遥か昔から変わらない忍び
「自分の持つ力を磨く事ができた?」
「磨く事ができる力……? そんな物が俺達にあるんだろうか」
忍び装束のおじいさん達が小犬丸さんに尋ねている。
「これから見つければいいさ。俺はお前らの『孫をかわいがる気持ち』が気に入ったんだ。俺が暮らす場所で忍びの鍛錬でもしてみるか? 吹き矢とか手裏剣とかに興味はあるか? 小さい頃孫が遊んでたおもちゃが蔵にあったはずだ」
「え? 忍びの鍛錬?」
「でも……もう諦めると決めたから……」
「俺らは年寄りだ。今はこんなに元気でもいつどうなるか分からねぇ。死ぬ時に後悔したくねぇだろ? 誰の人生なんだ? 自分の人生だろ? ここまで皆にバカにされても『忍び好きのじいちゃん』を貫き通してきたんだ。もう少しくらいそうやって生きてもいいんじゃねぇか?」
「でも……俺達は孫に盗みを……」
「そうだ。これ以上迷惑をかけられない」
「大丈夫だ。真葵ちゃんの父親は被害届なんか出さねぇさ。それに警察だって百年も前の誰かの脳を奪われたなんて言われたって意味が分からねぇだろ?」
そうか。
確か警察は駿河関係の事に関われないんだった。
「でも家に勝手に入ったのは事実だ」
「脳のような物も持ち出したし……」
「脳のような物……か。その箱に入ってるやつだよなぁ?」
箱?
あ……
祭壇みたいな物に箱が見える。
あの中に駿河の脳が入っているの?
私が施設で見た箱とは違うような……
って言うより百円均一のお店で見た事がある箱だ。
まさか般若のお面の男にすり替えられた?
じゃあ本物の駿河の脳は今どこにあるの?
「そうだ」
「中は見ていない。般若の面の男に見るなと言われているからな」
「それで約束を守って箱を開けなかったんか?」
「約束は約束だ。破ってはいけない」
「『自分は里から出たがまだ残る友がいる。これからは家族の為に普通の人として生きるとその友と約束した』そう言いながら、亡くなったじいさんは約束の大切さを何度も教えてくれたんだ」
「……亡くなったじいさんはどこかの里にいたんか」
じゃあ、亡くなったおじいさんは忍びだったんだね。
里を出て一般人との間に子を授かった。
だからおじいさん達にもお孫さんにも忍びの力が無いんだ。
「俺達はじいさんが忍びとして暮らしていた頃の話を聞いて育ったんだ」
「じいさんの瞳はキラキラ輝いていた。あれが嘘だったとは思えない」
「そうか……そうか……」
小犬丸さんは否定も肯定もしないんだね……
「じいさんは酷い事をたくさんしてしまったと涙を流す時もあった……」
「内容までは教えてもらえなかったがな……」
「……そうか」
「じいさんは任務中に大怪我をして引退したらしい」
「それを機にばあさんと結婚して里を出たと聞いている」
「一般人と結婚したんだなぁ……」
「一般人? じいさんもそんな事を言っていた」
「そうだったな……」
「俺ら忍びはいつの間にか時代に取り残されちまってたんかもしれねぇなぁ。お前らのじいさんの時から何も変わってねぇなんて……」
小犬丸さんの言う通りだ……
駿河が亡くなって百七十年……
忍びの時は止まり続けているんだ。
「……え?」
「取り残された?」
「前に進む時が来たんだ。いつまでも今のままじゃいられねぇ。変わるなら今しかねぇ。繋ぐ者と施設長が同じ方を向いてる今しかねぇんだ。これからの忍びを背負う若い奴らの為にも……今しかねぇ……」
小犬丸さんの言葉から強い決意を感じる。
施設長か繋ぐ者になりたがっている麦多の為に忍びの仕組みを変えようとしているんだね。




