


「Echo Mortis!」


1984が低い音を響かせる。


「DOOOOOOOMMMM!!」


至近距離から音波がDoctor Moreauを吹き飛ばす。


「DUAAAK!!」


数列の椅子を破壊しながら飛んでいく。


しかし……


Doctor Moreauは再び立ち上がる。


身体中が破れた布で覆われている。


蝶ネクタイだけはまだ首に斜めに引っかかっている。


86がスプートニクを見る。


「……それでも笑えるな。」


スプートニクが誇らしげに頷く。


「ファッションは決して負けない。」


研究所の廊下。


ゆっくりと足音が近づく。


BOSS 429が現れる。


身体はまだ点滅している。


「GLITCH……」


「GLITCH……」


今にも倒れそうだ。


「クソ……」


「……エネルギーが……」


「……ほとんど残っていない。」


最後の力で手を上げる。


「Time Machine。」


完全な姿は現れない。


ただ……


巨大な金属製のハンマーだけが現れた。


表面には歯車が埋め込まれている。


BOSS 429がそれを握る。


「これくらいなら。」


身体を回転させる。


そして全力で投げた。


「FWWOOOOOSSHHH!!」


ハンマーが廊下を突き進む。


86が一瞬振り返る。


「それ……!」


Doctor Moreauも振り返る。


遅かった。


「DUUUUAAAAAAAAKKKK!!」


ハンマーが胸へ直撃する。


身体が吹き飛ぶ。


「BRAKK!!」


一枚目の壁を貫く。


「BRAKK!!」


二枚目。


「BRAKK!!」


三枚目。


粉塵が廊下全体を覆う。


BOSS 429が薄く笑う。


「俺の投げ方……」


「……まだ衰えてないな。」


そして彼は床へ座り込んだ。


研究所の別の場所。


ヤリスはまだオフィスの机の裏で眠っていた。


「Zzz……」


ベルが静かに鳴る。


彼が目をこする。


「……ん?」


目を開くと……


Doctor Moreauの顔が、すぐ目の前にあった。


「……」


ヤリスが一度瞬きをする。


二度。


そして……


「何だあああああ!?」


「DUAAAK!!」


椅子ごと倒れる。


オフィスの扉が開く。


カローラ。


スープラ。


86。


スプートニク。


そして数人の職員がほぼ同時に入ってくる。


「管理者!」


「気をつけろ!」


その一方……


Doctor Moreauの内部で……


リオンの意識が一瞬だけ戻る。


視界がぼやけている。


声が遠ざかっていく。


「……スープラ……」


「……86……」


「……スプートニク……」


「……ヤリス……」


すべての顔が徐々に消えていく。


視界がゆっくり暗闇に飲み込まれる。


そして二度目……


リオンは完全に意識を失った。


【ACT 4 END】

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